情報集め
「え、日本語が通じたの?」
「うん。聞き込みのとき日本語で「ありがとう」って言ったらむこうも「どういたしまして」って日本語で返してきました」
成風が「ちょっといいですか?」と日本語で隣の席に話しかけた。隣席は屈強なおじさん三人組だ。日本語うんぬんより厳つい人に躊躇いない態度のほうにハラハラする……!
「あん?なんだ」
「僕らの言葉って変じゃないですか?」
「??」
きょとんとされてる、
(じゃなくて日本語通じるじゃん!)
「僕らはここらへんの人間じゃないんで」
「ほ、方言とか!? 変じゃないかなぁーって」
「ふつうだな」
思わずフォローに入ってしまったが、おじさんたちは顔を見合わせて真顔でこたえてくれた。
礼を言ってテーブルで四人、頭を突き合わせる。
「通じたわ」
「日本語で聞こえたっす」
「……おい。まわりが全部日本語になってるぞ」
「わあ、さっきまで英語だったのに不思議ですね」
おかしいおかしい。食堂にいる人たちの言葉がすべて日本語にしか聞こえない。え、めっちゃ怖くね?
おれがひっそり青ざめてたら、入り口から中性的なイケメン外国人が入ってきた。
その人は店主に何事か伝えると食堂の壁際に立つと、小さいハープを構えた。
「ぎ、吟遊詩人……!?」
「まじすか……!」
ごくりと喉を鳴らす。こんな非日常な光景、興味しかないぞ!
〜 これは とおい異国の話 美しい王女は恋を知らず 国中の若者があつめられた 〜
イケメンが朗々と歌いだした!
しかも内容が昔話っぽい!!
ひゃーっとざわつくおれとミヤ。
「独特の節回しだな」
「うん、ケルトみたいですね」
灯富と成風が冷静にみてる。こんなすごい光景を目の前にして興奮しないとは。
ポロンポロンと鳴らされるハープは陽気な雰囲気で、食堂で飲んでる人たちも盛り上がってる。吟遊詩人の歌詞に聞き入る人、BGM代りにして仲間と飲む人、体を揺らして音楽にノッてる人とさまざまだ。
〜 王女の心はまだ だれのものでもない 〜
ポロン……
イケメンがそう弾き終わると「よっ」「続き待ってるぜ!」とか感想が投げかけられ、彼が逆さまに置いた帽子にコインを入れられた。
一礼した吟遊詩人はさらにつぎの曲を弾き始めた。
「……これだ」
「ああ、これだな」
灯富と顔を見合わせてを頷きあう。
「え、まさかっすよね……!?」
「? なんの話してるんですか」
なんか引いてる年下ふたりの肩に腕を回し、テーブルの上で円陣を組む。
「歌で稼ごう」
だっておれたちアイドルじゃん!!
吟遊詩人は閉店まで歌うらしい。基本的に一晩一人の吟遊詩人が暗黙のルールで、おれたちが今晩歌いたいなら他の店に行かないといけない。
そんなことをお店の子に教えてもらったおれたちは、さっそく歌える店を探しに外に出た。そして、
「うちはいらないねぇ」
「静かに食べたい店だから……すまんな」
「うちはもう贔屓の吟遊詩人がいるから」
「楽器は?あかぺら……なんだそりゃ」
めちゃくちゃ断られてた。
「ハードルたっかい!」
「飛び込み営業を思い出すな」
まだおれと灯富のふたりで活動してたぜんぜん売れてない時代。ギターとベースを持ってバーとかに出演依頼しに行ったりしたな。あのときもくそほど断られたな……へへ、思い出すと鼻がツーンって痛くなる。
「楽器ないっていうのもマイナスポイントなんすね」
「この町に楽器店なかったよね、ギターとかどこかにあるのかなぁ」
ちょっとネガティブになってたら、年下組が建設的なことを言ってた。なんていい子たちなんだ、落ち込んでごめんな。
「雑貨のおじいんとこ行ってみようぜ!」
5時間ぶり2回目の訪問だけど現状、おれたちが知るなかで最も品揃えの良さそうな店はそこしかないからな!
「ねえな」
雑貨屋のおじいこと、モゴック爺ににべもなく断られた。がっつり日本語でのお断りだ。
「そこをなんとか……取り扱ってるお店の情報とか」
「フン、この町にゃそんなお高いもんは置いてねーよ。それにあったとしてオメェが買える額でもないな」
うぬぬぬ。
言われてみれば確かに!
お金がないから歌おうとして、歌おうとしたら楽器がない、しかし楽器を買うお金がない。
「魔のループってこういうこと……?」
「あ、あの! 楽器っていくらなんすか。これじゃ足りないっすっ?」
ずもん……と落ち込んでたら、ミヤが身につけてるアクセサリーをすべて取り、さらにベルトも取ってモゴック爺のまえに差し出した。
「ちょ、ミヤ」
「いいんす。これで活動できるんなら惜しくねっす!」
「いや、だから楽器がねーんだっつってんだろ!」
おじいにツッコまれた。けど助かった!ミヤが外したアクセサリーのなかには、ミヤが思い出を残すために買ってるのがあるから。
「宮、つけておけ」
灯富が手早くアクセサリーをミヤに返す。
「でも……じゃあせめてこのピアスは今後の資金のために売るっす」
「わかった、これだけな」
対になってる細い純金のピアス。
「フン……9ガルだな。そろそろ閉店だからオメェらも宿に帰れよ」
チャリンと9枚のコインをもらった。言われたとおりもう夜更けだ。
「そんじゃ帰ろうか。モゴック爺、ありがとうございました。また」
「おやすみっすー」
「またね」
「では、失礼します」
「東の外れの食堂なら歌わせてくれんじゃねーの」
店を出るとき、ポツリとモゴック爺が言ってくれた。