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娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
109/266

飲みますわよ!

「酒飲みますわよ!」

「お前らは酒飲んじゃ駄目だ」

 いつも通りの休日を過ごしていると、急に立ち上がって叫んだシュエリア。

 それを見て嬉しそうに拍手をするトモリさんといそいそと準備を始めるアシェ。

 最後に俺の膝上で丸まっていたアイネが起き上がって人になる。

「何で駄目なんですの」

「酔うとめんどくさいからだよ」

「酔わないですわよ」

「そうか、じゃあ飲むな」

「……めんどくさくないですわよ」

「お前はな。俺はめんどくさいよ」

 コイツは酔うと子供っぽいし、やたら絡んでくるからなぁ……。

「わかりましたわ。じゃあ襲ってもいいから」

「何がわかったらそうなるんだ?」

 なんで俺が酔った嫁を襲わないといけないんだ。どんな取引だこれ。

「どうしたらいいんですの?」

「飲まなきゃいいんだよ」

 シュエリアがやけに不満そうな顔をしているが、節度を持って飲めないコイツ等が悪い。

 いや、まあトモリさんは酔わないっぽいけど、この人えぐいくらい飲むからな……この人が飲んでると周りがつられて飲むせいで状況が最悪になる。

「大丈夫よ、ユウキ。対策は万全だから」

「んだよアシェ。対策なら飲まないのが一番だよ」

「あんた身も蓋も無いわね。いいから。この万能薬をユウキに渡しておくわね」

「……これをどうしろと」

 俺は手渡された瓶を見る。

 中身は薄黄色いちょっとトロっとしてそうな液体だ。これが万能薬……?

「酔いって言うのは一種の状態異常だから、これをぶっかけたら治るわ」

「つまりお前らが酔って、面倒になったらぶっかけていいと」

「そういう事」

「ふむ……」

 まあ……それなら……いいか?

 絵面的にアウトになりそうな気がするけど……。

「シュエリア、お前もそれでいいのか? この液体ぶっかけられるかもしれないんだぞ?」

「わたくしとしてはユウキにならいいですわよ?」

「なんだろう、今違う意味に聞こえたわ」

 下ネタに聞こえたのは俺の心が汚れているせいだろうか。

「間違ってないですわよ」

「間違いであれよ」

 コイツはなんだ。酒飲みたいのはそういう、ヤらしいことしたいだけなのか。まさか。

「まあ、シュエリアがいいって言うなら、いいけどさ」

「よっし! それじゃあ宴ですわね!」

 ということで、昼間っから酒盛り開宴という運びになったのだが……。

 十分後。

「ふへぇ……ふふふ、へへへ……ひひっ……ゆーきぃー? らいしゅきーれすわー?」

「なんでこの短時間でそこまで酔えるんだよ」

 開宴から速攻でウォッカを飲み漁ったシュエリアは最速でべろべろに酔っていた。

「まああれだけヘッドバンキングしてたらそうなると思いますっ!」

「……うん、そうだな」

 確かにコイツは飲みながらデスメタし始めて、激しく頭を振っていた。

「酔う前から酒飲みながら暴れるって、なんか嫌な事でもあったのかしらね」

「どう……だろうな」

 まあ確かに、なんかこう、一刻も早く酔いたいような……そんな感じはあったかもしれない?

「ゆーきー?」

「ん?」

「これからぁーまいにちー」

「うん? 毎日?」

 なんだろう、何を言い出す気だコイツ。

「はちまんーろくせんかいーくらい? すきってぇー、いって?」

「ほぼ毎秒じゃねぇか」

 一日は八万六千四百秒だから、四百回追加されたら毎秒だったな?

「いわらいんれすろ?」

「言わないよ。無理だろ」

「……わらくしはいうけろ?」

「マジかぁ」

 本当にそんなんされたら、どうしよう。結構嬉しい気がするけど。鬱陶しい気もする。

「んー! ゆうきもいうの!」

「言わないよ」

「いーうーのー!」

「……なあ、これもうぶっかけてもいいかな?」

「まあ、酔ってる上で超めんどくさい女になってるから、良いと思うけど」

 と、アシェからも同意を貰ったので、万能薬をぶっかけたのだが。

 なんかヘラヘラ笑ってやがる。

「……………効いて無くね?」

「ふえへへへ」

「効いて、ないわね」

 俺は一瞬、アシェが適当な物を渡したのかと思ったのだが、思ったよりアシェが焦っているようなので、違うと悟った。

「何で効かないんだ?」

「わ、わからないわよ。わたしとか……トモリみたいな魔王にでも効くわよ? これ」

「ならなんで……」

 そう聞こうとしたところで、俺はある一つの可能性に思い至った。

「……シュエリアの魔法か?」

「え、何。魔法で何したのよ?」

「いや、解毒とか、そういうの全般を防いでいる……とか」

「…………すっごくやりそう」

 そもそもシュエリアが酔ったら酔い覚ましに薬を使っていいとあっさり認めた辺りから警戒するべきだったかもしれない。

 コイツなら解毒などの本来プラスの効果ですら酒の為に打ち消してそうだ。

「シュエリア。お前、万能薬を無効化したな?」

「んー? んふふふ~。しーたっ!」

「うわぁ……腹立つくらい良い笑顔だなぁ。うわぁ」

 それはもう、とびっきり無邪気な笑顔で俺にすり寄りながら自白するシュエリア。

「でへへ。だって~ゆうきに~こ~したかっただも~ん」

「……はい?」

 なんかさらに、ついでに自白を始めたぞ、コイツ。

「まんが~読んでたら? 酔ったヒロインが~しゅじんこーに……? 良い感じに? ふふふふっ」

「……何言ってんのかよくわからないけど、何がしたいのかはわかったわ……」

 コイツが読んでいたのであろう漫画がテーブルの端にあったので見てみたが。エ〇本だった。

「襲わないし、掛けないからな」

「なんれ?」

「酔ってる女に手を出すわけないだろ」

「容赦なく万能薬ぶっかけたけどね」

「……それは……いいんだよ」

 まあ正直、酔った女性に謎の液体ぶっかけるとか全くよろしくない行為なんだが。

 そこはまあ、本人の了承も取っていたからといういい訳で一つ。

「さて、どうするか、これ」

「放っておいてお酒を飲みましょう」

「サラっとヒデェですねトモリさん」

 俺がどうしようか悩んでいると、酒好き魔王が俺の隣にやって来た。

 ちなみにさっきまではアイネが俺の横だったのだが、お酒の匂いで酔ったのか、いつの間にか猫の姿で俺の膝上に丸まっていた。

 ちなみにアシェはいつも通り俺の傍が後ろしか空いてないので後ろから絡んできてる。

「そして飲みましょう。この世の終わりを肴に」

「いつまで飲む気なんですか」

 酒飲んで魔王感増しても相変わらず天然だなこの人。

「大丈夫、世界の終わりは近いですよ、ふふふ」

「なんだろう、今更ながらこれはトモリさんの素というより本当に魔王感あるな」

 以前飲んだ時は軽く酔って素が出てるのかと思ったのだが、これって違うんではなかろうか。

「トモリさん、酔ってます?」

「酔わない酒はただの水です」

「そんなことも無いですが……」

 まあ、言いたいことはわかったけど。

「酔うと魔王感……風格ありますね」

「ふふふ、部下からも好評でした」

「でしょうね……」

 このそこはかとない魔王感、更にサキュバスのお姉さんらしい妖艶さまで出てきている。

 そりゃあ人気でしょうとも。

「なあアシェ、これどうしよう」

「トモリにもぶっかけたらいいのよ」

「……っていうかお前は平気なのか」

「飲んでないもの」

「え?」

 コイツいまなんと。

「私、今回は皆が酔ってるのを見て笑う気でいたから、飲んでないわよ」

「…………」

 それはそれでどうなんだ。飲まない理由として。

「で、ぶっかけないの?」

「なあ、これ飲ませたら駄目なのか?」

「駄目よ、面白くない」

「理由。それなら普通に飲ませるぞ」

 そう言い、俺はトモリさんに万能薬を勧めたのだが。

「酔っていると、ご迷惑ですか?」

「え……あー。いや、そんなことないですね?」

「では、飲まなくてもいいですよね」

「それは…………はい」

 確かに改めて聞かれると、シュエリアの阿保に比べて、別に迷惑とかそういうことはない。

 それに圧が怖かったので無理に飲ませるのも憚られた。

「ゆーき! かまえー! れすわー」

「あぁはいはい」

 俺がトモリさんとばかり話していて寂しくなったのか、シュエリアが俺の膝上のアイネを俺の頭に乗せ、空いた膝に転がってきてゴロゴロし始めた。

 前から思ってたけど、コイツって本当に甘えん坊だよな……。パッと見はそうは見えないけど。

 それも気を許した相手にだけだろうけど。

「こんな状態のシュエリアになら、勝てそうね?」

「あん? あしぇごとき酔っててもよゆーれすわ、あしぇばくちくしまふわよ?」

「……何かしら、今、いっそシラフのシュエリア相手にするより、死ぬ気がしたんだけど」

「まあ、まともに手加減しないだろうしな、この状態じゃ」

 気持ちよく酔ったシュエリアにアシェが楽しい玩具にされる未来しか見えない。

「ていうかシュエリア、さっきからめっちゃ当たってるんだけど」

「あにが?」

「お前の顔が俺の下半身に、あと、お前の胸も」

「……さわる?」

「どっちに」

「わたくひに、ゆーきが?」

「……じゃ、遠慮なく」

 と、俺がシュエリアに触れようとすると、アシェに思いっきり頭を叩かれた。

「自重しなさいよ。酔った女好きにしようとか、クズ過ぎるでしょう」

「いやいや、俺とシュエリアは夫婦だし」

「魔法の言葉ね、夫婦。駄目よ、親しき中にも礼儀あり。夫婦でも意識朦朧としている相手を襲うのは駄目。さっき自分でも言ってたでしょう?」

「お前、育ちは悪いのに凄くまともだよなぁ」

「アンタは育ちは悪くないはずなのに、平然とセクハラはするわよね」

「いやいや、合意だから」

「酒飲ませて合意も何もないでしょ」

 ……いや、本当にまともだなコイツ。正論過ぎる。

「いっそほら、酒飲むところから既に合意しているようなもんじゃん?」

「最低の屑男が言いそうね」

「……いや、夫婦だし」

「夫婦で酒飲むからって『そういうこと』するとは限らないでしょう?」

「まあ、そうだが」

 本当にアシェは真面目だ。

「何なら、アンタは飲んでないんだから、そこは理性的じゃないとフェアじゃないでしょう」

「なら俺も飲んでたら手を出してもいいと?」

「酒の勢いでやる気なの? 最低ね」

「どうしろと……」

 どっちにしても駄目なのか、俺。

「酔ってない時にしなさいよ」

「酔ってない時にこういう可愛いことしないんだよシュエリアは」

「知ってるわよ。ユウキにベタ惚れな上にそれがバレバレなのに隠してるつもりなのか、何故か一定以上甘えないわよねコイツ」

「そうなんだよなぁ。俺としてはアイネくらいデレてくれてもいいんだけどな」

 実際は大体俺に寄りかかってたり、たまに抱き着いてたりはするんだが……態度には出てても言葉にされることは結構少ない……気がする。

「ゆーき」

「ん? おう」

 おっと、またシュエリアを放っておいて話し込んでしまったから怒られるだろうか。

「むぎゅってして」

「……はい?」

「だいて」

「なんで言い方変えた」

 言い方がそこはかとなくイヤラシイし。酔ってる時に行っちゃ駄目なワードだろ。

「して?」

「お、おー……」

 俺は同意しかけて、チラっとアシェを見る。

「抱き締めるくらいならいいんじゃない?」

「だ、だよな」

 正直アシェに同意してもらう必要な無い気もするのだが……気になってしまうものは仕方ない。

 でもまあ、今回はお許しが出たので早速シュエリアを抱き締めたのだが。

「すー……すー……」

「寝たわね」

「寝たな」

 俺に抱き着いたまま寝てしまわれた。

 なんだこれ。

「俺はもっとこう、ドキドキする甘えられ展開を期待していた」

「私はそれを野次飛ばしながら肴にして、酒飲もうかと思ったのに」

「お前なんてこと考えてんだよ……」

 って言うかこの状況でコイツまで酒飲んだら俺の負担が大変だ。片づけとか、酔っ払いの処理とか。

「結局コイツは何がしたかったんだろうな……何の意味もない酒の席だった気がする」

「酒の席に意味なんて無いでしょ。っていうか、何もなんも、いつも通りのでしょ?」

「……楽しかっただけだな」

 意味が無いのもいつものことだし、シュエリアが楽しんでるのもいつものことだ。

 そしてそれを見てるのが楽しいのも。

「とりあえず、コイツ寝かせて、俺も飲もうかな」

「じゃあ相手は私がしてあげるわよ」

「……お前の介抱するの嫌だからな?」

「いいわよ、酔わない程度に飲んで、酔ったユウキを愛でるから」

「さよで」

 なんか、絶対逆になるって言う自信があるけど、まあいいか。

 こうして、シュエリアとトモリさんしか飲んでない酒の席は終わったのだが。

 後日、俺とアシェが見てない間に酒をガンガン空けたトモリさんの所為で、部屋が酒屋以上に酒瓶塗れで片付けが面倒だったので、俺は再度思った。

 コイツ等に酒飲ませるのは本当に止めようと。


ご読了ありがとうございました!

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次回更新は来週金曜日18:00です。

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