ひなたの過去───元彼の好きな人
「昨日、7年間付き合ってた彼氏と別れたんです。理由は、優斗…彼氏ははっきりとは言わなかったんですけど、姉のことを好きになったみたいで。こないだ紹介したんです。結婚も考えてたし、そろそろいいかなって。こんなことになるなんて思ってなくて…」
“ひなた…話があるんだ。今いいかな”
そう言われたとき、私はてっきりプロポーズされるんじゃないかって思っていた。
“えー、なに?”
“…他に好きな人ができたんだ。俺と、別れてほしい”
一瞬、何を言っているのか理解できなかった。もしかして、ドッキリ?そんな風な考えがよぎったけど、彼の切なそうな真剣な表情をみていると、そんなことはないって痛いほど伝わってきた。
“…す…すきなひとって誰…?”
「彼は、いい人だったんです。いつも私のこと思ってくれてて、優しくて…」
“…ごめん。それは言えない。でも付き合ったりとかしてるわけじゃなくて。ただ、こんな中途半端な気持ちのままひなたと付き合い続けることできないって思ったから”
「…すごく…すごく、すごく誠実で、嘘がつけない人で…だから、姉のことが好きってはっきりとは言わなかったけど、私は分かってました。女の勘って言えるほどの確信はなかったけど…2人のこと近くで見てたから、そうかなって…」
北川さんは、なにも言わずに聞いてくれている。それだけでも、ありがたかった。余計な同情とかありふれた慰めとか、そんなものをもらうより、ずっと。