お邪魔します
職人街は街とはやっぱり雰囲気が違った。ムキムキしたおじさんの人口密度が高くなり、トンテンカンと木槌の音がそこここから聞こえてくる。連なる工房からは職人らしい野太いおっさんの声や怒号が飛び交っていて、楽器を作ってるとはちょっと思えなかった。
「荒らそうですね……」
なにが、とは言わないが。つぶやいた成風は灯富のうしろにスススと移動した。なんというか、いままでこの世界で見た飲み屋よりもおじさん達のテンションが高い。
「ここまで来たんだから行かないわけにはいかない……っ。ちょっと怖いけど片っ端から話を聞いてもらおう」
「俺がまず入ろうか」
「いや、ここは初見、人当たりの良さそうなほうが……」
「………」
無言で灯富以外、おれとミヤと成風が円になる。深呼吸をして……
「っじゃんけんぽん!!」
グー。パー。パー。
「ああぁぁ……言ってくるっす」
「大丈夫、すぐ後ろにいるから」
しょぼんとしたミヤを前にして、一軒目の工房をノックして扉を開けさせてもらう。内部はひらけていて、小さい机が適当にあり、職人さんたちがそこで木を叩いたり磨いたりしてるようだ。
「お仕事中すみません、どなたかお話させていただけませんか」
「ああ!? なんだオメェら! 部外者は帰れ!」
おれの腰ほどの身長のおじさんが、先端が熱で真っ赤になってる金槌をもって怒鳴ってきた。き、凶器になりえるやつじゃん。
「あ、はい。失礼しました!」
乱暴な話し方はまだいいけど、凶器は駄目だ。
おれたちはサッと工房から立ち退いた。
なんか持ってる人相手には逆らわない近寄らない。アメリカで身についた護身術だね。
「いやいや……ぜんぶ“ああ”なら無理くないっすか!?」
「まだ一軒目だから! きっと穏やかなとこもあるって。つぎはおれが先行するし」
涙目になってるミヤを宥め、おとなり、二軒目をノックする。
「すみません、楽団についてお伺いしたく……」
「ああん!? バクダンについてだと!?」
全身が赤い、上半身裸の鬼みたいなおじさんが振り向いた。背後には楽器ではなく、槍や剣、でかい斧が飾ってある。鬼おじさんはギラッと光る牛刀を持ってて。
(あ、楽器屋さんじゃない……)
「間違えました、失礼しました!」
グイと襟首を引っぱられて外にでる。灯富に引き寄せられたらしい。すぐさま扉をしめる成風と、ミヤは……灯富のうしろにいた。ちょっと心が折れてる顔してる。気持ちはわかる。
「い、いまのは武器屋……?」
「“職人”街だからな。そういうこともあるんだろう……」
「「「「 ……… 」」」」
無言のおくに、これやばくないか?やめたほうが良いんじゃ、みたいな空気を全員が感じた。実際おれも思ってる。
「い、いや! ダメだ、諦めるなよ! 見ろよ無事じゃん、先入を捨てよう。危険はない、あっても逃げられるやつだ」
「そうだ。相手は犯罪者じゃなくて、職人だ。ああいう見た目もあるだろう」
年長組のふたりで発破をかける。灯富と顔をあわせて頷きあった。そうだ、職人さんはああいう生き物だ。ライブでお願いしたその道の著名な大道具さんも言葉使い荒かったじゃん。でも根っこは優しい人だったろ。
すっかり青ざめてるの年下ふたりを後ろにし、3軒目の扉をたたく。4軒目、5軒目とトライアンドエスケープを繰り返し、7軒目でようやく話をすることか出来たけど、そこの棟梁はエルフでめちゃくちゃ高価な笛を作ってた。楽団として雇うとなると一回100ガルはくだらないそうだ。
15軒目の工房は人間の方がやってたが、お得意様にしか楽団は派遣しないらしい。しかも実力もわからないおれたちに楽器も売れないし貸せないとも。まぁね、そりゃそうだよね。
そうして23軒の工房をまわり終え、街の広場へ戻ってきた。
「収穫……なし」
おれの呟きに、メンバーたちがため息をついた。
「ドキュメンタリー番組とかでも、職人さんって通いつめてやっと心開いてくれたってよく言いますよね」
「……おれたちには2日しかない」
正確には、今日一日と明日の午前中だけだ。
時刻はもう昼すぎ。ランチをとなくちゃいけない。……落ち込みすぎて食欲ないけど。
「せめておれらの曲くらい聞いてほしかったっすね」
(……!)
「そうだな!」
ズバッと立ち上がりミヤの肩を掴んだ。
「なっなんすか?」
「それだよ、曲を聞いてもらおう!」
「“英雄の歌”か? たしかに町で人気はあったが英雄ホワンホーは人間だぞ。職人さんたちな人間外も多いようだからウケるかどうか」
「“町娘”も町にじっさい騎士がいたっていうアドバンテージがありましたもんね」
成風は首を傾げ、灯富も腕を組んで思案顔だ。
おれはニッと唇を笑みにした。
「やるのは新曲だ。日本でやるはずだった、な」




