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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
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着せ替えですわ

「リ〇ちゃん人形よりわたくしの方が可愛いですわよね」

「あん? 誰が俺の嫁(二次元)より可愛いだと?」

 いつも通りの休日、いつも通り変な事を言い出したシュエリアだったが……。

 誰が、誰より可愛いってんだ。

「ちょ、聞き間違いでキレるんじゃないですわ。ユウキが大好きな嫁()の方じゃなくて、リ〇ちゃん、お人形の」

「……あぁ、アレか……まあ、アレよりはシュエリアだな」

「まあ、そこで二次嫁よりは劣っている風なのがかなり癪だけど……そういう夫を選んだ自分の責任でもあるから、今はいいですわ」

 そういってシュエリアは溜息を吐くと、立ち上がり、俺に言った。

「そこで、リ〇ちゃんより可愛いわたくしを、着せ替えていいですわよ」

「……はあ」

 なるほど、なんとなく今、コイツがやりたいことは分った気はするのだが……。

「何でも着てくれると思っていいのか?」

「良いですわよ」

「え、マジか」

 これは意外。コイツの事だから自前の衣装とかしか着てくれないとか、気に入ったのだけかと思ったのだが……。

「じゃあまずはこの修道服を」

「なんで持ってんですの……」

 シュエリアは驚いているが一般男性なら妻とのそういうプレイに備えくらいはあると思うんだ。

 え、無い? まあ、そういう趣味の人もいるよな。わかる。一緒に用意……え、しない?

「まあ、それは置いといて。早速着てもらおうか」

「いいですわよ? はよ」

「……ん?」

 はよって、それはこっちのセリフでは。

「なんですの?」

「着ないのか?」

「着ますわよ」

そうは言いつつも何故か両手を広げるだけで着ようとしないシュエリア。

「そういう素振りが見えないのだが」

「着せ替え人形ですもの」

 着せ替え人形……。

 つまり、アレか?

「着せろと」

「ですわ」

「…………」

 マジカ。

「えっと……色々触れることになるが」

「法に触れない範囲ならいいと思いますわよ? 夫婦だし」

「誰が上手いこと言えと……しかし、まあ。それじゃあ――」

「でもあんまりアレな場所に触れたら、アイネにチクるけど」

「…………」

 コイツ、なんて恐ろしいことを考えるんだ。

「アイネにそういうのは……早いと思う」

「今更何言ってんですの。大丈夫ですわよ、せいぜい同じことして欲しいってせがまれるだけですわ」

「それを大丈夫とは言わないんだよ」

 その同じことの範疇に、シュエリアにしても合法だけど、アイネにしたら非合法なアレが含まれてそうなのがもうアウトだ。

「大丈夫ですわよ。小さい子を着せ替え人形にするヤバイ成人男性が出来上がるだけですわ」

「それを大丈夫とは言わねぇんだよ!」

 そもそも、まあ合意だからギリ法には触れてないとしても、倫理感に抵触するし、アシェや義姉さん、そして地味にトモリさんの眼が怖い。

「アイネに変な事したらトモリさんに刺される」

「刺されないですわよ。刻まれるけど」

「もっとキツイやつじゃん」

 刺されても死なない体だが、刻まれたら死んだようなもんだ……それは勘弁して欲しい。

「冗談はさておき、さっさと着替えさせるといいですわよ」

「むしろそっちの方が冗談のようだけどな」

 とは言いつつ、これはこれでドキドキする、もとい興奮する、よりも楽しそうなので早速シュエリアの着ているネタTシャツに手を掛けた。

「手を上げてくれ」

「上げさせたらいいでしょう」

「……おい、上げた手を下げるな。人形なら上げっぱなしにしとけ」

「嫁を人形呼ばわりとはイケナイ夫ですわね」

「どうしろってんだ……」

 そもそもやらせてんのコイツなのに……。

「それでユウキ、下着の外し方は分ってるんですの?」

「なんで服着せるのに下着を外す必要がある」

「下着まで拘らないと下から覗いても楽しくないですわよ」

「待て、下から覗ける下着に外し方なんて無いだろ。何言ってんだお前」

「ッチ」

「おい、それは何の舌打ちだ……」

「素直に引っかかってオドオドしてくれたら面白かったのに」

「俺がそんな奴じゃないのは知ってるだろ」

「そうですわね、覗きは良くないと堂々と全裸を見に行くタイプですものね」

「そうだぞ」

「……否定しなさいよ」

  シュエリアはそう言って呆れるが、事実だし、しょうがない。

「その堂々たる様は痴漢とは程遠い紳士であると定評がある俺だ」

「いや、それ変態紳士ですわよ……」

 言って、再度呆れるシュエリア。

 しかしまあ、冗談はこれくらいにして。

「そろそろ着替えさせてもいいか」

「あ? あー、そうですわね。はい」

 なんだかんだ寄り道回り道してしまったが、シュエリアのシャツを脱がせて、そして。

「……これどうやって着るもんなんだ?」

「上から下まで繋がってるし、下も脱いでからじゃないかしら」

「そうか。んじゃ下も」

 シュエリアを立たせて、ジーパンを下す。

「で、上から着せればいいのか」

「まあ、足から入れたりはしないでしょうね」

 ということで上から被せて……着せにくいな、これ。

 脱がすのは割と楽だったが、着せるのは面倒だ。

「……よし、これで後はヘアアレンジだな」

「え、そこも弄るんですの?」

「常々お前は髪型だけ残念だと思っていたんだ」

「それだと髪型以外は全部良いみたいですわよ」

「そう言ってるだろ?」

「……あ、そう」

 なんだ、顔を赤くして、そこはかとなく不機嫌そうだな。

 褒めたら照れると思ったんだが。

 髪型気に入ってたのか……? いや、そんなことはないよな、多分。

「とっととしやがれですわ」

「ん、おう」

 さて、今回はどんな髪型にしようか……。

「とりあえずヘアピンで前髪を上げて……サイドに流した髪は三つ編みにして後ろでまとめてみるか」

「着せ替えよりそっちの方が時間掛かりますわよね……」

「いつもと違うシュエリアを見られるなら何年掛かったっていいけどな」

「そこまで来るとわたくしへの好意が一周回って狂気じみてますわね……」

「確かに。でもやっぱり見たいよ、俺は。シュエリアの可愛いとこ」

「……はいはい」

 シュエリアはそう言って、また不機嫌そうに口を結び、額にしわを寄せた。

 ……なんかしたか? 俺。

「さて、出来上がったわけだが……本当、素材が良いから滅茶苦茶可愛いな」

「それは良かったですわ。楽しいでしょう」

「そうだな。シュエリアで遊ぶのは楽しい」

「言い方……」

 しかしこうなると、修道服以外も見たい。

「巫女服……は前に見たな。ワンピースも見た……着物も……よし、これにしよう」

 そう言って選んだのは腰のあたりがきゅっと締まった服、所謂コルセットスカート。またの名を『童貞を殺す服』だ。

「ユウキ、死にたいんですの?」

「何でも着てくれるんだろ」

「そうだけれど、これ着たら、ユウキ死にますわよ」

「どういう意味だコラ」

「童貞でしょう」

「お前俺の嫁だよなぁ?!」

 なんで嫁が旦那を童貞イジリしてんだ。おかしいだろ。

「しょーがないですわねぇ。着てあげますわ、ほら、はよ」

「はいはい」

 ってことで服を着せ替えて、ついでに髪はウィッグを付けてスーパーロングなポニテにしてみた。

「なんでウィッグ持ってんですの」

「嗜みだろ」

「変態紳士のですわよねそれ……」

 なんか失礼なことを言われた気がするが……こんなの男なら誰でも持ってるはずだ。

 ……多分。

「それにしても素晴らしいな。シュエリアまじで何でも似合うな」

「そうでしょう、そうでしょう」

「ってことで次はこれを」

「……めっちゃ背中空いてますわね、このセーター」

「そうだな」

「……さっきからマトモな服が出てこないのは何なんですの」

「失礼な、どれも真っ当な服だろ」

「…………」

 なんかシュエリアから若干蔑みの眼を向けられている気がするが……気にしたら駄目だ。

「さ、抵抗せずに、さ」

「分かっていたけれど、ユウキって本当に欲望に忠実ですわね」

 と、そんなことを言いながらも着てくれる辺りシュエリアもまんざらでもないのか、それとも単に何でも着ると言った手前か。

「で、どうですの、感想」

「うん、背中がエロい、脇もセクシーだし、胸なんて横から手が入る」

「ぶん殴りますわよ」

「すんません、似合ってます」

「これが似合ってるのもそれはそれだけれども……」

 じゃあなんて言えば正解だったんだ。

「他に無いんですの、もっとこう、普通な」

「んー、そうだな、じゃあ、これかな」

 そう言って俺はパーカーを取り出した。

「普通ですわね」

「だろ」

 まあ、これだけじゃ終わらないんだけど。

「後これ」

「帽子ですわね。そしてこれを組み合わせて……めっちゃ普通ですわね」

「そうだな、そこはかとなく、ボーイッシュ感はあるが」

「普通ですわね」

「普通だな」

「つまんないですわ?」

「そうなるだろうな」

「分かってんならやるんじゃねぇですわ」

「理不尽かよ……」

 普通のが良いって言ったからやったのにな。

「じゃあ、これはどうだろう」

「ワイシャツですわね」

「で、下は穿かないで、髪は降ろす」

「……裸ワイシャツ?」

 シュエリアがまた呆れ顔になる。別にイヤラシイ意味はないんだけど。そう見えても仕方ない。

「そう、これが所謂『カノシャツ』だな」

「あー……ん? 今なんて」

「カノシャツ」

「彼シャツではなく」

「だってそれトモリさんのだし」

 俺がそういうと、シュエリアはシャツの胸のあたりを掴んだ。

「どおりで胸のあたりがぶっかぶかだと思いましたわ……っていうかトモリってシャツ着るんですの?!」

「寝るときは割と着てるぞ」

「み、見てなかった……」

 まあコイツ、いつも誰より先にベッドに入ってるし、入ったら入ったですぐ寝るし。

更にトモリさんとは反対側で寝てるしな……。その上トモリさんは遅寝早起きだから俺ですらあんまりトモリさんの寝間着は見ないし。

「というかなんでユウキのじゃないんですの」

「そんなことして次からそのシャツ着たらなんか変な気分になったら困るだろ」

「むしろその発言に困りますわ」

 とはいう物の、嫌では無いのか、まんざらでもなさそうだが。

「他には、何か無いんですの?」

「うーん、正直あり過ぎて困るんだよなぁ」

「そんなにあるんですの……」

「正直世界中のあらゆる服を着せてみたい」

「リ〇ちゃんだってそこまで服着てないですわよ……」

「まあ、そうだろうけど」

 でもなあ、見たいもんは見たいのだから仕方ない。

「でもユウキ、どっちにしろあまり時間はないですわ」

「……なんで」

「これ以上やってると、本当にアイネとかアシェに見つかって、それこそエンドレスに着せ替えることになりますわよ」

「…………」

 それは多分、俺がやりたくて、ではなく。俺に着せ替えて欲しくて、だろうな。

「じゃあシュエリア、最後にこれを」

「……?」

 俺は言って、シュエリアに最後の服を渡した。

「……これは?」

「シュエリアには見えない服だよ」

「よし、殺しますわ」

「なんで?!」

 何故か急にシュエリアの怒りが頂点に達してしまった。

「アレですわよね? 裸の王様の『馬鹿には見えない服』でしょう? そんなんやるわけないでしょう!」

「でもほら、美術や芸術的な意味でもシュエリアの裸体は間違いなく美しいぞ!」

「それとファッションは別ですわ!」

「分かった、じゃあ譲歩して絆創膏でいいから!」

「だから服にしろって言ってんですわ!!」

 こうして俺はシュエリアにしこたま怒られることになったのだが。

 後日、シュエリアがコルセットスカートの下に絆創膏をして「どう?」と訊いて来たのを見て『コイツやっぱり俺の嫁だなぁ』と、思ったのだった。


ご読了ありがとうございました。

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次回更新は来週金曜日18:00を予定しております。


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