わたくしの戦いですわ
「俺は四天王が一柱、ザンバ! 貴様の命を刈り取るモノ!」
「なんかショボそうですわねぇ」
異世界に来てからここまで、魔王を消して、雑魚を間引き、他のメンツがどう戦うか魔法で観察しながらも、戦場をだらだら歩いていると、なんか明らかに弱そうな四天王に絡まれた。
アシェとトモリ、両方戦いが終わった辺りでようやくの会敵。
まあ気分的にはアニメを見終わった頃に丁度ご飯ができたくらいの気分、つまり丁度いい。
「四天王の中でも最弱なんですの?」
「そうだ! 俺は四天王の中でも最弱だ!!」
「……なんか悪い事した気がしてきましたわね」
まさか自分からそう名乗るとは思わなかった。斬新かも知れない。
「だがそんな俺でも、貴様程度のエルフ、敵じゃないぜ!!」
言うと、最弱君の背中から四本の腕が生えて来た。
こういうのアニメとかで見るけど、実際に見ると非常に気持ち悪い。主に体液飛んでる辺りとか、映えた腕が体液でテカテカしている感じが、非常にきしょい。
「俺はこの六本の腕にそれぞれ違った武器を持ち、更に魔法も六つ同時に使えるのだ!」
「説明までしてくれるとか昨今の親切なヌルゲーみたいですわね」
そういう攻撃パターンとかはやって覚える派のわたくしとしては、予め前情報があるのはなんだか興が乗らない。
そう思っていると、別の所で、魔法の結界が張られたのを感じた。
「アンチマジック? アイネの居る辺りですわね」
わたくしは最弱君を無視してアイネの向かった方を見る。この距離でも視認できる巨大な結界が目に入る。魔力の波長的に、アイネが使った物ではなさそう。
となると使ったのは魔王だろうけれど……アイネって魔法で魔王を倒したと聞いたけれど、剣術とかはどうなのかしら。
確か、魔法無しで四天王だかと互角とか聞いたような? だとしたらマズいのではないかしら。
魔法が無くても、魔王に勝てる物なのか、どうなのか。
「よそ見をしている暇はないぞ!!」
最弱が何かを叫んで、腕を振り回している。こんなの見てなくても避けられる。避ける必要も無いけれど、見栄えは重要。
「くっ、避けてばかりか! 反撃して見せろ!」
「んー? あー。そうですわね」
なんか反撃をご所望らしいので、それとなく見栄えがよさそうな動きを選んで、攻撃する。
「肢死切断」
とりあえずなんか、中二病っぽい漢字を当てた技名を言いながら、魔力を薄く圧縮した刀で最弱の腕六つ、脚二つを切り飛ばしてみた。
「なぁっ! 俺の体を一瞬で……! よくもぉおおお!!」
よくもって、やれって言ったから、やったのに。
それに、言いながらもまた液体びしゃびしゃしながら再生してるし。気持ち悪い。
「もはや容赦せん! うぉおおおおお!!」
そしてまた腕をブンブン振り回して来る最弱。
同時に魔法も6種飛んでくるけど、どれも威力も速度も物足りない。まさしく『手数』が多いだけだ。
どうせ戦うならもっと戦略幅の広いのと戦いたかった。そっちの方が絶対面白い。
何でこんなイージーモードと当たってしまったのか。
そう思っていると、アイネの方に大きな炎の壁が揺らめくのが見えた。
次いで、黒い雷が走る。
はて、アンチマジックが展開されているから魔法は使えないのでは……?
一瞬、アイネが無効化したのか、と思ったけど、違うのだろう。
恐らく魔法で攻撃しているのは魔王なのだと感じた。どうやら魔王は自分だけは魔法が使えるようだ。
うーん、もしかしたらピンチだったりするのだろうか。
チラッと、アイネの方を遠隔視の魔法で覗いてみる。
フラフラしたアイネが、氷の槍を避けているのが見える。魔王が氷を蒸発させて霧に変え、そこに雷を走らせ、アイネを攻撃している。
ダメージを受けたアイネが、氷の槍で追い詰められていく、遂にはアイネがバランスを崩して膝をついた。
「よそ見をするなぁ!!」
「五月蠅い――あっ」
近くで叫ばれて五月蠅かったのと、アイネを見るのに集中していた所為で、ついうっかり、最弱を裏拳で消滅させてしまった。
……まあ、いいか。
気を取り直してアイネの様子を見ると、アイネの傍で、何かが燃えている。
それを見て、ある想像が脳裏を過り、体が動いた。
魔王の居る方に向かう。走る。
よく考えたらテレポートすればいいのだけど……もう近くまで来たし、いいだろう。
遠目に傷だらけで何かを叫ぶアイネと、倒れている何かが目に入る。
落ち着け、私。
嫌な予感に、足が止まりかけたけど、それでもなんとか歩く。
途中、アイネに向けられた火の玉が目に映る、とりあえず、消しておく。
近寄ると、倒れているのが誰かはっきりわかってしまった。
死んではいない。そもそも彼は死なない。体に魂が定着しているのが確認できた。体を蘇生すれば、ケロッとしてるだろう。
でも、痛みとか恐怖が、心に傷を作ったかもしれない。
ふと、怒りが湧く。
魔王にでも、ましてアイネにでも、彼にでもない。
面白半分に送り出した自分に、腹が立って気がどうにかなりそう。
アイネの話を聞いていて、アイネなら余裕だろうと高を括っていた。
家族を守りながら戦う勇者とか面白いかなぁとか思ってしまった。
どうせ死なないからいいだろうと、思ってた。
でも、ここで、傷だらけで涙して兄を呼ぶアイネを見て。間違っていたと気づいた。
いくら死ななくても、痛いし、辛いし、悲しいことはある。
何でそんなことにも気づかなかったんだろう。なんで、こんなことになってしまったんだろう。
「これは、どういう状況なのかしら」
アイネに聞いてみたけど、上手く喋れないようだ。視ていた感じだと雷を喰らっていたし、麻痺しているのかもしれない。
とりあえず、アイネの記憶を覗いて具体的にどうなったのか、視る。
ユウキがアイネを庇って燃えているのが見える。アイネの苦しみが、後悔が視える。
自分の所為だと理解する。そもそも私がコイツ等を最初から消していれば、こんなことになってない。
盛り上がりとか、面白さとか、そんなことより、大切な事だってあったはずなのに。
アイネの思考に、私がいつもの口調じゃないのが疑問に上がっている。
アイネもそんな場合じゃないと思っているのか、心の奥底に、ほんの一瞬だけど。
実際、そんな場合じゃない、そんなの、どうでもいい。
……とりあえず、コイツ、魔王? 殺そう。
私は魔王に名乗り、宣戦布告する。
これは別に、面白いとか、見栄えとかじゃない。アイツの心にこの名を、恐怖を刻む為の演出。
「魔力の握撃」
呟くと、私の魔力が周辺から集まり、魔王の頭を圧縮、完全に潰した。
この程度のアンチマジックは効かないし、別に魔法を使ってもよかったけれど。これにそこまでするのもプライドは許さなかったので、魔力を集めて潰してみた。
そんな簡単な攻撃だし、魔王だから再生でもするかと思ったけど、そんなことは無さそうだった。
とは言え、また後で復活してこちらに呼ばれる原因になっても嫌だ。やっぱり消しておこう。
それにしても何故、抵抗しなかったのだろう。まあ、抵抗しても死ぬのは変わらないけれど。
……それより、ユウキとアイネを治そう。
倒れているユウキに駆け寄り、二人を治療する。
「……ヒール」
一瞬、ユウキの記憶を弄るか迷った。きっと、焼かれた時の痛みを、苦痛を覚えているはずだから、記憶を消そうかと思った。
でも、それは、ユウキにこう言った力を使わないのは自分に誓ったことでもあり、ユウキにもそう言った。だからできない。
しばらくすると、ユウキが目を覚ました。
「ユウキ、その、どう?」
「ん……? どうって、何が」
起き上がったユウキは何というか、いつも通りという感じだった。
「何って……その、体の調子とか、精神的なところとか……」
「? むしろお前の方が辛そうなんだけど、何かあったか?」
そう言って心配そうに私を覗き込む。
何かあったかって、コイツは本気で言っているんだろうか。
「ユウキは、私の所為で、燃やされたでしょう」
「ん? 私の? まあ、火だるまにはなったが……でもなんでシュエリアの所為なんだよ。っていうか、喋り方変だぞお前」
私の言葉を、ユウキが否定する。
ツッコミまでしているし……おかげで、少し落ち着いた気がした。
「そ、そうですっ、シュエリアさんじゃなくて、私の所為ですっ」
「アイネ……」
アイネの所為じゃない、面白がって手を抜いた私の所為だ。
「うーん、あ。シュエリア、面白くなかったのか?」
「そんなこと、どうでもいいでしょう」
「え……お前、熱でもあんのか?」
そう言って、ユウキが私のおでこに手を当てる。
「無いな……まあ病気=発熱でもないか……」
しかも、どうでもいい冗談も言っている。
「……なあシュエリア、何を気にしてるかはなんとなくわかったけど、お前は悪くないぞ。って言っても聞かないだろうけどさ、少なくとも、お前一人が悪いってことは、ないからな」
ユウキはそう言って、私の頭をぽんぽんと叩く。
「アイネに付いて行くようには言われたけど、ここまで来たのは俺の意思だし、アイネを庇ったのも俺の意思だ。行動の責任は当然、俺にある。それでも負い目に感じるのを、駄目だとまでは言わないけど、一人で背負いこむな」
そう言って、頭を撫でて来る。なんで。そうなんだろう、彼は、いつも。
いつだってユウキは優しい奴だ。自分が一番ツライ想いをしたのに。私を気遣ってくれている。
「私が最初から倒していれば、こうは、ならなかったでしょう」
「……まあ、そうだな。でも、シュエリアも言ったけど、この世界の事は本来、この世界の内側で完結すべきだ。それに、シュエリアは力があるからって、何かをしなきゃいけないわけじゃないはずだろ」
そう言って、また私の頭をぐりぐりと撫でる。
「そういう意味では俺がシュエリアを頼り過ぎたな。悪かった、すまない。……シュエリアに責任を感じさせてしまったのは、お前ならできるって言う、俺の考え方を、シュエリアに口にしてしまっているからだ」
確かにユウキは私になら魔王を簡単に倒せると言っていた。実際、出来るし、でも、そうしなかった自分を悔いている。
それでも、その考え方は別に、ユウキだけのモノじゃない、私だって、そう思う。
だからユウキが言ったことを気にして、自分を過度に責めているとかそんなことはない。
「私が、面倒とか、楽しくないとか、そんなこと優先しなければよかった……そうでしょう」
私がそういうと、ユウキは、眉をひそめた。
「お前がそんなこと言うなよ。俺は、楽しい事とか、面白いことを求めて、自由に生きてるシュエリアが好きなんだ。だから、面白いことはこれからも追及していけ。お前にはその権利も、自由もある」
「でも……」
「でもじゃない。確かに、お前は強い力を持ってるけど、だからって誰かのために力を振るう生き方をしなきゃいけないわけじゃない。それでも気になるなら、次からは、後悔なく楽しめるように一緒に考えよう。どうせなら、楽しく過ごして、楽しく終わりたいだろ?」
「……そう……ね」
そうだ、せっかくその場は楽しくても、その後に後悔が残るようでは、楽しく無い。
「それと、そろそろいつも通り話してくれないか。いつまでもそんなんで居られちゃ、こっちが気が気じゃない。なんだ私って。わたくしって言っとけよ。今のお前、ハッキリ言って、楽しくないぞ」
「……わかり、ましたわ」
もう、ほんと、変な奴だ。
燃やされたのに、苦しくて痛くて、辛かったはずなのに、わたくしの心配ばっかりしている。
「アイネにも……ごめんなさい」
「い、いえ……助かりましたっ」
「そうだ、アイネも、あの後大丈夫だったか?」
「はいっ、でも、今度からはああいうのは止めてくださいね、兄さまっ」
「いや……妹が傷だらけで、庇わない兄もいないだろう……」
それはそうだけど、アイネの言い分も分かる。
大事な人が目の前で火に焼かれる姿なんて、見ていられるものじゃない。
「まあ、皆無事だし、良かったってことで。帰ろうぜ?」
「……ふぅ、そうですわね」
ユウキもちょっとバツが悪そうだ。どうやらこれ以上追及されたくないようだし、わたくしとしても、これ以上こんな話続けていたくないのもある。
ユウキの提案に乗って、全員で戻ることにする。
道中で鬼気迫った表情のトモリと合流して、魔王を倒したことだけ告げて、詳しくは後で説明することになった。
その後、陣地近くでアシェとも合流。
陣地に戻ると魔王消滅を確認し、戦争の終わりを皆が喜んでいた。
……はあ、これで終わりだ。
わたくしは強い疲労感に襲われながら、思った。
実際の戦闘は全然楽しくなかった。こういうのはゲームだと面白いけど、現実は駄目だ。気分が悪い。
もうこういう事はしたくない。そう思いながら、わたくしはユウキ達に早く帰りたいことを伝えて、家族みんなで早々にこの世界から帰還することにしたのだった。
ご読了ありがとうございました!
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