表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋文  作者: 鶴園 稔
5/6

失恋をしたから髪を切る、なんて。理由に君を利用しただけ。

 教室が、ざわめいた。

 夏服になってしばらくたつ制服の肩の上で髪がゆれる。

 「え、なに、イメチェン?」

 声をかけてきたのは親友とよばれるところの少女であるが、教室のいたるところから視線を感じる。いや、教室だけではなかった。校門をくぐったあたりから、少しずつ視線を集めながら教室の自分の席にたどり着いた。髪を切っただけで視線が集まることの自覚はあった。

 「そう、イメチェン。暑くてさ、耐えらんなかったの。」

 できるだけ明るく聞こえるように声をつくって、笑顔もつくった。

がらり、と扉を開けて教室に入ってきた彼は、こちらに目を向けた瞬間、動きをとめた。しかし、誰にも声をかけず、誰にも声をかけられず、クラスメイトの波をよけて、自分の席を目指す。そして今日も、今日がはじまる。


 「俺のせい?」

 教室移動のとき、ひとりでいたところを彼につかまった。彼につかまえさせるために、ひとりで歩いていた。

 「なんのこと?」

 なんのことかなんて、わかりきった上で首をかしげてみる。

 「髪を切ったことだよ」

 まったく表情を変えずに、かれは言葉を続けた。

 「『失恋したら髪を切る』って話?」

 馬鹿にするようにわらってやった。

 「私があんたにふられたから、髪を切ったって?」

 彼は、何も言わず、たたずんでいた。

 「私は髪を切りたかったの。だから、あんたにふられた。」

 彼の目が、わずかに開かれる。

 チャイムが鳴った。カーテンが揺れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ