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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
114/266

雪遊びをしますわ

今回ちょい長めです

「雪遊びしますわよ!!」

「……降ってないのにか」

 いつも通りの休日、シュエリアの部屋で毛布を被りながらゲームしていると、突然ゲームを中断したシュエリアが立ち上がり、雪遊びを提案してきた。

「大丈夫、もうそろそろ積もってますわ」

「何? 雪がか?」

 なんだその、もうそろそろ積もってるって。

 そもそも今朝から雪なんて降ってなかった。そろそろ積もるも何もない。

「降らせといたから」

「……は?」

「雪、降らせといたんですわ」

「いつから」

「ユウキが今朝起きて『あー、寒い。今日は雪でも降りそうな寒さだな……まあ、この辺じゃそうそう降らないけどな』って言ったあたりからですわ」

「思い付きでやらかした感しかしないな」

「事実思い付きですわ」

「なんてはた迷惑な……」

 これで電車が運休、交通網の渋滞とかあったらコイツの所為だよな……。

 日本経済にダメージとか無いことを祈りたい。

「ってことで雪遊びしますわよ」

「まあ、そうだな」

 やってしまった物は仕方ない。

 これで遊びもしなかったらただただ無意味に迷惑行為だしな。

「そんで、何するよ」

「そうですわねぇ。雪遊びと言ったらやっぱり――」

 そこまで言って、ウンウン唸るシュエリア。

 正直何でもいいと言うか、思いついたの全部やっても良いと思うんだが。

 雪合戦、雪だるま、かまくら……他には何があるだろう。

「やっぱり、雪像ですわね?」

「……思ったよりガチ寄りなのが出て来たなぁ」

 それはご家庭でやるレベルの雪遊びと違うと思うのだが……シュエリアなら一人でも出来そうなだけに無理とも言えない。

「あら、表情から察するにあまり乗り気では無いですわね?」

「そういう時間がえらく掛かる遊びより、もっと簡単なのでもいいかとは思う」

「ふむ……じゃあ『雪山の別荘殺人事件』ごっこ?」

「急に個性出て来たな」

「割とありがちですわよ」

「設定はな。その遊びは一般的ではねぇよ」

 とは言え、なんかそれはそれで面白そうだと思ってしまったのはナイショだ。

「じゃあもう、雪合戦で良いですわ」

「そうそう、そういう普通のがいいって」

「そうなんですの? ユウキって結構勇者ですわよね」

「は?」

 何言ってんだコイツは、むしろ冒険心の無い非常に普通な結果だと思うんだが。

「まあいいですわ。じゃあいつも通り皆でやりますわよ」

「おう」

 そんなわけでいつも通りのメンバーが集まったわけだが。

「アイネも来たんですのね」

「にゃっ? そうですね、居ますねっ」

「炬燵で丸くなってるものだと思ってましたわ」

「にゃんですかっ! 猫差別ですかっ!! 猫なら皆炬燵で丸くなると思わないでくださいっ」

「え、でもアイネ俺が声かけるまで炬燵の中で丸く――」

「しーっ! 兄さま駄目ですっ、そんなことを言ったらシュエリアさんに侮られますっ」

「侮られるて……」

 別にそんなことは無いと思う。普通に可愛いだけだ。

「それに丸くなってないですっ、炬燵の中でゴロゴロしてただけですっ」

「ドヤって訂正した割に内容大して変わってないですわね」

 そう言って呆れるシュエリアを見て、むしろ今の発言の方が侮られそうだなと思った。

「そんで? 雪合戦するのよね。チームは?」

「わたくしとユウキ、シオンのチームにしますわ」

「それじゃあ私とアシェさん、トモリさんがチームですねっ」

「一応言っておくと、魔法とか異能力の使用は禁止ですわよ」

「純粋な身体能力だけで勝負か」

 その場合トモリさんとアイネ、シュエリア辺りが有利なわけだが、そこは一番強いトモリさんと一番ポンコツなアシェが組んで調整してる感じか。

「んじゃ、三十分間準備時間を与えるから、各自この線を境に自分の陣地に遮蔽物を作るなり雪玉をストックするなりすると良いですわ。ああ、これも魔法とか無しですわよ」

『了解』

 てなわけで三十分で準備を済ませ、試合開始。

「まずは作戦通り、倒しやすいアシェを狙いますわよ」

「おう」

「シュエちゃん卑劣~」

 とりあえず作戦通り、アシェを狙う事にした……のだが。

「なあ、なんかさ、気の所為かな、トモリさんが抜刀してるように、見えるんだけど」

「……してますわね」

 敵陣を見ると、先頭でトモリさんが抜刀して構えていた。

「一番後ろで雪玉作ってんのが、アシェだよな」

「ですわね」

「そんでもってトモちゃんとアーちゃんの間で雪玉構えてるのがアイちゃんだね」

「だなぁ」

 つまりこれは、トモリさんが防ぎ、アイネが攻撃し、アシェが補給するという構えなんだろうが……。

「武器はズルくないか?」

「禁止して無かったですわね」

「禁止しなくても普通使わないけどねー」

「流石の天然ですわね。今更駄目とも言いにくいですわ」

「始まってるしな」

 実際、さっきから遮蔽物越しに雪玉がぶつかってる音が滅茶苦茶している。

『ドンッ!! ガンッ!! ガガガガガッ!!』

 相当な速度でぶつけているのか、音がえげつない。当たったらかなり痛い気がする。

 抜刀しているトモリさんに、銃器でもぶっ放してるような音で雪玉を投げて来るアイネ。

さっきシュエリアに言われた気がするが、確かにこの競技をやるのは勇気ある選択だったかもしれない……。

「仕方ないから作戦を変更しますわ――」

 そう言ってシュエリアは俺達に耳打ちで作戦を伝えた。

「……そんな作戦、通用するか?」

「まあ、何とかなりますわよ」

「さいですか」

「さいですわ」

 正直無理だと思うが……まあ、いいか。

「じゃあシュエリア、時間稼ぎを頼む」

「行きますわ!」

 シュエリアが飛び出て、注意を引きながら攻撃を開始するのと同時、俺と義姉さんは自陣の比較的前の方にかまくらを作り始めた。

「ねぇゆう君。こんな頭の悪い作戦、本当に大丈夫かなぁ」

「まあ、何とかなるだろ」

 なんともならなかったらそれはそれ、楽しければいいだろう。ということで。

「さて、シュエリアの時間稼ぎはどうなってるかなと」

 一応、義姉さんが主にかまくらの制作をし、俺がシュエリアの様子を見ながら義姉さんのアシスタントという役割分担なので、チラチラとシュエリアの様子を見る。

 基本的には即興で雪玉を作っては上から放物線を描くようにアイネを狙い、トモリさんを上に動かしてからアイネ狙いで攻撃、と見せかけてアシェを狙うなど、兎に角シュエリアに注意を払う必要がある動きをし続けている。

 なんだかんだアイツも魔法無しでも結構動けるし、戦略も悪くないので普通に囮としての役割を全うしている。

「シュエリアは大丈夫そうだ。義姉さん、何か手伝う事は」

「ん、もうできるよ?」

「早いな……」

 こっちもこっちで無駄に有能な義姉だ。

 この短時間で人がゆったり入れるような結構な大きさのかまくらを完成させてしまった。

 どうやったんだ。

「とりあえずシュエリアに声かけてもいいか?」

「あ、待って。最後の切り札がまだ出来てなくて」

「切り札?」

 そんなのはシュエリアの作戦には無かった気がするが……いや、義姉さんが言うならやらせるか。

 シュエリアもまだ余裕があるし、やれることはやっといていいだろう。

「で、いつ終わる?」

「明日には……」

「よし、シュエリアー、コイツ寝返ったわー」

「あぁん?!」

「ちょっ、ゆう君! 何言ってんの?!」

「いや、下らない冗談ほざくからつい」

「ゆう君ってお姉ちゃんに対してやたら辛辣だよね……」

「すまん、ストーカーだった頃の癖でつい」

「ゆう君ついつい酷い事し過ぎじゃない……」

 等と、落胆する義姉さんだが、やることはキッチリやったようだ。

ということで冗談はさておき、作戦開始だな。

「おかえりシュエリア」

 とりあえず作戦を始めるにあたっての会議をかまくらを遮蔽物にしながら行う。

「シオンが裏切ったらしいですわね? とりあえず右ひざ下落とすだけで勘弁してやりますわよ」

「怖いよシュエちゃん! なんかアーちゃんみたいなこと言うね?!」

「大丈夫、わたくしもアシェもこういう所は同じだから」

「大丈夫な要素どこ?!」

 そう言えばシュエリアにはさっきのが冗談なのが通じてないんだったな。

 流石に作戦に支障が出るし、訂正しとこう。

「大丈夫だシュエリア、チクられてこっちに付いたから」

「一度裏切る奴は何度でも裏切りますわよ」

「待って? お姉ちゃんが裏切った前提で話さないで欲しいんだけど」

「……裏切ってないんですの?」

「半分かな」

「半分も裏切ってないよ!」

「じゃあ三割くらいですの?」

「一ミリも裏切ってないよ!!」

 義姉さんの弁明にシュエリアが胡散臭そうにしてるが……別にいいか。

「それよりシュエリア、作戦は?」

「あぁ、そうですわね」

「私の名誉より大事な作戦なんて無いよ?!」

「あーはいはい」

「ですわですわ」

「お姉ちゃん泣くよ?!」

 とりあえずさっさと作戦を開始したいから、義姉さんは適当にスルーしとこう。

「とりあえずかまくらは出来たが、問題はどうやって誘導するかだ」

「そんなの簡単ですわよ。ユウキが中に入ればいいんですわ」

「それだと俺も巻き添え食うじゃねぇか」

「アイネという戦力とユウキというお荷物。交換するには十分な条件ですわね」

「おい、お前。今更っと俺を戦力外扱いしたな?」

「わたくしがそんな、うっかり口を滑らせるわけないでしょう」

「それはつまり戦力外だと思ってるってことじゃねぇか」

 ちくしょう、実際このメンツじゃアシェと俺は割と運動は出来ない方だが、アシェよりはマシなはずだ。

「というか義姉さんが用意してた切り札ってのは何なんだ?」

「切り札? なんですのそれ」

「ふーんだ。二人には教えないもんねー」

「記憶覗くから良いですわよ別に」

「人でなしー!!」

 子供っぽいささやかな仕返しをしようとした義姉さんに、チート能力者の無慈悲な魔法が行使された。

 というか魔法は禁止だったはずだが……いいのかコレ?

「これは、使えますわね」

「記憶見たってこれは上げないけどね!」

「もう奪ったからいいですわ」

「ホントに無慈悲だね?!」

 今度は転移の魔法でも使ったのか、義姉さんが隠してたらしい何かを奪ったシュエリア。

 コイツ本当に人でなしだな。容赦ねぇわ。

「さて、これをかまくらにセットして――アイネーッ!!」

「にゃっ?」

 シュエリアはかまくらの裏から飛び出すと、アイネに語り掛けた。

「アイネ、ここにかまくらがありますわ」

「……そうですねっ?」

「入りたいでしょう?」

「そうでもないですっ」

「……あら?」

 シュエリアの作戦では、子供特有の好奇心でアイネがかまくらに入って行ったところをかまくらを崩して倒す作戦だったのだが……まあ、うん、こうなるよな。

「駄目そうだな」

「まあそりゃね、アイちゃんあの見た目だけど別にお子様じゃないし」

「そうなんだよなぁ」

 見た目は子供だが中身は大人だ。まあ、ちょっと子供っぽいところもあるのは事実だが。

「くっ……でも、これなら入りたくなるでしょう!」

「んにゃっ?」

 シュエリアは懐から義姉さんの作っていたと思われる切り札を出すと、それをかまくら内に設置した。

「そ、それはっ!」

「そう、これはシオン作『ユウキの雪像』ですわ」

「欲しいっ!」

「なら飛び込んできなさい!!」

「むむむむっ!」

 義姉さんの作った切り札。正直俺は役に立たなそうだと思ったのだが、思いの外アイネには効果抜群だったようだ。

「さあ! 来なければこれはかまくらと一緒に崩します――わっ?!」

 アイネを脅迫している最中、シュエリアの側頭部に雪玉がクリーンヒットした。

「へ?」

「油断~大敵で~すよ~」

「ば、馬鹿な……ですわ……」

 どうやら先ほどまで刀を振り回していたトモリさんが隙を見てシュエリアに雪玉を投げたようだ。

でもってやられた本人は降り積もった雪に頭から倒れ込んだ。

「今ですっ!」

 そしてアイネはその隙にかまくらから俺の雪像を奪取しようとし。

「甘い!!」

「ふみゃっ!」

 かまくらに踏み込んだ瞬間義姉さんにかまくらを崩されて雪に埋もれて行った。

「ふぅ……これで二対二だね!」

「まあ、俺とアイネの交換どころか、シュエリアとアイネの交換になってしまったわけだが」

 これだとプラスマイナスで見たら大分マイナスな気がする。

 アレでも一応こっちの主戦力だし……。

「さて~……ここからは、本気で行きますね」

「ここに来て急にやる気になるとかあの人ホントに魔王だな」

「序盤は温存してくるあたりがもうね、魔王だよね」

 という訳で魔王トモリが本気になったので、当然その後は……。

「へぶっ!」

「ぶへっ!」

 俺達は瞬殺された。

 トモリさんマジつえぇ。

「ふっ……所詮人などこの程度か……」

「急に魔王感出して来たわね」

 結果、トモリさんチームの勝利に終わった。

「ユウキってわたくしが居ないとホント駄目ですわね」

「注意を怠って真横からヘッショされた奴に言われたくねぇよ」

「そこはほら、ユウキが最愛のわたくしを庇うシーンでしょう」

「さいですか」

「さいですわ」

 むぅ、そう言われると、ちょっとだけそのシーンにならなかったことに対して悔やまれる気がしなくもない。

 もしできていたらいい見せ場になったと思う。

「それで、次は何するのよ」

「ん? あー、そうですわねぇ」

 アシェに催促されて、次に何をするか考えるシュエリアだが、さて、次は何かな。

「雪像でも作ろうかしら」

「いいわね」

「お姉ちゃん今度はおっきいゆう君作る!」

「私も作りたいですっ、兄さまをっ!」

「では~わたし~も~」

「なんでみんな乗り気なんだ……」

 そんな手間が掛かる事……よくやるな。

 主に三人程俺を作る気だし。

「じゃあ皆でユウキを作るとか面白いかも知れないですわね?」

「ふふん、私こう見えて造形とか得意なんだから」

「それ、俺はどんな気持ちで参加したらいいんだよ……」

 自分で自分の雪像作るとかナルシストか何かか俺は。

「ユウキは審査員でもいいですわよ」

「じゃあそうさせてもらうわ」

 各々が作っている所を観察するのも楽しいかも知れないし、自分で自分の雪像作るよりはマシだ。

「じゃ、そういうことで、最後にユウキに一番いいのを決めて貰って、勝者はユウキからご褒美ってことでいいですわね」

「何でそうなるんだ……別にいいけど」

 余程無理なお願いでもされなければまあ、問題は無いし、いいか。

 で、シュエリアのご褒美発言から直ぐに各々作業を開始したので俺もその様子を観察させてもらう事に。

「シュエリア、それ凍ってないか」

「ん、そうですわね。これだと氷像ですわね」

「まあ、別にいいだろうけどな。やってると凍ってく部分もあるだろうし」

「ですわねぇ」

「そしてわかってたけどお前こういうの本当に得意だよな。手先が器用過ぎる」

「もはや勝ち確ですわね」

 実際シュエリアの作品は作りかけでもかなりいい出来になるのは簡単に予想できる。

 なんならコイツといい勝負できる作品が他にあるかどうか結構怪しいレベルで。

「そう思いながら勝ったらご褒美とか言い出す辺りお前って結構ズルイよな」

「でも正直、ユウキからのご褒美とかわざわざこんな形で要求する必要ですわ」

「……確かにな」

 シュエリアの要求ならご褒美とか関係なく、大体叶える気がする。

「そういう意味ではわたくし以外の方が勝った時の恩恵は大きいですわね?」

「ま、そうなるな」

 いや、他のメンツに関してもお願いされたら断れない感あるけど。義姉さん以外。

「まあ頑張ってくれよ。楽しみにしてる」

「任せろですわ」

 てことでシュエリアはいつも通り安定の高品質が確定したので、次に行ってみよう。

「アイネは……え、っと。え、なにこれ」

「兄さまですがっ?」

「いや、でも――」

「兄さまですがっ!」

「……あ、うん」

 アイネが兄さま……俺だと言ってはばからない代物。

 身長が二メートルほどあって、八頭身、スタイルがやたらと良い何か。

 これが俺って、いやいや。

「アイネには、こう見えてるってことかな……隣に並ぶと明らかに違うけど」

「いえっ、私には等身大の兄さまが見えてますよっ」

「そういう風には見えないが……」

「いえいえっ。これは忖度した結果なのでっ」

 そう言ってドヤる妹を見て、なんか、こう、居た堪れない気持ちになって来た。

「……うーん」

 つまりこの露骨な長身、八頭身は俺の身体的コンプレックス(そんなもん特に無いが)をおもんばかっての事ということか。

 むしろ傷つくな、これ。

「あー、忖度は評価対象にならないからな?」

「雪像が評価されるより妹として評価されたいのでっ」

「どっちも評価されないから……」

「にゃんとっ?」

 俺の言葉に思いっきり動揺してるな。

 どうやらアイネは勝負より兄をカッコよく作った可愛い妹として評価されるのが狙いだったようだ。

 アイネって意外と狡猾というか、何というか……。

「まあ可愛いから良いか」

「雪像可愛いですかっ?」

「んや。アイネが」

「にゃんっ?!」

 おや、今度は真っ赤になって固まってる。ついでにアイネから発せられた熱気で思いっきり二メートルの俺が溶けてるんだが大丈夫だろうか。

「とりあえず次見てみようかな」

 アイネは固まってしまったし、次行こう次。

「で、アシェは異常なしと、次々――」

 アシェは普通に俺を作ってたので、次に行こうとすると後ろから思いきり肩を引っ張られた。

「どこ行く気よ、このすけこましたらしジゴロ」

「ここぞとばかりに暴言吐いてくるなお前。普通に制作してるから特に言うことなくてつまらないんだよ」

「シュエリアみたいな価値観で思いっきりターン飛ばすんじゃないわよ」

「はいはい。で、態々呼び止めたからには何かあるのか?」

「何も無いわね?」

「……次行っていい?」

「ユウキが粋なコメントしてくれたらいいわよ」

「いやあ、これは雪像好きにはたまらないでしょうね」

「それ某グルメリポーターが自分の口に合わない時に言う奴でしょ……」

 そう口にして睨むアシェ。

 いや、何で元ネタ知ってんだよコイツ。

「それを言うのは無粋ってやつだろ」

「粋だけにね」

「そうそう」

「ところでユウキを冷凍したら完璧な氷像になると思うんだけど」

「粋だけに、冷凍保存で活きが良いってか」

「良い感じに寒くなったから凍らせるわね」

「ごめん、次行きたいからそろそろ勘弁してくれ」

 俺が素直に白状すると、アシェも仕方ない、と納得してくれた。

「さて次は……」

 トモリさんでも見てみようかと思ったんだが……これは……どういう状況だ?

「トモリさん、これは何ですか」

「あ~ゆっく~ん~」

「どうも。で、何ですかコレ」

「ゆっくん~です~よ~?」

「……」

 いや、そうか、俺ね、俺の、うん。

「下半身から作ってるんですね」

「完成~品~ですが~?」

「…………」

 うん……まあ、そんな気はしてたんだけどさ。

「上半身はどこへ?」

「……あ~」

「あー、て」

 なんかトモリさんからそこはかとなく『そんなのもあったな』みたいな感じが漂っている気がする。

「サ~ビス~?」

「……はい?」

「ふろ~く~? ひつよ~う~ですか~?」

「あぁ……はい……」

 つまりアレですね、俺の上半身は『おまけ』だと。

「できればお願いします」

「こんじょ~で~なんとか~します~」

「根性要りますこれ?」

 俺の上半身に興味なさすぎだろこの人……俺なんだと思われてるんだろうか。

「まあ、気を取り直して、最後だな」

 最後は義姉さんだが、トモリさんより嫌な予感するんだよなぁ。

「……ふぅ、とりあえず義姉さんは不戦勝でいいかな」

「ひどっ?! 何でそうなるのかな。納得いかないよ!」

「俺もこれを俺だと納得したくねぇよ」

 その雪像は、何というか、こう。

 義姉さんそっくりの雪像の着替えを覗いている絵面だった。

「ふふんっ。題して『姉の着替えを覗く思春期の弟』だよ!」

「俺にこんな時期は無かった」

「これから来るよ」

「俺の年齢考えて言えよ……」

「まだまだやりたい盛り」

「あんたホント一回ムショにでも入ってくれよ……」

 この駄目な大人を矯正する施設が必要だと、切に思う。

「まあ確かに、エ〇ゲで発散してるから現実でやることは『今までは』なかったみたいだけどね。これからはほら、リアルお姉ちゃんとも仲良くしてこう?」

「うーん」

「なんだかんだシュエちゃんの許可も出てやることやった仲だし」

「そういうキツめな下ネタがなぁ……」

 正直シュエリアやアシェも下ネタ好きで結構ぶっこんで来るが、義姉にやられるって言うのが一番キツイ。いくら義理でも義姉は姉だ。身内の過度な下ネタ、結構キツイ。

「でもまあ、ゆう君がするしないは置いといて、完成度は高くない?」

「まあ、クオリティに関して言えば、流石ってところかな」

「でしょうでしょう!」

「シュエリアに負けず劣らずって感じで、義姉さんの多才さを遺憾なく発揮してると思う」

「でっしょう!」

「義姉さん自身の雪像も本人そっくりの造形美が良いと思う」

「……ふぇ?」

「俺が好きな首筋のシルエットが忠実に再現されてるのは評価高い」

「うおぇえおぅ?!」

「……どういう声だよ」

 今の声どっから出したんだ。どういう感情だよ。

「だ、だって、ゆう君が素直に私を褒めるって、珍しくないかな」

「いや、ストーカー辞めた辺りからはそこはかとなく褒める頻度は上がったと思うが……」

「そ、そおだっけ……? そ、そっかぁ」

 なんでこの人今更顔真っ赤にして照れてんだろう。今までさんざん阿保程くっついたりストーカーして恥ずかしい事してんのに……。

「それじゃあ全員の作業工程も見て回ったし、後は完成を待って評価だな……」

 ってなわけで俺は皆の作業を待つことに。

 数十分後。

「で、完成した皆の作品を評価するわけだが……」

 シュエリアは安定のリアリティのあるハイクオリティな作品、アイネは結局美化が進み過ぎた俺だし、アシェは普通だったのを気にしたのか何故かアシェの脚を舐めてる俺になってた。コイツは後でシめよう。

 トモリさんは一応上半身を作ってくれたようなんだが、うん。なんでバラバラに作ったんだろう。絵面が猟奇的過ぎる。ただでさえ下半身と上半身別れてるのに上半身が胴体と頭と左右の腕に分かれてるせいで完全に上からバラされてる人になってる。

 そして義姉さんは最後に見た時とあまりコンセプトも変わらずだったが、何故か他のメンツの着替え雪像も追加されて俺が全員の着替えを覗いてる絵面になってた。こっちもしばこう。

「さて、結果発表ー。優勝シュエリア、はい終わり」

「雑!! 優勝したとはいえ雑過ぎますわよ?!」

「いや、シュエリア以外が勝負にならん物を作ってるし」

「いやいや、私のは完成度高いでしょ?」

「お前の欲望の完成度がな。雪像の細部のディテールとかがシュエリアに劣ってるよ」

「お姉ちゃんこんなにハイクオリティで種類も豊富なのに?!」

「あくまで俺の雪像の評価だろ。数増やした分か知らんけどわずかにシュエリアの作品から劣ってる、後、ちょっと溶けてんぞ」

 ということで、優勝はシュエリアとなったのだが。

「シオンの作ったわたくしの雪像美しいですわね。やっぱりせっかく芸術品を作るなら元が良くないとですわね」

「それだと今回のモチーフ……俺は元が悪いということになるのでは?」

「……わたくしも皆の雪像作ってみようかしら」

「なんで露骨に目を逸らしやがったこら」

 いや別に、俺も俺自身のルックスいいとは思ってないけども?

 しかしほら、なんだ、好きな女性によく思われてないのは、な。しんどい。

「そんじゃ私も自分作ってシュエリアより美しく仕上げるわ。勝負よシュエリア!」

「元が劣ってるのに勝てたらおかしいですわよそれ」

「サラっとえげつない暴言吐きやがったわね?!」

「わたしもトモリさん作りますっ」

「では~アイにゃん~を~」

「あれ? お姉ちゃん作ってくれる人いなくない? ねぇ、ねぇ?」

「はぁー。暇だし俺も義姉さん作るか」

「ホント?! 今日のゆう君デレ期だね! あ、発情――へぶっ!」

「すまん義姉さん、先にしばいとくの忘れてた」

 こうして俺らはこの後もお互いの雪像を作ったり、かまくらを作って全員で入ってみたりと、その日一日、雪遊びを満喫したのであった。

 ちなみに、後日シュエリアから要求されたご褒美は「なんか面白いことして」という大変無茶苦茶な要求だったのでゲームをやって誤魔化すことにした。


ご読了ありがとうございました!

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