自分のためにきれいになること
「いかがですか?」
鏡に映る自分を見て、驚いた。
「…すごい、です」
これまで髪はただのばしていただけだったけれど、一束くらいの短い触覚が、顔の横に流れていて、それだけですごくセクシーで大人っぽく見える。
毛先は少し外にはねていて、段があるのか軽くなっていて、すごくおしゃれだ。
「でしょ。髪の毛って、ただ短くするだけじゃつまんないんですよ。あ、この外はねなんですけど、これ、作ったわけじゃないんですよ」
「え、じゃあどうやって…」
美容師さんはにこっと笑って、腰をかがめて私の方に顔を寄せた。
「桜井さんは比較的ストレートですけど、直毛の人なんていないんですよね。だいたいみんな、緩やかなS字カーブを描いてるんです。ちょうど、この肩にかかるかどうかくらいの長さだと」
そっと髪を触られる。
それが一瞬、彼の姿に重なる。
「外はねになるんですよ」
「そうだったんだ…初めて知りました」
美容師さんは髪から手を離すと、「もっとこうしてほしいということはございませんか?」と聞いてきた。
「…あの、こういう髪型って茶髪の方が合うんじゃないですか?」
「ああ、確かに茶髪だと、より明るいイメージになりますね!」
「じゃああの、カラーも追加できますか…?」
せっかくきれいになれたんだから、どうせならもっと良い自分になりたい。
「もちろんですよ、かしこまりました!おしゃれはね、人のためにするのもいいですけど、自分の好きな自分でいられるって最高なんですよ」