電話越しの約束───side北川翔大
「はい、美容室SOUTHです」
『あ、えっと⋯北川さんですか?』
電話越しに聞こえた声に、あ、と気づく。
「桜井さん⋯ですか?」
そうです、と彼女が答える。
彼女が初めてここにきたのは、少し前のことだ。
彼氏と別れたばかりで、とても辛そうだったのをよく覚えている。
『それで⋯今度、会えたりしませんか』
予約ですか、と聞こうとしていた矢先の出来事に、俺は驚きを隠せなかった。こういうプライベートな電話が初めてなわけではないのだけれど、こういうことをする女性は、だいたいぐいぐいくるタイプの人が多かったから。
「えーと、それは⋯」
仕事の場で、しかも受付の電話で女性と約束するなんて、よくないということぐらい分かっている。けれど、断ったら彼女とは本当に二度と連絡がとれない気がしたので、俺は言った。
「それは構いませんが、スマホの電話でお願いできますか」
『ほ、本当ですかっ?』
ぱあっという音がしそうなくらい弾んだ声が返ってくる。ついつい口元が綻びかけるのをこらえつつ、「番号は090-123456なので⋯では、ここで失礼しますね」と返した。
どうして彼女の誘いを受けたのか、自分でもよく分からない。あの日のインパクトが強すぎたためほぼ初対面ということを忘れかけていたけれど、俺と彼女が会ったのは、まだ一回だけだ。
俺、どうしたんだろう。
あの日からずっと、女性とは関わらないようにしてきたのに。
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