表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
娯楽の国とエルフの暇  作者: ヒロミネ
102/266

アイネVS魔王ですわ

「来たな、勇者。一度は私を殺した、太陽の勇者よ」

 シュエリアさん達に先行して戦場を走り抜け、敵陣の最奥。

 魔王の居ると予測される位置まで来ると、魔王自らパタパタ飛んでお出迎えしてくれました。

 以前はお城の中だったし、不意打ちで倒したから気づかなかったのですが、飛べたんですね。見上げるのがちょっと面倒な位置に居ます。

「残っていたのは貴女だったんですねっ!」

「あら? 変な聞き方ね。他の魔王を倒したのはアナタではないの? それとも、復活しているとは思わなかった……という事かしら」

 どうやら彼女……リミエラは他の魔王を倒したのが私だと思っているようです。

 実際はシュエリアさん一人がめんどくさそうにしながらやっちゃった事ですが、敢えて言う必要も無いですよね。むしろ私がやったと思ってくれた方が、精神的に有利かもしれません。

 私がそう思っていると、兄さまに名前を呼ばれました、なんでしょう?

「あのお姉さん、知り合い?」

「えっと、私が以前倒した魔王で、リミエラですっ!」

「開幕魔法で燃やした奴?」

「ですっ!」

 私がざっくり説明すると、兄さまは「へぇー、ほぉー」と何だか興味が有るのか無いのかわからない反応をしています。

 まあ、あんなのに興味を持たれても嫌なので、後者であって欲しいですけど。

「今回はアナタ一人じゃないのね。といっても、大分弱そうだけど、そのお仲間」

「むぅっ! 確かに兄さまは弱いけど仲間じゃないですっ! 家族ですっ!」

「なんだろう、本当の事しか言われてないのに普通に傷ついたんだけど」

 なにやら兄さまが傷ついてしまったそうです。むぅ、魔王め、兄さまに攻撃するなんて卑怯です。

「兄さま、下がっていてくださいねっ」

「お、おう」

 とりあえず、兄さまには下がっていてもらいましょう。非戦闘員ですし、不死とは言え痛い思いはして欲しくないです。

「あら、アナタ一人でやる気なの? そんなんで勝てるのかしら。勇者」

「負けませんっ」

 とりあえず、彼女は極悪非道な魔族なので、さっさとやってしまいましょう。

 正直早く帰りたいんです。こっちの世界にも仲のいい仲間は居ますが、それ以上に、帰って兄さまの上でごろごろしたいのです。

「ファイアーボール!」

「アンチマジックフィールド」

 私が魔法を発動するのと同時に、彼女は魔法を使用できなくなる空間を生み出しました。

 おかげでこちらの魔法は消えてしまったのですが……これでは彼女も魔法が使えないはずです。

 まあ、空を飛んでいるのは翼……種族固有のモノなので未だに飛んでいるのですが。

 魔法無しで上を取られていると戦い難いですね、これが狙いでしょうか?

「これで、私が勝ったようなモノね。魔法の使えないアナタに負ける通りは無いわ」

「勇者は魔法だけじゃないですよっ?」

「そうね、でも、魔法と剣だけでしょう」

 確かにその通りです。私は俗にいう特別な力は魔法しか使えないです。ゲームとかで見るようなスキルみたいなものは使えません。

 純粋な身体能力と魔法による強化や高火力が私のスタイルで、スキルという技能は使えません。

 という事は、もしかしなくても彼女はスキルが使えるのでしょうか? それも魔法を封じてしまえば勝てると言い切れる程強力なものが……。

「アイスジャベリン」

「?!」

 アイスジャベリンって、思いっきり魔法ですよね。氷とか水の魔法は苦手ですけど、一応、使えるのでわかります、アレは魔法です。

 ならばと、私もファイアーボールで対応しようとしますが、出ません。

 まあ、魔法使用を阻害する結界があるから当たり前ではあるのですが、何故でしょう? 彼女は使えているのに。

「ほらほら、上手く避けないとどんどん退路が無くなるわよ?」

「むぅっ!」

 右に左に、前に後ろに的を絞らせないように避けているつもりですが、上空から降り注ぐ無数の氷塊、避けても地面に突き刺さり、障害物になる。

どんどんこちらの移動が制限されて行きます。

 魔法が使えれば溶かしたりするんですけど……とりあえず出来る限りは剣で壊していくとしましょう。

 腰に下げていた剣を取り出し、切り裂きます。

 とは言え、流石に邪魔にならないように細かく切ったりする時間は無いので、こればかりに集中しているわけにもいかないです。トモリさんなら違ったかもしれませんね……。

 まあ、それはそれとして、彼女はどうやって魔法を使っているのでしょうか。

 考えられるのはこの結界が私にしか効果が無いとかでしょうか? それとも特殊なレアスキルで無効にしている? 考えても仕方ない気がしますね、これ。

 とりあえず斬りに行ってみようかな。今なら丁度いい足場がたくさん空から降ってきていますから。

 私は氷の槍を足場にしながら魔王に接近します。

「ファイアウォール!」

「にゃっ」

 ある程度近寄ると、彼女は自分の出した氷ごと、広範囲の炎の壁で燃やそうとしてきました。

 流石に空中だったので避けるのは大変でしたけど、空中にまだ飛んでいた氷が邪魔して到達が遅れたので、何とか避けられました。

 ただ、地面にも刺さっていた大量の氷まで一気に解けた所為か、辺り一面に水蒸気が発生してしまいました。

 濃い霧の様で、かなり視界が悪いです。

「ダークライトニング」

「あうぅうっ!」

 こんな状況で雷の魔法?! 一体何を考えて……自分までダメージを受けかねないのに。

 でも、こっちだって痛みにはそれなりに慣れているつもりです、魔法が使えなくても魔力を体に纏わせているので、流石に致命傷にもなってないですし……。

 問題はこれを喰らい続けると動けなくなるかもしれないことくらいでしょうか。

一発でも結構手足が痺れてますから。

「うぅ……? 霧が、晴れてっ?」

 何故かはわかりませんが霧が晴れました……電撃の所為でしょうか?

 おかげで魔王の姿も視認できましたが……バリア張ってますね……自分だけは電撃を貰わないようにしていたみたいです、ズルイです。

「流石に勇者ね。この程度では倒せないと。でも効いてはいるみたいね? 繰り返したら勝っちゃうのかしら? アイスジャベリン!」

 以前は簡単に倒した魔王ですが、今回は魔法も封じられて、飛ばれて、空から一方的に攻撃され……これ、マズいですね。

 トモリさん、アシェさん……後、手は貸してくれそうにないですがシュエリアさん。

 あの三人ならこんな状況でも勝てたのでしょうか……シュエリアさんは魔法使えないとどうなんでしょう。そもそも魔法封じを対策してそうですけど。

 多分、時間を稼げばトモリさんは来てくれると思います。アシェさんとシュエリアさんはわからないですけど。トモリさんさえ居てくれたら、勝機はある気がします。

 なので少し情けない話ですが、時間を稼ごうと思ったのですが……。

 問題はあの霧と電撃を繰り返されると、回避が難しい事でしょうか。

 全速力で距離を離せば、兄さまを連れていても回避自体は出来ると思います。

 でも、それだと戦闘にはならないので、この魔王がフリーになってしまいます。

 ……どうしたらいいでしょう。

 考えている間にも、氷の槍は降り注ぎ、また、大量の槍が残っていきます。そして十分な数になると、炎の壁、次いで、黒い雷。

「ぐっ……うっ……」

 痛みは……我慢できなくは無いです。

 でも、二度目で既に体が大分痺れて、動きがかなり鈍っているのを感じます。

 このままだと多分、次の電撃を喰らう前に……。

「もう随分厳しいみたいね。なら、終わらせてあげるわ」

 そう言うと、魔王はまた氷の槍を放ってきます。

 思う通りにならない脚で、何とか避けようとしましたが、上手く行かず、顔に、腕に、脚に、様々なところに傷を負いました。

 どれもギリギリで致命傷は避けていますが、ギリギリです。足がふらつき、コケてしまいました。

ただでさえ痺れている体にこの負傷、態勢の悪さ、次は避けられないです。

 剣で弾く、斬ることを考えましたが、流石に魔王、その程度は予想済みのようです。

「さて、そろそろいいかしら? ――ファイアーボール」

 どうやら、アレでトドメを刺すつもりの様です。

 いつもの調子ならあの程度の火は斬れたかもしれないですけど……今は無理ですね、避けるのも、厳しそうです。

 以前にファイアーボールでやられた仕返しでしょうか。

 私は一応、誕生日にアシェさんから頂いた薬のおかげで、死ぬことは無いでしょう。

 でも、ここで負けてしまう不甲斐なさや悔しさはあります。それに、私がやられたのをみたら兄さまがいい気分しないでしょうから……ごめんなさい、兄さま。

 兄さまに心の中で謝ると、火の玉はもう既に目の前まで飛んできていました。

 そしてそのまま、目の前で止まって、燃え上がりました。

 え……なんで……?

「…………?! 兄さまっ?!」

 うそ、ウソ、嘘……なんで……なんでっ!!

「兄さまぁっ!!」

 私が駆け寄ろうとすると、燃え盛る腕で払いのけられます。上手く体の動かない私はそれだけで地面に転がり、立ち上がることもできず、燃える兄さまを見ていることしかできません。

 なんで、兄さまがこんなことを。

「あ、あっ……あぁ……っ」

 兄さまを燃やす炎は徐々に小さくなりますが、兄さまもまた、地面に伏して、動かなくなりました……。

「なんで……どうして……」

 理解ができないです。私は、死なないです。今の私は魔法も使えないし、体もロクに動かないです。庇う意味が無いはずです。

 兄さまにだって、それは分っているはずです。死なないからこそ付いて来た兄さまになら、お互い死なないのだから、この程度の攻撃は気にしなくていいってことくらい、わかっているはずです。

「兄さま……にいさま……」

 なんで……なんで私を庇ったりするんですか……わかってるはずじゃないですか……。

 そんなの、私が喜ばないことも、不死者には意味が無いことも。

 兄さまが私のことを想ってくれたのだと言う事は、わかっています。その証拠に、兄さまはあの炎に燃やされながら、一言も声を上げなかった。一般人として、生きて来た兄さまが、全身を焦がす炎に耐えていた。きっと、私に気を使ったんだと思います。

 でも、そんなことをしたって、意味、ないですよ。

 悲しいです、悔しいです、腹立たしいです。情けなさと絶望感に潰れそうです。

 こんなの……自分がやられた方が……ずっと…………。

「はぁ、範囲魔法じゃないとはいえ、たかだか肉壁一体で止まるとか、本当に使えない魔法ね。まあ、次は無いけどね?」

 魔王が何か言っているみたいですけど……そんなの、どうでもいいです。

 兄さまが目の前でやられて、自分も動けなくて。後なんて無いのは自分が一番わかってて。

 もしこれがアニメだったら、ここで怒りに燃えて、立ち上がって、不自然なパワーアップで敵を倒せたのでしょうけど……そんなこと、起こりえない。

 私には私に出来ることしかできなくて、今の私には、地に這って、自分の無力を嘆くことしか、できない。

「さようなら勇者――ファイアーボール」

 空から声が聞こえます。今度の攻撃は私に直撃するでしょう。

 兄さまも私も、体が残っていれば回復させれば動けますが……体を回復させなければ死なずとも動けないままになるでしょう。そうなれば死んでいるようなものです。

 結局、トモリさんが来るまでの時間稼ぎもできなかった。

 そう思いながらも、一瞬、味方が来るかもしれないと、自軍側に目を向けます。

「……え」

 誰かが、歩いてきます。

 トモリさん……? 間に合った?

 これなら、最悪私がやられても、兄さまの体も、守ってくれるはずです。

 そう思いましたが、近寄って来る人の顔をよく見ると、トモリさんじゃありませんでした。

 彼女は、珍しく完全な無表情でした。

 いつもコロコロ表情が変わって、へらへらニヤニヤ笑っている顔。自信満々にドヤってる顔。煽られて怒ってる顔。本当に、表情豊かな人。

 そんな彼女が、恐ろしく冷たい目をして、無表情にこちらに歩いてきます。

 お互いに状態を正確に認識できる範囲に来た時、急に、強い悪寒がしました。

 酷い寒気と、吐き気。酩酊感に、恐怖。息は浅く、上手く呼吸ができない。

 彼女の纏う魔力が、桁違い過ぎるほどに膨れ上がったせいだと、理解するのに、時間はかかりませんでした。

 私は自分が攻撃される直前だとか、そんなことは全く気にせず、彼女から目が離せなくなっていました。

 無表情ながら感じる、明らかな殺意、怒り。

 こんな彼女から目を離せるわけが……ないです。

「これは、どういう状況なのかしら」

「ぁ……あ……」

 声を掛けられますが、上手く答えられません。

 彼女から発せられる圧が強すぎて、口すらまともに動かない。

 恐怖に震えるはずの体も、震える事すらできない程に締め付けられるような圧力。

 どうしよう、どう、説明したら。

「まあ、いいわ。記憶を見たら、わかるから」

 そうですよね。そうです。彼女ならそれができるでしょう。

 それを最初からしなかったのは、怒り故に忘れていたのか、私の口から聞きたかったのか。その両方か。

「……そう。……とりあえず、お前、殺すから」

 そう言って彼女は地に落ちた魔王を指さしました。

 指さされた魔王は……どうやら私と同じ状況の様です。

 身動き一つできないようです。違う事があるとしたら、彼女を知らない魔王は、未知の恐怖に顔を歪ませ、涙していることくらいでしょうか。

「そうそう、私の名前を教えておこうかしら」

 そう言って、彼女は美しい若草色の髪を掻き上げて宣言します。

「私はシュエリア・フローレス。お前が燃やした男の妻で、お前を壊す存在よ」


ご読了ありがとうございました!

感想、評価、ブックマーク等頂けますと励みになります。

次回更新は来週金曜日18:00です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ