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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
110/266

新婚風に、ですわ

今回少し長めになってしまいました。

「あらユウキ、ご飯にする? お風呂にする? それとも――げ・え・む?」

「じゃあゲームで」

 いつも通りの休日に、買い物帰りでシュエリアの部屋に戻ると、よくあるような言い回しを無駄に引用して迎えられた。

「話が早くて助かりますわね?」

「そうだろう、そうだろう」

 という感じで、さっさとゲームをすることになる……と思ったのだが。

「ところで何でゲームを選んだんですの?」

「……は? 逆に聞くけど、お前、飯作ったのか」

「作るわけないでしょう」

 当たり前だろうと言わんばかりに、呆れ顔で答えるシュエリアに俺の方が呆れる。

「……風呂の準備してくれてんの?」

「なんでわたくしがそんなことするんですの?」

 今度は理解不能という表情、このやろう。

「やっぱり選択肢ゲームしかねぇじゃねぇか」

 これが分かってたからゲームを選んだんだが、何で態々訊いてくるんだろうか。

「何がしたいんだよ、お前」

「新婚ごっこですわね」

「新婚なのに」

「ですわ」

 新婚ごっこ……なぁ。

「ならちゃんとやれよ」

「ごっこなのに実際にやってどうすんですの」

「じゃあゲームも無しだな」

「……ちゃんとやりますわ」

「じゃあやり直しで」

 という事で俺はシュエリアの部屋を出てやり直すことになった。

「ただいま」

「ゲームしますわよ!」

「……選択肢が消えた」

 いやまあ、俺達の新婚生活としては、とても自然なので、間違っちゃいないのだが。

 そこはせっかくのごっこ遊びなのだからお約束的なパターンに沿って欲しかった。

「むしろお風呂や食事がいいんですの?」

「まあ、うん」

「じゃあ好きなの選んでいいですわよ」

「お? おぉ。じゃあ、飯で」

「そう」

 言って、ソファにゴロンと横になるシュエリア。どういう事だ。

「……あの?」

「なんですの?」

 いや、なんですのって、いや。

「あの、飯」

「えぇ、ご飯にするのでしょう?」

「そうだが、なんでお前ソファに横になってんの?」

「? ご飯にするんでしょう?」

「…………あぁ」

 これは、そうか、そういう。

「俺に作れと」

「それ以外に何があるんですの?」

 さも当然と言わんばかりのシュエリアを見て、妙に納得する自分もいる一方、とりあえず抗議してみようと言う自分もいたので、追及してみる。

「可愛い嫁が作った手料理というパターンは無いのか?」

「わたくしが作るなんて一度も言ってないですわ」

「ま、まあ、そうだが」

 そうなんだけど、そういう問題か、これ。

「ごっこだからさ、いつもと違くてもいいんじゃないか?」

「ユウキ、ごっこ遊びと言うのはね、イマジナリーではなく、リアリティの遊びですわ」

「……はあ」

 そう言ってドヤるシュエリアだが……心底どうでもいい。

「オリジナリティはあってもいいけれど、基本的には現実的な遊びですのよ」

「それではどこぞの幼稚園のお友達がやるおままごとでは」

「ケータイしながら料理する母親しかり『ああ。うん。おう』しか言わない父親しかりですわ」

「凄く偏ったイメージだな……」

「つまり、わたくしの家庭のイメージは、こうですわ」

「イメージより理想に近いと思うけど」

 要するにコイツの言う家庭は俺が何でもやってくれるイメージ、それが理想ってことだろ……?

「ごっこなのにいつもと変わらないのでは、いっそやる意味すら感じないのだが」

「意味のあることだけをするのが日常ではないですわ」

「言ってること無茶苦茶だぞお前……」

 それ本当になんでやるんだ? 普通にいつも通りなのと何が違うんだ。

 意味が無いのはいつものことだが、微妙に釈然としない。

「という事でユウキ、ちょっとこっちに」

 そう言って起き上がり、隣に座るよう促すシュエリア。

「ん? 飯は……いいか。シュエリアが作ってくれるわけでもないなら、そういう時間でもないし……っと、これでどうすんだ」

「夫婦が隣り合ったらすることなんてそう多くないですわ」

「そうか?」

 まあ、わざわざ隣に座ってやることなんてそんなには無いか?

 いやしかし、それにしたって絞り込める量でもない気がするが。

「という訳でユウキ」

「ん?」

「ジ〇ンガしますわよ」

「どういう訳でそうなった」

 俺の思う夫婦が隣り合って座って発生するイベントの候補に入ってなかったんですが。

「目と目があったらポ〇モンバトルくらい常識ですわよ?」

「非常識じゃねぇか。現実にそんな風習は無い」

「じゃあデ〇エルしますわ」

「何でそうなった……」

 横に並んでデュエルはしないだろう。

「デ〇エリスト同士、意見が食い違ったらデ〇エルで決着をつける。常識ですわ」

「この世界の常識にしてくれねぇか?」

「ユウキがいつも通りのリアルだとつまらないと言ったのでしょう」

「いっそ一周回っていつも通りだよ」

 コイツが変な事ばかり言うのは平常運転なので、これと言っていつもとの違いを感じられなかった。

 いつの間にか非常識じゃ満足できないようになってるのかもしれん。

「じゃあもうジ〇ンガでいいでしょう?」

「新婚だからもうちょっと甘いのが良いと思う」

「ちょっと待って、今『芸人 スピ〇ドワゴン』でググるから」

「そっちの甘いのは要らねぇよ」

 いや、あながち間違っちゃいないのだが、アレ男の方が甘いセリフ言う奴じゃん。恥ずかしい。死んでも嫌だわ。死なないけど。

「じゃあ何ならいいんですの?」

「……シュエリアに甘えたい」

「きも」

 そう言って顔を引きつらせて身を引くシュエリア。

「シンプルに傷つくから止めてくれる? もうちょっとさ、ほら、優しさをもって発言しようぜ?」

「とても不愉快な発言ですわね」

「なんだろう、本当にほんの少しだけ緩和された感じはあるけど、普通につらい」

「えー、ま↑じ↓退くんですけどー、ないわー(笑)」

「うん、凄くチャラい所為か案外ダメージの緩和が大きいけど、キャラ崩壊してるから」

「……めんどくさいですわ」

「いつものキャラかつシンプルだし面倒って理由のおかげで俺へのダメージは少ないな。で、結局やってくれないのか」

「一通りツッコませたし、アシェとかに見せたら悔しがって面白そうだから甘やかしてあげてもいいですわよ」

「何か動機がアレだけど、まあいいや」

 という事で、甘やかしてもらうことになったのだが。

「じゃあとりあえずユウキは『仕事もしないで日がな一日ゴロゴロして遊んで、たまに話す言葉は「飯」のヒモ男』という設定で」

「甘やかし方の方向性が違う!!」

「じゃあ『大学浪人後、バイトの面接にも数度落ちて徐々に引き籠るようになって行き、たまに顔を合わせるのはトイレとご飯を取りに顔を出した時でコミュニケーションは基本床ドンの息子』で」

「長いしそれも違うだろ……」

「じゃあユウキは猫」

「急に設定雑! しかも、それはそれで違くないか?!」

「んじゃあ何なら良いんですの? 我儘ですわねぇ、あ、ココからもう甘えてるんですの?」

「違うわ! 普通に新婚の妻が夫を甘やかして癒す設定で!」

 俺がそう要求すると、シュエリアは「えー」とめんどくさそうに顔を顰めた。

「そういうのはシオンとかの方が得意ですわよ」

「そうだろうけども!」

 確かに義姉さんなら上手かろうけども!

「俺はシュエリアにして欲しいんだよ!」

「えっ…………そういうの……はぁ。いいですわよ、はいはい」

 と、何故か急に顔を赤くしてやる気になってくれたシュエリアだったが、流石にそのままやってくれると言う事では無かったようだ。

 しかし、なんでここで照れてんだろうコイツ。

「とりあえず、わたくしだけ、リアルにそういう事すると方々から苦情が来そうだから、全員集めますわね」

「え? おう」

 てなわけで三十分後、いつものメンバーが集まった。

「ユウキと新婚ごっこするって聞いたんだけど、本当よね? まさか私、猫役とかじゃないわよね? 嫌だからね、そんなの」

「そんなのとは何ですかっ! 猫の何が悪いって言うんですかっ!!」

「わた~しは愛~人~役~?」

「トモちゃん地味に自分のキャラわかってるみたいだけど、言ってて悲しくならない?」

「愛され~キャラ~なので~」

「そ、そう……かな?」

 何だか集まって早々、皆乗り気だった。なんでだ。

「この年でおままごととかさ、嫌じゃないのか?」

 俺がそう尋ねると、アシェが率先して答えた。

「新婚生活とか言うおままごとの本番やってる奴が何言ってんのよ」

「言い方ひでぇな……」

「まあユウキの場合新婚の妻以外に女が四人もいる爛れた本番なわけだけど」

「いや、言い方。それだとお前も爛れてるぞ」

「なんだか悪っぽくて素敵よね? それに割と普通よ。母様も結構男囲ってたし」

「なんでそういう所の価値観だけ普通じゃないんだお前」

 いつもはマトモな方に入るアシェだが、こういう妙なところに育ちが垣間見える。

「ちなみに私は兄さまのお嫁さん役をやれるなら大歓迎ですっ!」

「わたし~も~」

「お姉ちゃんもゆう君とラブラブしていいって聞いたよ?」

「オイ待て、どういうことだ」

 これだとその、あれ?

「つまり、全員嫁の設定ですわね。シオンの働き次第で将来なるかもしれない家庭環境の練習みたいなもんですわ」

「マジか……」

 なんかそれ、凄く疲れそうだな……いや、まあ、そういう事になるのは覚悟の上でこういう関係を選んだんだが。

「て訳で、スタートですわ」

「はいはい」

 とりあえず俺が帰宅したところから始めるらしいので、一旦部屋を出て、入るところからスタートだ。

「ただいまー」

 そう言いながら部屋に入ると、まあ知ってたけど、嫁全員が出迎えてくれた。

「おかえりユウキ、早速だけれど、わたくしにする?」

「それとも私ですかっ?」

「私でもいいのよ?」

「お姉ちゃんが良いよね!」

「わたし~でも~?」

「どうしてこうなった」

 家に帰るなり嫁全員にアレを迫られるとか、どんな家庭環境だ。

「女を五人も囲えば、こうもなりますわ」

「なりますねっ」

「そりゃねえ」

「だねー」

「です~」

「しかもすげぇアウェーじゃん」

 嫁サイドが結託してるのか、俺の意見が通る気が全くしない。

「まあユウキって女の尻に敷かれる性格してるからしゃあないわよ」

「なんだろう、反論したいのに妙に納得してしまう」

 今までコイツ等のノリに流されて、合わせてやって来た所為だろうか、なんとなく、いつも最終的には彼女らの思惑に沿って行動している気がする。

 そう言う意味では尻に敷かれていると言われても……案外否定できない。

「ユウキがわたくし相手に有利だったこと何て無いですわよね」

「え、シュエリアさんは結構兄さまに負けてると思いますがっ」

「はぁ?! どこがですの!」

 アイネの言葉に若干動揺しながら突っかかるシュエリアに、確かに俺もシュエリアを負かした覚えなんて無いなと思った。

「惚れた辺りで負けてますっ」

「じゃあ全員負けてますわよね?!」

「後イチャ付いてデレる度に負けてるわね」

「ぐっ……それならユウキだってデレデレだから引き分けでしょう!」

「ゆう君いないと生きてけない辺りも負けてるよね」

「むぅ……」

「夜も~負けて~」

「わぁああああああっ!! わー! わー! もういいですわ! 負けで良いですわ!!」

 四方からの攻撃……主にトモリさんの爆弾投下でシュエリアが負けを認めた。

「はぁ……それで、結局ユウキは、どうするんですの?」

「うーん、全員と仲良くするんじゃダメなのか?」

「私はいいわよ? じゃなかったら今の生活だってしてないでしょ」

「ですですっ」

「じゃ、それで」

 ということで全員と仲良くすることになったのだが……。

「これは……どういう状況なんだ」

「膝枕ですわね」

「どちらかと言うと布団っぽいけどねー」

 そう、シュエリアと義姉さんが言うように、俺は床でシュエリアに膝枕をされつつ、首から下胴体辺りにアイネとトモリさん、腰から足先までに義姉さん、アシェに乗っかっていた。

「シュールな絵面ね」

「そだねぇ……これは、なんか違うね?」

「そう思うならやるなよ……」

 てなわけで体勢変更。

「これはこれで違くないか」

「さっきよりは良いと思うけどなぁー」

「よい~かと~」

「うーん……?」

 いいのか、これ?

 今、シュエリアに膝枕されつつも仰向けで、左側にアイネ、義姉さん、右側にアシェ、トモリさんと並んで俺の事を膝に乗せている。

「腰と足に微妙に負担が掛かっているような気がするんだが」

「じゃあ魔法で浮かしときますわ」

「お、おう……」

 そこまでして続けるか、この姿勢。

「それでここからどうするのよ」

「え? そうだな……」

 正直俺に聞かれても困る。これ思いついたのシュエリアだし。

「寝心地が正直言って良くないので、解放して欲しい」

「ぶっちゃけたましたわねぇ」

「予想は出来てたけどね」

 ならやるなよ……。

「それじゃあ私からの提案、食べさせっこしましょ」

「流石アシェ、まともだな」

「――口移しで」

「前言撤回。頭湧いてんのかお前」

 何でそんなアレなプレイを要求してくるかな。

「仕方ないわねぇ。んじゃあ箸で『あーん』でいいわよ」

「お前が言うと下ネタにしか聞こえねぇのはなんでだろうな」

「実際下の食べさせあい――った!? 何すんのよシュエリア!」

 アシェが下ネタで突き進もうとすると、シュエリアから突き(目潰し)が入った。

「この人数でそういう事するとユウキがしんどくなるから駄目ですわ」

「っつう……急に真面目な事言うわね」

「ふざけるにしてもユウキが元気じゃないとつまらないですわよ?」

「……それもそうね」

「お前らは俺をなんだと思っているんだ」

 なんか玩具感覚な気がするのは気のせいでしょうか。

「それじゃ、そうだ、手を繋ごう」

 という事で皆と手を繋ぐことになったのだが。

「シュエリア、これは違くないか」

「駄目ですの?」

「駄目って言うか……」

 皆で円陣を組んで手を前に、真ん中で皆の手を重ねる形になっていた。

「これは違うだろ」

「とは言えユウキの手は二つしかないし、全員と手は繋げないですわ」

「まあ、それはそうだが」

 とりあえず、これは違うな。

「この人数でイチャ付くの難しいな」

「そこを何とかするのが夫の甲斐性ですわねぇ」

「そりゃ結構大変な道を選んでしまったようだな」

 さて、どうしたものか。

「別に一つの事を全員でやる必要は無いでしょ」

「というと?」

「シュエリアが膝枕、私がマッサージ、トモリが添い寝、シオンが家事、アイネが猫でどうかしら」

「後半適当じゃない?!」

「そうですよっ、私はいつだって猫ですよっ」

 まあ確かに、後半の役割は雑な配分だったが、考え方は悪くない。

「じゃあシュエリアに膝枕して貰って――」

「えー、どうせなら添い寝がいいですわ」

「……トモリさん、してもらえますか?」

「はい~どう~ぞ~、ゆっくん~」

 思ったよりトモリさんがあっさり許可してくれたのでシュエリアに拒否られた分の遠回りはせずに済みそうだ。

 シュエリアにはもうちょっと尺の都合を考えて欲しい物だが。

「で、シュエリアが添い寝で……アシェがマッサージだっけ?」

「こう見えて人体にも詳しい私だから大丈夫よ。キッチリ研究済みだから」

「なんだろう、マッドな香りがするんですが」

 ヤバめな悪役錬金術師が言う人体研究って、ロクでもない気がする。

「それで……アイネは――」

「兄さまの為に歌いますっ! ふんふふんふ~んっ」

「選曲が思ったより俺好みで安心したよ」

 ここでデスメタとか歌われてもな、困るというか、雰囲気ぶっ壊れると言うか、な。

「そんで義姉さんは、どうする?」

「ゆう君の足が空いてるよね」

「うん? まあ、アシェがしてるのは主に背中付近のマッサージだし、そうだな」

「ということでゆう君の足を舐めたい」

「死んでくれ」

「ひどっ?!」

 いや、酷くない。この状況でこんなクソみたいな発言する義姉の方が余程酷い。

「絶対気持ちいいから!」

「いや純粋にその欲望が気持ち悪い……っていうか、そういう事言ってんじゃねぇんだよ。モラルか、モラルが足りてねぇのか」

「ぶーぶー、モラハラだー!」

「アンタのはセクハラだけどな!」

 この義姉本当に駄目だな。こんな義姉が居たのに俺は良くグレなかったと思う。

「んじゃあ、足つぼ押していい?」

「…………いや、うん、まあ確かに? 普通には違いないんだが……それこの状態でやんの?」

 何故この状況で足ツボチョイスしたこの人。

「頭はトモちゃんが抑え……撫でてるし、前にはシュエちゃん、後ろはアーちゃんが背中触ってるし、逃げ場もないから良いかなぁって」

「いや、逃げないけど、痛いじゃん」

「シュエちゃんはきっと喜ぶよ?」

「それ痛がる俺を見て笑ってる絵面しか想像できないんだが」

「愛の為に体を張るって素敵だね!」

「張らなくていい時にそれ言われてもな……」

 いや、まあ。どうせやることも無いし、いいけども。

「はあ。まあ、それじゃあ。お願いしようかな」

「おっけー! んじゃいっくよー!」

 という事で、義姉さんは足を持ち、足の裏に指を当て、それを思いきり押し込んだ。

 それはもう、アイネの歌声が掻き消える程の大声が出てしまう程に。

「いっっっだぁあああああああああああっ?!?!!! なんっ……づぅううううう!! なんっ、に……しやがりますの!!!」

 そう、シュエリアの足を。思いきり、押していた。

「ありゃ、これシュエちゃんの足かぁ。あはははは」

「笑うんじゃねぇですわ!! 何してくれやがってんですの?!」

「いやあ、ゆう君の足と絡み合ってたから、ほら、見分けつかなくて」

「こんっな白くてすべすべの脚と野郎の脚を間違えるとか五感死んでんですの?!」

「あはははは」

「笑うな!!」

 ケラケラ笑っていて反省の色がない義姉さんにキレるシュエリア。

 しかし、そうか、痛かったのか。シュエリアって戦闘じゃクソ強いというか、次元が違うけど一応痛覚とかあったんだな。

「いやあ、うっかりしてたよ。ごめんごめん。でもほら、アーちゃんも幸せそうだしいんじゃない?」

 そう言われて見てみると、アシェがにまにま笑っていた。

「ふふっ。シュエリアもそんな風に痛がったりするのね。ふへへ」

「ぐっ……なんて腹立つ顔してんですのコイツ」

 いつもシュエリアに振り回されて負かされてるアシェは今回のシュエリアの痛い思いが大変お気に召したようで、とても幸せそうに笑っていらっしゃった。

「人の不幸や痛みを楽しむなんて信じられませんわね……」

「それに関してはお前がいう事でもない気がするが……」

 コイツ俺が痛がったら絶対にアシェと同じ顔してたぞ。

「とりあえず、わたくしじゃなくてユウキですわよ、ユウキ」

「うんうん。それじゃ気を取り直して、えいっ」

 そう言って義姉さんは別の足を取ってツボを押した。

 まあ、しかし。

「いっだぁああああああああ!!」

「あちゃあ、今度はアーちゃんだったかぁ」

「分かっててやってるわよね?! 私の脚、別にユウキと絡んでないわよね?!」

「あはははは」

「笑ってんじゃないわよ!!」

 そしてこちらエルフもケラケラ笑う義姉さんにキレる。

 ていうか何してんだこの人。

「まあまあ、冗談はこれくらいにして、ゆう君、覚悟ー!」

 そう言って今度こそ俺の足を取ってツボを押す義姉さんだったが。

「……あれ? おっかしいな……えいっ……あれれ?」

 俺のツボをぐっぐっと押すたびに首をかしげる義姉さん。

「どしたんですの?」

「え、いや……なんか手応えがないと言うか」

「まあそりゃあ、健康体だしな」

「……どゆこと?」

 よくわからないと言った様子のアシェが首を傾げ、シュエリアもまたジトっと俺を見つめる。

「我慢してんですの?」

「いや?」

「じゃあどういうことよ」

「だから、足ツボって基本的に健康だとそんな痛くないんだよ」

『えっ』

 俺の言葉に、シュエリアとアシェ、何故かツボ押ししてる義姉さんまでもが驚く。

「なんで義姉さんまで知らないんだよ」

「えーっと、なんとなくやってみようと思っただけだから?」

「そんなんであんな痛い事したんですの?!」

「信じらんないわ!!」

「あはははは」

『笑うな!!』

 被害に遭ったエルフ二人から苦情を受けるも、相変わらずヘラヘラしてる義姉さんだった。

「んじゃどうしようかなぁ。そだ、耳かきくらいならお姉ちゃんでもでき――」

「あ? 舐めてんのかおい」

「ふぇっ? ゆ、ゆう君?」

 うちの義姉が頭の悪いことを言い出したのでつい声に力が入ってしまった。

 なんかめっちゃきょどってる。

「こほん。耳かきを『くらい』とか舐めて貰っちゃ困るな。やるなら真面目にやってくれないと」

「ユウキは耳かきには口うるさいから、真面目にやんないとキレられますわよ」

「え? あぁ…………はい」

 なんかシュエリアに誤解を受けそうなことを言われたが、別にキレやしない。

 ただこのアホな義姉をしばくだけだ。

「わかったよ、うん。お姉ちゃん頑張る」

「そうしてくれ」

「まずはプロのお店に行って研修受けて来るね!」

「真面目か」

 別にいいけども、このごっこ遊びには間に合わないよな、それ。

「てことで行ってくる!」

 義姉さんはそれだけ言うと、さっさと部屋を出て行ってしまった。

「と言うか今更だけど、これなんで始めたのよ」

「ん?」

 アシェに言われて、まあ今更だが、確かにまあ、気になる。

 新婚なのに新婚ごっこなんて、何で言い出したんだろう。

「そりゃまあ、アレですわよ」

「どれよ」

「最初はアシェ辺りに見せつけて悔しがってるのを笑ってやろうと思ってたんだけれど」

「凄くシュエリアらしくてムカつく理由ね」

「なんだかんだ、ユウキは皆と仲良くしたいだろうし。まあわたくしもその方が楽しいし。それに――」

 そこまで言ってシュエリアは「なんでもない」と黙ってしまった。

「何よ、何か重大なフラグな訳? これ」

「違いますわよ。ただ……その、ほら、アレですわ」

「照れてるんですよ、きっと」

「……トモリ、サラッと核心付くの止めるんですわ」

 いつの間にか魔王モードのトモリさんにどうやら図星を突かれたらしい。

「てかなんでトモリは急にシャキッとしたのよ」

「いえ、何といいますか。ゆっ君がとても幸せなようで、とても美味しい精気を吸えているのでこちらも元気になったと言いますか」

「なんでサラっと吸われてんですか俺」

「癒した分で帳消しかと?」

「帳消ししちゃ駄目でしょう……」

 なんで癒すだけで終われないんだ。

「それで、シュエリアさんはきっと照れているだけですよ、と」

「あ、それね。どゆこと?」

「まあ、ですから、多分シュエリアさんなりに、シュエリアさん以外もゆっ君とイチャ付ける機会を作ったのではないかと」

 トモリさんがそういうと、本当に図星だったのか小さく唸った後に俺の胸に顔をうずめるシュエリア。

 こりゃ照れて赤くなってんだろうなぁ。

「この阿保エルフがそんな殊勝な事を……?」

「まあ、阿保ですがシュエリアさんは基本的には、良い子ですから」

「そう……? 阿保な上に傍若無人で唯我独尊の自由人でしょ……」

「しこたま言いたい放題言いやがりますわね……」

 流石に言われ過ぎて腹が立ったのか俺の胸から少しだけ顔を上げてアシェを睨むシュエリアだったが、まだ顔が真っ赤なのでなんというか迫力がない。

「ま、有り難く受け取っとくけど。別にこんなことしなくても私はユウキとしたいように仲良くしてるつもりよ」

「私も兄さまと仲良しですっ」

「そうですね、まあ確かに、こういうスキンシップはシュエリアさんよりは少ないですが、そこはそれ、シュエリアさんが特別甘えん坊なだけなので」

「なっ……!」

 またしてもトモリさんの爆弾発言に撃沈寸前のシュエリア。

 トモリさんシュエリアに対してつえぇな……。

「皆だって……甘えたくなるでしょう? その、好きな人なんだから……」

「まあそりゃそうだけど。シュエリア程じゃないわね」

「そうですねっ私は割といつも甘えてますがっ」

「私は甘やかす方が好きなので」

「むむぅ……」

 確かに甘え頻度だとシュエリアとアイネが断トツか。まあアイネは妹だからある意味順当というか、何というか。

「まあでも、そうね。せっかくシュエリアがそういうつもりなら、私も甘えようかしら」

「そうですね~」

 そう言い出したアシェに引っ張られ、体を起こされる。

「な、なんだ?」

「ユウキはここ座って」

「お、おう」

 言われた通りに床に座る。それで、これからどうするんだろうか。

「で、シュエリアは左、トモリは右、アイネは膝上で、私は背中っと」

 アシェに言われた通りに皆が座る。

「アシェ、背中合わせだけど……いいのか?」

「いいのよ、私はこれが良いの」

 という事で、皆で纏まって座ることになったのだが……。

「トモリさんはこれで良いんですか? いつものソファとあまり変わらないような」

「そうですね、なら、体を預けてくれてもいいですよ?」

「へ? ……あー、じゃあ、はい」

 言われた通りに体を預けるようにしたのだが、シュエリアは俺に寄りかかっていたのでかなり斜めになっている。

「大丈夫かシュエリア」

「平気ですわ。たまには、こういうのも」

「……そうか」

 まあ、シュエリアが良いなら、いいか。

「これ、今回もオチとか付かなそうね」

「まあ、そうだな」

 まあ人生にそうそうオチなんてつかないわけだが。

「というか、実際描かれてない部分ではイチャ付いてるから、いつも通りですね?」

「そういう事言うもんじゃないですわ」

「いつもはアンタが言う方でしょ」

「にゃ~」

 うん、いやホントそうだな。

 彼女達に囲まれて、ただゆっくり座るだけ。いや、正直割とやかましかったりもするんだが……。

 これって結局何だかんだ割といつも通りじゃないだろうか。

 そう思いながら、いつも通り意味もなく、ただ幸せなだけの時間を過ごしたのだった。


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