いつも通りに、楽しく! ですわ
異世界でひと悶着あってから数日、ココのところシュエリアの様子がおかしい。
暇があれば「暇だ」と言わず、ボーっとしてゴロゴロするだけ。
夕食も約束通り好きなメニューを注文してこない。
俺達が遊んでても混じろうとしない。
兎に角変だった。いつものシュエリアらしさが無い。
という事で俺は、今日、昼時の今、気分転換にシュエリアを外に連れまわすことにした。
「シュエリア、散歩に行こう」
「え……? あぁ……えぇ」
「マジで重症だな」
まあ、コイツがこんなになってるのが何故なのかはわかっているんだが、何か話すにしてもとりあえず、体でも軽く動かして、少しでもストレスを発散できる状況も作ってからの方がいいだろう。
「まずはゲームショップでも行こうか」
「……欲しい物でも、あるんですの?」
「んー、まあ、欲しい物はあるけど、買えるかはわからないんだよなぁ」
まあ、買えなくても問題は無いんだけどな。あくまでもシュエリアと気分転換できれば、それでいいんだし。
「……そもそもわたくし一緒に行く意味、あるんですの」
「ある。俺がシュエリアと一緒に居たい」
「……じゃあ家からア〇ゾンで買えばいいですわ」
「……凄く正論過ぎて困るけど、シュエリアと外出したいってことで、お願いします」
俺の言葉に「まあ、そういうことなら」と渋々付いて来てくれるシュエリア。
さて、とりあえず、目的のゲームショップに向かいますかね。
「なあシュエリア、この道覚えてるか?」
「ここ?」
俺達が通っているのは車一台通れる程度の道につながる階段。
周りに高い建物もあるので、全体的に薄く影が掛かっていて今の時間でもほんのり暗い。
「……そういえば、ゲームをしていて、転んだのが、ここだったかしら」
「そうそう。初めてお前と会って、家に帰るときにな。ゲーム止めないでずっとながら歩きしてて、ここでコケてたよな」
あの時はそう、使えない先導だとか言われたっけ。あれからシュエリアとの付き合いも長いけど、今でも先導なんて出来る気しないな。
「またコケ無いように、手でも繋ごうか」
「コケ無いですわよ……コケ無いけど、繋ぎたいなら、いいですわよ」
「そうか? じゃあ、お言葉に甘えて」
俺はそっと、シュエリアに手を伸ばす、シュエリアからは伸ばしてくれないので、勝手に握らせて貰おう。
「それで、ここがお前と初めて会った場所だな」
「……そうですわね」
あの時は驚いたなぁ。エルフのコスプレした女にいきなり声かけられて、その上謎の脅迫をされて、実は本物のエルフで、一緒にゲームして。
まさかそのエルフと結婚するなんて思ってもいなかった。
「あの時からユウキはシスコンで、夜の路地裏で姉萌えゲームについて独り言をつぶやくようなヤバイ奴でしたわね」
「そう聞くと確かにヤバイ奴なんだが、もっとヤバイ奴にそれ言われると、何とも微妙な気持ちだよ」
「そうですわね。楽しいことに命を懸ける、イカレた奴ですわね」
「いや……うん、そうなんだけど。お前、マジなトーンで自虐するのやめろ?」
真顔でこのトーンで言われると反応に困る、というか、罪悪感すらある。
「まあ、そのおかげでお前と一緒に居ることになって、今じゃ嫁で、もう一緒じゃない生活なんて考えられないくらい、大事な存在なわけだが」
あの時のシュエリアの強引さが、今の俺達の関係の始りなんだから、悪い事ばかりじゃない。
「ユウキはあの頃から本当に変な奴ですわ……いきなり脅迫してくるような相手に一緒に居ていいって、傍においてくれるし、今じゃ傍に居て欲しいとか言い出すし」
「そうだな、まあ、逆に普通の相手にならそんなことしないんだけどな。お前が変わってるから、特別な対応をしたって言うか」
「ユウキなら、困っていたり寂しがっている相手が居たら、誰でも構いそうだけど」
「そうか?」
「そうですわ」
そんなことないと思うけどな……そりゃ相手が猫ならそうかもしれないけど。
少なくとも人間相手に分け隔てなく構ったりしないと思う。
「それで、ゲームショップは何処なんですの?」
「あぁ、この道を曲がったとこだよ」
俺はシュエリアの手を引いて、道を進む。
「はいココ、到着」
「案外近場にあるんですのね」
店内に入ると、シュエリアはちょっとだけ物珍しそうに店内を見回した。
コイツは基本ネット通販が多いから実はこうやって店に足を運ぶことはあんまりない。
「それで、何を買いに来たんですの?」
「うん、モンイーのリメイク版をな」
モンスターイーター、通称モンイー。それはモン〇ンとゴッドイ〇ターを足して二で割ってそれもう何番煎じ? みたいなゲームで、大変微妙な評価のゲーム。それのリメイクを俺は探していた。
「なんでそんな微妙なゲームを探してるんですの?」
「んー、やりたいからじゃないか、それは」
「ふーん」
なんかシュエリアは興味無さそうなんだが、俺としてはこのゲーム、結構思い入れがある。
何しろこれ、シュエリアに会ったときに、最初に渡してプレイしたゲームだったりする。
何か面白い物をと言われて思いついた、マルチプレイゲーム。一人で複数人分持っていた悲しい思い出と、今の楽しい生活の始まりに貢献してくれたゲームでもある。
「お前は覚えてないかもしれないけど、これ、お前と初めてやったゲームだからな」
「……覚えてますわよ。でも、だから、なんでリメイクなんですの?」
「そりゃお前、昔と変わってるところとか含めて楽しむからだよ」
「そういうもんですの?」
「そういうもんですよ」
シュエリアと出会った頃にやっていたこのゲームを、シュエリアと夫婦になった今、昔との違いを感じながら、遊びたいと思ったのだから、嘘じゃない。
このゲームも、俺達も、昔と違って、良いところも悪いところもあるかもしれない。それでもその違いも楽しめてこそだと思う。
「なんか、ユウキはめんどくさいこと考えてそうですわね」
「そんなことないぞ、単に楽しければいいなってだけだ」
「わたくしみたいなこと言いますわね」
「これでお前の旦那なんでね」
そう言う意味じゃ、俺はシュエリア色に染められたのかもな。
俺色に染めてやるなんて臭い事言う気はないけど、嫁に染まるってのはある意味オタクらしいかもしれない。
「それで、あったんですの?」
「無いな」
「……別に、とやかく言う気はないけれど、こういう時に無いって、本当にユウキって主人公補正、無適正ですわよね」
「やめろ褒めるな」
「褒めてねぇですわよ」
笑いの観点から見たら、これだけ前振りして無いのはある意味ボケとして成立しなくもない気がするんだけど。
とは言え笑いを取りに来たわけでもないので、無いと無いで、どうしようか。
「アマ〇ンで買うかぁ」
「最初からそれでいいでしょう……」
そう言って呆れるシュエリアだが、いやいや、ほら、あくまでもシュエリアと出かけるのが本題だからね。
「じゃあまあ、無いから次行こうか」
「ゲームショップ梯子するんですの?」
「違う違う、今度は公園だよ」
そう言って俺はシュエリアの手を引いて、今度は公園に向かった。
「なんで公園なんですの?」
公園に着くと、何故かそんなことを聞かれた。
公園、嫌だったのだろうか?
「何でって、そうだな……」
理由はまあ幾つかある、そのどれも重要な気もするし、どうでもいいし、何でもいい気もする。
まあ、ほとんどがノリで、後はただの理由付けな気がしている感じだ。
「強いて言うなら、お前と付き合う事になった場所に来たかったから、かな」
「何ですの。思い出巡りの旅なんですの?」
まあ、近い気はする。シュエリアとの思い出のある場所を巡っているのは間違いない。特に面白い外出先が思い浮かばなかったというのもあるが。
「まあ、とりあえずさ、座ろうぜ」
俺は率先して芝生に座って、シュエリアに横に座るよう促した。
「いいけれど。何か楽しい事でもしてくれるんですの? 座ってるだけとか嫌ですわよ」
体を動かしたからか、しばらく俺と一緒に話していたからか、ちょっと調子が戻って来たか? 楽しいことを求め始めて、らしくなってきた。
「うんうん、じゃあ。とりあえず横になって、俺の膝に頭を乗せて」
「……膝枕ですの? なんでそんなこと――」
いきなり膝枕すると言われてちょっと嫌そうにするシュエリアだが、俺は構わず抱き寄せてそのままシュエリアの頭を膝に乗せた。
「ちょ……何すんですの」
「嫌なら全力で抵抗すればいいだろ」
「……そこまで嫌では、ないけれど」
「それは良かったよ」
不承不承と言った感じで膝枕されるシュエリアの頭を撫でてみる。
相変わらず大人しいと見た目だけが目立って可愛いな。
まあ俺としてはシュエリアの変わった性格も好きなので、いつもこれだと張り合いないけどな。
「それで、何で膝枕なんですの」
「うーん。俺とシュエリアが初めてここに来た時の事、覚えてるか?」
「初めて? ……ユウキが膝枕されながら告って来たのはシュールでしたわね」
「そこが印象的なのは分るが、俺が言いたいのは、その膝枕されてた理由だよ」
「理由……ユウキが疲れてそうだったから?」
「そう。だから俺もしてんの、ここで」
「…………」
シュエリアが落ち込んでて気になったから、まあ、そういう事なんだが。
シュエリア的にこういうのはどうなんだろうか、余計なお世話だろうか。嫌がるだろうか。
「別に……疲れては無いですわ」
「そうか」
「……でもちょっとだけ、このままで居て」
「おう」
どうやら今は、嫌ではない様だ。
「…………ねえユウキ」
「んー?」
「大切な物って、失って気づくと言うでしょう」
「あー、言うなぁ」
「わたくしの場合は失わなかったけれど、あの時、ユウキが倒れているのを見て。初めて自分にとって大切な物の優先順位がわかったんですの」
「面白い事以外に何か必要か?」
「ふふっ、わたくしみたいなこと言いますわね。必要ですわよ。面白く生きるために、一緒の時間を、楽しさと幸せを共有してくれる人が」
「……そうか」
それはつまり、俺の事だろうか。いや、皆の事かな。
「ねえユウキ、今から、甘えても、いい?」
「お嬢様口調でお願いします」
「……いつも通りの口調なら、いいんですのね?」
「真面目度が一段階下がるからな」
「何気にしてんですの……?」
俺達にしんみりした感じとか、シリアスは似合わない。なんなら、シュエリアにはただただバカ騒ぎして、笑ってて欲しいくらいだ。
「じゃあ、まずはわたくしの愚痴、聞いてもらいますわよ」
それから俺は、シュエリアの色んな悩みとか、愚痴を聞いた。
自分の力の大きさとか、力の振るい方、責任や使命。
まあ、強い人特有でありながら、漫画とかじゃありがちな話。
特にシュエリアは望めば本当になんでも出来てしまうだけに、その力に関する悩みは尽きないみたいだ。
コイツは馬鹿だし阿保だし、楽しい事と面白い事を優先してばっかの変な奴だけど、だからと言って性格が異常に歪んでたりするわけじゃない。
むしろ結構繊細だったりする部分もある。乙女脳だし。
まったく、面倒な奴だ。
「シュエリア、お前は何でもできるからって何でもはしないって自分で言ってただろ」
「……そうだけど」
「俺もお前が何でもしなきゃいけないと思わないよ。前にも謝ったけど、俺もお前に色々望みすぎた。ごめんな」
「別に、いいですわよ」
「そうか? なら後は、そうだな。楽しければいいんじゃないか」
「ユウキはその所為で、辛い思いをしたでしょう?」
まあ確かに、燃えたな、俺。
「うーん、でも生きてるしなぁ」
「普通、トラウマ物だと思うけれど、全身焼け焦げるなんて」
「まあ、そこはほら、ギャグ展開ってことで」
「はぁ?」
俺の言葉に、シュエリアが顔を見上げて不機嫌そうにする。
なんで?
「ほら、ギャグ漫画とかだと登場人物があっさり死んだりしても次の回では生きてたりするだろ? そんなもんだろ、アレも」
「わたくし達は、ギャグ作品のキャラじゃないでしょう」
「…………うーん」
凄く突っ込みにくい、真面目な話だからではない。メタな話だからだ。
「不老不死って、半分以上は冗談みたいな存在だと思うけどな」
「まあ、死んで蘇っても違和感のない、スプラッタなネタキャラにはなれそうですわね」
「だろ?」
俺の言葉に同意してくれる辺り、納得してくれたかな。
「でも、それが大切な人なら、やっぱり嫌ですわ」
「…………」
まあ、シュエリアの言ってることはわかる。
俺だってシュエリアが死ななくても、傷つくのは嫌だ。
「じゃあほら、前に言ったけど、次からは気を付けよう、二人で話し合って、楽しく過ごせるようにしよう」
「それは……」
「それで、お前はいつも通り笑って、楽しく過ごせ。じゃないと俺が楽しくない」
コイツにいつまでもこんなんで居られたら、俺が辛いからな。
燃えるよりキツイ。
「……わかりましたわ」
「よし、それじゃこの話はこれで終わりな」
「その前に、一つ、約束して欲しいですわ」
「ん?」
なんだろう、シュエリアが俺に甘えたり、愚痴ったのを黙ってて欲しいとかだろうか?
アシェ辺りにからかわれそうで嫌なのか?
「これから先、わたくしはまた、楽しい事とか面白いことの為に、失敗するかもしれないから……その時は、ユウキ。またこうして、甘えさせて欲しいですわ」
「…………おう」
なんだ、思ったより可愛いお願いだったな。
「それじゃあ、これでいつも通りだな?」
「えぇ。でも、今はこのまま甘えてても、いいですわよね?」
「そうだな、これからも甘えたい時は、そうしていいぞ。案外いい気分だ。可愛い嫁に甘えられるのは」
まあ正直、日常的に生活面でシュエリアが俺に甘えていることは多い気がするんだが、こういう物理的な甘え方はあんまりないので、ちょっと新鮮なのもある。
「ねえ、アイネとどっちに甘えられたいんですの?」
「どっちもかな」
「……そんなことばっかり言っていると、全員に甘えられても知らないですわよ」
「そん時はそん時だろ」
「そーですわね。その時はその時ですわね」
俺達の命は永遠なわけだし、それこそその時々以上に、未来ばかりを考えたってキリが無いってもんだ。
「帰ったら何しようかしら」
「なんだ、もう帰った時の話か?」
「最近遊んでなかった分、色々やりたくなってきましたわ」
「それじゃあ今から話して決めるか? それとも、帰った時に、その時の気分で決めてもいいけどな」
「そうですわね。それじゃあ――」
俺とシュエリアはこの後、色々と暇を潰す、楽しい時間の過ごし方を考えた。
ゲームだったり、漫画だったり、アニメでもいい、たた駄弁るだけでも。
きっと俺はシュエリアが笑って居られれば楽しいし、シュエリアもきっとそうだと思う。
この後二人で、皆で過ごす時間を想いながら、俺達は今を楽しく過ごしたのだった。
ご読了ありがとうございました!
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ここからまたいつも通りだらだらした話続きですがよろしくお願いいたします!




