戻ってきた町
夜更けについた鉱山の町は、ガララーテの街に比べれば街頭もなくて人もいないが、なんだかほっとする空気だった。
送ってくれたセルパンさんに礼をいって別れようとしたが、深夜ということもあり宿まで送ると言われてしまった。深夜に女児をひとりにさせないっていう、めちゃくちゃ人道的な申し出だったんだけど、中身がおじさんとしてはすごく困る。
それを灯富が「いや、ここは僕が」といってムリクリ引き離してくれ、それから時間を置いて灯富とふたりでリーヴォリさんのお宅に戻ってきた。
「おかえりなさい、ヤオさん、ヒトミさん」
「ただいま戻りました。リーヴォリさん、起きててくれたんですか」
「ええ、みなさんが無事にお帰りになって安心しました。さきに到着したおふたりはもうお休みになってますよ」
出迎えてくれたリーヴォリさんが目尻を拭ってるから、おれたちもなんかジンときちゃった。
3日離れてただけなのに、すっかりこの町に馴染んできてるんだなぁ……。
おれたちが不在の間も部屋を整えてくれていたリーヴォリさんの厚意にあまえ、ベッドにもぐったらすぐに寝てしまった。
翌日。
うっかり昼まで寝てしまい、慌てて起きたらメンバー全員同じく寝過ごしてた。
「三日で街への移動は体力を使うでしょうね。今日はゆっくりなさるといいわ」
温かいスープと町で買ってきたパンを食べながら、リーヴォリさんに旅の話をしてる。
リーヴォリさんもガララーテには行ったことないらしく、職人街のこととかを興味深そうにきいていた。
「キオッジャさんはスカウト出来てるかなぁ」
「よく考えなくても、あれって引き抜きになっちゃうっすもんね……怒られてないといいんすけど」
「派遣の代金は新人ならひとり10ガルらしいですよ」
「四人組なら40ガルか……ライブで稼げたら3回に一度は呼べるな」
とはいっても、いつ来るのかの約束すら出来てない。契約書とかがあまり使われない世界なので、一般的に約束は口約束だからな。
「ドラムもリュートもすごかったけど、あまりアテにしすぎず、とりあえずまた地道にライブをしていこうな」
「ああ。それで楽団を雇う準備をして、余裕があれはふたたびガララーテへ行けるかもしれない」
「っすね!」
「がんばります」
そうして午後は練習、夜はライブをすることになった。
町へ買い物へいくと、常連さんに声をかけられ「よお帰ってきたのか!またいくぜ!」とか言われたのにはすごくうれしかった。
4日ぶりにやったライブにはしっかり観客もいて、常連さんがあいかわらず盛り上げてくれる。ほんの数日なんだけど、初めての連日休んだのがじつは少し怖かったんだよな。
「だれも来なかったらどうしようかと思いました……」
「ふふふっそんなわけないじゃない!」
「こんなに楽しい夜が戻ってくるのよ?時間通りに、いえ、時間より早くくるわよぉ」
酔っ払ってる女の子二人組にも慰められ、夕食を奢られながら旅の話をして、歌を歌って、みんなで踊ることができた。
日常がもどったので、それぞれ午前中は仕事をはじめた。
おれは日頃は日雇いの掃除仕事、週に3回ほど貴族の家で洗濯仕事だ。
「あなた、さいきんいなかったわ」
「そうですね、出かけていました」
これまでと違うのがこれ。貴族のお嬢様が絡んでくるようになったこと。
洗濯してると干し場にいて、近くの木箱にすわりながら話しかけてくる。お嬢様はおれの同僚であり先輩のマリーンさんとはあんまり話さない。メイドの服を着てる人が嫌だそうだ。
「どこにいってきたの?」
「ガララーテです。楽団を、いえ、音楽家をさがしていました」
「音楽家?そんなのわたくしに言えばすぐに会わせてあげますのに」
いや無理だろ。下っ端使用人がお嬢様にお願いって、たたっ斬られても文句いえないやつじゃん?
「おれ、いえ、わたしが探していたのは変わった曲を弾ける方ですから」
「変わった曲? なにそれ聞きたいわ! パーティーの曲ってきらいなのよね!」
「そうなんですか?」
お嬢様が普段聞くとなるとクラシックってことだろう? 映画とかを思い出すと、貴族は社交ダンスしたりして楽しんでるイメージがあるけどな。
「決しておどりが苦手だからというわけではありません! いいですか!?」
「はい」
おれは釘をさされながら理解した。このお嬢様は苦手なんだろうなぁ。
「そんなことより!」
「はい」
「その変わった曲とやらを聞きたいわ! 連れてきて!」
「え、いえ、まだ町に到着していませんし、来ても練習をしないと、」
「聞きたいわ」
「あ、はい……」
すご。幼いのに迫力あるわ。生まれが貴族だと、気迫みたいのも生まれながらに持ってんのかなってくらい圧を感じた。
「あっでしたら、ライブを見に来、いえ見に行ったらいかがてしょうか。楽団はまだですが、歌だけでもきっと雰囲気はわかりますよ」
「歌だけ……?」
なんてね。お嬢様だから鉱山の町なんかには来ないだろうけど、こうして悩んでてくれたらその間はしすかになる。行くか行くまいか、たくさん悩んでてください。おれは洗濯のつづきを……
「行くわ。場所を教えなさい」
お嬢様は即決するタイプだったらしい。




