北川さんとの距離
「何これ、すごい…」
すべておわって鏡を見て、私は再び驚いた。
「髪型だけで、こんな変わるんですか?!」
「…そうですよ、髪ってすごいでしょう?いつでも自分の好きな自分に変われる。結ったりしたらまた雰囲気も変わってきますよ」
鏡に映った私は───
誇張抜きに別人だった。
来たときより、うんと華やかですっきりしていて、こなれ感もあって。
「ほんとに、ありがとうございます!」
「いえいえ、また何かあったらお越しくださいね」
はい、と言いながら何の気なしに耳に髪をかけようとすると、かたいものに気づく。…おしゃれなアメピンが、2つ。
(え、これって)
「あはは、気づいちゃいましたかぁ…」
「これ、私のじゃないと思うんですけど…」
おそるおそるそう言うと、北川さんは「サービスなんで」と小声で言った。
「こんないいもの!申し訳ないですよ」
「彼氏、できたんでしたよね?桜井さんと話すの結構楽しかったし、また来てほしいからって言っては何ですけど…なんて彼氏さんに悪いか」
楽しかったと言ってもらえたことは嬉しかったけれど───
(彼氏ができたことにしたんだった)
北川さんと話してる時は忘れられたのに、また思い出して泣きそうになる。
「…いえ、ありがとうございます」
何とか言い切った。不自然な笑顔になったかもしれないが、この際仕方ない。