失恋をしたから髪を切る、なんて。理由に君を利用しただけ。
教室が、ざわめいた。
夏服になってしばらくたつ制服の肩の上で髪がゆれる。
「え、なに、イメチェン?」
声をかけてきたのは親友とよばれるところの少女であるが、教室のいたるところから視線を感じる。いや、教室だけではなかった。校門をくぐったあたりから、少しずつ視線を集めながら教室の自分の席にたどり着いた。髪を切っただけで視線が集まることの自覚はあった。
「そう、イメチェン。暑くてさ、耐えらんなかったの。」
できるだけ明るく聞こえるように声をつくって、笑顔もつくった。
がらり、と扉を開けて教室に入ってきた彼は、こちらに目を向けた瞬間、動きをとめた。しかし、誰にも声をかけず、誰にも声をかけられず、クラスメイトの波をよけて、自分の席を目指す。そして今日も、今日がはじまる。
「俺のせい?」
教室移動のとき、ひとりでいたところを彼につかまった。彼につかまえさせるために、ひとりで歩いていた。
「なんのこと?」
なんのことかなんて、わかりきった上で首をかしげてみる。
「髪を切ったことだよ」
まったく表情を変えずに、かれは言葉を続けた。
「『失恋したら髪を切る』って話?」
馬鹿にするようにわらってやった。
「私があんたにふられたから、髪を切ったって?」
彼は、何も言わず、たたずんでいた。
「私は髪を切りたかったの。だから、あんたにふられた。」
彼の目が、わずかに開かれる。
チャイムが鳴った。カーテンが揺れた。




