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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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今度はトモリですの?

「実家に~帰ります~」

「駄目ですわ!!!」

「待て待て」

 朝、いつも通りシュエリアの部屋で過ごしていると、真剣な表情(?)でやってきたトモリさんの発言を速攻で却下するシュエリアに俺はツッコんだ。

「何いきなり却下してんだ。せめて話を聞けよ」

「駄目ですわ」

「いやそこは聞けよ」

 それじゃ話進まないだろ……。

 俺はシュエリアの阿保は無視して話を促すことにした。

「トモリさん、実家に帰るって言うのは、どういう意味ですか。理由とかあるんですよね」

「はい~」

 俺がトモリさんに尋ねると、トモリさんは簡単に返事をしながら髪を結った。

 いや、真面目に話すだけならこの人髪結わなくても気を張ってれば出来るはずでは。別にいいけど。

「実は、私の友達……部下……手下? が先日、急に訪ねてきまして。何でも世界が滅びるとかなんとか。それを止めて助けて欲しいそうです」

「またそう言うのか……面倒だな……」

 シュエリアの国とダークエルフとの戦争に、アイネの世界の複数の魔王、そして今度はトモリさんの世界の滅亡か……はぁ、なんて面倒な。

「この流れでシレっと面倒とか言えるの凄いですわね。何もしないのに」

「待て、俺には問題が起きる度にツッコむという仕事がある。何もしてないは無い」

「ついにツッコミが仕事な自覚が出て来たんですのね。いいことですわ」

「良いことでしょうか……?」

 俺とシュエリアの頭の悪い会話にトモリさんが流される。

 そこはツッコんで軌道修正してくれないと。

「それで、トモリさんは一旦元の世界に戻るんですか」

「はい。原因は現魔王の『カースド・デストロイ・グレイトフル・バーゲスト』が魔族悲願の世界征服ではなく世界崩壊を目論んでいることが原因のようですので、ちょっと仕留めてこようかと思います」

「あー……はい」

「早速ツッコミ放棄しましたわね」

 シュエリアがジトっと睨んでくるのだが、いや、だって。ツッコんでいいのかコレ。

「何か問題でも?」

「いや、その魔王の名前おかしいでしょう。なんですのそのお子様がなんかカッコよさげなワードぶち込んで作ったような名前は。センス無い上に長いですわ」

「なるほど……では略してカデグバで」

「それでいいですわ」

「いいんかい」

 それはそれでセンス無さそうな感じだと思うんだが……かといってセンスいい略称を出せと言われても困るので、あんまりツッコめないが。

「それで、どのくらいで帰ってこれるんですの?」

「そうですね、まあ余裕をもって三時間でしょうか」

「何処に余裕を持たせたんですかそれ」

 世界崩壊を目論む魔王カデグバを仕留めるのになんで三時間で帰ってくる気なんだ。バイトより短いんじゃねそれ。

「ちょちょっと三分くらいで倒して、その後向こうで旧知とお茶をして帰って来る感じで三時間でしょうか」

「そう聞くともっと故郷の友達に時間作ってあげて欲しいと感じてしまう俺がいる」

「平和ボケですわねぇ」

 そう言う問題だろうか? いやでも、どうせ地元に帰るならゆっくりしてきても良いと思うんだけどな。

「でしたらゆっ君も来ますか?」

「え、何しに」

「私の夫を紹介しようかと」

「お、あ。はい」

「何きょどってんですの」

 急に真顔で「夫を紹介」とか言われたらそりゃな。

 トモリさんあんまり俺に対して好意的な事って言わない方だから、いきなりこうストレートに来られるとな。

まあ態度には割と出てるんだけど。しょっちゅう食われるし。精気を。

「シュエリアさんも来ますか?」

「トモリの世界? そうですわねぇ……なんかそういう面倒事ってキャラじゃないのだけれど……ユウキも行くなら、いいですわよ」

「シュエリアが行くなら安心して行けるな。それでトモリさん、その情報ってどこから来たんですか」

「こちらにやって来たローナに聴きました」

「ローナ……あぁ、以前トモリさんが話していたデュラハンの」

 確か喧嘩すると頭をベッド下に隠して寝るロバートさんの奥さんで、トモリさんの友達兼部下だったはず。

「はい。彼女に頼まれて……他の知らない誰かなら関係ないとも思ったのですが。友人からのお願いですから」

 そういう事なら何とかしたいと思うのも分かる。

 しかし、そのローナさんはどうしたのだろうか。ここには居ない訳だが。

「ローナさんはどちらに? 行くときは一緒ですか?」

「いえ、先に戻りました。結構逼迫した状況の様ですので。できればこれからすぐに向かいたいです」

 そう言ってシュエリアをジッと見るトモリさん。

「え、なんですの。もしかしてトモリ、帰れないんですの?」

「いえ、ゲートを開く程度ならできます。シュエリアさんが今からでもいいかなと、思いまして」

 そう言われて俺も左隣のシュエリアを見ると、手には漫画が。

 コイツ今の話聞きながら漫画読んでたのかよ……。

「い、良いですわよ。トモリの友人の為ですもの、いつでもいいですわ!」

 俺とトモリさんの視線が漫画で固定されると、ちょっと慌てたように漫画を仕舞い、いつでも行けると宣言するシュエリア。

「では、行きましょう」

 そう言うとトモリさんは刀を抜いて空間を切った。

 そして斬られた空間がドアのような形に開き、別の空間に繋がった……ってどうなってんだこれ。

「魔法ですか?」

「魔法ですね」

「刀で切ってましたけど」

「この刀は特別製で、様々な魔法を付与したりできます」

「便利ですね……というかトモリさんもこういう事で来たんですね」

「ですね」

「言ってる場合じゃないでしょう。行きますわよ」

 という事でとりあえず、早速異世界に踏み込むことになった俺達。

 もうゲートの外から見えていたがここは何処かの室内に見える。

 暗くて分かりにくいが、かなり高級感のある内装なのだが、ここは?

「トモリさん、これって何処に繋がってたんですか。ここ、何処です?」

「魔王城の王座の間ですね」

「いきなり本丸にゲート開いちゃったかぁ」

 って言うかそんな場所とシュエリアの部屋を繋ぐゲートを創った上でさっきまでの魔法か魔法じゃないか見たいな話ししてたのか? 危なっかしいな。

「でも魔王は居ないみたいですわね?」

「いえ、今来ますよ」

 トモリさんがそう言うと、王座の間の扉が大きな音を立てて吹き飛ばされてきた。

「?!!! なんっ?!」

「とんでもない魔力とプレッシャーを感じてきてみれば、ふははははっ、先代ではないか」

「カデグバ……」

 扉をぶっ壊して入って来た人物を見て、トモリさんが呟く。

 彼がそうなのか。

 身長三メートルはある真っ黒な犬面の大男。

 全身にガッシリと重鎧を着こんでいる。背にはあのクソデカい体より大きい剣を背負っている。でも剣が背中ってことは扉を壊したのは腕力だろうか。凄いな。

「それで、腰抜け魔王とそっちは貧弱なエルフに脆弱な人間か。腰抜けにふさわしいお友達を連れて観光か?」

「いえ、その観光地を壊そうとしてる馬鹿を跳ねに来ただけですよ」

「チッ、あの女か。やはり最初に殺しておくべきだったか?」

 どうやらカデグバはトモリさんを連れて来たローナさんに心当たりがあるようだ。

 にしても聞いたようなセリフだな。

「『やはり最初に殺しておくべきだったか』ふふっ『やはり最初に殺しておくべきだったか』ぶふふふっ」

「おまっ、やめろ」

 俺の嫁が割とよく聞くセリフを本当に言ってのけたカデグバを煽るようにセリフを繰り返して笑って居る。

 その部分がツボったのは分るが、ヒデェなコイツ。

「エルフ、貴様舐めているのか」

「犬っころ舐めまわす食文化は持ち合わせてないですわ」

「死ね」

 カデグバがキレて剣を手に掛け、振り下ろそうとして、出来なかった。

「これはっ……」

 カデグバが振り上げた剣は根元の方で切断されていた。

 そして切断された剣の先はカデグバの背中に転がっている。

「流石、戦闘能力だけは歴代最強と言われた魔王だな」

「貴方に評価されても嬉しく無いです」

 そう言って無表情のトモリさんだが、これは実際凄いと思う。

 俺がそう思っていると、トモリさんがジッと俺を見つめて来た。

「え、何」

「じーっ」

「……あ。トモリさん、凄い剣技ですね」

「嬉しいです」

 どうやら俺に褒められたかったらしい。さっきまでの無表情が嘘みたいににっこにこだ。

「気に入らんな。それだけの力があって何故世界を好きにしようと思わなかった」

「そういうのには興味ないので」

「人間に寄生虫のように這わなければ生きられない下等な淫魔共の為に世界を変えようとした奴の言葉とは思えんな」

「今はそちらにも興味はありません。今興味があるのは、ゆっ君だけですから」

 なんか今、世界をどうのって話の流れで俺の名前出されたんだけど、世界と天秤にかけるような話されても困る。

「なら何故この世界に再び舞い戻った。無関心を貫けばこの俺と戦う必要もなかったのだぞ」

「ここで見捨てたらゆっ君に軽蔑されてしまいますから」

 いや、別にそんなことはしないが。そもそもトモリさんに教えられなかったら知らなかったしな、俺。

 でも知ってて見捨てたなら、軽蔑はしなくてもトモリさんの見かたが変わったかもしれない。

 そんな俺の気持ちを汲み取ったか、トモリさんが俺を見てほほ笑む。

「ゆっ君にはいざという時頼りになるお姉さんと思われていたいので」

「トモリさんはいつも頼りになるお姉さんですよ」

「あらあら」

 いざって時は頼りになるってことは、いつでも「いざ」が来たら助けてくれる人ってことだ。どんな時だって、俺が困ったら助けてくれると信じている。

「ふん、下らん。そんな理由で死にたいか」

「試してみますか?」

 トモリさんは刀に再度手を掛ける、今度はカデグバを斬るつもりだろうか。

 そう思っていると、鈍く重い音と共に何かが……いや、隣に居たトモリさんが居ない。

 トモリさんが、吹き飛ばされていた。

「トモリさん?!」

「五月蠅い虫が、貴様も死ね」

「っ――」

 いつの間にか至近距離にいるカデグバが俺に腕を振り下ろそうとする。

 無駄だと分かっているが避けようと試みるが、どうやらその必要は無かったようだ。

「がぁっ! なん、なんだこれはっ!!」

 俺に向かって振り下ろされた腕が、何かに削り取られたように消えていた。

「わたくしの夫に何しようとしてんですの。殺しますわよ」

「シュエリアか……」

 どうやらシュエリアが俺を守ってくれている様だ。

 これはあれか、触った相手がマナ……空気中の魔力に変換されるっていうバリアか。

「クソがっ」

 カデグバは悔しそうに悪態を吐くが、どうやらこれには触れられないと分かったようで引き下がる。

 しかしまあ、カデグバも魔王だ、腕はすぐに再生しているし、今はまだ手を出す時ではないと思っただけだろう。後でまた襲い掛かってきそうだ。

 そんなことよりも、だ。

「トモリさんは?」

「大丈夫ですわよ。あんなのに殴られた程度でどうこうなるわけがないでしょう」

「それは……そうだろうけど」

 でも、あのトモリさんが一発喰らった。それってかなりの事なんじゃないか?

 トモリさんとアイネでは雲泥の差がある程にトモリさんは強いらしい。

 そのトモリさんが一発貰うような相手っていうのはもう完全にバケモノだ。以前行った異世界の魔王なんて、目じゃない程のバケモノ。

「まずは先代、お前を殺す」

「あらあら、ちょっとだけ気が緩み過ぎてましたか……服を汚されるとは思わなかったです」

 トモリさんは壁を何枚かぶち抜いた先からけろっとした様子で出てきた。何とも無いようでよかった。

 でも、流石に服はボロボロだ。あぁ、和服って高いのに勿体ねぇ……。

「でもゆっ君が嬉しそうに視ているので服については許しましょう。むしろナイスです」

「嬉しそうに視てねぇし!!」

 確かにちょっと、いやかなりエロい格好になってるけど、そんな目で視てないし!

「それにしてもその力、以前はもっと雑魚らしかったと思いましたけど」

「俺は貴様が消えた後、歴代魔王の魂を喰らったからな。今の俺こそが歴代最強だ」

「なるほど……霊廟に行ったのですか」

 何の話か分からんが、察するに奴は歴代魔王の魂の安置されている霊廟でその魂を食べて自分の力にした……のか?

 なんていうか、また物騒な奴が出て来たんだなという事は分った。

「それで勝てるつもりですか」

「これで勝てないと思うか?」

「試してみましょうか」

 そう言って再度トモリさんは刀に手を掛ける。

 それを見たカデグバはすぐに距離を詰めるが流石に今度はトモリさんも集中している。距離を詰めようと走ったカデグバともう既にすれ違っている。

 横をすり抜けられたカデグバが体を捻り、トモリさんに腕を叩きつけようとした瞬間にはもう、腕は斬り飛ばされている。

 速いなこの二人……というか。

「なんで俺この二人の戦いが目で追えるんだ?」

「わたくしが今、ユウキに見えるように能力を強化してるからですわね」

「お前、便利だな……」

 まあ、ありがたいけど。見えないと不安だし。

「ほんの十数秒の間に手足を斬り飛ばして、斬り飛ばされたら再生して反撃、すげぇなあれ」

「でもどう見てもトモリが有利ですわね」

「そうなのか」

「まあ、再生しているとは言えそれにも力を消費するだろうし、何よりトモリはまだ『試し』てますわ」

「え、それって」

 つまり、手加減してるってことか? アレを相手に??

 カデグバの攻撃はそのほとんどがトモリさんに手足を斬り飛ばされてまともに振り切ることすら出来ていないが、それでも余波で周辺の壁を壊し、外の景色が見えるほどだ。

 一部の攻撃はどうせ当たらないからかトモリさんが斬らずに見過ごしたものがあるが、それらはすべて遠くにある山などを粉砕する程の力を見せている。とんでもないパワーだ。

 それでも。しばらくそんな戦いが続くと、カデグバが一旦離れ、態勢を立て直した。

 そしてトモリさんは、それを追わない。悠然と、ただそれを見ている。

「クソがっ! クソックソックソッッッ!! 何故だ!! なんで勝てない!!!!」

「あらあら」

 どうやらカデグバ、これが限界のようだ。勝てないことを嘆いている。

 絡め手とかなんもなく、ただ力任せに暴れていたように見えたが……まああの身体能力ならそれでもシンプルに強いんだろうけど。

 でもその身体能力でトモリさんは負けてない。というか、圧倒的に強い。その上剣技もある。むしろアレだけの身体能力だけでなんでトモリさんに勝てると思ったんだアイツは。

「畜生ッ!! この俺が、こんな淫魔如きに……そうだっ、あの人間、そこの奴を人じ――」

 追い詰められたカデグバが俺を見て「人質に」と言おうとすると、それに対し食い気味に、放たれた刃でその首が落ちた。

「困ります。ゆっ君に手を出されたらシュエリアさんに怒られますから」

「わたくしが守ってるから平気ですわよ? そもそもトモリに怒ったりしないですわ」

「いえ、シュエリアさんがカデグバに、です」

「あぁ、まあ、腹は立ちますわね」

「それでキレて暴れられたら、本当に世界が消えちゃいますから」

「そこまではしないですわよ……」

 まあ、確かに『そこまで』はしないだろうけど、キレたら絶対『そこまで』じゃない事ならやらかす。間違いない。

「にしても、一瞬でしたわね」

「まあ、お試し期間でしたので」

「本気出したらあのレベルのバケモノすら瞬殺って……」

 トモリさん、マジで怖いな。久しぶりに魔王だって実感したわ。

「本気ではないですけど」

「ん?」

 今なんて。

「そりゃそうですわね。この程度の雑魚にトモリが本気だしたら、そんなの赤子相手に核兵器ぶっ放すようなものですわ」

「非人道的かつ過剰戦力な上に環境被害が凄いな」

「ですから、本気では無いですよ」

「な、なるほど……?」

 うん、そうか。そうかぁ。

 トモリさんを怒らせると怖いのはよくわかった。

「それで、この後ってどうしますか」

「ローナと会って、女子会します」

「この後にそういうことできる神経よ……」

 今まさに魔王の首を跳ねた後に女子会とか言い出してるよこの魔王。

「でもユウキもいますわよ」

「あ、では同窓会で」

「同窓でもないですわ」

「では観光とお喋りで」

「オッケーですわ」

「何だこの無駄な会話」

 いつも通りだが、すげぇ無駄な話多いな俺ら。

「それじゃあ――いきま~しょ~うか~?」

「あ、そこで気合抜けるですね」

 トモリさんは結っていた髪も戻し、いつものトモリさんに戻った。

 さて、トモリさんの生まれ故郷の観光、楽しくなりそうだな。


ご読了ありがとうございました!

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次回更新は来週金曜日18:00を予定しております。

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