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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
118/266

詰まりましたわ(小話)

不定期更新です。

相変わらず内容の薄い短い話ですが少しでも楽しんで頂ければと思います。

夜の更新は別途します。

「ユウキ、詰まりましたわ」

「太っ――だぁッ」

 いつも通りの穏やかな昼下がり。シュエリアがトイレに立った後、戻って来るなりの発言に軽いジョークをかましたら軽い踵落としを喰らった。

「てめ……何しやがる……普通に痛ぇし、軽い眩暈まで……」

「太ってたらこんな足上がんないですわ」

「それが言いたかっただけか」

 ちくしょう、下手な失言するもんじゃないな。

「それで、トイレでも詰まらせたのか? だからアレほどトイレでナニを――っっっ?!」

「潰しますわよ?」

「つ……ぶし……な……」

 また軽い冗談をかましたら今度は容赦なく金的を蹴り上げられた。

 まあ本当に潰れたら即死する可能性がある激痛がするはずなので……うん?

「俺、不死じゃん……もしかして?」

「潰してないですわよ。潰れたら困る連中がいるし」

「その連中にお前は……」

「入ってないですわ」

「ですよねー」

 まあコイツ子供とか別に要らないとか言ってたしな。できたら別だろうが、居ない分には居なくていいそうだし。

「で、何が詰まったんだよ」

「トイレですわ」

「トイレ……何で詰まったんだろうな」

「ボケようとして止めた辺り、懲りたんですのね」

 また下手に冗談言って今度こそ潰されてはたまらないしな。

「普通にアレだと思いますわ」

「なんだよ」

「アシュを流したから」

「あぁなるほ…………うん?!」

 今コイツ、なんて?

「アシェを……流した?」

「あ、間違えましたわ。つい願望が……正しくはアシェが流したからですわ」

「お前の願望って……いや、それより。アシェは何を流したんだ?」

「スライムですわ」

「……よし、アシェ被告をここに連行しようか」

 ということでアシェの部屋に出向くことに。

「入るぞー」

「えっ? ちょ! あ……!」

 アシェの了解無しに入ると上からギロチンが降って来た。

 そして俺の首が飛ぶ寸前、シュエリアがそれを素手で止めた。

「お前ってそんなにガチガチだったっけ」

「助けてやったのにその言い草。やわらかユウキは死にたがりですわね。不死の余裕ってやつですの?」

「すみません、その止めたギロチンを砕いた素手でアイアンクロー決めようとするの止めてくださいお願いします」

 とりあえずシュエリアにひとしきり謝って許してもらうと、ようやく本題に入れる……と思ったのだが。

「ユウキが私の部屋に来るのって珍しいわよね」

「ん、そうだな」

 そう言われてみると、ほとんどの時間はシュエリアの部屋で暮らすのがもう日常だし、寝る時って俺の部屋で皆で寝てるから……コイツ等って自室で何してんだろう。

 部屋を見渡すと怪しい機器がちょくちょく置いてあるものの、基本的には赤と黒で彩られた結構派手なカラーリングのお嬢様部屋だった。

 余りに目良くない感じがする。目がチカチカして落ち着かない。

「ここでゆっくりって出来なくねぇか」

「ゆっくりしないもの。どうせいつもシュエリアの部屋でだらだらするし、寝るのはユウキの寝室でしょう。ここは私の趣味の研究をする部屋だからこれでいいのよ」

「ほぉ。趣味の研究ねぇ」

 なるほどなぁ。それが今回トイレを詰まらせたスライムと関係あると見た。

「とりあえずアシェ。お前今からシュエリアの部屋で裁かれるから」

「え、なんで? 私が何したってのよ」

「トイレが詰まった」

「私そんなに出してないわよ!!」

「女の子がそういうこと言うもんじゃないと思う」

「女の子にそういうこと言うユウキにだけは言われたくないと思いますわ」

 そう言ってシュエリアが俺にジト目を向ける。

 うん、まあ、そうだよな。というか、正直俺は別に女だからとかそういうのは割とどうでもいいし。まあ義姉に言われると嫌だけど、下ネタ。

「それはともかく、アシェがこの前流したスライムが詰まってるみたいですわよ」

「あっ……あれかぁ……そっかこっちのトイレだと……でもあれは……」

「おいコイツ急にぶつぶつ言い始めたぞ」

「キモイですわね」

「ちょっと失礼じゃない?! ちょっと根暗なオタク気質があるだけよ!」

「はいはい、ですわですわ」

「ちょっと! ユウキ!!」

「急にそういうキャラ付けされてもなぁ」

「私元々錬金術師なんだけど?!」

 そう言えば……そうだったっけ?

 いつも魔眼使って錬成してるイメージしかないからすっかり忘れていたが。コイツ普通に研究とかするんだな。

「魔眼使っちゃ駄目なのか?」

「使えないことだってあるから必要よ」

「ほー」

 そういうもんなのか。本人じゃないからわからんだけなんだな、多分。

「それはそれとしてお前連行な」

「チッ」

 コイツ、話逸らそうとしてたのか。

 ってことでこの阿保エルフを連れてシュエリアの部屋に移動すると、トイレを詰まらせた話がアイネから伝わったのか、トモリさんと義姉さんまでいた。

「あ、いっぱい流してトイレ詰まらせたアーちゃんだ」

「詰まらせ~た~アシェさ~ん~」

「詰まったアシェさんですっ」

「なんかどんどん私自身が詰まったみたいになってない?」

 確かにこれだとシュエリアが冗談で言った『アシェを流した』みたいになってる。

「それで、お前なんでスライムなんてトイレに流したんだよ」

 とりあえず席について、アシェに問いかける。

 ちなみにアシェの阿保は逃げられないように横でアイネとトモリさんが腕をホールドしている。

「ん、あれは洗浄用のスライムなのよ。元の世界だと下水とかに住み着いて社会的に廃棄された汚物とか廃棄物を体内で分解して生きてるような奴ね?」

「それでなんでそいつを流すんだよ」

「いやあ、なんかこの人間社会って結構ゴミとか環境汚染するような有害な廃棄物多いでしょう? スライムに食わせたら世界が長持ちするかなぁって思ってその実験を……」

 なるほど、まあ確かに、色んな物質を体内で分解するスライムは人間が処理できなくなった不要物処理には適しているかもしれんが……。

「それってスライム自体は人間にとっては安全なのか?」

「うーん、まあ一応私が作ったものだし、人を襲ったりはしないわよ。でも……」

 そこでアシェはちょっと言い難そうにした後に、口を閉ざした。

「おい、でも、なんだ?」

「え? う、うーん」

 コイツなんか、トイレが詰まる以上の事をやらかしたのか?

「あれ、成長すると分裂すんのよねぇ」

「お前……」

 それってうちのトイレから流れる下水に例のスライムが分裂して大量発生している可能性があるってことか?

「多分詰まったのって、増えすぎて行き場がないのかなぁって」

「それってさ、俺たち以外の人前に出たりしないよな? 結構な大事になるぞ」

「えぇ……? だ、大丈夫じゃない?」

 言いながらも滅茶苦茶目が泳いでるなコイツ。駄目だ。ヤバイ。

「シュエリア、そのスライムって消せるか?」

「あん? できますわよ? でも、アシェの尻ぬぐい、ねぇ……」

「シュエリアさん、トイレの話の時にその表現はどうかとっ」

「アーちゃんの下のお世話かぁ」

「ほら! 姉さままで乗って来たじゃないですかっ!」

「え、わたくしの所為ですの? これ」

 シュエリア的にはちょっと上手いこと言った程度か、何の気無しに言ったのかもしれないが義姉さんはここぞとばかりに下ネタをかました。

 うーん。話進まないな。

「で、どうだ、シュエリア」

「アシェだって千里眼あるんだからそれでスライムの位置を特定して何とかすればいいでしょう」

「無理よ、そもそも見たい場所を視れる力であって、見たい対象を視れるモノじゃないから」

「面倒ですわねぇ」

「それにあんな汚物食い直視したくないし」

「この馬鹿本当に流してやりたくなりますわね」

 確かに事の張本人なのにこれは……無いな。

「とりあえずシュエリア、場所だけ特定してくれないか? 処理はアシェにやらせよう」

「まあそのくらいなら……」

 ということでシュエリアの力でスライムの位置を特定してもらうことになったのだが、なんだかシュエリアの様子がおかしい。

「どうしたシュエリア」

「おかしいですわ。スライムがこの星には一体しかいないですわ」

「うん?」

 ってことは分裂はしてないのか。それならそいつだけ処理すれば解決する。

「でもそれならなんで詰まったんだろうな。まあいいか。場所は?」

「この付近の……下水道みたいですわね」

「なるほど、行くぞアシェ」

「えぇ?! 嫌よそんな世界の暗部みたいな場所に行くのは!」

「むしろそっちの住人のアナタが今更何を言ってんですの」

 とりあえずこの阿保は嫌がって動こうとしないのでシュエリアに転移でもしてもらうか。

「シュエリア、頼む」

「しゃあないですわねぇ……今回だけ、一緒に行ってあげますわ」

 帰りのこともあるのでありがたいのだが、シュエリアを汚い場所に行かせるのはちょっと嫌だなと思ってしまった。

 俺って意外とコイツの事を大事には思っているようだ。アシェは犯人だから仕方ないが。

「それで、ここが例の下水道か」

「暗くて見えないですわねぇ。ライト」

 俺はライトなんて持ってないと言おうと思ったが、どうやら魔法だったようだ。

 周囲が照らされて大分明るくなった辺りで、変なテカテカした物体が道を塞いでいるのが見えた。

「あれが……スライムか?」

「ですわね。あそこで道ごとうちの排水管を塞いでいるんですわ、多分」

「なるほど……?」

 確かにスライムはデカすぎて道を塞いでいた。幸い流れる下水はアイツが分解して養分にしてるから水位が上がっているとかは無いのだが。

「あんなにデカいもんなのか?」

「そんなこと無いわよ。普通はもっと小さいうちに分裂して行くんだけど……あぁ、そっか」

「うん?」

 何かアシェは思い当たることがあるようだ。やっぱ大体コイツが悪いのでは。

「元の世界では生存競争が厳しいから、一体が死んでもいいように分裂するって言うのと、後は栄養を集める為に体を増やして分裂と合体を繰り返してたのよ。でもこっちだと自分を殺す敵もいないし、栄養は元の世界より豊富な排泄物とか流れて来るから敢えて分裂する必要もなかったのね」

「それでここまでデカくなってしまったと?」

「多分ね。やっぱり実験あるのみね。この研究結果はとても面白いわ」

「よし、シュエリア、帰ろう」

「ですわね。アシェを置いて」

「え?! ちょまっ!」

 俺達が帰ろうとするとアシェに裾を掴まれた。

「んだよ」

「待って! わかる! 事の張本人がこんな面白がってたら腹立つわよね! でもここに置き去りは止めて! 泣くわよ!」

「うーん……まあ女の子をここに置き去りは確かに……」

 流石に泣かせるのはちょっと、うん、良くないよな。

「むしろやる気が出ましたわ」

「こっちはそういう奴だった!」

 俺はちょっとやり過ぎな気がしたが、シュエリアは俄然やる気になっていた。

「とりあえずアシェ、アレはお前が何とかしろ」

「えぇ……直視したくない」

「帰るか」

「待って! わかった! やるから!!」

 ったく、この阿保は本当に……。

 今更になって焦り、俺達を逃がさない様に抱き着くと、アシェはスライムを見据えた。

「えっと……どうしよう、何に変換しようかな……金?」

「いや……金とか下水に流すなよ」

「そっか、下水に流すものね。じゃあ――」

 そう言ってアシェは目の前のスライムに魔眼を発動した。

 そして――

『ごおぉおおおおおおおおおっ!!』

「うおぁあ! シュエリアっ!!」

「転移!!」

 アシェが変換したスライムが大量の小水(多分)になって俺達を襲った。

 シュエリアが転移してくれたから被ることはなかったが、しかし……。

「コイツぶっ殺しますわ!!」

「ひぇっ! 待って! だって下水だし!」

「ならそう言えですわ! なんの準備も無しにあんなことしたら危ないでしょう!!」

「凄いド正論! シュエリアなのに!」

「殺す!!」

「ひょあっ!! ユウキ助けて!!」

「え……あぁ……大丈夫だアシェ、大丈夫」

 俺は助けを求めて走って来たアシェを優しく抱きしめた。

「これなら怖くない。一瞬で終わる」

「あれぇっ?!!」

 この馬鹿はいっぺん死んで馬鹿が治るか研究した方が良いと思う。

「死ねぇえぇ!!」

「ひゃああああああ! ごめんなさいぃいいいいいいいいいいい!!」

 こうしてアシェの所為で発生したトイレ詰まり事件は解決した。

 しかしこの後俺達の話を聞いた他のメンバーとの決議により、アシェは研究をする場合は俺かシュエリアの監督下でのみ行う事になったのだった。


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