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初仕事

貴族邸にはメイド長という役所の人いて、セルパンからそちらへ預けられたあと、もっと偉い「奥様」と呼ばれた人に面通ししてからやっと仕事場に連れていかれた。


町よりも遥かにお金持ちな造りで、仕事場の裏庭でさえ植木が綺麗に手入れされてる。着替えを背負ったおれは景色から浮いてる……。


「あなたの仕事は洗濯と雑用です。洗濯はお嬢様のものが多くなりますからくれぐれも慎重になさい。以後の指示はこのマリーンから聞くように」


忙しいようで言うだけ言って去ったメイド長はキャリアの出身!って感じだった。

対して紹介されたマリーンさんは正統派のお姉さんっぽくて、女優になったらいい役来そうなタイプ。


「本日からお世話になるヨルです、よろしくお願いしますっ」

「よろしくね! 私も下っ端だから仕事のほとんどを一緒にすることになるわ。ほかのメイドには会わないと思うけれど、万が一なにか命令されたらとりあえず従ってね」

「はいっ」

「じゃあお洗濯しましょうか」


仕事道具置き場と水場を案内してもらい、もはや馴染みのたらいで洗濯を始める。石鹸が兵舎のものより甘い香りで、お、となった。貴族ともなるとこだわりがあるんだろうね。


「ねーねー、ヨルちゃんは趣味とかある?」


マリーンさんは気を遣ってくれてか色々話をふってくれる。

洗濯の量も少ないし、話す余裕もたっぷりで正直まえよりかなり楽だ。せめて丁寧な仕事をしよう。


「趣味っていうか、音楽が好きです」


それで生きていきたいと思ってます!この世界でも叶えられたらいいんだけどなぁ。


「わっそうなの! 私も音楽が好き! パーティがあるときなんか、こっそり聞いてしまうもの」

「誰か演奏してるんですか?」

「ええ、楽団を呼んで演奏をさせていらっしゃるのよ」

「はぁああっ!!なるほどー!?」

「きゃぁッ……びっくりした」


よほど驚いたのかマリーンさんが胸を抑えてるけど、それどころじゃない。


(バックバンドを雇えたら最高じゃん!)


リュートを買ったら奏者枠でパフォーマンスが一人減るけど、演奏を任せることができたら四人とも歌とダンスだけに集中できる。


「お値段はいくらかご存知ですかっ?」

「が、楽団の? さぁわからないけれど、街からいらっしゃるそうよ」


マリーンさんによると、おれたちがいる鉱山の町のほかに大きい街があるらしい。どちらもこの貴族の領地だそうだ。


「うふふっ気持ちはわかるわ。自分のために演奏してもらえたら夢みたいよね。でもきっと、とてもとても高いと思うわ」

「ですよね……」


費用を調べないことには動けないからね。モゴッグ爺なら知ってるかな? 


(手持ちの額で依頼できるなら、一度くらい試しで……いやコスパがな)


いろいろ考えながら教えられた干場でシーツを干す。シワがないようにしっかり伸ばして叩いてピンとさせてると、近くの建物から少女が飛び出してきた。

で、おれを見るなりビッと指を突きつけくる。


「おんな! わたくしをかくまいなさい!」


飛び出してきた建物はたぶん厨房なんだけど、そこから女性たちの騒ぎ声が聞こえてくるし「おじょーさまー!」とも聞き取れるから、おそらく目のまえの子はこの屋敷のお嬢様じゃないかな? 


偉そうだけど、背後から聞こえる追手の声に微妙にそわそわしてるお嬢様は目で「早く早くっ」と訴えてくる。


「いえ、あの、どうやっても怒られる未来しかないと」

「いいから早くう!」


こちらの事情を説明するまえにもう泣きだしそうになってる。


「どうやってもいいですか」

「いい!いいわ!」

「失礼します」


おれは仕方なく洗濯物を入れていたカゴを被せた。大きいカゴだし、お嬢様自身が協力的でしゃがんでくれたからすっぽり入った。


(クビだなぁ)


裏返しの籠に手に持ってた洗濯物をかけ、干したシーツをペシペシいじってると、ついに厨房からメイドさんたちが出てきた。


「お嬢様ー!どちらですかー!」

「お戻りくださいませぇ!」

「お嬢様ぁ!」


絶対みつかると覚悟してたおれの横をあっさり通りすぎて去っていくメイドさん。こんなあからさまなのに。あまりに堂々と隠されてると気づけなかったりする、あれかな。


「……もう良いですよ」


かぱっとカゴをどかすと、お嬢様がにんまりと笑っていた。


「んっふっふ! 自由ですわね! あなた、褒めてあげるわ」

「ありがとうございます」

「……」

「………」


いや、お嬢様が帰ってくれないと仕事しづらいからどっか行ってほしいのに、ヒマそうに辺りを見たあと裏返しのカゴに腰掛けちゃうっていう。


「あ、わたくしのことは気にせずお続けなさい」


意外に空気が読める子なのかもしれない。

では遠慮なく、と仕事の続きをはじめるが作業をじっと見られてる。なかなかの気まずさだ。


「あの、洗濯の続きがありますので、私は戻りますね」

「ふぅん、そう」


ぴょいとカゴから降りたお嬢様はそのままどっかへ行ってしまった。


おれは午前中の仕事を終え、7ガルを手に迎えに来たセルパンさんと鉱山の町に戻るのだった。

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