ストリートライブ
「新曲って……“new world”か?」
「うわ、やばい、ぼくダンスの振り練習してない」
日本で公開するはずだった新曲、いまだ日の目を見ることがなかったこの新曲をここでやる。
「“new world”はダンスナンバーっすよ? シンセまでは言わないけど、それこそドラムなりギターなりは必要っす。無音でいくのはちょっと……」
「カウントとれれば踊れはするだろ? 職人さんは当たり前だけど、おれたちのことを何も知らない。だったら知ってもらおうよ、おれたちがどれだけ音楽を必要としてるか」
「歌えるでしょうか、激しいから声が保つか……」
自信がないって表情だ。でもほかに打開策も、時間もないんだから、やってみたらいい。
「……そうだな、とにかくまずは聴いてもらおう。職人たちだけじゃなく街の人にも聞いてもらって、これだけ大きい街に知り合いと伝手ができるのは今後の活動に有利だと俺も思う」
かつて地方で飛び入りやドサ回りを、おれとふたりでやってた灯富はさすがに肝が座ってる。広場を見回してストリートライブに適した場所をチェックし始めた。
「ミヤ、成風、やってみようよ」
「う、……はいっす」
「はい。でもちょっと練習させてください」
「もちろん!」
お客さんの前でやるなら恥ずかしくないやつやろーな!
街の人々が仕事を終えだす夕方まで、おれたちは空いてるスペースでダンス練習を始めた。
大きい街の大きい広場だから場所はいくらでもあるし、中央に天使っぽい石像を飾ってる。それに背を向け、おれが「1、2、3、4…」と口でカウントをとり、それぞれがパートでは呟くように歌詞を口ずさむ。ダンスは振りの確認を目的としてるので、全力ではやらない。
「あー、鏡がほしいっすねーっ」
「出来てるか不安……」
「なあみんな、聞いてくれ。声が揺れすぎるから各パートのときはダンスは普段より落とし気味でいきたいんだが、どうだろう」
「さんせー。てかサビんときもキツそうだな」
「ダンス自体キツイですもんね……一回が限界かも」
「マイク、マイクがあれば……!」
マイクがないから声をライブより大きめに出さないといけない。でもダンスで酸素を持っていかれるから声がでない。
(そもそもキツめのダンスナンバーだしなぁ……)
振りの確認なのに汗ばんじゃう。やばいかな。いや、新曲やりたいって言ったおれが弱気になったらダメだよね。
「すこしBPM下げよう。できれば歌詞も聞いてもらいたいし」
「っすねー。息あがって歌詞追えないとこあるっすね」
「じゃあラスト一回、やってみようか」
夕暮れてきた広場にはたくさんの人が行き交っていた。目論見どおり仕事帰りの人がおおく、職人っぽい姿も見かけた。
おれたちは屋台から離れた、中央の石像に近いところに横並びになる。
整列してると言ってもいい見知らぬ男たちに、人々の視線が集まるのを感じた。おれは目だけで隣に立つ灯富をみると、灯富もまたこちらを見ていて、深呼吸。頷いた。
「お仕事帰りのみなさんこんばんは! ぼくたちは【ロックオブサンド】です!」
声を張り上げてさらに注目を集める。
おや?という顔で足を止めてくれる人もいた。ありがたい。屋台に並んでる人でこっちを気にしてる様子の人もいる……よし!いい感じだ。
「足を止めていただきましてありがとうございます! 本日はぼくたちの新曲を披露しにきました! お食事を片手にでも、お暇つぶしにでも、どうか聞いていってください!」
「よっ、大道芸かい?」
「兄ちゃんたちがやるのかよ、細ぇなあ」
ヤジが飛んできたけど、興味はあるみたいでおれたちを中心にして、まばらだけど人だかりができてきた。
(うおお、緊張する……!)
おれが言い出したんだけど、曲なしで歌とダンスだけって大丈夫か!? 全体像をみないまま強行してる不安がどんどん募ってきた。
メンバーたちを巻き込んでる自覚がある。ちらりと横をみた。
(!)
不安がっていたはずのミヤと成風は、緊張に顔が強張ってはいる。でも真剣なやる気に満ちた顔だ。
「……。それでは、それでは聞いてください!」
スタートポジションにつく。灯富以外は後ろを向いて、おれは小さくカウントを口に出す。
歌いだした灯富のに合わせ鼓動するように肩を揺らし、一気にフォーメーションをかえる。振りをシンクロさせて、つぎに歌うのはミヤだ。ミヤだけが整列したおれたちから外れ、ヒップホップの動きをナルシスティックに表現。
バックでダンスをしつつ観客をみる。不思議そうな顔をした人、眉をしかめてる人、口元をおさえてるご婦人。離れて行く人と逆に寄って来る人もいる。
(好意的かどうかもわからないけど、このままライブを続けていくしかない……!)
おれたちは夢中で踊り続けた。




