またクリスマスですわね?
「リアルタイムにクリスマスですわ!」
「何処からツッコめばいいのか……」
いつも通りシュエリアの部屋に入るとなんか無駄にテンションが高いのか意味不明な事を言い出したシュエリアに迎えられた。
「ツッコミどころあったんですの?」
「いや……まず、クリスマスじゃないだろ。イブだから」
とりあえず俺がツッコんでおくと、シュエリアは首を傾げた。
「でも世間一般、もとい日本一般的には二十四日がメインで二十五日は後の祭ですわよ?」
「言い方。せめて後夜祭と言え」
それだとやらかした後みたいだ。
「それを言うなら後始末じゃない?」
「どっちでもないと思いますがっ」
俺とシュエリアの会話に後から入って来たのはアシェとアイネ。
アイネの後ろにはトモリさんも来ていたが、彼女はこの会話はスルーかな? まあ、淫魔で魔王だしな……聖夜を祝う立場ではないわな。
「なんなら二十五日なんてクリスマスケーキが売れ残ってそうですわ」
「事実だけども。なんならクリスマスケーキが売れ残らない様、もとい売れ残りが半額になるのって実はクリスマス当日だしな」
前夜祭のハズのイブに定価、当日半額、後日は最悪売ってない。日本におけるクリスマスは大抵二十四日で終わってしまう。
「日本人にとってのクリスマスは二十四日で終わって、クリスチャンにとってのクリスマスが二十五日ってことかな……」
まあ日本人のお祭り気分とクリスチャンのそれを一緒にするのは失礼かも知れないしな。
そう言う意味では信仰心厚い方々は日本人のコレをどう思っているんだろう。いや、別にそんなに気にならないが。
「日本人は早漏、覚えましたわ」
「妙な覚え方すんなよ……」
というか、今更だが、この話の流れだとクリスマス会をやる方向だと、皆さま思っているかもしれないんだが、大丈夫だろうか。
「なあシュエリア、本題だけど」
「ん? あぁ、そうですわね。新作のエ〇ゲをやりますわよ」
「おう……」
そう、今日は新作のエ〇ゲをやる、というのでそれを付き合う事になっていた。
若い夫婦が二人でクリスマスイブにエ〇ゲをやると言うのがなんだか楽しい気がする、そんな理由だった。
まあしかし、この家に住んでいるのは俺ら二人だけではないので、当然そんなの皆集まるわけで。
「美少女四人に囲まれてやるエ〇ゲって、どんなシチュだよ」
「まさしく『それどんなエ〇ゲ?』って奴ですわね」
クリスマスイブに散々エ〇ゲを連呼する夫婦。いやあ、安心するなぁ。
「そんで、どんなゲームなのよ?」
「これはある平凡(笑)な主人公(男)の元にやって来た異世界の美少女達と同棲してヒロインと恋をする、という内容のエ〇ゲですわ」
「どっかで聞いたような設定ね」
いや、ホントにな。
異世界のファンタジー系美少女が出て来るはずなのに、聞いてて何一つ物珍しさとか新しさを感じないし非日常どころか日常系な雰囲気すら感じる。
「それじゃあ早速プレイしますわよ。最初はどのヒロインを狙うべきかしら」
そう言ってシュエリアはゲーム用のPCを起動した。
タイトルが始まるとなんだかしんみりとしてしまう曲が流れ始め、割と落ち着いた雰囲気のタイトル画面が現れる。
「へぇ、なんかもっとテンション高まる明るい印象かと思ってたが。違うんだな」
個人的イメージは祝福のカン〇ネラだったが、タイトルイメージ的にはD〇Cの方が近い。
「意外といえば意外ですわね。さてさて、内容は意外性あるのかしら?」
ゲームスタートに合わせて主人公の名前入力があった。珍しい。
大抵エ〇ゲってキャラの名前固定なんだけどな……。無いと言う事では無く、全体比率で見てと言う話だが。
「結城遊生っと……」
「オイ」
俺の嫁の暴挙に俺の手が嫁の手に掛かった。
「あんですの?」
「なんで俺の名前なんだ」
「え、女を落とすと言ったらユウキでしょう」
「なんだその当然のような言い草は。凄まじい風評被害だろうが」
「家庭内で風評被害とか無いですわよ」
「ご覧になってる方々がいるだろ」
「何の話ですの……」
コイツ冒頭からメタ発言かましたくせに俺の時はスルーだと……。
「でもこっちの方が面白いですわよ? アレですわ、感情移入」
「俺はそうだけどお前はそうじゃないだろ……」
いや、そもそも男性物のエ〇ゲに女性が共感するのも何か違う気もするが。
「それにユウキがこのゲームのヒロインにどういう反応をするか楽しみですわ」
「それは俺の事か? 主人公の事か?」
「どっちもユウキですわ」
「ややこしいって……」
まったく、一応発音的にはシュエリアがゲームキャラを呼ぶときは結城っぽいけど、俺を呼ぶときは遊生の方だ。しかしこれ、字体ではわかるまい。
「シュエリア、魔法でゲームキャラのユウキを呼ぶときだけ文章の表記を結城にできないか?」
「なんですのその非常にエキセントリックな注文は。いいですわよ」
「いいんだ」
うちの嫁便利だなぁ。
「で、そろそろ最初の一人、メインヒロインとの出会いとかあってもよさそうですわね?」
「そうだなぁ……」
このゲームは異世界からの美少女来訪というファンタジーゲームだが、やはりメインヒロインは王道でシンプルな、普通の女の子風な娘だろうか?
「あ、出てきましたわ」
シュエリアが声を上げたタイミング、出て来たのは黒髪ロングのエルフだった。
シュレリア『死ぬか私を養うか、どちらか選びなさい!』
結城『(なっ、何だコイツ!)』
「うっわ、凄い共感する」
「何処に共感する要素あるんですの?」
「お前がそれ言う?」
確かに差異はあるが、俺って確かコイツと出会って直ぐに脅迫された気がするだけど、気の所為かな。
「にしても、パケで知ってたけど、思いっきり黒髪ロングですわね。エルフなのに」
「そうだな。金髪碧眼じゃないな、エルフなのに」
「そうね、これじゃエルフって感じしないわよねぇ」
「そうだな、金髪碧眼じゃないしな」
この阿保エルフ二人、わかってない顔してんな。すげぇなんてことも無いように俺の言葉を「うんうん」って聞いてるけど、お前らの事だからな。
「あ、どうやらこの流れで養う事になるみたいですわよ? お人よしですわねぇ。わたくしなら逆にボコしてから服従させますわ」
「お前がゲームキャラに感情移入できるとは思ってなかったよ」
コイツにシンプルに他者への共感とか期待してない。何でも出来過ぎる天才に凡人の気持ちはわからんだろう。いや、わかっても共感が出来ないだろう。
「それで、この後はどうなるんだろうな」
「徐々に異世界から色んなキャラが……あ、二人出てきましたわよ」
画面の中にはおっとりした悪魔のお姉さんと茶っこい猫人の少女。
シュレリア『私の友達よ、今日から一緒に暮らすから』
結城『はっ?!』
トゥーリ『ぽけ~~~』
アイン『お昼寝の場所取りは任せてください!』
「なんだろう、凄く他人事じゃない感じがする」
「いや、わたくしにトレースしないでくれる? わたくしこんな事してねぇですわ」
「いや、しただろ……」
誰だよ、どっかから魔王拾って来た阿保エルフは。
「私はお昼寝以外もしてますよっ!」
「そうだな、癒しを担当してるし、家事もしてくれるもんな」
「これ私はいつ出て来るのよ?」
「いや、別にお前ら出てこねぇよ」
アシェの言ってるのは似てるキャラ居ないの? ってことなんだろうけど。そんな都合よく居るわけがない。
「でも紅い髪のキャラなら居ますわよ?」
「そうなのか」
見ると、確かに紅い髪のカッコいいキャラが居た。
アッシュ『俺の花嫁、シュレリアが消えた?! 一体どこに……』
「男じゃない!!!!」
「ですわね。でも負け組な辺りは似てますわよ」
「要らない共通点!!」
なんていうか、うん、凄くアシェっぽいけどな。
しかしこれだとアシェ(アッシュ)がシュエリア(シュレリア)を好きみたいになってるな。
「他にも天使とか僕っ子の犬娘とか、鬼ロリババア、ハーピィのオネエさんにダークエロフ……結構ヒロインいますわね?」
「ヒロイン枠にオネエさんいるのはおかしくないか」
って言うかこの人数と同棲ってすげぇな。ちょっと尊敬するわ。
「とりあえず攻略するならどの子がいいですの? オネエ?」
「何で最初に一番無いのを推してくるんだ。どう見ても黒髪エルフだろ」
「ユウキアンタ結局そうなのよね……」
「え?」
何。何が? 結局そうって、なんだ?
「ゲームでもシュエリアみたいなの攻略するのね、ってことよ」
「あ? あぁ、そういう。いやいや、黒髪エルフだぞ? 可愛いじゃん。性格は別として」
「性格重視しなさいよ……」
そんなこと言われてもな……。
「まあゲームだしいいだろ。そんなん言い出したら一番可愛いシュエリアが居るのにこのゲームのヒロイン攻略する意味ってなんだか分からなくなるしな」
「急にストレート投げて来るの止めて欲しいですわ」
「ん?」
なんかシュエリアが顔真っ赤なんだが、え、何か怒るようなこと言ったか。
「はぁ……で、このシュレリアを攻略するんですの?」
「そうだな……とりあえずは」
「とりあえず、ね……」
なんかシュエリアが呆れたように見て来るだけど、何だ、俺また何か変な事を?
とまあ、ちょっと気になることはあったものの、その後もスムーズに進み、シュレリアエンドを迎えた。
「見れば見るほどシュエリアっぽかったわね」
「ですわね」
「そうかぁ?」
なんかエルフ二人は共感してるけど、俺としてはそんな感じしなかった。
最初の方こそシュエリアにやられたことが思い返されたりもしたが、見れば見るほどこう、ツボじゃなかった。
「似てなかったんですの?」
「いや、だってなぁ。このキャラって基本的に気が強いのと後に来るデレで、割と王道なツンデレって感じだったし。普通にいい奴な上に有能だったし」
「それだとわたくし、普通にいい奴じゃない上に無能みたいなのだけれど」
「いや、シュエリアの良さって、表面上は迷惑かけて来るタイプだけど何だかんだ一緒に楽しい時間を過ごしてくれる、いい意味で振り回してくれるところとか、本当は有能なのに自由奔放で能力に縛られない生き方してるところが良いわけで、なんかなぁ。このキャラとは全然違うだよなぁ。そもそもシュエリアの方が億倍可愛いし」
「だからその直球の好意を全力で振り抜くの止めろって言ってんですわ!!」
「えぇ?!」
なんか怒られた……理不尽な。
「というか、それならユウキ的にはどのヒロインが良かったのよ?」
「うん? そうだなぁ……」
アシェに問われて考えてみると、うーん、誰かな。
「トゥーリさん?」
「はぁっ、結局そこに行くのね」
「まったくですっ、何だかんだ言いつつ結局そうなんですっ」
「あらぁ~」
なんだろう、約一名は嬉しそうなのだが、他がおこなんだけど。
これはあれですか、自分に似てるキャラを選んで欲しかったとかいう? いやしかし、それだと俺、アシェに似てるキャラ(アッシュ)を選ぶとBLになってしまうんですが。
「ならトゥーリエンドでも目指してみますわね?」
「あ、いや、それは待ってくれ」
「……はぁ、なんですの」
俺が待ったをかけるとシュエリアが溜息を吐いて呆れ声で聴いて来た。なんだろう、なんでこんな対応。
「これってハーレムエンドとかねぇの」
「はぁ……言うと思いましたわ」
「な、なんだその態度。まるで俺が最初からハーレムエンド狙うのが分かっていたかのような」
「むしろわからないと思ったんですの?」
「……むぅ」
まあ正直、シュエリアが言い出した事とはいえ今、こうして皆で仲良く暮らして、その内皆嫁にすると言う話になっているわけで。
そんな俺が「そういう」ラストを望むのは、うん、シュエリアにわからない訳無いな。
「じゃ、次はハーレム狙いですわね。何したらいいのかしら」
「全員にいい顔するとかじゃない?」
「きっと皆とデートしますよっ」
「乱こ~じゃなく~性こ~、いえ~成功~すると~いいです~」
「俺なんだと思われてんの?」
ちょっと不安になってきたぞ? 俺ってもしかしてシュエリア以外からは思ったより好かれてないのでは?
「とりあえずイベントは全部踏みますわね、できるだけ」
そんなわけで、皆で相談しながら始まったハーレムルート目指し。そもそもあるのかわからんが。
二時間後。
「駄目ですわね。失敗しますわ」
「そうね、全員にいい顔して上手く行くわけないわよね」
「普通はタイマンですからねっ」
「一人に~一人~かと~?」
「胸に刺さる言葉だな」
そもそもハーレムエンド無いのかもしれないなこれ。
まあ、こういう恋愛シュミレーションゲームである方が珍しい気がするし。
しかしどうするか、そう思っていると、部屋の扉が勢いよく開いた。
「やっほー! シュエちゃんやってるー?」
「あらシオン、どうしたんですの」
そういや今日は居ないなと思っていた義姉さんがいつも通り元気よく登場した。
「シュエちゃんほら、今日発売のエ〇ゲやるって言ってたでしょ、どうだったかなーって」
「それなら今、ハーレムエンド目指してたところですわ」
「あぁ、ハーレムエンドかぁ」
シュエリアの話を聞いて、義姉さんが「うーん」と唸った。
「無いよ? ハーレムエンド」
「あら、そうなんですの」
無いと言い切った義姉さんに、素直に聞き入れるシュエリアを見て、なんか違和感を感じた。
「なあ義姉さん。一応聞くけど、何で知ってるんだ?」
「うん? フラゲとかじゃないよ? それ造ったの私の所の会社ってだけで」
「はぁっ……!!」
なるほどね、それでこの内容。すげぇ納得。
「ハーレムエンドは後日追加パッケージで発売予定だから、今のところは出来ないよ」
「なるほどですわ。あれ、でもそれって後で収録するんですの?」
「そだよ?」
「メンドクサイですわねぇ」
「まーまー、そう言わずに」
なんかシュエリアと義姉さんで話が進んで行くんだけど、うん? なんだこの違和感、またか。
「そういえばシュエリア、気になってたんだけどさ」
「あんですの?」
「何でさっきシュレリアのエ〇シーンだけ飛ばしたんだ?」
「…………」
このやろう、目を逸らして黙りやがった。
「あれ、シュエちゃん飛ばしたの? そこだけ? 恥ずかしかったの?」
「そっ、そんなわけなないですわよ?」
「めっちゃ動揺してんじゃん」
しかしシュエリアってそんな耐性無い方だっただろうか?
「……あ、もしかして――ちょっと借りるぞ」
俺はシュエリアからマウスを奪うと、ギャラリーからシュレリアの回想シーンに飛んだ。
シュレリア『あっ……んぅっ……!』
「あー、なるほど。はいはい」
「ちょっ、人のエ〇シーンを感慨深く見てんじゃねぇですわっ」
「そうだな、人の、な」
そう、他人のではなく、人の。つまり。
「これ、声やってんのシュエリアだな」
「ぐぅっ……」
まあこのゲームの企画の段階で、どっかでシュエリアが絡んでてもおかしくなかったわけだが。
「普通に普段のキャラの声だけだと似てるだけと感じたり、わからなかったりするけど、エ〇ゲとかの場合、そういうシーンを見ると声で一発でわかること多いよな」
「喘ぎ声って結構どのキャラやっても似ちゃったりするよねぇ」
「演じ分けてることも当然あるけど、どうしても似てる部分出ちゃってる感じするんだよ」
「うんうん、わかるなぁ」
「そういう話題で共感出来る辺りが姉弟って感じですわね……」
しかしまあ、これでようやくわかったな、二つ目の違和感の正体。
「ハーレムエンドはまだ収録してないんだな、音声」
「ですわ。はぁ、ユウキにバレた後にやるのってなんだかちょっと恥ずかしいですわね」
「大丈夫よシュエリア。そんな恥ずかしがらなくてもアンタのアレしてる時の声っていつも普通に聞こえてるから、今更よ」
「え」
「そうですねっ、私もよく聴きますっ」
「へ?」
「かわい~です~」
「はぁっ?!」
シュエリアが顔真っ赤で立ち上がる。これはわかる。恥ずかしがってる。
「声大きいのよ」
「魔法で対策してますわよ?!」
「だから、夢中になって維持できてないんでしょ」
「言い方! 誰が夢中ですの?!」
「シュエリアが、セック――」
「わーわーわーっ!!!」
シュエリア、そんなに恥ずかしいのか、これはこれで可愛いな。
「まあでもこれで、いつでもシュエリアの恥ずかしい声が聞き放題ってわけね」
「アシェ、このゲーム触ったらぶっ転がしますわ」
「ちょっ……わかったからその魔法で出した何に使うのか分からない金属器を弄るの止めてくれない?!」
アシェはあれを何に使うか分からない様だが、何でだろう。アシェとか知ってそうなのに。
アレはどう見ても違う〇をアレする道具だ。
「さて、そろそろクリスマスっぽい食事の準備でもするかな」
「あ、ビーフシチューが良いですわ」
「お前人の話聞いてた……? まあ、いいけど」
「いいんだ。あっ、私は唐揚げがいいわ」
「はいよ。トモリさんアイネは?」
「お手伝い~します~」
「私もしますよっ」
「お姉ちゃんは? お姉ちゃんは何したらいい?」
「何もしないをしたらいい」
「おっけープ〇さんだね!」
とまあ、とりあえず、ハーレムエンドはまだまだ先のようなので、正直それ以外興味のなくなってしまったあのゲームは一旦置いといて。
俺は皆と過ごすクリスマスイブの為に、ご馳走を用意することにしたのだった。
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次回更新は来週金曜日18:00を予定しております。




