表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
137/266

トモリと観光? ですわ

「それでこれ、何処に向かってるんですか」

「私の~自宅で~すよ~」

 魔王カデグバを倒した後、俺達はトモリさんの案内で異世界を少しばかり観光することになった。

「ローナさんとは会わなくていいんですか」

 そもそも今回の事は彼女の依頼だし、報告だってした方が良いはずだ。

 何しろ城がアレほど壊れる闘いをしたんだし、流石に黙ってるのはな。

「ロ~ナな~ら~私を待~つのに~自宅に居~ますよ~」

「なるほど」

 いつ来るか分からないのに、いや、いつ来るか分からないからか? トモリさんの家でずっと待ってたんだな。

 なのにトモリさんは魔王の良そうな場所に直に移動してきたんだな……。

「それで自宅っていうと、実家ですか」

「いえ~これでも~勘当され~てますから~」

「お、おぉ」

 そうなのか、知らんかった。

「わたくしは知ってましたわ」

「なんでドヤ顔」

 この阿保は放っておこう。阿保だから。

「それにしても、世界滅亡を目論んでいた魔王の国にしては随分街並みが清潔ですね」

 空は赤く、おどろおどろしい黒雲に覆われているし、全体的に黒とか赤の街並みと何とも暗い印象だが、不衛生とかではない。

 もっと血肉とかその辺に飛び散ってる魔界とか想像してた。

「まあ~色んな魔~族~が居ます~から~」

「ハエの王とか居たらう〇ちの街に住んでますわねきっと」

「あー、それはありそうだな」

 色々な魔族が居るから基本的にはどの魔族も暮らしやすいようにはしてあるのか。

「そろそろつ~きます~」

 そう言うとトモリさんは丘の上のお屋敷を指さした。

「アレですか……?」

「あれで~す~」

 周りの家の大きさに対してやたらデカい。というか、下手したら城くらいある。

「トモリさん、元、魔王ですよね?」

「はい~」

「なんで魔王の城並みに立派な屋敷に住んでるんですか」

 これじゃあどっちが魔王か分かったもんじゃない。

「今は~別荘みた~いなものかと~?」

「まあ、確かに」

 よく考えたら今住んでいるのは結城の屋敷だ。こっちは極たまに来る別荘みたいなものになるのか。

「帰りま~した~」

 トモリさんは帰るなり、中に待っているであろうローナさんに伝わる様、声を出した。

 すると二階から螺旋階段を下りてガッシャガッシャとやって来る鎧が居る。

 首が無い、というか脇に抱えている。デュラハンだ。

「トモリ様! 来てくださったのですね!!」

「はい~」

「これで世界は救われます!!」

「そのこと~ですが~」

「今も城で大きな騒ぎがあったようで、トモリ様にはすぐに奴を倒して頂きたく!」

「あ~……」

 凄い、トモリさんとローナさんのテンション、温度差が凄い。

 まあ事の顛末をまだ知らないローナさんからしたら世界滅亡を目論む魔王の城が半壊して騒ぎになってたら焦ったりもするのかな。

 トモリさんはやることやった後でシャッキリするのも面倒なのか、いつも通りゆっくり喋っているからローナさんの会話速度に追いついていないし。

「はっ、それで、そちらのお二人は?」

「私~の~夫と~その妻で~す~」

「紹介の仕方よ」

 その紹介でわかる奴居るかな。混乱するだろ。

「つまりトモリ様の旦那様と、その愛人? 妾でしょうか」

「ッ?! 逆です、私が愛人です」

「ヴェッ?!」

「すげぇ声出たなぁ」

 トモリさんの発言に凄い声で驚くローナさん。そして横で笑顔が引きつっているシュエリア。それを感じ取って冷や汗を流しながらハキハキ答えるトモリさんと様々だ。

「わたしが、はは、え? コイツ殺しても?」

「いいわけないだろ。言葉おかしくなってんぞ」

 まさか今の一言でキレる寸前なんじゃないだろうな……。

「はっ。申し訳ない。とんだ失礼をいたしました」

「王族にやらかしたヤツって死罪でいいですわよね? わたくしとトモリ、両方だから確定ですわよね??」

「お前相変わらず物騒だな。やめろって。それにトモリさんの魔王は元だからな?」

「シュエリアさんあの、すみませんローナにはしっかり言っておくので……」

 トモリさんがそう言って頭を下げる。こんなの初めて見るな……。

「え、ちょ、トモリ何して……あぁもう、いいですわよ。だからそんな、その、頭を上げて欲しいですわ。家族に頭下げさせるなんて、なんか凄く悪いことした気分ですわ」

 まあやはりと言うか、シュエリアは結構身内に甘い、というか弱い。

 気に入った相手とかはとことん大事にする方なので、そんな相手に頭なんて下げられたら居心地悪いのだろう。

「シュエリアさんが優しくて良かったです」

「優しい奴はこんなことで一々キレないですわよ……」

「自分で言うのかそれ」

 わかってるんだったら止めて欲しいものだ。コイツが暴れるのは心臓にというか、世界に悪い。

 っていうか話逸れてるし。

「それで、さっきの魔王の件ですけど、倒しましたよ。トモリさんが」

「え……本当、ですか?」

 ローナさんの問いにトモリさんが頷く。

「ではさっきの城での騒ぎは」

「私~が~倒しま~した~」

「流石ですトモリ様!!」

 魔王が倒されたと聞くと、凄い熱力でトモリさんに迫るローナさん。

 近いし、暑苦しいテンションでトモリさんの手を握ってブンブンブンブン。こういう人なのかこの人。

「ところ~で~その~呼び方を~」

「なんでしょう、トモリ様」

「それで~す~。様は~ちょっと~?」

「で、ですが、現魔王が倒れた今。ここは先代魔王であるトモリ様に戻っていただきたいと……ほとんどの魔族も、先代が一番素晴らしい王であったと、今になって気づいたものが大勢で……」

 なんかローナさんが言い難そうに、それでもトモリさんに縋るように言ってる内容は、要はトモリさんに魔王として帰って来て欲しいという物だ。

 これは……どうする。

「嫌です」

「そんなハッキリと?! 何故ですか!」

「私はゆっ君のモノなので。帰ります」

「では私達はどうしたら……?」

「自分で考えてください。私が居ないと生きていけない様では、いけないと思いますよ」

「そ、それは……」

 ローナさんも分かってはいるんだろう。どんな経緯かは知らないがトモリさんは一度は魔王を辞めたのだ。それを今になって魔王の討伐に駆り出され、今度は魔王をやれという。

 それがあまり褒められたことではないのは分っているからこそ言い難いのだろう。

「ローナがやってみたらどうですか」

「何を?! 魔王は魔族の中でもっとも強い者がなると昔からの習わしが」

「それを変えたらいいんですよ。私なら、気にしません」

「で、ですが……」

「でしたら、こうしましょう。私が一時的に、名前だけ、魔王になります。ですが私はゆっ君と一緒に居たいので、こちらで仕事はしません。その間の仕事はローナに任せます」

「え?」

「それで、時期を見て私が今までの力での魔王選定を止めて、魔族の民全てに選ばせる方式を取ります」

「え、え??」

 トモリさんが急に言い出したことに、ただただ疑問符を並べるローナさんに、トモリさんはそれでも続ける。

「私は後継としてローナを推すことを公言します。ちょっと、いえ、大分ズルですけどね。でももしかしたら、それでもローナは魔王にはならないかもしれませんが、なるかもしれません。ローナにはその選挙の準備も予めしてもらいます。もちろん私は助言はしますけど手伝いません。ゆっ君と遊ぶので」

「えっ……えぇ???」

 なんて言うか、ローナさんってもしかして苦労人なのかな。

 トモリさん、基本面倒な事全部ローナさんに丸投げってことだろこれ。

「あ、あの、トモリ様? 私、その、もう魔王軍は辞めていて、一般市民何ですが……」

「そうですか、じゃあ一時的に魔王に復職したらローナを宰相に引き上げますね」

「あの、本当にやるんですか?」

「やりますよ? 大丈夫です、やることは私が魔王だった時と変わりません」

「そういえば……そうかも……」

 どうやらトモリさんが魔王だった頃から彼女は面倒事は全部やらされていたようだ。

 なんていうか、お疲れさまです。

「はぁ……それでは、私はそのつもりで仕事をしますね」

「はい、それはそれとして――今日は~遊びま~しょう~」

「はいはい。わかりました」

 どうやらトモリさんに振り回されるのはローナさん的には慣れっこのようだ。

 というかトモリさんにもこういう風に甘えられる相手が居たんだな。トモリさんが部下とか友人とか色々言ってたけど、どれもあってるわけだ。

「それで、トモリ様――じゃなかったトモリ、何をするのですか?」

「観光~を~?」

「なるほど。城下もそれなりに変わりましたからね。色々見て回りましょう」

「はい~」

 どうやら難しい話は終わったようだ。これからようやく楽しい観光の始りか。

 ……正直、あの城の後始末とか色々気になるが、まあローナさんが退役してるんじゃこちらから何かすることも無いか。

「それではまず、どのような場所を周りますか?」

「飯ですわ」

 ローナさんの言葉に、待っていましたと言わんばかりに即答するシュエリア。

「飯……食事ですか。まあ時間も頃合いですね。それでは高級店と一般向けの食堂どちらがいいですか? ってすみません、王族でしたね、高級店を――」

「美味しい方がいいですわね」

「え?」

 また面倒なことを言ったなシュエリア。美味しい方って、それはそれで難しいだろ。

「えぇっと?」

「美味しい方がいいですわ。高級でも、マズいなら要らないですわ」

「……トモリ?」

「ローナが~美味し~いと思う~お店が良~いと思いま~す~」

「は、はあ」

 まあ、そう言われても困る気もするが、そのくらいは仕方ないか。

「マズかったら処刑とか……無いですよね?」

「無いですわ」

「ない~です~」

「ほっ……」

 今のでホッとされる辺り、シュエリアは気に入らないことがあったら首を跳ねる王族くらいに思われてそうだな。まあ、初見があれじゃあ仕方ないが。


「まあまあの味でしたわね」

「失礼な……美味しかっただろ」

 ローナさんに連れて行ってもらった店で食事をしたのだが、シュエリアはお気に召さなかったようだ。

「ユウキの作る料理の方が美味しいですわ」

「今言われると純粋に喜べないから止めてくれ……」

 俺まで悪いことした気持ちになる。

「すみませんでした……まさか旦那様がそこまでの料理人だったとは……」

「いえ、そんなこと全くないので。個人の趣味だと思いますよ」

 実際俺は美味しく頂けた。

 ちなみに魔族のレストランに招待されたが、店内も出てくる料理も言ったって普通に高級店と言った感じだった。

 シュエリアはワイバーンとドラゴンの合いびきハンバーグを食べていたが微妙だったらしい。俺は普通にドラゴンステーキだったが。ソースが特に美味かったなぁ。

「それで、次は何処に?」

「ブティッ~ク~?」

「いいですわね」

 なんかシュエリア含め女性陣が乗り気なのだが、俺、行くの?

 なんかこう、男には入りずらいっていうかさ。俺だけかな。

「結構色んな小物がありますわね」

「そうだな」

 入ったブティックは、これまた魔族だからと言ってなんか呪いのアイテムっぽいのばっかり……とかではなく、なんか可愛い小物とか一杯あった。

 ちびスライムの置物に、サキュバスキーホルダー。くるみ割り人形ゴブリン。木彫りのデュラハン……?

 など、まあ色々だった。

「シュエリアは……なんだそれ」

「踊るカデグバ人形らしいですわ」

「アイツ世界滅ぼす気だったのにそんなもん作ってたのか?」

 何したかったんだアイツ。

「買うのか?」

「買わないですわよ気色悪い」

「ひでえ言い様だ」

 じゃあなんで持ってきたんだよ。

「トモリさんは、スライムの、なんですかそれ」

「これは~スライム~と~ビーズの~クッショ~ン~です~」

「あぁ、ビーズクッション的なものか」

 なるほど、それはいいかも知れない?

「シュエリアもアレにしとけ、きっと丁度いいぞ」

「じゃあユウキのも買いますわ」

「そうだな、お揃いで」

 そういうわけで俺達は三人ともクッションを買い、アイネとアシェ、後義姉さんにはスライムの置物にした。

「さて、後はどうする?」

「お茶に~しませんか~」

「お喋りですの?」

「はい~」

 そんなわけで俺達は食事目的ではなく、ゆったりティータイムの為にカフェに向かった。

「わたくしは紅茶で」

「わた~しは~抹茶で~」

「抹茶あるだ……紅茶で」

「私はトモリと同じ抹茶で」

 皆が注文すると、なんとビックリほんの一分足らずで出て来た。早くね。

「流石にトモリが一緒だと早いですね」

「困った~ものです~」

「ああ」

 トモリさんはこれで元魔王だもんな。知ってる人からしたら王族だ。そりゃ仕事も早くなるってものか。

「それで、お喋りって何するんですの?」

「ゆっ君との~馴れ初め~?」

「誰のですの」

「シュエリアさん~の~」

「……いやですわ」

「あら~?」

 そりゃまあ、嫌だろ。あっていきなり「楽しませないと自害する」なんて頭の悪い発言したなんて、言いたくないだろう。

「トモリとの話なら、良いですわよ」

「そう~ですね~」

 それから主にローナさんに向けた、シュエリアとトモリさんの出会いについて話が進んだ。

 公園でボーっとしてたのを声かけたとか、面白い格好と経歴だったから拾って来たとか。シュエリアが俺を必死(?)に説得したとか。色々だ。

「それでユウキさんは許可を出したのですか」

「そうですね」

「何と言うか……懐の深いお方なのですね」

「初めて言われたなそんなの」

 俺のこれは順応性と諦めの速さが融合した惰性だと思うのだが。

「それでトモリはユウキさんの事が好きなのですね」

「はい~。良い人です~よ~」

「トモリを見ていればわかりますよ。何かにつけてユウキさんを目で追ってますから」

「ちょっ、ローナ!!」

 いきなりハキハキとツッコむトモリさん。どうやら今のは恥ずかしい情報だったらしい。

「ふふっ、良いじゃないですか。トモリにも好きな人が出来たんですね……」

「ローナ……」

 ローナさん、顔があっても鎧姿だからどんな表情か分からないけど、きっとトモリさんのことを祝福していると思いたい。

「さて、今度は何の話をするんですの?」

「特にな~いです~」

「無いんですね……」

 どうやら俺達の出会いの話をしたかっただけらしい。

「というわけ~で~帰ります~」

「えっ?! 帰るんですかトモリ!」

 これには急すぎてビックリするローナさん、俺もだ。

「愛人の報~告~もしまし~たし~そろそろ~お暇~?」

「はぁ……もう、本当に自由人なんだから……」

 なんかこうしてみると、トモリさんも案外シュエリアに似ているのかもしれないな。

「えっと、それじゃローナさん、失礼します。お世話になりました」

「いえ、こちらこそ、トモリを、私の親友をお願いします」

「はい」

 こうして俺達は、なんだか短い観光を終えて、元の世界に戻ることになった。


ご読了ありがとうございました!

感想、評価、ブックマーク等頂けますと励みになります!!

次回更新は来遊金曜日18:00までを予定しております。

作者の都合に付き、予定を18:00ピッタリではなく、それまでに書きあがった場合に限りその週に付き一度更新する方針にさせて頂きます。

今まで通り週一では更新しますのでどうぞよろしくお願い致します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ