また来たんですの?
「仕事をくれ!」
「えぇっと……」
いつも通りの休日にシュエリアの部屋で楽しく遊んでいたら、急な珍客が来て、突然このような事を言い出した。
「俺は職業斡旋とかしてないからハロワに……いや、この辺には無いか。タ〇ンワーク買ってこい」
「アイネにもできるような簡単な仕事を!」
「人の話聞けよ……っていうかそこでアイネの名前出すな。アイネはちゃんと働いてるって」
珍客……イチの発言にとりあえずツッコミを入れておく。
そもそもなぜここにいるんだとか、何故仕事を俺に要求するのかとか、そういう事も聞きたいんだけど、それ以前にアイネでもできるようなって、アイネをなんだと思ってるんだろうこの子は。
「火力出すことしか考えてない脳筋のアイネがちゃんと働けるような楽な仕事がいいぞ!」
「おいコラ待てや。そろそろ失礼過ぎてキレるぞ」
俺がそういうと、隣に座っていたシュエリアが驚いたような顔をした後、嬉しそうにニヤニヤした。
「なんだよ?」
「ユウキが怒るところ見てみたいなぁって思っただけですわ」
「それを素直に言うのはどういう心境なんだ……なんか逆に落ち着いたけど」
「あら残念。でもまあ、わたくしの友人でもあり義妹でもあるアイネをあんまり軽んじられるのは好ましくないですわね。犬っころ、態度を改めないならこちらもやることやりますわよ」
「! や、やること……?」
対面に座っていたイチの体がビクッと跳ねて毛が逆立つ。
何せ、一応イチもシュエリアが魔族の大群をあっさり処理したことは知っているので、流石にあんだけ恐ろしい力を振るったシュエリアの事は相当警戒しているようだ。
「まあ、犬っころを従順にする、調教ですわね」
「…………あの、すみません。贅沢は言わないので、せめてブラックじゃなくて、私みたいな馬鹿でも出来る仕事はないでしょうか」
「そこはかとなく贅沢な気がしないでもないんだが……そういうのは義姉さんに聞いた方がいいんじゃないかな」
「ですわね、連れて来る?」
「うん、暇そうなら」
「どうせ暇ですわよ」
そう言ってシュエリアが転移して消えると、十秒もせずに義姉さんと戻って来た。
「早かったな……暇だったのか」
「ユウキの名前出そうとしたら大分食い気味に『行く!』って言うから……」
「義姉さん……」
「いや、だってね? ゆう君に呼ばれる以外でシュエちゃん来ないと思うし、ならゆう君の名前が出た時点で呼ばれてるなぁって思うでしょ? そりゃ行くよね」
「他にも可能性は……まあいいや」
これ以上この話題で話しても疲れそうだし。暇だったんだろ、うん、そういう事にしておこう。
「それで、何の用かな?」
「あぁ、このアイネの友達? のイチに仕事を紹介してやって欲しいんだ。要望は本人から聞いてくれ」
「ふうん。まあいいけど、どんな仕事がいいのかな?」
「頭悪くてもできる仕事がいいです!」
「……うん、なんか……そっか。じゃあしす☆こーんでいいかな」
「え、何でですの。この子注文すらまともに通せないかもしれないですわよ?」
「あーでも、そこも一つのね、キャラで誤魔化せるし。後シュエちゃんが何とかするでしょ、今はチーフやってるんだから」
「それわたくしに押し付けてますわよね……」
シュエリアが露骨に嫌そうにしながら義姉さんを睨んでいるが、義姉さんはまったく気にした様子が無い。案外仕事先じゃいつもこんな感じなのかもしれないなと思った。
「はぁ、まあ、いいですわ。それじゃあイチは後日わたくしと同じ勤務日から研修ですわね」
「馬鹿でも出来ますか」
「馬鹿でも愛される職場だから問題ないですわ」
「……エロいことするのはちょっと」
「しねぇですわよ! はぁ……これわたくしが教育するんですのよね……」
もう既に若干お疲れ気味なシュエリアだが……これ、後日大丈夫なんだろうか……。
まあ、しかし、この場はとりあえずこれで話が終わり、後日、職場集合となったのだった。
そして当日。
「まあ、ユウキが付いて来ているのはいいとして、そこにアイネが居るのもまあ、理解できますわ。トモリは同じ勤務先……シオンはオーナー。イチは今日から研修……それで? なんでアシェまでいるんですの?」
「何よ、長ったらしく説明しちゃって。私が居ちゃ悪いわけ?」
「一般常識レベルの悪ですわね」
「そんなに?! いるだけでアウトなの私!」
いつも通りシュエリアに弄られるアシェを見て、流石にこのままだと話も進まない気がしたので俺からフォローすることにした。
「今朝アシェに会ったときに話したら、アシェもここでバイトしてみたいって話になって、じゃあ丁度いいからイチと一緒にシュエリアに面倒見て持った方がいいかなと」
「それで連れて来たんですの? ……はぁ、しょうがないですわねぇ」
「あんたってユウキに言われたら結構あっさり受け入れるわよね」
「それだけの信頼と愛情があるからですわね。他の奴に言われたらこうはいかないのは間違いないですわね」
それはまあ、信頼があるのはありがたいし、嬉しいのだが。
「っていうかシュエリア、なんでお前、巫女装束着てんの」
俺はシュエリアの恰好を見て、疑問に思った。
いつもここで働いているときは私服……ではないが、それっぽい格好で働いていたハズだ。
なんで結構ガチ目な巫女装束なんだ。
「今日はたまたま巫女服の日だっただけですわ」
「三月五日でもないのに」
「ですわねぇ」
まあでも、そういうことなら、納得だ。
「で、写真撮るのっていくらかかるんだっけ」
「一枚五千円だよ」
「撮るわ」
「ユウキ、止めなさい。アンタ馬鹿なの?」
俺がシュエリアの写真を撮ろうとすると、アシェに止められた。
「なんだよ、普通のアシェ」
「何そのムカつく呼び方。コスプレしたシュエリアなんて家で好きなだけ撮ればいいでしょ? こんなのお金の無駄よ」
「……確かに。シュエリアがあんまり可愛いからつい、な」
「あぁでも、巫女の日っていうなら私も着るのよね。ふふ、なら私の巫女姿に我慢できなくなったらお金を出すのは仕方ないわよ?」
「うん? あぁ……それな」
「アンタね……ハーレムの主として多少のリップサービスくらいしなさいよ。明らかに私に興味ないじゃない」
そう言って睨むアシェだが……いや、実際あんまり興味ない。
別に似合わないとは思わないが、シュエリア程可愛いかと聞かれると、どうなんだろう。
アシェには他に似合う服があるんじゃないかな。迷彩柄とか。
「ところでシュエリア、今日は髪を結ってるんだな」
「私に興味なさすぎない……?」
俺がシュエリアに話を振ると、アシェはショックを受けた様子だったが……まあ、アシェなら大丈夫だろう。
「あぁ、これ。後ろで束ねてるだけだけど、なんというか、それっぽいでしょう」
「似合ってるな。うちでもやってくれよそれ。撮るから」
「有料ですわよ」
「家でもか」
「家では休日労働の手当付きで一枚一万ってとこですわね」
「ここで撮るわ」
思ったよりボッタくられててツライ。
仕方ないからここで撮ろう。
「まあそれは冗談として。まあ、家でならユウキが好きな格好してあげてもいいですわよ」
「おぉ。マジか」
「マジですわ。だからとりあえず、この話は後にして、とっとと研修始めますわよ?」
「あぁ、そういえばそんなのあったな」
そう言えばそんな話、してたなぁ。
「とりあえずユウキとアイネは開いてる席にどうぞ。接客は……イチとアシェにやらせますわ」
「すっげぇ不安感」
俺が呟くと、アシェが俺の肩を叩いてグッと親指を立てた。
「大丈夫よ!」
「なんだろう、語彙の少なさに根拠のない自信を感じる」
言葉を尽くせばいいという物でもないが、ただただ『大丈夫』と言われても不安だ。
「それで、最初は何をすればいいのよ」
「そうだぞ、何をすればいい?」
「そうですわねぇ、まずは注文を取るところですわね」
「じゃあユウキ、なんにする?」
「うん? そうだなぁ」
一応接客なんだから、もうちょっと言葉使いとかちゃんとしろと思わなくもないが、ある意味この店では当たり前に行われるやり取りだったりしなくもないので、むしろ正しいのかもしれない。
「アシェにはオムライス、イチにはドリンクを頼もうか……アイネはどうする?」
「パフェがいいですっ」
「じゃあパフェを……」
頼もうとして、目の前の視線に気づいた。
「……三つで」
「サラっとトモリの分も頼みましたわね」
シュエリアがそう言って呆れている。
そう、今日も出勤して店員としてこの場に居るはずのトモリさんが思いっきり向かいの席に座っている。
そして俺がパフェを頼む時だけ凄く俺の眼を見ていた。
結果的に妙な圧に負けてトモリさんの分も頼んでしまったわけだ。
「じゃあアシェがオムライス、イチにドリンクとパフェをやらせますわね」
「おう」
「じゃあ、復唱するわね。オムライス一つでいいわね」
「あたしはドの付く何かとパなんとかを幾つかだな!」
「すげぇな、覚える気全くねぇな」
なにこれ、大丈夫かコイツ。
そんな俺の不安も解せず、イチはアシェと共に厨房の方に消えた。
そして。
「まあ何とかなりますわよ、多分、よいしょっと」
「おい、なんでお前までトモリさんの隣に座ってんだ」
「疲れたから?」
「気持ちはわからなくもないが、お前が見てないとアイツら何やらかすかわからないだろうが」
「それを楽しむのもこの店の客の度量ですわ」
「客の度量が試される店って……」
ま、まあ、流石に変な物は出てこない……よな?
「それで、トモリさんはなんでここに?」
「巫女~なので~」
「……理由になってねぇ……」
それ言い出したら今日はここの店員皆そうだろ……。
「じ~」
「え、何」
「じ~?」
「な、何でしょう?」
「似合って~?」
「……あぁ」
なるほど、ようやく理解した。
確かにこれなら「巫女だから」はここにいる理由になるんだろう。
「似合ってますよトモリさん。流石黒髪美人。巫女服もよく映えてます」
「よかった~です~」
「まあでも、帯刀はしなくていいと思いますよ……」
「あらぁ~」
この人はなんでいつも帯刀してるんだろう。流石に慣れたから怖くは無いが、他の客はどうなのだろう。
「あ、戻ってきましたわよ」
シュエリアの声に店を見渡すと、確かに何かしらか……ここから見ても明らかにパフェではない何かを持ったイチと、ちゃんとオムライスっぽい物を運んでくるアシェがみえた。
「で、イチ、これは何ですの?」
「ド〇とパーフェク〇ガン〇ムとパーフ〇クトストラ〇ク、Gセ〇フパーフェクトパ〇クだぞ!」
「すげぇ、全部ドとパが付いててMSとかやるじゃないか、見直したぞ」
「何褒めてんですのユウキ。そしてイチも嬉しそうにしてんじゃねぇですわ。これやったのアシェですわよね?」
「だからなに?」
「すご。開き直ってますわこの阿保。流石にこれはお金取れないから駄目ですわよ」
「完成度高いのに?」
「確かにこれは良くできてるぞ。金取れるレベルだ」
「そういう問題じゃねぇですわ!」
俺の高評価にはシュエリアの真面目な発言が飛んだ。
まあ、そりゃそうなんだが。
「一応、金はとれるものだと言う訂正をな?」
「だから、そういう問題じゃないですわ。流石に全く違う品を出すのは駄目ですわよ」
「でもパーフェクト系はパフェって付いてるし」
「名前だけで判断してんですの? じゃあ何、わたくしがパーフェクトシュエリアを名乗りだしたら食うんですの?」
「鼻で笑う」
「よし、食いますわ」
「待て待て待て、せめて殴るくらいになりませんか!」
「大丈夫ですわ。ちょっと、五百グラム食べられたくらいならすぐ直りますわ」
「結構行ってないか! 五百ってお腹膨れそうな量だけど?!」
あかん、このままだと美味しく頂かれてしまう。
「そんなことより、ユウキは私のオムライス食いなさいよ」
「お、おぉ! それだ!」
助け舟としては悪くないのが来た。アシェ、ナイス!
「まあユウキがオムライス食べてても、わたくしもユウキを食べるんだけどね」
「ごめんなさい許してください!」
助け船ごと頂かれる勢いだったので素直に謝ることにした。
「素直で結構。とりあえずイチはパフェをしっかり作ること。アシェはそれを監視しつつ、自分もパフェの作り方覚えるんですわよ」
「「はーい」」
とりあえず一通りボケて満足したのか、アシェは素直にイチを連れてパフェ作りに戻った。
「で、ユウキ、それ食べるんですの?」
「え? あぁ、オムライスな。食うよ?」
「毒属性なのに」
「え?」
今なんと、毒属性?
「見たらわかるでしょう?」
「……わかるか? アイネ」
「見ても分かりませんが、嗅いだらわかりますねっ! 毒物ですよ!」
「えぇ……」
俺も試しに嗅いで見ることにしたが……わからん。
「っていうかユウキ、アシェが作った段階でわかるでしょう」
「なんで」
「アシェはね、錬金術と、それを補助する程度の魔法は使えても、後のステータスはカスですわ」
「カス……」
言い方があまりにもあんまりだが……。カスか……。
「家事もできないし、まともに働ける体力も無い。錬金能力を取ったら何も残らない無能ですわ」
「ひでぇ言われ様だな」
「事実、この料理は毒物ですわ」
「…………」
いや、食ってないからわからないけど、シュエリアだけならともかく、アイネも毒だと言っているんだから……まあ、毒なんだろうか。
「トモリさんは……どう思いますか?」
「わたしは~へいきで~す~。毒耐~性~あるので~」
「…………」
うん、駄目そうだ。
「でもさ、食わなかったらアシェに悪くないか?」
「あんたホントにお人よしですわね。毒ですわよ? 食えるわけないでしょう」
「そうは言ってもな……とりあえず一口だけでも」
「……はぁ、じゃあせめて毒耐性だけ付けてあげますわ。ただし、味の方は知らないですわよ?」
「お、おう」
これで毒は何とかなりそうだな。毒物になった料理の味がどうかは知らないが。
「頂きます……」
「顔が死を覚悟してますわよ」
いや、覚悟は決めたつもりだが……そこまで酷い顔してたか。
「それにしても、イチはなんでこっちに来たんだろうな」
「それは多分、お仕事が無いからだと思いますっ」
「ん? でも騎士なんだろ、あの子」
「まあ、そうなったみたいですけど……多分シュエリアさんが魔族を滅ぼしたので、騎士の仕事が減ったんじゃないでしょうか。ただでさえワンちゃんは戦う事しかできない子なのでっ」
「なるほど……」
まあ、平和(?)な世の中に騎士はいらないわな。
「それで家に……アイネを頼って来たのかな」
「かもしれないですねっ。他にも理由はあるかもしれないですがっ」
まあその辺は本人に聞くか。
「それにしても、ユウキ。平然と食いますわね」
「ん、あぁ、思ったよりも、えぐい苦みと痛みを伴う辛みがある以外は普通のオムライスなんだよな」
「それは普通のオムライスなんですの……?」
そう言ってシュエリアが顔を顰める。何というか俺よりよっぽどマズい物食ってそうな顔だ。
「パフェ来るまでには完食してアシェに世辞の一つも言えるくらいには食えるよ」
「そ、そう……」
とりあえずアシェとイチが戻ったら、オムライスの感想と、イチが来た理由を聞こう。
今更だけど、面倒事だったら困るしな。
そう思いながらオムライスを口に運んでいると、ようやくパフェらしきものを持ってくる二人の姿が遠目に見えた。
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