判明した魔法
「雨まで降ってくるとか残酷すぎくない?」
モゴック爺のとこに行くまでに小雨が降りだした。
早足で月が雲で隠れて暗いし、知り合いもいない町で早足に帰る人々とすれ違うのが、もーなんだか寂しくて仕方ない。端的にいうと「おうち帰りたい」の気持ちだ。
雨で濡れたせいかズボンがずり落ちて困る。
おれも早足で雑貨屋さんへ駆け込んだ。
「おじいちゃーん」
「閉店だ」
「そんなこと言わんで……買い取りして」
アクセサリーをそんなにつけないおれは、もうベルトを売るしかないのだ。革だしバックルが格好良いやつだから一晩分くらいの稼ぎになるといいんだけど。
濡れて外しにくくなってるベルトをガチャガチャやってるとモゴック爺の慌てた制止が聞こえた。
「おい、おい! やめろ」
「いやこれしか売るのなくて……」
「女がこんなところで服を脱ぐんじゃねえ」
「は?」
おんな?
言われたことが処理できなすぎて思わず顔を見たが、モゴック爺は顔をそらしてる。
「モゴック爺、おれのこと女と思ってたの。そりゃこの町の男と比べたらヒョロいけど、こう見えて男だよ、つか30越えたおっさんなんだよ」
んんっ、てゆか声がおかしい。風邪引いたかな。
急な雨ってこれだから困るよ。
「……なんで名前を知ってんだ」
「うん??」
まさか、お年だからちょっとボケちゃってるんじゃ……。
買い取りもしてくれて頼れるおじいと思ってたけど、もっと労らなきゃいけない存在なのかもしれない。
見れば見るほどおじいだもんなぁ。
怪訝な表情でこちらを見てるモゴック爺と見つめ合うことしばし。
おじいがひょいと片眉をあげた。
「……おめぇ、ヤオか」
「! そうだよ、思い出せたんだねっ」
「なんだその言い方は。そのとんちきな服は見覚えがあるってだけだ。それよりおめえ、呪い沼にハマったな?」
呪い沼? 話がわからなくて首をかしげてたら、モゴック爺が棚から鏡を取り出してこちらを向けてきた。
何気なく覗き込むと、そこにはブロンドの可愛い少女が。鏡じゃなかったんか?
後ろを振り向くが誰もいない。
「???」
「ヤオ。おめえはいま、女になってる」
「え、いやうそうそ、なに言って……おっぱい!!!!」
己の体を見下ろしたらふっくらむっちりのおっぱ、オッパ、
「はばばばば!?」
尻もちをついた瞬間、目の前が暗転した。
目を覚ましたらイケメンが目の前にいた。
なにを言ってるかわからないが、おれだってわけがわからない。
「うん?目覚めたかい。気分は悪くないかな」
「へあっ、は、はい」
「そう、よかった。……モゴックさん、では私はこれで失礼します」
「フン、見回りご苦労だな」
イケメンが店から出ていって気づいたが、おれはアンティークな椅子に座らされていた。服はそのまま。おっぱいもそのまま……
「オ、オゴゴゴ」
「突発的なことに弱ぇな」
「説明…っ説明をお願いします……っ」
パニックになる寸前で縋りついたモゴック爺は、愛想はないままで、でも親切に説明してくれた。
いわく。“呪い沼”という沼に嵌まると性別が逆転したり、全く別の生き物になったりするらしい。古代の魔法使いが作ったもので、場所も不定でどこに現れるかわからないんだって。
(そんな沼に入ったおぼえ…………あるぅ!!!)
あるわ!昨日の夜に森ではまったアレか!
「治し方はどうしたら!?」
「ねぇな」
「ああああああ……」
床に倒れ込むしかできない。魔法ってなんだよ。どんな世界なんだよここは。でも現実に女子になってるし。
「フン、これを使え」
モゴック爺が紙を細くねじったこよりをくれた。
「くしゃみをしたら戻るらしい」
「!!」
おれは迷いなくこよりを鼻に突っ込んだ。
ぞむっ!グリグリ……
「ぇぶ……へっ、ぶしゅん!」
でかめのくしゃみにちょっと耳がキーンしてたが衝撃が、収まってすぐにババッと体をチェックする。
「も、戻った………」
「フン、伝承は本当なんだな。水に当たらなきゃ女になることはないだろ」
「水がやばいの?」
「外へでてみろ」
言われるまま雨の降る外へ。
「………なった」
店の扉を開けたままなのでそのまま店内に戻りモゴック爺を振り返る。へへって変な笑いが出た。
だまってこよりを渡してくれるのを受け取って、くしゃみを一発。
「どうしたらいいんですかね……?」
「金は稼げそうじゃねぇか」
「え……っそれは体を使う、いや、う、売る……」
最終手段だと思ってたけど、たしかにいまのおれたちにはお金が必要ではある。歌で稼げないことには宿代も食事代もままならない。
(こ、これはリーダーとして覚悟を決めなくちゃいけない場面か……!)
「さっきの騎士団が手伝いを募集してる。洗濯係あたりなら出来るだろ」
「騎士団?」
「しばらくここに駐在するってよ。明日いってこい」
モゴック爺は地図を簡単に書くとそれをおれにくれた。