これで終わりですわ
今回は年末かつ今年最後の更新と言う事でそこそこ気合が乗ってしまい、いつもより長くなりました。
ちなみにサブタイはいつも通りあてになりません。
「今年も終わりですわねぇ」
「そうだな」
いつも通りシュエリアと過ごす、今年最後の日。今朝は非常に寒いが、俺達はちょっとした理由で早朝から集まっていた。
とはいえ年末だろうが俺達の毎日はさして変わっていない。
特に、俺達はオタク気質ではあるがコミケに行ったりしない。基本的にインドアだからだ。
「年末と言ったら、アレですわね?」
「そうだな、アレだな」
「そーね、アレね」
「ですねっ」
「あら~?」
そんな俺達だが、今年はやることがあった。
とはいえいつもと違った一日になるような特別な事ではない、至っていつも通り、ロクでもないし他愛ない、いつもシュエリアと過ごすようなことだ。
「「「「絶対に笑ってはいけない二十四時」」」」
まあ、なんだ。
楽しいのが大好きで、お笑いとか好きなシュエリアが、要はあの年末のお楽しみ、今年はもう見ることのできないアレをやりたいと言い出したのが始まりだった。
てなわけで、今回、他人様の企画をパクる形で、俺達は年末を過ごす。
うん、いつも通りだ。
「という訳で、もう仕込みはしているハズですわ」
「ハズ……か。まあ、俺らが内容知ってたら駄目だしな」
なので、義姉さんに話を通して、義姉さん率いる異世界従業員達に仕掛け人をしてもらい、俺とシュエリアをはじめとしたいつものメンバーがそれを受ける形となった。
なので俺達はこういう遊びをするのは知ってても、内容がどうなっているのかはまだ知らないのだ。
「さて、それじゃあ行くか」
「ですわ」
俺達は全員揃ったところで庭に出た。
義姉さんが迎えに来ることになっているのだ。
「で、まあ、うん。知ってたけど、バスか」
「ですわね?」
この企画(他人様のだが)恒例のバスだったが、いやこれが酷い。
完全な痛バスだった。俺達らしいと言えばそうだが、それ以前に柄が酷い。シュエリア一色だった。誰だ造ったの。
「って言うかコレさ、先に義姉さんが出てきてから後でバスが来る流れじゃねぇんだな」
「着替えとかどうすんですの、これ」
いや、そもそも着替えるのかどうかすら知らんのだけども、やらないのか?
そんな話をしていると、バスが近くで止まり、義姉さんが下りて来た。
「やあやあ! なんだか思っていたのと手順が違って驚いていると思うけど、今から仮設更衣室作るからね!」
「今からかぁ」
いや、まあ、家の庭だし、仕方ないか。
そんなわけで待つこと十分。
「さ、どうぞ!」
「お、おぅ……」
というか、この場合さ、着替えるってなると、「アレ」をやるのは、俺だよな?
そう、覚悟を決めて更衣室に入ると、知ってはいたが、例のアレが入っていた。
っていうか、うん、うん? これ、着るの? 俺??
……ふぅ、着るか……。
「皆着替え終わったかな? それじゃあ登場して貰いましょう!!」
なんか義姉さんのよくわからんテンションで呼び出されて、全員で更衣室を出る。
「うん、知ってたけど。お前らだけ普通なの」
いや、この場合コイツ等も普通とは言い難いのだけども。
俺以外の連中は全員同じような質素な衣装だった。
もっとわかりやすく言えば、異世界ものとかに出てきそうな村娘とかが来てそうな簡素で洒落っ気のない服だった。
そして俺は……。
「ぶふっ! なんっ……なんですの、それっ!」
滅茶苦茶笑いながら俺を指さしてるクソエルフ。そして笑いを堪えながら顔を逸らす令嬢エルフ。更に状況が把握できず、恐らく俺を探して辺りを探し始める愛妹。で、何故かニヤッと笑った魔王。
アイネ以外全員笑ってんじゃねぇか、ケツバット喰らっとけよ……。
「これは、アレだよ、浜田だよ」
「なんでそうっ……なるんですの……ぷぷっ」
そんなこと言われても俺にもわからん、何で女装とかでなく、浜田なんだよ。
「なあ義姉さん、これで行くのか、本当に?」
「今日のゆう君は浜田遊生だからねっ」
「マジかよ」
名前まで変えられちゃったよ。マジか。
「それじゃあ皆、バスに乗ったらスタートだよ!」
その掛け声で、皆、多少気持ちが引き締まったのか、さっきまでの緩みきった空気が少し変わった。
とは言え、皆知っている。
まだ、まだ始まってはいないと。
「浜田、言っていいですわよ」
「名前で呼べよ、お前一度も名字の方で呼んだことないだろ」
「ユウキって呼んでますわよ?」
「お前のそれイントネーション的に遊生の方じゃん」
「……ですわね?」
まったく、って言うかコレやんの俺なのかよ。
「まあ、いいか」
大丈夫、笑わなければいいだけだ。問題無い。
「それでは『絶対に笑ってはいけない異世界生活』スタート!」
「よし、それじゃあ……」
俺がバスに足を掛けた段階でスタートしたこの遊びだったが、振り向くと奴らは当然のように乗ろうとしない。
知ってた。いつものあれだからな。
「お前らそう言うのホント汚いわ」
「え? だって、ねぇ?」
俺の言葉になんか曖昧な言葉で返すアシェ、そしてそのアシェの目配せに「ですわ?」と返しながら笑うシュエリア。あのクソエルフ二人、こんな時だけ結託しやがって。
「いいから早く乗れよ」
「はー、仕方ないですわね、ここでグダグダやっても進まないし、良いですわよ」
「そーね、行きましょ」
そしてようやく皆でバスに乗ると、義姉さんが出発の合図をして、スタートした俺達の年末。
さて、最初はどんなバスネタが飛び出すのか……と思ったのだが。
「じゃあこれから転移魔法使うねー」
「うん?」
義姉さんの言葉に合わせて、バスの外が蒼白く光り始めた。
「バス移動は?」
「しないよ? 流石にこの辺りじゃやれないからね。異世界に転移するんだよー」
「マジかよ」
異世界にバス事転移する気なのか? 移動先の方々にご迷惑では?
「今回お世話になるのは以前シュエちゃんが造った世界だから大丈夫! あそこ私の方で借り受けてバッチリそれっぽく整備しといたからね!!」
「マジかぁ」
それは何とも、ご苦労な事だ。
さて、そんな話をしている間にも転移魔法は成功し、俺達は広い草原にバス毎辿り着いた。
「さあ、これから私達が行くのは、しばらくお世話になる辺境の村だよ! そこでまずはこの世界の生活を覚えようね」
なるほど、異世界に来てまずは、人を探し、その世界の生活を学ぶと、そういう流れのようだ。
この世界の知識がないところから始まる感じとしてはさながら異世界転生的な、そういう感覚か?
『プーーー』
「うん?」
早速村に向かっていたハズのバスが急に止まり、ドアが開いた。
これは、まさか。と思いながらドアの方を見ると、アイネの友人のイチとリーシェが入って来た。
「はー、警察に憧れてなってみたけど、超しんどいぞ!」
「あらあらイチちゃん、警察官になったのね? それで、警察官ってどんな仕事をしているの?」
入って来るなり、何だか妙な小芝居を始める二人。って言うかイチが警察は無理だろ。ある意味この段階で軽く笑えるが、どんなボケをかまして笑わせて来るつもりなのか。
「警察犬と一緒に事件の手がかりを探す仕事してるんだけど、まあこれが大変なんだよ!」
「へぇ~ワンちゃんとお仕事か~」
「ワンちゃんって言うな! って、アタシの事じゃなかったか」
「もう、イチちゃんったらっ! ふふふっ」
な、なんか和やかに笑える雰囲気を作って来てるんだけど、笑わねぇよ?
笑ったら尻をしばかれるんだ、笑う訳ない。
「それでさ、犬っころ達ってばアタシのいう事全然聞かないんだよ、国家の犬ともあろうものがって感じだよ」
「そうね、国家の犬なんて言うと国の忠犬みたいだけど、実際そこまで犬は忠実な子ばかりじゃないかも?」
「実際は人間のアタシらよりお犬様の方がお選んだよ、まったく」
「それだと何だか国家権力ならぬ、国家犬力って感じね!」
「言えてるな! はっはっは!」
「(笑えねぇ……)」
そこそこ上手いこと言ってるし、何ならその話をしてるのが犬娘のイチって言うのが面白い部分なんだろうけど、いやあ……うーん。
こちとら笑ったらケツバットされる立場だ、この程度のジャブで笑ってやることはない。
そう、思っていたんだが……。
「あははははははっ」
「アイネ?!」
何故かうちの妹が大爆笑していた。
「わ、ワンちゃんがっ……犬で……ふふっ」
「あぁ……」
そう言えばアイネはイチの友達だった。友達ならではのノリで笑ってしまったのかもしれないな。
まあ、しかしルールはルールだから、これは……。
『アイちゃん、アウトー』
「にゃははははっ――はっ?!」
アイネがひとしきり笑って我に返った頃、どこからともなく見覚えのあるダークエルフが身元バレバレなマスクをして出て来た。
「そんな仮面舞踏会じゃあるまいし……」
むしろこの格好に笑いそうなんだが?
「ごめんねアイネ。本当はシュエリアをぶっ叩きたかったんだけど」
「あん?」
「ひうっ」
相変わらずエルゥはシュエリアに対して敵対心むき出しだ。そのくせビビってるが。
「えいっ」
「にゃっ」
なんかあんまり痛くなさそうな、ボスッという音が聞こえた。ケツバットと言っても柔らかめな素材で出来ているんだろうなぁ。まさか女の子の尻を真っ赤に腫らすわけにもいかないだろうし。
いや……コイツ等がそこまでか弱い女子の体をしているかはわからんが。
「それで、リーシェは何の仕事をしてるんだったか?」
「私? 私はお花屋さん! 毎日お花さん達に囲まれてとーっても憂……幸せ!」
「うん? なんか今憂鬱って言わなかったか?」
「言ってないよ! 数百年お花を愛でて来たエルフ的には今更花だらけの環境で毎日を生きても全然平気だもの!」
「そ、そうか?」
「えぇそう! 人生バラ色なんて言うけれど、今の私はまさにそれ! 人生バラだらけの赤、赤、赤。目障りで鬱陶しいったらないの!」
「おい、黒い部分出てるぞ……」
またこれは何というか、種族ネタとでも言うのか、正直聞きなれた感のあるネタが来てしまったな。
まあそれも、一番花とか好きそうで尚且つ頭お花畑のリーシェが言うってのが中々。
これには少しばかりニヤリと仕掛けたがそこはそれ、殴られまいと我慢すれば堪えられない範囲ではない、はずなのだが。
「ふふっ、リーシェの奴無理して口悪くしようとして目が泳いでるわよ、何よあの顔、笑えるわ。ふふっ」
「笑っちゃ駄目ですわよ……なんか鬱陶しいドヤ顔始めたから……ぷぷっ」
「マジかよ……」
こっちの阿保エルフ二人はこの程度で笑ってしまうのか、大丈夫か、ゲラじゃないか?
この分じゃこの先どれだけ尻をしばかれることか……。
『シュエちゃん、アーちゃん、アウトー』
義姉さんによってアウト宣告を受けたシュエリアとアシェがまたもや現れたエルゥと六々ちゃんに尻を差し出す。
「え、ちょ、六……げふん。貴女、私がシュエリアを叩きたいんだけど」
「そんなことしたらエルちゃん後でぼこぼこにされるんじゃないかな」
「……そうね。そうね」
「二回いましたわね……」
「大事なことだから仕方ないんじゃないかしら」
エルゥと同じくシュエリアに転がされるアシェ的には、彼女の今の心境はよく理解できるものかもしれない。
……そう考えるとシュエリアってヤベェ奴に思えて来るな。……元からか。
「行くわよ!」
「ひゃうっ」
「えいっ」
「うん?」
エルゥに叩かれて可愛い声を出すアシェと、六々ちゃんに叩かれて首をかしげるシュエリア。
「六々、手加減してますの?」
「え、してないよ?」
「そう?」
どうやらシュエリアには六々ちゃんのしばきは通用しなかったようだ。
まあ、あの規格外の最強エルフがあれで痛がるわけがないのだが……。
「おかしいですわね、ステータスは一般人レベルに下げているのに……?」
「そんなことしてたのか」
それはまた、自分から罰を受ける為に自身を下方修正するとは、ある意味シュエリアらしいといえばらしいが。
「じゃあなんで痛くないんだろうな。材質か? アシェは痛いフリなのか」
「はぁ?! 普通に痛いんですけど?! そのエルフが尻に肉付き過ぎなんでしょ!」
「あぁん?!」
「ひっ」
アシェが疑われた怒りに任せてとんでもない暴言を吐いたせいでシュエリアに凄まれてえらくビビっている。何してんだこの阿保は。
「いや、それ単に六々ちゃんが力めっちゃ弱いだけだよ?」
「そうなのか?」
義姉さんがそう言うなら、そうなんだろう。
うーん、そうか、六々ちゃんって非力なのか。
「まあま、とりあえず次行こー」
「お、おう」
義姉さんの掛け声で、ひとしきりボケたイチとリーシェがバスを下車したのを見て今更思った。
異世界をテーマにしているのにバスネタある上に仕事が花屋と警察官って、異世界ボケとしてどうなんだろう。何か初っ端から間違えている気がするんだが……。
そしてまたしばらく進むとバスが止まり、また誰かしら乗って来てネタが始まるのかと思ったらそうでもなかった。
「はい、ここが皆がお世話になるイーナカ村だよ」
「名前てきとうかよ」
もろ取って付けた名前だな。センス疑うわ。
というか態々異世界にバス持ち込んどいてネタ一回ってどうなんだ。
「ちなみにバスネタは後で一回あるけど、素人集団の都合上、一度の乗車に一ネタしか用意できなかったよ!」
「先にバラすなよ……」
この義姉に進行させるのすげぇ不安。大丈夫かこれ。
「それじゃあ、早速皆の家に案内するね」
そう言って歩き出す義姉さんに付いて、俺達は一軒の民家に入った。
民家はビックリするくらい普通に民家という外見だったのだが、内が酷かった。
そこそこ広い空間にタンスが数個、何故か存在するビデオデッキとブラウン管。そして人数分の机。
異世界でこれは無理があるだろ……どうにか無理無いような見た目にできませんでしたかね。
「なんか……中世レベルの異世界と田舎のイメージと、昭和臭がごちゃごちゃになってますわね?」
「そ、そうだな……」
言われてみると確かにちょっとそんな感じもする。何でも完璧な義姉がするにしてはこれは酷い。
「うっわぁこれは無いなぁ」
「義姉さんがそれ言う?」
やたら他人事っぽく言っている義姉に問いかけると、義姉さんは笑った。
「あはは、だってこれセット造ったのお姉ちゃんじゃないもん。流石に全部自分でやらないからね? うちの子にやらせたんだけど……いやー、これは、あははははっ」
「笑うな」
この阿保義姉……もうちょいちゃんと企画部分がしっかりしてたら他人にやらせてもこうはなるまい。企画丸投げしたんだろうな。
「それじゃあ、しばらくここで過ごしててね。私は村長に先に連絡してくるから」
「はいよ」
ってことはここからは恒例のあれなんだろうな……。
「引き出し、開けますわよね?」
「まあ、そうなるだろうな……」
しかしまあ、ビデオデッキとかあるのを考えると、そういうネタもあるんだろうけど、何するんだろうなぁ。
「とりあえずアシェ、開けるんですわ」
「えっ、私……? うーん、気が進まないけど……」
まあ、笑ったらアウトでしばかれるのだから、あるであろう地雷を自分から踏みたくはないわな。
しかしそれでも引き出しを開けてくれるのがアシェだ。なんだかんだノリがいい。
「うん? これ、何かしら」
アシェが引き出しの中を見て首をひねっていると、隣の席だったトモリさんがそれを覗き込んだ。
「紙~ですか~?」
「みたいね? 裏面とか――ぶふっ!」
「…………ふっ」
『アーちゃん、トモちゃんアウトー』
何かよくわからんが、アシェとトモリさんが笑っていた。
そしてまた出て来たさっきの二人にバシバシと尻をしばかれる。
「何で笑ったんだ?」
「見るの怖いですわね……」
「だ、大丈夫よ、シュエリアは笑わないわ……」
「ん? そうですの?」
そう言われると気になるモノで、シュエリアが率先して見に行く。
そして。
「何ですのこれっ!」
「んん?」
なんかシュエリアが声を荒げていた。なんだなんだ。
「どうしたんだよ……って……うっ……ぐっ」
ヤベェ、吹き出しそうになった。あぶねぇ。
俺が見たのは、寝姿のまま変なポーズ、主にボディビルとかで見るような筋肉アピールするようなポーズで寝ているシュエリアの写真だった。
この幸せそうな寝顔にこのポーズ、そして寝間着(笑)の面白Tシャツに書いてある「攻撃は最大の攻撃」にやたらとパワーを感じた。
「ユウキこれよく耐えられるわね」
「結構危ないけどな……」
って言うかこんなん何時撮ったんだ、てかなんで俺の嫁はこんなことされて気づかねぇの?
「いや、ていうかこれは字体ではわからない面白さだな、駄目だろ」
俺達の立場的にこれは駄目だろ、色々と。
「まあ、とりあえず私は一カ所開けたし、次はユウキが行きなさいよ」
「俺か……」
まあここまで笑ってないのも俺だけだし、そろそろ笑えるイベントがあってもいいだろう。
そう思って俺は自分の机の引き出しを一つ開けてみたが、こちらは何もない。下の引き出しも、無い。最後の引き出しは……あった。
「これは、カード?」
なんか白い、プラスチックのカードだった。裏面も調べてみると、でかでかと『鍵』と書いてあった。
「鍵……? 何のだ」
そう思って部屋にそれらしきものがあるのだろうかと見渡すと、アイネの席の後ろにあったタンスに目が行った。
なんかタンスにしては材質がこう……木製っぽくない。
「これは、金属? しかもなんかカードリーダーまである」
異世界の田舎村に金属タンスのカードリーダー付き。
このカードがカードキーということだろうか。いや、世界観。
「ま、まあいいか。開けるぞ」
そう言って他のメンバーの様子を伺った後、スッとカードを通してみた。
すると、タンスがやたらSFチックな機械音を立てながら開いた。いや、だから、世界観が。
「で、これは、ビデオか」
早速ビデオか……しんどいな。
何がしんどいって、ビデオって映像じゃん。伝わりにくいんだよ。色々と。
「とりあえず再生していいよな?」
「ですわね」
皆覚悟はできたようなので、俺はビデオをデッキに入れた。
ビデオが再生されると、そこには見覚えのないおじさんとおばさんが映っていた。
エキストラまで雇ったのか義姉さん、そこは気合入ってんだ。
『ハマーダ、お前がこれを見ている頃には、私達は既にこの世には居ないだろう』
『ハマーダ、貴方は私達の本当の息子ではないの、貴女の本当の親は……いえ、この話は長くなるから止めておくわ』
「やめんなよ」
ついツッコんでしまったが、この流れで本当の親の話を「長くなるから」で止めるとかあある? って言うかハマーダを止めろ。更に言うとこれ俺の事じゃねぇだろうな?
『ハマーダ、お前は勇者の末裔だ。そのお前はこれから先、勇者の剣の試練を受ける必要がある』
『その試練とは……ハマーダ、ケツソード!』
「え?!」
『ハマーダ、ケツソードー』
これってまさか、某田中が毎回喰らっているタイキック的な、例外的罰ゲームか?
っていうか、義姉さんまで「ハマーダ」言ってるし、何だったら若干イントネーションがあの「タナカー」っぽい妙な抑揚だし。そもそも「ケツソード」ってなんだ。ゴチ〇コか?
などと色々考えていると、家の扉から誰かが入って来た。
「うん? お涼さん?」
「はい、お涼です」
これはまた意外というか、場違いなキャスティング。この世界観に和服美人登場だ。
今回はトモリさんも皆と同じ衣装なだけに、一人だけ浮いてる。物理的にも。
「それではこのソードでお尻を行きますね」
「え、待って、え?」
お涼さんが手にしているのはロングソードだ。当然だが両刃だ。
「大丈夫です、峰打ちですから」
「その武器そんなものはない!」
「裏拳みたいなものですよ?」
「裏拳どころか聖剣だから!」
「突いときますか?」
「それ正拳突き! ってややこしいわ!!」
え、何、お涼さんってこんなボケる人だったの?
「話も纏まったので、行きます!」
「いや全然とっ散らかってるけど?!」
散々ボケ倒して強硬手段に出るとか怖いんだけど。
俺がそれでも、と覚悟して気を引き締めると、尻をベチンッと叩かれた。
「いっだ! ……て、うん? なんか打撃を受けたような鈍痛が……」
しかしあの剣に峰なんてものは無かったハズだが、まさか。
「これが俗にいう腹パンと言う奴ですよユウキさん」
「いやまあ、剣の腹ではありますが……」
どうやら剣の腹、平らな部分で殴られたようだ。それでも金属でぶっ叩かれたら普通に痛いが。
「ともあれ、これでユウキさ……あ、ハマーダは勇者として認められました」
「今言い直すんですね……」
さっき思いっきり名前で呼んでたけど、今気づいたんだなお涼さん。うちの和服枠は全員天然か。
しかしまあ、この分だと全員出て来るんですかね、これは。
「皆、村長が皆に会いたいっていうから、挨拶に行こうか」
「んお」
お涼さんが去った後直ぐ、その扉から義姉さんが入ってきてそんなことを言い始めた。
まあとりあえず進行に逆らう気はないので、付いて行く。
村長の家は他の家に比べれば大きい物の、俺達用に用意された家より、使用用途の問題か、小さかった。この村のバランス悪いな……。
「それじゃあ村長に挨拶することになるけど、皆、失礼のないようにね」
まあ一応、俺達はこの村の一員という設定何だろうから、そら失礼があったらいけないだろう。しかし、誰が村長役を……?
「って、ルンルンかよ」
そこに居たのはルンルンだった。しかし、うん? 村長? この格好で??
『私が村長のルンです、皆さんにお話しがあってお呼びしました』
ルンは相変わらず声が小さいので、筆談だったが、今回は台本があるようなので、最初から書かれたフリップを捲るだけのようだ。
というより、恰好がすげぇ、小林〇子なんだけど。
『実は私は王家の一員で、そのことを隠しながら、勇者の末裔をこの村に匿い見守る役目を今まで背負って来ました。しかし今日、ハマーダが勇者になったのでその役目も終わりました』
「いきなり色々ぶち込んでくるなぁ」
これフリップで言う事かな、色々設定持ってるのに、いいのか?
ってかさ、隠せてないよね、王族感。なんならラスボス感すら出てるけど。
『勇者にはこれから数多の困難が訪れるでしょうが、ぜひ乗り越えて欲しいと思います、あぁ、それと――』
そこまではサクサクとフリップを捲っていたルンだったが、ここに来てちょっとの溜めを作ってからフリップを捲った。
『私は勇者が生まれ、活躍して名声を得ることを疎んだ現女王に掛けられた呪いで声を失ってしまったのです、出来る事なら、この呪いも解いてくださると助かります』
「妙な設定まで突っ込んできたな」
この設定、要る?
というか、笑いどころ小林〇子感しか無かったけど、いいのかこれ。
「まあそんなわけだから、ゆうく……ハマーダ、頑張ってね!」
「安定しねぇなホントに」
なんで俺だけ名前変えたんだよ、こっちもやりにくいって。
「さあそれじゃあ、また皆は家に戻ってね」
「はいはい」
という事で、さっさと家に戻った俺達だったが、戻ったら戻ったで、また引き出しネタかな。
と、思ったのだが、戻ったら直ぐに、何か鐘の音が聞こえて来た。
「大変! これは警報だよ! 皆、村の入り口に集まって!!」
「おお?」
これはそういう設定ってことだよな。まさかシュエリアの創った世界に敵対的な何かが存在するとも思えないし。
兎に角、俺達は村の入り口に集合した。
そしてそこには、山賊だか盗賊風の連中がいた。
「ようよう、アタシたちはこの国でもっとも恐れられている盗賊団のスマラッパギだ!」
「すげぇ、他所のネタを平然と持ってくる辺りがすげぇ」
某漫画の意味不明挨拶をそのまま持ってくる度胸。すごいな。
「って言うかアレ、エルゥですわね?」
「そうだな、横は六々で、他のメンツもなんかしす☆こーんで見たような連中ばかりだ」
九尾のお姉さんに、くノ一、巫女さんと、名前は知らないが見たことある人達ばかりが盗賊コスをしていた。
「命が惜しかったらこの村にあるって言う聖剣を出しな!」
「ゆう……ハマーダ! 彼女たちの狙いはハマーダの聖剣だよ! 渡すわけにはいかないから、やっつけて!」
「え? えっ??」
いや、うん? これどうすれば? 戦う、のか?
「あぁん? お前が勇者だと? 本当に勇者だって言うなら、戦ってもらおうじゃないか!」
「えぇっ、なんでそんな乗り気なんだ」
エルゥ、めっちゃノリノリ。なんでだ。
「ここじゃ場所が悪い、こっちに来な!」
「場所気にしてくれる盗賊って」
村の人を人質にしたりしないんだ……。
「それで、何でこんな森の中にこんなものが」
盗賊たちと共に村の近くにあった森に入ると、そこには何だか近年に見た気がする股間を強打するマシーンがあった。
「アンタにはこれで勝負してもらうわ!」
「ど、どうやって」
まさかと思うが、これを耐えろとか言わないよな?
「勝負の内容は簡単よ。私とハマーダでじゃんけんをして、負けた方の『仲間』が股間をベチンッされる。先に仲間が倒れた方の負けよ」
「おぉ、やろうやろう!」
「自分に被害がないと分かった途端急に乗り気ですわねあのクズ野郎」
「最低ね。流石シュエリアの夫」
「そういうアシェさんも好きですよねっ?」
「そこが~いいとこ~ろ~なので~?」
「「それは無い(ですわ)」」
なんかアシェとシュエリアがハモってるが、まあ、それは無い。確かに無い。
「私の方からは六々が受けるわ」
「え、私? エルちゃん、大丈夫?」
「大丈夫よ、六々ならどんな試練にも耐えられるわ、天使だもの」
「え……あ……うん……そうだね……」
なんか六々ちゃんは全然乗り気じゃないんだけど、大丈夫かな。
「じゃあ俺はアシェに任せようかな」
「えっ! なんで!」
「一番我慢強そうだから?」
「何でかしら、そう言われると自信はあるんだけど、納得いかない感じがするわ」
というかまあ、他の三人を選び難いというのもあるんだけどな。
可愛い妹にはやらせたくないし、トモリさんにこういうのは回せないし、シュエリアを指名したら殺されかねない。
「それじゃあ行くわよ! じゃんけんぽん!」
「あ、負けた」
「ひぎぅっ」
俺が負けた瞬間、後ろで凄まじい破裂音と共に、アシェの割と本当に痛そうな声が聞こえて来た。
「だ、大丈夫か?」
「も、問題ないわ……」
「お、おう」
なんか凄く痛々しいので、次は勝たないとな……?
「じゃんけんぽん!」
「あ、また負けた」
「ひうぅっ」
また凄い音したなぁ……振り返るのが怖くなってきた。
「ゆ、ユウキ、まだ、いけるわ」
「お、おぉ……」
すげえ悪いことしてる気がしてきたからそろそろ勝たないと。
「じゃんけんぽん!」
「あー…………」
また負けた。そしてその瞬間聞こえて来たのは怨嗟の声だった。
「ゆうきぃいいいいいいいいい――いったい!!!」
「すまん!!」
ヤバい、このままだといくらアシェでも耐えられない上に、なんなら俺がアシェに酷いことされても文句言えなくなりそうだ。
「さあ行くわよ! じゃんけんぽん!」
「あ、勝った」
「ひやぁあああああああ!!」
今度こそ勝った瞬間、凄まじい絶叫が聞こえた。
「いだいっ! むりっ! 降参!!!」
「えちょっ?! 六々! 何降参してんのよ!」
「むりっ! 死んじゃう!!」
「めちゃくちゃ打たれ弱いじゃん」
涙目でぴょんぴょん跳ねている六々ちゃん、どうやら一発で許容値を超えてしまったようだ。
見た感じ確かにしっかり痛そうなのだが、流石に一発で降参とはなんとも。
「くっ……まあいいわ。負けたからには退いてあげる!」
「お、覚えててください……エルちゃん……」
「え、私?」
これは後で六々ちゃんにこってり絞られるんだろうな、エルゥは。
他の誰が人柱になってもエルゥは怒られただろうが。
「さて、これで無事解決だな」
「私のあそこは全然無事じゃないんだけど……」
「あ、あぁ。うん……擦る?」
「背中感覚で提案しないでくれる……?」
まあそうだな。擦るのはアウトだった。
「さあ皆、村も聖剣も守ったし、早く帰ろう!」
「お、おう」
まあ村と聖剣は守れたが、アシェの聖域はちょっとばかし痛い思いをしたわけだが。
尊い犠牲ってことで、一つ。
「っとその前に……」
と義姉さんが言葉を止めると『デデーン』と音楽が。
これは、アウトの時の音楽では?
『シュエちゃん、トモちゃん、アウトー』
「え、何で?」
一体二人は何故アウトに?
「シュエちゃんはアーちゃんが股間強打する度にゲラゲラ笑ってたし、トモちゃんは六々ちゃんが喰らった瞬間ニヤニヤしてたからね」
「シュエリアの方は分るとして、魔王が天使の痴態を見てニヤニヤしてたとか怖いわ」
トモリさん、今日は大分ブラックだな。というか笑い方が、小さく表情だけで笑うの怖い。
とりあえず、今回はエルゥと六々ちゃんが居ないので、別の(イチとリーシェ)がマスクをして二人をしばきにきた。
「さっ、戻ろう?」
「そうだな……」
なんかトモリさんの尻を叩くイチがガクガクぶるぶるしてたんだけど、大丈夫かな。相当ビビってたみたいだけど。まあトモリさんに報復されることなんて無いだろうけどな。
「さて、再び部屋に戻ってきたわけだが?」
今度は何も起こらないので、また引き出しだろうか?
そう思って机を見ると一枚の紙を見つけた。
「これは『机の中身はリセットされてるよ!』ってさ。ほとんど開けてねぇけど」
「あら、それならアシェから開けるべきですわ」
「また私?!」
そう言いながらも早速引き出しに手を付け始める辺り、もはやアシェは弄られ役を自覚し始めているな。素晴らしい芸人育つかもしれない。
「えっと、これ、何かしら」
「スイッチ~で~すか~?」
どうやら今度はアシェの引き出しからはスイッチが出てきたようだ。
「押していいわよね?」
「良いですわよ」
「えいっ」
アシェがスイッチを押すと音楽が流れた。
まあ『デデーン』だが。
『シュエちゃん、アウトー』
「はぁっ?!」
どうやらあのスイッチ、シュエリアがアウトになるアイテムだったらしく、理不尽にもシュエリアは尻を叩かれることになったのだが。
「えへへ、ほんとにぃ? えぇ、ごめんねシュエリア。ふへへ」
『アーちゃん、アウトー』
「しまっ――」
シュエリアを陥れたことによる喜びが笑いとして漏れ出てしまった阿保エルフもまた、しばかれることになった。
「つっ……アシェ、よくもやってくれましたわね」
「いや、押していいって言ったのアンタでしょう?」
「よくも笑ってくれやがりましたわね?」
「うっ…………えいっ」
『シュエちゃん、アウトー』
「アシェえええええええええええ!!」
「ひうっぽちっ」
『シュエちゃん、アウトー』
「あーーーしぇーーー??」
「わ、わかった、もうしないから!」
ビビりながらも、日頃の恨みか、二度もボタンを押したアシェの所為で恐らく二回しばかれるシュエリアが引きつった笑顔でアシェに掴みかかっていた。
アレは怖い。っていうかアシェよくやるな。体張ったボケかな。
そんな中シュエリアをしばきたいけど怖くてできないエルゥがイキイキしながら登場した。
「今回は二回分だから、一人で二回叩くんじゃなくて、私と六々の二人で一回ずつ行くわ。でも仕方ないわよね、二回だから、二回なんだもの」
「めっちゃ予防線張るじゃん」
どんだけ報復されるの怖いんだよ。やらなきゃいいのに。っていうか若干目の下赤いのはなんだろう。
「……なんでエルは目が赤いんですの? あぁ、さっきの事で六々にしこたま怒られたんですの?」
「うっ、うっさいわね! 今からしばかれるアンタには関係ないことよ!」
「どういう発言だ今のは」
なんかどっかの悪者の「今から死ぬ奴には」みたいだったけど、大分ショボい感じがする。
「泣き虫ですわねぇ」
「うっさい!」
割と泣きやすいのはお互い様な気もするが。敢えては言うまい。
「ほら、叩いたらさっさと帰れですわ。次があるんだから」
「わかってるわよ……」
「そうだよエルちゃん、まだお説教は終わってないんだから」
「うぅっ……」
「まだ怒られるんですのね……」
なんかちょっとエルゥが可哀そうだったけど、それより俺はこれからのアシェが心配だ。
「さて、アシェ、覚悟は出来てますわね?」
「え、何、え? これほら、そういうアイテムで、仕方ないでしょ? そういう、ほら、ね?」
「そうですわね、一回目は、そうですわね?」
「ち、近寄らないで! 押すわよ!!」
「押したら圧殺しますわ」
「え、何その等価交換、超怖いんだけど?!」
まあ、悪ふざけし過ぎたアシェにもほんの少しだけ悪い部分はあるかもしれないが……。
「まあまあシュエリア、そういうルールだったんだし、仕方ないだろ」
「うん? まあ、ハマーダがそう言うなら」
「お前まで俺をそう呼ぶのか」
「あら、今の何かのキャラっぽいセリフでしたわ」
「うん……そうだな……」
意図してない部分でそういう感じになっちゃうとちょっと恥ずかしい気がする。
「次はどうする?」
「さっきはユウキも空けたし……トモリとかいいんじゃない?」
「では~お言葉~に~甘えて~?」
なんだか妙に乗り気で引き出しを開け始めるトモリさん、一体何が入っているんだろう。
「あらあ~? 棒と紙~ですね~?」
なんだそれは、どういう笑いにつながるアイテムだ?
「なんと~一回だけ~叩かれる~代わりに~叩ける~そうです~?」
「何だと……」
それはまた凄いような、そうでもないような。
しかしトモリさんと言う身体能力化け物が持ったらどんな棒でも凶器だと思うんだが……。
「うーんそれじゃあ笑えないですわね……」
「いえ~ふふふっ」
『トモちゃん、アウトー』
「えぇ?!」
何故か今の流れで急に笑い出したトモリさん。何が面白かったんだ。
まあ何が理由でも、ソフト棒を持った人物、今回は六々ちゃんが出て来たんだが。
「あら~ラッキ~です~」
「あ、あの、トモリさん? まさかと思うけど、それ、あの……」
棒をブンブン振りながらニコニコ笑うトモリさんに、引きつった表情で後ずさる六々ちゃん。これは、まさか。
「……ふぅ、ついこれで六々ちゃんを殴ったら可愛い声を出すだろうなと、思ってしまって笑みが零れてしまいました。ふふふ、失敗失敗」
「嫌絶対わざとですよね?! 私何か不満を買うようなことしましたか?!」
「いえ、何も? ただ、私は六々ちゃんの悲鳴が好きなだけですよ。可愛くてすっごく興奮します」
「えっ!! 私そんな目で見られてたんですか?! 怖い!」
確かに、そんな目で天使を見ている魔王とか、普通に怖いし、何なら口調がいつの間にか素になっているのが一番怖い。
っていうか淫魔で魔王なトモリさんが天使をそういう目で見てるとなんか薄い本みたいだな。
「さあ、行きますよー」
「エルちゃんの阿保ー! 私を鳴かせるから魔王に目を付けられ――ひうんっ」
何か今、エルゥに対して恨み言が聞こえた気がしたが、聞かなかったことにしておこう。
天使でも恨み言を言う事もあるとか、忘れてあげよう。
「面白~かったです~」
「そ、そうですわね」
「で、ですねっ」
なんか約二名が引きつった表情でトモリさんに合わせているが、アシェが憐憫の眼差しを六々ちゃんに向けていた方が俺には印象的だった。
「それじゃあわたくしも探してみますわ」
「うん? でも、もうそろそろ……」
「大変大変! 皆広場に集まって!」
「ほらな」
「何ですのもう、まだまだ遊べましたのに」
自分のターンを止められて不満そうなシュエリアだったが、新しい展開にも興味はあったようで、直ぐに素直に義姉さんに付いて広場に向かった。
「今回は何だ?」
広場に付くと、そこには馬車があった。
そしてその近くにはアセトの姿があった。
「我はこの国の第二王女のアセトである! 女王の命で勇者を迎えに来た!」
「そういう訳だからゆうく――ハマーダ、皆で王女様に会いに行くよ!」
「そういう展開か……」
というか、今回凄いな、展開コロコロ変わるし、なんなら尺の取り方が一回一回そこそこあるせいでもう結構な尺なんだけど。
「あぁそうだ、我は同じ馬車には乗らんからな。貴様らは自分で足を運ぶがよいぞ」
それだけ言ってアセトは馬車に乗って何処かに行ってしまった。迎えに来たと言う割に。
「それじゃあ皆、バスに乗って移動しよう!」
「あ、ここで再びのバスね」
大丈夫だろうか、バスネタ、今回はしっかりしてると良いんだけど。
一同全員がバスに乗って進むと、しばらくした辺りで停車。当然、刺客が乗り込んでくる。
そして乗り込んできたのはシュエリアの末の妹、アリアとルリアだった。
「ねえねえアリア、聞いて聞いて」
「なになにルリア、聞かせて聞かせて」
いつもの調子で二人で掛け合う双子エルフ。さて、何を仕掛けて来るのか。
「私最近、ある変わった喫茶店によく行っているんですけど、そこで色々面白いことが起きるんです」
「あらそうなのルリア、どんなことが起きるのかしら」
「最近ですと、若草色の縦ロールエルフが仕事中にしょっちゅう男性客とNTRについて話してるんです」
「あらあら物騒ねルリア、そんな話で盛り上がれるものなの? ルリア」
「アリア、核熱ロケットではないのよ違うの、寝取られなのよアリア」
なんだかすごくカジュアルにとんでもねぇ会話してんだけど、あの会話に出て来た若草色縦のロールってシュエリアか?
「それで、何でその寝取られ? の話なのかしらルリア」
「なんでも妻になった側から考えるNTRについての討論だったみたいですアリア」
「願望なのかしらルリア」
「いえいえアリア、どうやら夫の方がそういう漫画を読んでいたのを知ってどう期待に応えるべきか考察していたようですアリア」
「あらあら不純で健気ねルリア」
「そうですねアリア」
なんていうか、凄まじい暴露話だったな。しかしまあ、笑えねぇけども……。
特にシュエリアが顔真っ赤にして恥ずかしがってるのが可愛いから笑えねぇわ。
まあ、それでも笑う奴は居る――アシェだ。
「ふはははは! 何それ! コイツそんな、ぷぷっ。えぇ? そんな下らない悩みがあったの?!」
「う、うっせぇですわ!!」
「ひひひっ、笑える! やばっ……ふふっ」
「ぐぬぬぬぬっ……」
アシェって本当にシュエリアの不祥事とか好きだな。コイツ等仲いいんだか悪いんだがわかんねぇ時あるわ。
しかし、笑ってんのにまだしばかれない辺り、後でまとめてしばかれるんだろうか。
とすると、この話、まだ終わってない?
「そうそうアリア、まだまだお話しがあるんだけれどいいかしら」
「えぇえぇルリア、聞かせて頂戴」
どうやら別の話題もあるようだが、もし引き続き喫茶店の話だと、この場で暴露される人間は他にトモリさんしかいないわけだが、この人にあの阿保エルフみたいな恥ずかしい話があるんだろうか?
「あの喫茶店には和服の美人さん、丁度そこの黒髪のお姉さんみたいな方がいらっしゃるのだけれどその方が面白いのよ」
「あらあら、どんな風に面白いの?」
どうやら本当にトモリさんの話のようだ。にしても「みたいな方」というか、本人だろ。なんと白々しい。
「よく仕事中にお歌を歌っちゃうのよ」
「あらあら可愛いわ。どんな歌なの?」
アリアとルリアが掛け合う中、歌の話になった瞬間、横からとてつもない圧と寒気を感じた。
見ると、トモリさんが滅茶苦茶怖い顔してた。今なら人をあっさり殺しそうな圧なんだけど、ガッチガチに魔王な顔してんだけど。
「そ、それが凄いのよ、ずーっとワンフレーズを続けているだけなんだけど、偉く上機嫌なの!」
「へ、へぇ、それは何だか、とっても気になるわ。どんなフレーズなのかしら?」
それでも続ける双子エルフ。すげぇ意志力だな。俺なら怖くて止めてるわ。
「ゆ~っ君、ゆ~っ君、ゆ~っ君~ってずーっと誰かの名前を呼んでるだけなんだけど、やたらハイテンションなの!」
「仕事のし過ぎで疲れてるのかしらね? なんだかとっても意外だわ?」
「た、確かに意外だ……」
「あうぅ……」
何だかトモリさんが珍しく可愛い声出しながら顔を手で覆っている。余程恥ずかしかったようだ。
しかし何というか、うん。そうか、俺の名前を上機嫌で連呼してるのか、トモリさん。
ヤバい、何故かニヤけてきた、これってしばかれるんだろうか。
「それとそれと、まだあるのよ!」
「あらあら今度は何かしら?」
どうやらまだあったようで、今度は誰が晒上げられるのか……。
っていうか、働いているのはこの二人だけなんだが……?
「喫茶店でイチってこと仲良くなったのだけれど、この子の友達が凄いの!」
「へぇ、どんな子なの?」
「それがねアリア、地域一帯の猫を仕切ってるボス猫らしいんだけれど、この白猫が開く猫集会の内容が九割兄の自慢話なの!」
「あらあら、それは訊いてて大変そうね?」
「いいえいいえアリア、これがビックリ、地域一帯の猫のほとんどがその話を嬉々として聞いているらしいの。なんでもそのお兄さん、猫たちのカリスマみたい!」
「あらあらルリア、それだとどっちがボス猫か分からないわね?」
「いえいえアリア、そのボス猫の兄は人間なのよ!」
「あらまあルリア、それってすっごく奇妙で奇抜ね」
「にゃあああああああっ!!」
「う、うぅん……」
なるほど、イチ発信のアイネの暴露話だったか。なんか若干、俺まで被害を受けた気もするが。
って言うかアイネはあの一帯のボス猫だったのか。また何というか、凄いことやってんだな。いつしてるんだろうその集会。ちょっと見たい。いや、猫をな?
「はーっ、アリアに話せてスッキリしちゃった」
「私も楽しくお話聞けたわルリア。あ、もうそろそろ下車する頃よ」
「そうねアリア、行きましょう」
「えぇえぇ、行きましょうルリア」
どうやら今ので暴露話は終わったようで、二人はさっさと下車していった。
『シュエちゃん、アーちゃん、トモちゃん、ハマーダ、アウトー』
どうやらシュエリアとトモリさんもどこかで笑って居たらしく、アイネ以外仲良くしばかれた。
「さあそろそろお城に着くよ! 皆、気を引き締めてね!」
そう言われて窓の外を見てみると、なんとビックリ、マジで城と、城下町があった。
凝ってるとかいうレベルじゃない。もう本当にここに国でもあって可笑しくないレベルの街並みだ。
「さあ、お城に着いたよ。早速女王様に会いに行こう!」
「お、おぉ」
さて、ここに来て城門、城内と衛兵に止められたりするイベントが無いのは気にした方がいいのか、それとも尺の都合で黙っとくべきか……まあ、何か言っても変わらないし、いいか。
「それじゃあ皆? 失礼のないようにね」
そう言って義姉さんが扉を開けると、扉の先には王座、そこに座っていたのはリセリアだった。
「あ、母様じゃないんですのね……」
「俺も思った」
身近な王族で女王と言えばやはりアルゼリアさんなので、てっきりそう来るとばかり思っていたが。
まあ、長女のコイツが王女になる気が無いから順当にいけばリセリアであってるし、何なら国も消えた後だから、その辺は気にしなくていいんだろうけど。
「よく来ましたね、勇者と愉快な仲間達」
「あん?」
「ひぅっ」
愉快な仲間達と一括りにされたシュエリアが睨みつけるとリセリアが縮こまった。
「やめてやれ可哀そうに。お前に凄まれたら大抵の奴は怖いぞ」
「ユウキはヘラヘラしてますわよね」
「慣れてるからなぁ」
「シュエリアに慣れるって結構凄いわよアンタ」
なんかアシェに褒められたけど、大して嬉しくない。
「勇者ハマーダが……ユウキが気に入らない女王ってアンタですの?」
「ちょっ、台本……あ、あー、そう。そうだ。私がその女王だ」
「ふうん」
な、なんかシュエリアの風当たり強ぇな。
「シュエリア、この場合リセリアが気に入らないのは勇者であってユウキではないのでは」
「でもそういうキャスティングですわよね、これ」
「どうだろうな……」
まあ、確かにリセリアには未だ認めれてない感がほんのわずかにある気がしているが、流石にそこまで気にしてもな。
「それで、台本はどーなってるんですの?」
「えっ?! あ、うぅ……わ、私はお前が気に入らん、今ここで、倒してくれるわ! だったはず……」
「へぇ、そういう流れ何ですの?」
「うぅ、やり難い……」
「哀れ過ぎる」
シュエリアの身内(主にリセリア)対応がえらい塩加減になっている。
相変わらずシュエリア的にリセリアはあんまり、のようだ。
「さあ勝負だ勇者よ! 貴様を倒して、今日から私こそが勇者王を名乗ってくれるわ!!」
「なんつうシナリオだよ」
てか勇者王って。なんかもう、なんだこれ。さっきからトモリさんとアシェがめっちゃ笑ってるし。
「勝負って、具体的に何を」
「うむ、剣で切り合うのは危ないので、ここは公平にゲームで勝負しよう」
「ゲームか」
さてどんなゲームだ、オリジナルゲームか、シンプルなボードゲームやカードゲームだろうか。
「デュ〇ル!!」
「分かりやすいけども! それで決着つくのはあの世界だけだから!!」
流石にデッキ持ってきてねぇし。
「ならば――『じょおうはミツハニーをくりだした!』」
「いやそれで解決すんのもあちらの世界だけだからな?!」
しかも手持ち弱いし! せめて女王に進化させて来いよ。
「ならばどうすると言うのか!」
「何なのそのキャラ! めんどくせぇな?!」
どう決着付けんだこれ。ていうかこのリセリアの感じ、この辺りは台本通りか。
「仕方ない、ならばこうしよう。叩いて被ってだ」
「なるほど。じゃあ俺は聖剣を使うから」
「え、刃物。じゃ、じゃあ私は包丁で……」
「生々しいな、むしろ怖いわ」
って言うか俺のこれは作り物だから刃物では無いんだが。
「それでは行くぞ!」
「えぇ……?」
とは言え今更止められない、さっさと勝って次に行こう。
「じゃんけんぽん!」
「ふんっ!」
「ぎゃああああああ!?」
勝ってはいなかったが、とりあえず聖剣で斬りつけてみた。
いや、なんか、それでも進むかなって。思ったので。
「な……何故私が女王に成りすました悪魔だと……わかった」
「え、そういう設定?」
なんというか、え、これ何。もしかしてこれ、アレ?
「ぐふっ……本当は聖剣で十二回倒さないと死なない私だが……流石勇者と言ったところか……」
「なんとなく見えて来たぞ?」
これはあれだ、打ち切りエンドだ。
「ちなみに本当の心清らかな女王はこの城の地下深くに幽閉されているのだ……」
「そ、そっすか」
すげぇ色々都合よく進み始めたな。っていうか、これ何処まで想定内?
俺が下種攻撃決めるまで想定されてたらそれはそれでなんか嫌なんだけど。
さっきから義姉さんを除く後ろの女性陣に凄い冷たい目で見られてるし。
「しかし勇者よ、忘れるな……私が倒れても、第二第三の私が……ぐふっ」
「うぅん、このやっつけ感。なんとも」
俺が何とも言えない、強いて言うなら遣る瀬無い気持ちになっていると、義姉さんの声でナレーションが流れた。
『こうして、勇者ハマーダによって王国の平和は守られたのであった! しかし、勇者ハマーダの戦いは、まだ始まったばかりだ! 行けハマーダ! ハマーダ達の勇気が世界を救うを信じて! ……ぷふっ、ゆう君の勇気だって……旨い事言っちゃったかな?』
「おい、後ろの部分切っとけよ……」
余計な音声入ってんぞ。
「さて、それじゃあ最後に。シュエちゃん、トモちゃん、アーちゃん、アイちゃん、アウトー」
「おぉ……」
最後なのか、これで。
って言うかシュエリアとアイネも笑ってたのか。
「うぅっ、つい兄さまとリセリアさんとの掛け合いで和んで笑ってしまいましたっ」
「リセリアが斬られた瞬間、笑ってしまいましたわ」
「おい姉、妹斬られて笑うなよ……」
なんつう姉だ。このエルフ本当に駄目だな。
「はぁ、でも、なんだか楽しかったですわ。たっぷり暇潰しできましたわね?」
「あぁ、そうだな」
何だか終わったと言う事なので、すっかり気が抜けた会話を始めてしまったけど、これこの後どうすんだろう。
「義姉さん、これってここで終わりなんだよな?」
「そだよー。いやあ、みんな頑張ったねぇ。全然笑わない!」
「笑えない冗談が多すぎたんだよ……」
それでもまあ、ちょいちょい笑ってたけどな、シュエリアとかアシェは。
「それじゃ、そろそろ帰ってご飯にしたいですわね」
「そうだな。正月だし、旨いもんたらふく食うかー」
「良いわね、豪勢にいきましょ」
「チャオチュールですかっ」
「スタバ~?」
「それって豪勢なんですの?」
となんやかんや、皆既に今年が終わったつもりだったが……。
帰ってみると時間はまだ昼で。
「あ、世界の時間の流れ。こっちのが遅いんでしたわ」
「あー……」
ということで、俺達はもうしばらく、長い年末を過ごすことになったのだった。
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