「好きだ」とも「愛している」とも言わないで、「またね」と別れる。それだけのひと。
振り返ってはいけない。そう、振り返ってはいけないのだ。
「ひさしぶりに会おうか」と持ちかけたのはどちらからだっただろうか?
男の人と、ふたりきりで会う。
デートだろうか?
いや、そもそもデートとはなんだ。
最近は同性の友人でも親子でも、ふたりで出かけるときは「デート」と呼ぶらしい。
それならばこれはデートと呼べるだろう。
やはり、デートとは呼べない。
呼んでしまえば、なにかの均衡が、崩れてしまう。
彼が私の住む街に来ることもあれば、私が彼の住む街へ行くこともある。
今回は後者だった。
「今日は何が食べたい?」
まるで昨日も会っていたかのような聞き方だった。
「和食かしら?お酒が呑めるところがいいわね。」
会うのは二年ぶりで間違いないのに、昨日の続きのように話せることを疑っていなかった自分に、このとき気づいた。
彼が案内してくれた小料理屋は、ご飯もお酒もすごぶる美味しかった。
心地よく酔えたころ、彼は私を最寄り駅まで送ってくれた。
改札を潜るまえに、互いにてを振る。
「またね」
「うん。また」
振り返ってはいけない。そう、振り返ってはいけないのだ。




