また温泉ですわね?
「そういえば温泉って来るのはもう二回目ですわね?」
「うん? あぁ、前に温泉旅館に行ったな」
プールで一通り遊んだ後、温泉に向かう途中、急にシュエリアに振られた話だったが、それが一体どうしたと言うのか。
「作者がネタ切れを嘆いてそうですわね?」
「いや本当に何の話だ」
なんで俺達が二度同じ場所(厳密には同類の施設というだけだが)に来ただけでネタ切れを心配されているんだろう、普通に人生に二度以上温泉行く奴なんて珍しくもないだろうに。
「まあいいですわ。シオン、混浴あるんですわよね?」
「そだよー。しかもなんと、ここの混浴は……」
「混浴は?」
義姉さんが作った溜めに、皆が注目する中、義姉さんはすさまじく下らないことを言い放った。
「狭い! 密着してしまうくらいに!!」
「どうしてそうなった……」
この人無駄に金持ってるし、作ろうと思えば広く作れたはずだ。なんでそうなった。
「お姉ちゃんがゆう君と入るのを想定して、狭いから仕方ないと言い訳しながらピッタリくっついて入浴するために狭くしてあるの!」
「それを宣言してしまったら仕方ないこと無いのではなかろうか」
それは仕方ないとは言わない。故意にやってるんだから。
「まあ、と言うのは冗談なんだけどね」
「本当か?」
凄く胡散臭い。絶対本心が八割超えてるぞ。
「どうせゆう君と使うのが目的だったし、皆が入るとしてもそこまで広い必要ってないでしょ? だからいつものメンバーで入って丁度いい広さにしてあるの。家族で一緒に入るのに広いお風呂に離れて入るのも寂しいし」
「まあ、そういう事なら、いいけどな」
確かに無駄に広い風呂に点々と散らばるよりか、そっちの方が良いかもしれない。
暑苦しい気もするが。
「それで、何処にあるんだ?」
「うんとね、さっきの更衣室まで戻って、こっちに来るのとは反対の通路をね……」
と、義姉さんが説明を始めたが、正直道順聞いても仕方ないなと思った。
どうせ義姉さんに案内されて付いて行けばいいんだし。一度通れば大体道は覚えるし。
「ってことで、この先が一般開放されてない露天混浴風呂だよ」
「そういえば水着のままだけど、良いのか?」
「うん、別に気にしないよ。どうせ私達しか入らないし」
「いつも思うけどそれで経営やっていけるのはどうしてなんだ」
「他で儲かってるから?」
「そっすか……」
しがない探偵(笑)には理解できない金銭感覚だ。他で儲かってても俺ならやらない。
「さー行こう! お姉ちゃんは温泉で正々堂々イチャイチャしたい!」
「さっき仕方ないとかいう言い訳を使ってイチャ付こうとしてた奴が何を言ってんだ」
どこら辺が正々堂々なのか問い質したい気持ちもあるが、なんか面倒な気もするから止めておこう。
それより今気になるのはトモリさんだ。
「トモリさん、すみません、何をしてるんですか」
「水着脱~ぎ~ました~」
「いや、それは、はい」
それは見たらわかる。問題はなんでその後真っ裸のままなのかだ。
「せめてタオルとか巻きませんか」
「なぜ~でしょう~?」
「何故って……その、見えるし」
「目の~毒~ですか~?」
「いえ、むしろ保養ですが」
しかし、良いのだろうか。いや、別に見た事無いわけじゃないし、俺達はそういう関係なのだから、良いんだろうけども。
「トモリさんは良いんですか?」
「むしろ~嬉し~いかと~」
「そうですか……」
これって俺が見れて嬉しいではなく、俺に見られて嬉しいってことだよな。なんというか、この人って実は結構見せたがりではないだろうか。まあこんだけ美人でスタイル良ければ相当自信もあるだろうけど。
「アイネは……なんて言うか健全だな、逆に」
「うにゃ?」
どうやら昔の海に羞恥心は捨てて来た妹は、それはもう清々しい程恥ずかしげもなく全裸だった。
「まあ猫って基本全裸だもんな……」
「にゃんか今凄い語弊のある表現をされた気がしますっ!!」
俺の発言にアイネが憤慨しているが、いや、全裸じゃん、猫って。
「可愛いから良いか」
「いえ私は良くないんですがっ?!」
とは言いつつ、俺に撫でられてまんざらでもない様子なので、非常にちょろい妹である。
「それでアシェはなんでタオルしてだよ」
着替え終わって早速風呂場に……と思って来てみれば、アシェだけがタオルを巻いていた。
「え、今までの流れでそこを咎められるとかある?」
俺の発言に驚いたアシェが額に皴を寄せて軽蔑の目を向けて来る。
「いや、隠すもの無いだろ」
「え、ぶっ殺していい?」
「俺死なないけどな」
「大丈夫よ、石ころに変換するから。実質死んだようなもんでしょ」
「すみません許してください」
そうだった、コイツそういうチート能力あるんだった。いつもポンコツなせいでつい忘れがちだが……。
「大体、トモリとアイネにはタオルしてないのをなんだかんだ言ってたじゃない」
「そうだけど、ここまで来ると逆にタオルしてるのが気になって」
「まあ、気持ちはわかるけど、その後の発言は無いわよ」
「す、すまん」
まあ実際、酷いこと言ったのは事実だ。
とは言え、冗談なのもアシェは分ってるだろうが。
「良いわよ、アンタもシュエリアもやたらと私に軽口叩くしね。というか、タオル云々言い出したら水着のまんま体洗ってるアイツはどうなのよ」
そう言ってアシェの見る方を向くと、シュエリアが水着のまま体を洗っていた。
「まあ、良いんじゃないか? アレで胸とか洗い難そうだけど」
「何処心配してんのよ……手を突っ込めばいいだけでしょ」
「その絵面結構ヤバい気がするな」
なんか違う事しているように見えそうな気がする。
「で、義姉さんは……あれ、義姉さんは?」
風呂場を見渡したが、義姉さんが居ない。
何度見ても全裸美人に全裸妹、水着嫁にタオル令嬢。
義姉がいなかった。
「どこ行ったんだあの人」
「ついさっきまでは一緒に居たわよね」
「そうだな?」
なんだ? どこ行ったんだ?
「まさか温泉に潜ってるとかだろうか」
「どうなのかしら、そういう風にも見えない……というか、意味ある? それ」
確かに、温泉に潜っているようには見えない。そして意味もない。というか分からない。
「……ふむ」
こういう時、あの阿保な義姉が何を考えるか、予想してみよう。
…………そういうことか?
「覗きかな」
「え、どういう事」
「つまり、あの人は一足先にどっかに隠れて俺達が温泉に入るのを覗いていると思われる」
「何でそんなことを? アレだけ一緒に入りたがってたでしょ」
「思い付きじゃないか? 多分」
まあ、別にどうでもいいか。あの義姉が居なくて困ることも無い。
「さて、シュエリアの背中でも洗ってくるか」
「サラっと嫁とイチャ付こうとするわね」
「そう言うなアシェ。アシェの場合裏か表か分かりにくいんだよ」
「石になりたいの?」
「そこだけ聞くと石化の魔眼持ちみたいだな」
実際は何でもあり臭いインチキな魔眼持ちだが。
「で、遺言はそれだけ?」
「分かった。シュエリアと並んでくれたら両方洗おうじゃないか」
「……そういう事なら、まあ、許してあげるわ」
コイツもコイツで大概ちょろいな。というか結城家はちょろい連中ばかりだな。
「シュエリアー、背中流しに来たんだけど、いいか?」
「セクハラを許可貰ってからしようとかホント神経図太いですわね」
「いや、夫婦でこれがセクハラになんのか?」
「実は背中が性感帯ですわ」
「マジか、俄然やる気になった」
「いや、本当にどういう神経してんですの……」
「俺は本能……もといエロ、じゃなかった、性欲に忠実なんだよ」
「言い直したのに悪化している感すらありますわね」
そう言いながらも背中を任せる辺り、コイツも欲に忠実なのではなかろうか。
「ちなみにユウキ、性感帯ってのは嘘ですわよ?」
「え、そうなのか」
「エロゲじゃあるまいし、気持ちいいところを教えてくれる女なんて嫁かセフレくらいですわ」
「お前は俺の嫁では?」
「…………そういやそうですわね?」
コイツ、もうちょっと考えて発言しろよ。
「じゃあ、まあ。嘘吐いたお詫びに本当の事を教えてあげますわ」
「なんだ、規制入らない程度の発言にしてくれよ」
「わたくしはユウキに触れられるとそれだけで幸せですわ」
「急にド直球にデレるのも止めてくれ……」
大体、それだと気持ちが良いとかとは別じゃないか。いや、オブラートに包んだ言い方なのか?
「はぁ、イチャ付いてないで洗ってくれない?」
「あ。す、すまん」
シュエリアと話してて、背中を流すのを忘れていた。
その所為でアシェに溜息吐かれてしまった。
「それで、俺ら何で風呂に居るんだっけ」
「混浴するため……と言うとシオンっぽいから、そうですわね、ほら、スパと言えばわたくし、マッサージを受けるべきだと思いますわ」
「と言えばなのかは知らんが、そうか。それで先に綺麗にしておこうと」
「まあ、わたくしいつだって綺麗だけれど。濡れた後の体っていつにもまして美しいでしょう」
「凄まじい自信家だなお前。この場合の綺麗にってのは、汚れを落とすとかそういう意味だ」
「汚れ一つない美人を取って何を言ってますの」
「処女じゃないのに」
「直球のセクハラですわね……アイネー! ユウキに浴場で欲情されましたわー!!」
「お前なんてこと叫びやがる!!」
そんなことを言って、アイネの俺に対する愛情が少しでも歪んだらどうするんだ。
そう心配しながら、恐る恐る、アイネの方を見た。
「そんにゃときはこの猫だか妹だか曖昧にゃアイネっ、にゃらぬ愛妹にゃアイネで発散したらいいと思いまふっ!!」
「アイネのテンションが妙に高い?!」
いや、正直ここ最近のアイネを見ていると、もうこういう発言をしてきてもおかしくない感じはしているんだけど、どちらかと言うと声色がご機嫌な感じとか、やたらにゃにゃにゃ言ってる辺りとか、妙な言い回しにハイテンションを感じた。
というか、何だろう、アイネと洗いっこしてたはずのトモリさんと一緒に湯船に浸かりながら、トモリさんが手にしている瓶は。
そしてアイネが持っているあのおちょこは。
「トモリさん、飲ませたんですか」
「舐めさせ~?」
「ニュアンスの問題じゃねぇし!」
トモリさん相手だと言うのについ乱暴にツッコんでしまったが、いや、風呂場で酒って……別にいいけども、酒に弱いアイネには駄目だ。
「あー、もう、仕方ないわね、アイネに酔い覚まし作ってあげるから、アンタ上げてきなさいよ」
「え、おう」
俺はてっきり、さっきみたいにさっさと体を洗えと言われるとばかり思ったが、そうでは無かった。
さっきのはシュエリアと二人で仲良くしてたからいけなかったのだろうか?
「アイネ、とりあえず風呂あがれ。後、酔いも醒まそうな」
「ふにゃ……兄さまも目を……覚ましてくださいっ……義妹なんて萌えて結婚できるただの……異性ですっ……むにゃ」
「いや寝るなよ。っていうか言動が義姉さんみたいになってるからな?」
確かあの人は結婚もできる萌えるお姉ちゃんとか言ってたか。
流石は義理の義理とはいえ姉妹と言うべきか? 義姉さんからの悪影響な気がするが。
「アシェ、薬くれ。俺はアイネと外で待ってるよ」
「そう。まあ私もユウキと一緒に行くけどね」
「良いのか? まだ体洗っただけだろ?」
「いいのよ。ユウキと一緒に居たいの」
「え、どうしたアシェ。お前も酔ってるのか」
「まあ、雰囲気には酔ってるわね」
「俺は自分に酔ってるのかと聞いたんだが」
「ぶっ転がすわよホントに」
アシェの殺気の籠った眼と蹴りの構えを見て「あ、コイツ俺を石にして蹴り入れてぶっ転がす気なんだ」と思って即座に謝った。
「はぁ……まったく。いいから出るわよ。シオンが覗いてそうだし、気味悪いわ」
「あー、なるほど」
確かに、そうだった。あの人が覗いてるかも知れないのだった。
「じゃあシュエリア、俺ら外で待ってるからな」
「いやいやユウキ、それじゃあ混浴の意味全く無いですわよ。なんですの、こういう時って普通もっとエロハプニング起きる物じゃないんですの?」
「そんなものは起きないし、義姉さんが何故か居ないと言う伏線も回収しねぇよ」
「弟に冷遇される義姉……哀れですわね、シオン」
あの義姉が哀れなのは無視されることではない。あんな阿保に育ってしまったことだ。
「まいいですわ。わたくしも一緒に行きますわ。流石にトモリと二人っきりって言うのもね」
「お酒は何処でも飲めますからね」
「トモリさんすげぇ飲みますね」
よく見ると手に持っている瓶が二本になっている。なんでこの短時間で一本空いちゃうんだよ。
「日本酒って甘い水みたいでつい飲み過ぎちゃいます」
「それは褒めてるのか貶してるのか……」
「飲みやすくて好きですよ? 度数が後七十くらい欲しいですが」
「トモリさんは酒では無くてアルコール摂取したいだけなのでは」
しかしまあ、この人凄まじい量飲む割に酔いが回るのは速いよな。いつも割とすぐにトモリ節消えるし。
「とりあえず、上がりましょう」
「そうしましょう」
とりあえずアイネの事もあるし、さっさと上がりたいのだが、そうだ、アイネを拭いたり着替えさせたりしないといけないのだ。
「トモリさん、アイネを頼んでもいいですか?」
「えぇ、任せてください。仕上げます」
「……よろしくお願いします」
何かこう、頼んではいけない相手に頼んだ感じがしたが、いいか。
とりあえず、俺は俺で着替えて、何処かゆっくり出来る場所でも探そうと思う。
「さて、それでゆっくりアイネを介抱できる場所を……と思ったんだが、シュエリア、お前何してんの」
「え、アイネをゆっくりさせるんでしょう?」
俺が見たとき、シュエリアは謎の……というか、見るからにアレな、ピンクのドアの前に立っていた。
「それで何をする気だ」
「アイネを部屋に送ってあげようかと思って。それならほら、寝かせといても安心でしょう?」
「まあ、そうだが……起きたとき俺らがいなかったら嫌だろ?」
「ふうむ。そうですわね。せっかくどこ〇もドア作ったのに」
「本来ポケットから出す物を無造作に作るなよ」
アシェの能力も結構なチートだが、コイツに至ってはチートコードの塊と言うか、もはやプログラミングする側感すらある。
世界を好きにできるって卑怯とか言うレベルではない。まあ、使い道が非常に雑と言うか、ロクでもないんだけど。
「というか、そういう事はするけど、アイネを直接治したりはしないんだな」
俺はシュエリアと一緒に更衣室を出て、それから外の廊下で長椅子に腰掛けて他の連中を待った。
「して欲しいんですの?」
「いや、全然」
別に今のはアイネを治して欲しくて言ったのではない。ただの興味本位かもしれない。
「酔ったり、倒れたり、寝込んだり……そういうのも経験って言うか思い出ですわ。後で思い返した時に、何かあってもわたくしが魔法で何とでもしてしまった思い出より、あるがまま笑って泣いて苦しんで喜んだ思い出の方が価値がある気がするでしょう、それだけですわ」
「お前そんなこと考えてんのか。その割には結構下らない理由で魔法使うよな」
「まあ、今のはなんだかそれっぽい良いこと言ってる風なだけで、ぶっちゃければアイネを治すより診ている方が面白そうってだけですわね」
「人の妹が酔い潰れてるの楽しまないでくれないか」
「だからほら、思い返してみたらいい思い出、ですわ。今面白いんじゃなく、後で、ですわ」
「そんなもんか?」
「そんなもんですわ」
まあ、別にいいけどな。確かにあの時はどうだった、あの時はこうだった、なんて話は楽しい思い出話になる。
そこを行くと結局魔法で何でも解決してたら面白みがないのかもしれない。特に何でもできてしまう魔法を使えるだけに、余計にそう思える。
まあ、そういう意味で言えば下らない理由で魔法を使うのは何というか、一種のボケで、別に魔法で何かをどうこうする目的では無いのか。
「それにしても、トモリとアイネ、遅いですわね」
「そうだな」
「そうね」
「そだね」
俺とシュエリアの会話に、今、二人ほど侵入してきた奴がいた気がする。
「アシェと義姉さん居たのか」
「私は今出て来たのよ」
「お姉ちゃんは隣のお風呂から覗いてて、ゆう君が出て行ったからそれからずっとゆう君をここで待ってたよ」
「とりあえず覗くな。そして何で待ってたのにさっきまでいなかったんだよ」
「天井から見てたから」
「忍者かアンタは」
「あはははは」
「笑うな」
この義姉はなんでこう、妙な潜伏スキルが高いんだ。
その才能は合法な分野でのみ発揮して欲しい。
「それで、アイちゃんとトモちゃんは?」
「アイネならとりあえず薬ぶっかけたから酔いは醒めたんじゃないかしら」
「そうか」
よく考えたらシュエリアが楽しい思い出の為に自重(?)してもアシェが能力で治してたらあんまり意味ない気がするな。
「まあ、市販されてるような薬だけどね」
「市販品にぶっかけて酔いを醒ます薬なんてあったか?」
「水ぶっかけとけば治るでしょ」
「すげぇ事するじゃん」
いやまあ、軽く酔ってる相手にならそれでもよさそうだけど、流石に酔い潰れてるのに効くのか?
「冗談よ。まあ冷水みたいに冷たいのは本当だけど、ちゃんと市販薬レベルの効能にしてあるってだけよ」
「なんでまたそんなことを」
「あのね、強すぎる薬ばっかり使うと弱い薬とか効き難くなることってあるのよ。だからあんなことで一々万能薬とか使うのは良くないの」
「でもお前酔ったシュエリアにはぶっ掛けただろ」
「良いのよシュエリアは、そもそもコイツ薬どころかあらゆる状態異常効かないんだし」
「それもそうだな」
確かにそうかもしれん。ならいいか。
「それじゃあどうするか。トモリさんがアイネ連れてきたらアイネの介抱は……」
「お姉ちゃんがするよ。覗きしてた対価……もといお詫びってことで」
「先に対価という言葉が出てくる辺り詫びる気は無さそうだな」
しかしまあ、義姉さんが見ていてくれるのなら、安心か。
流石に義姉さんもアイネに変な事はしないだろう。
「お待た~せしまし~た~」
「なんでか酔いが醒めてる」
間延びした口調で出て来たトモリさんを見て、アシェが治したんだろうかと思った。
「いえ~ゆっ君の~着替え~」
「俺の着替え?」
「を~見ていた~アシェ~さん~、が~気持ち~悪かったので~冷めました~」
「アシェはスゴイな。魔王の酔いが醒めるどころか冷めるくらいキモイなんて」
「私そんなだったの?!」
いや、まあ実際。コイツの俺を、もとい俺の筋肉を見ているときの顔とテンションは結構気色悪い。
「それでアイネは?」
「ここに~」
そう言って背を向けたトモリさんの背中にアイネは居た。
「なんで半裸なんですか」
「完成~度~?」
「何のですか」
「サ~ビ~ス~?」
「トモリさんのサービスだったら今日ここで終われたんですけどね」
「人生終わらせますわよ変態」
なんかシュエリアに怒られてしまった。いやでも、妹の半裸を見たいって言うのは問題ではないだろうか。
「それよりさっさと行きますわよ」
「ん、そうだな。義姉さん後は任せてもいいか」
「うん、問題ないよ~。二人はセッ……マッサージだっけ」
「アンタ今恐ろしい言い間違えしそうになったな?」
「なってないよ。お姉ちゃんは言い間違えそうになったんじゃなくて表現を間違えそうになっただけだよ」
「質悪いな!!」
マッサージをセッ〇スと表現しようとするとかどういう事だ。
「普通にマッサージだよ、リラクゼーションだよ」
「リフレとセ〇レって似てるよね。マッサージとセッ〇スも」
「どんどんボケ量産すんなよ! 先に行き難いだろうが!」
「え、先にイき――」
「よーし無視して行こうか!!」
この義姉は構えば構うだけボケるからもうスルーしないと駄目だ。
なんでこんな義姉になったのだろうか……。
「それで、マッサージってどこでするのよ」
「うん? あー、義姉さん居ない場合どうすればいいんだろうな」
そう言えばここは義姉さんが通してくれた裏口だ。どうやって表に出ればいいのか。
「マッサージなら右手側の通路から道なりに行けばすぐ出れるよー」
「そうか、なら行ってくるから、義姉さんはアイネを頼む」
それだけ言って俺達は義姉さんに言われた通りの道を行って、マッサージを受けられる場所にたどり着いた。
「それで、マッサージって男女別だよな」
「どうなのかしら。そこんとこどうですの六々」
「いえいえ、同じで大丈夫ですよ。こちらもシオンさんが用意した結城家特別仕様ですから」
シュエリアの言葉に一瞬驚きつつも、そこに居た見慣れた……と言うにはそこまで登場していない天使を見て、何故ここに? と思った。
「六々ちゃんはどうしてここに?」
「さっきシオンさんに呼ばれたんです。リアちゃんを癒してあげてーって」
「義姉さんにか、なるほど」
そう言えばこの子は義姉さんのお気に入りだったな。
「あ、人数は大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。他にもスタッフを呼んでありますから」
そんなわけで六々ちゃんに案内して貰って、男女関係なく全員同じ部屋で横並びに受けることになった。
いや、正確にはベッドは縦横二つずつなので、向かい合っている相手がいる状態ではあるんだが。
ちなみに俺の向かいはトモリさんで横がシュエリア。シュエリアの向かいでトモリさんの隣はアシェだ。
「そしてサラッとリーシェが俺担当なのか」
「そうだよ結城君。覚えててくれたんだ! 嬉しい!」
うーん、なんて癒されない、面倒な子が担当についてしまったんだ。
というか、今更ながら六々ちゃんはまあいいとしても、この子にマッサージなんてできるのだろうか。
「リーシェはここで働いてるのか?」
「ううん。私はシオンさんが出してるリラクゼーションサロンでマッサージ師をやってるの!」
「え、すげぇ」
この子頭お花畑で年中花を愛でてそうな子なのに。
「凄いでしょう! なんならシオンさんに任せられてるお店でも一番の腕利きなんだから!」
「え、凄すぎねぇ?」
今サラッと当たり前のように「任せられてるお店」とか言ってたけど、それってこの子がとても出来る子ってことなのでは。
「何か楽しみになって来た……」
「ふふっ。いっぱい楽しんでね!」
不覚にも、リーシェに癒されてしまいそうな気がする。
「それじゃ、はっじめるよー!」
そう言ってリーシェがマッサージを始めようとした瞬間、妙な声が聞こえた。
「あんっ」
「んあっ」
「ふぁあぁ……」
「…………」
なんか三方向から喘ぎ声が聞こえるんですが……なんすかこれ。
「シュエリアちゃん気持ちよさそう! 私も負けられないねっ!」
「……ふむ」
恐らくなんだが、最初の声はアシェ、次がシュエリア、最後がトモリさんだったのだが……ちょっと気になって前でうつ伏せになっているトモリさんを見ると、随分とろとろの気持ちよさそうな顔でマッサージを受けてらっしゃった。
次にそのまま少し視線を右にしてアシェを見るとなんか口元が引き締まって表情がプルプルしている。気持ちいのが顔に出ないようにしている感じだった。なんだろう、逆にいやらしさを感じる。
で、最後に真横のシュエリア。こっちはどうやらくすぐったいのを我慢している感じだった。アシェと同じく我慢している顔だがそれは必至な感じであり、いやらしさとか全然ない。むしろちょっと面白い。背中が弱点なのはマジだったのだろうか。
「これは何というか、不安だな」
「え? どーして??」
俺のつぶやきにリーシェが反応したが、これは別にマッサージの質に不安があって言ったわけではない。
「すまん、違うんだ。気持ちよくて俺まで変な声出たら嫌だなと思っただけで」
「大丈夫、聞かなかったことにするよ! 録音もしない!」
「そういう事じゃないんだよなぁ!」
単純に恥ずかしいのだ。って言うか録音ってなんだ。
「むしろ録音することあるの?」
「いつもはお店で記録残してるの! もちろんお客さんに許可は貰ってるよ? 口実は勉強の資料とか、広告に使いたいとかだけど……私、人の幸せがとっても好きで。だからいつもは録画したり録音したりしてるの!」
「妙な癖のある子だった……」
思いの外リーシェはお花畑なだけじゃない子だったようだ。
流石はシュエリアやアシェと同年代と言ったところか、変な奴しかいねぇな。
「さあ、いっくよー!」
という訳で今度こそ始まったマッサージだったが。
これがビックリ、非常に心地いい。
体に塗られたオイルの滑る感触、程よい力加減で揉み解される快感、そしてオイルかリーシェからか漂うフローラルな香り。
どれをとっても心地よく癒される。
そして何より、思ったより変な声は出なかった。
いや、気持ちいいが、あんな声は出ない。
「貴様ら、ワザとやっているな」
「ばれ~ました~」
「チッ、サービスくらい受けときなさいよね」
そう言ってトモリさんとアシェは変な声を出すのを止めた。
しかし。
「ふぁっ……はっ……っ……うぅ……」
「お前はマジだったな……」
シュエリアだけは本当に変な声が出続けていた。
「いやまあ、気持ち良いからな……つい息を吐いてしまうのも分かるけどなぁ……」
しかしまあ、多少力や体重を掛けられてると押し出されるように声が漏れるが、何というか、空気漏れみたいなもんだろう。変な声は出ない。
「そして何よりこの、トモリさんと薄着うつ伏せで向かい合うと言うのが何とも」
前を見ればうつ伏せで圧倒的に大きな胸が変形し、力の入れ具合で上下に体を押し返しているのが見える。アレほどの大きさと相応の弾力があるからこその芸当だろう。
「目の保養まで出来るのは素晴らしいな」
「ユウキってクズよね」
「そういうお前は俺の体を舐めるように見るのを止めようか」
「ユウキがトモリの体を犯すように見るのを止めたらやめるわ」
「それじゃあ一生終わらないじゃないか」
「仕方ないでしょ」
「仕方ないな」
そういう事じゃあ仕方ない。お互い不可侵を貫くしかないだろう。
「あんっ……たら……阿保なんっ……ですの?」
俺とアシェが互いに互いの趣向に干渉しないと決まった時。なんだかくすぐったいのを我慢しているような声でシュエリアにツッコまれた。
「まあそう言うなシュエリア。なにもトモリさんを見ていたらシュエリアを視れないわけじゃない。同じ視界に入れればいいんだ」
「トモリのっ、胸しか見えっ、てないのにっ、ですの?」
「確かにこの焦点だと胸しか見えないな、もうちょっと引きの絵で見ないと」
「役~得~です~」
俺とアシェ、シュエリアの話を聞いたトモリさんが何故だかそんなことを言い出した。
「役得ですか……まあ、ハーレム的にはそうですね」
「いえ~スタイル~よくて~良かったな~と~?」
「見られて嬉しいんですか」
「です~」
やっぱりこの人見られたがりなのかな。
「視線を~ひとりじ~め~」
「あー……そういう」
思った以上にピュアな感情だったようだ。
てっきり見られたがりの変態淫魔お姉さんかと思ってちょっとドキドキしてたのに。
「いやあ、それにしても、マッサージって気持ちいんだなぁ」
正直トモリさんの胸が無くても十分過ぎるくらいに満足いく物だ。
これは本当に素晴らしい。
「ユウキって、気持ちいいの、好きですわよ、ね」
流石に慣れて来たのか、さっきまでよりは聞き取りやすい言葉ではあるのだが。
「言い方がヒデェな。確かに俺は好きだけどさ、リラクゼーション」
なんだかシュエリアの言い方だと快楽に溺れた人間みたいだ。
「今度は、わたくしが、してあげますわ」
「そりゃ楽しみだ」
シュエリアも力加減と言うのは上手いものだから、少なくとも痛いことはないだろう。
「という訳でユウキ、言っておくことが、あるんだけれど」
「うん? なんだ」
この流れで何か言っておくことって、何だろう。
「これ以上やると、永遠にここに入り浸りそうだから、次週からはまた、お家でごろごろに、戻りますわ」
「どんな宣言だよ」
いや、まあ、なんか作者の趣味とか的に、リラクゼーション関連は好き好んでダラダラ書き続けそうだけども。
「ってわけで、さよなら、さよなら、さよなら。ですわ」
「古いな、ほとんどの人それわからねぇぞ」
等と下らないボケにツッコミをかましつつ。
まあ、その後も俺らはたっぷり一時間マッサージを受けた後。
他にも色々施設を周り、これ全部話したら俺らの物語この施設で終わりそうだなと思うくらい、濃密な時間を堪能したのであった。
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