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ヨルが生まれた

「ぶへっ、くしゅん!……んアー」


宿の前で体をペタペタ触ってチェック。よしよし、おれはおれのままだな。筋肉とアバラを感じますね。


「ただいまー」

「おかえり」


部屋に戻ると灯富が振付の練習をしてた。表情はふつうで、もう悩んでる様子はない。でかいやつが部屋で腕を伸ばすと圧迫感あるな。


「振りつけんの?」


今日のライブは振りも通常より少なくしていた。ふつうにダンスと歌を歌うと呼吸も声量も乱れて聞き苦しくなる。BGMがつけられないいまは、とにかく声を重視することにしたんだ。


「あー……いやまぁ。それに体を動かしてるほうが落ち着くと思ってさ」

「いつもなら練習漬けだもんなぁ」


振り回される灯富の腕を避けながら、ベッドに脱いだ服を引っ掛けてパンイチになる。脱ぐときちょっとドキドキしてしまった……うむ、おっぱいはない。

動揺をみせないように、受付に貸してもらったタオルで髪を拭く。うん、髪も短いね。


「なにかあったか」

「ひへえ!?」


声が裏返る。灯富ってやたら勘がいいからな。いや、バレてなよな。怪訝な顔しつつも灯富がベッドでストレッチを初めた。


「なんだそのリアクション。まじでどうした」

「ど、どうもせんが? いや、あ、そう明日! モゴック爺が働き口教えてくれたから行ってみようと思ってる」

「働き口? 夜尾、それならみんなで」

「皆は練習とつぎのライブの対策しててよ。いつ元の世界に戻るかわかんないんだし、仕事もとりあえず話聞くだけだし。当座のお金稼げればいいだけだしさ」

「…………」


無言こわー! めちゃくちゃ早口で言ったけど、ごまかせたかな。女になるのはバレてないよな?バレるわけないよね?……ないよね!?


「あぶない仕事じゃないな?」

「う、うん」

「わかった。明日の日中はこの世界の歌について情報収集と対策をやっておく」


なんかすごい事情を飲み込んでくれたっぽいけど、資金難なのは本当だから、ライブで稼げないならどっかでバイトしなきゃだめだ。それは灯富もわかってくれてるんだよね。


灯富はルーチンみたいにやってるストレッチをやめて、おれを真っ直ぐみてきた。


「宮林と成風にはおれから話しておく。……負荷をおわせてすまん、よろしくな」

「おうよ!」


ニッと笑って親指をたててやった。




翌日。

まずは男のままでモゴック爺の地図をたよりに行ってみると、少し大きめの家があり、ムキムキな男たちが剣をふっていた。騎士のみなさんだ。

木刀じゃなくてキラッと輝くのが本物の剣にしかみえないし、たぶん本物だ。


(物騒ぅー)


石塀の門からこそっと覗いてたら若い兵士が気づいて寄ってきた。直前まで素振りしてたから剣を鞘にいれながら歩いてくるんだけど、おれの行動如何ではその剣のサビになるかと思うと緊張感やばい。


「何用ですか」

「し、失礼しました。実はこちらで仕事があると伺いましてやって参りました。お話を聞かせていただきたいのですが……」

「ああ、でしたら裏へ。仕事を取り仕切ってる方がいます」


若い騎士は親切にもその責任者のところまで案内してくれた。裏庭に面した小さい部屋にはおばさんがいて、騎士が一礼して去っていくとおれを上から下までじっくりと見た。


「男はいまは必要ないよ。帰りな」

「え」


びっくりしてたら追い出された。

家の外でぽつんと立つおれ。


(展開早すぎィ)


まあね。まあそんな気がしてたよ。だってモゴック爺は女になったおれにだから仕事紹介してくれたんだろうし。


おれはキョロキョロとあたりを見回して、良さげな森の木をみつけた。昨日の雨が葉っぱにまだ残ってて濡れてる。


木を揺らして雨水を落として頭からかぶる。葉が茂ってるからそれなりの量の水が降ってきて、3本分の雨水を被ったら女体化した。


ジーンズの裾を折って短くしトップスのシャツを腰にまいてウエストを絞め、Tシャツ姿になった。ブロンドのロングヘアを前に垂らすと、その下のおっぱいが強調されてなかなか良い仕上がりだ!


「よっしゃ」


表に回りなおして正門へ堂々と立つ。


「すみませーん」

「何用ですか」


さっきと同じ騎士がやってきた。


「お仕事あるって聞いたので、お話きかせてください!」


ニッコリ笑って元気よくはきはきと!たくさんの同僚というかアイドルを見てきたから女性アイドルの作法はわかってるつもりだ。


「どうぞこちらへ」


騎士につれられて責任者のおばさんの前へいっても、愛想よくニコニコしておく。

やはり上から下までじっくりみたおばさん。


「洗濯係がいるんだよ。そのほかにも雑用を頼むかもね。朝から昼までで日当5ガルだ。結構な力仕事だが出来るかい」


5ガル。

おれたちの一日の宿泊代の半分だ。でも午後が空くなら掛け持ちもできるかもしれない。


「経験はないんですが、精一杯がんばります!どうかよろしくお願いします!」


ぺこー!としっかり頭を下げた。


「じゃあさっそくやって貰おうかね。奥で準備してるから行っておいで」

「はい!」


おお、さっそく仕事か。これは本採用でいいのかな?わかんないけど、やってこよう。

おばさんが指さした方向に向かおうとしたら呼び止められた。


「あんた、名前は」


な、名前……っ。

夜尾じゃなんかあったときヤバそうだし、ヤオミ……ヤオコ、ださい!あああ、どうする!


「なんだい?」

「ヤ、違う、よ、ヨルです!」


こうして女子のときのおれはヨルになった。

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