市場がきた
「Aメロからサビに行くのはちょっと早い気がするな」
「そうですね、歌ってみるとやっぱり強引さが際立ちますね。歌詞を足したほうがいい」
森で合わせて歌うこと数回。未完の曲だからこその問題点がどんどん出てきた。ワルツをイメージして作られた曲だから、ダンスも気持ちいいステップを合わせたいところだけど、歌詞なしでメロディのみにすると物足りなさを感じた。
「歌詞足すなら情報収集っすかね」
「魔法使いの話はどこで聞けば、ああいや、まずその生態も調べたほうがいいのか……?」
ニュースペーパーか伝説の話かしか受け入れない世界で、歌詞を作るのはすごく難しかった。事実に即したうえにおもしろさを出しつつ、なおかつ新鮮さも足さないとウケない。
そんなプレッシャーがあるのに、おれたちは圧倒的に知識が足りないんだよね。時事も伝説も始めてきく言葉ばかりだ。
4人で楽譜と歌詞カードをじっくり見るが、どうやっても新しい詩は浮かばなかった。
(おれたちがイメージする魔法使いを書いても、聞いてる人は納得しなさそうって予想できちゃうからなぁ)
「よし、そしたら今はここまでかな」
パンと手を叩いてみんなの集中を切った。
午後の時間は自主連するために使うけど、リフレッシュする時間にもしようって決めたんだ。ストレスは無意識にでも溜まるものって、成風が倒れたときに突きつけられたからな。無理矢理にでも自由時間をとります!
「夕方に家に戻ること。じゃー、解散!」
「“町娘”のパーカッションと振りの相性確認したいっすー」
「俺がやろうか。むしろ俺の振りもみてもらいたい」
「ぼくも」
「おれもー」
解散といっても、やりたい事が被ったら一緒にいるんだけどね。
それか二日後。ついに行商の馬車がやって来た。
幸運なことにかなり大手の商人らしく、何台もの馬車が町の入口に到着している。運び出された荷物は広場の市場に陳列されていくが、馬車を並べて展示してる品物もあった。
町の住人もここぞと会いに来るようで、町の入り口から広場まで買い物をする人混みでごった返していた。
こんなに人が集まってるのはここに来て初めてだ。
「うおおお、これは楽しいな!祭じゃん!」
「蚤の市を思い出します、あの置き物なんだろう……」
「あっあのアクセかっこいいっす!センスを感じるっす!」
「待て待て待て待て」
ほぼお祭りに近い市場イベントに目移りしちゃうな!と思ってたら危機を覚えたらしい灯富に取り押さえられた。全員散り散りになるところだったって。はしゃいですまんかった。
「まずは楽器を探そう。どこで売ってるのかスタッフに聞いてくる」
おれはコホンと咳払いをしてすぐ近くにいた商人に聞きに行った。
楽器は高価なものの分類なので、役所の前のテントで販売してることがわかった。楽器を扱わない行商もいる可能性があったから、売ってるってきいてまず安心したぜ。
みんなで聞いたところに移動すると、屋根をはった簡易テントがいくつかあり、店員とおそらく護衛の人がいた。ほかの屋台などに比べるとスペースが小さいけど、並べられてるのはたしかに高価そうなもの。
そのなかに丸っこくて茶色いギター的なものが一つだけ置いてある。
「リュート!」
街にいる吟遊詩人たちがよく使ってる楽器リュートだ!
ほかを見回してもリュートはこれ1本しかない。というか他に楽器らしきものは見当たらない。
「店員さんこれいくらッスか!」
四人で勢い込んで近寄ったせいで警備のお兄さんが店員さんとの間に立ちはだかった。が、気にならない。
待望のリュートが目のまえにあるんだからな!
おれたちの全所持は145ガル。
二ヶ月で貯めた全財産だ。
布袋にいれたそれを握りしめて店員さんの返答を待つ。
「ああ、リュートかい。300ガルだよ」
…………え、足りなくない?
「さ、さんびゃく……」
茫然としたミヤの声が隣から聞こえてきた。わかる、倍以上の額ってちょっと意味わからないよな。
「おじさん、ほかに楽器は?」
「今回はないな」
成風が空を仰ぎ見た。よく晴れた青空に小鳥がとんでる。
「分割、分割払いはできますか」
(ナイス灯富!分割なら払える!)
「すまないね、初めて取引する客にはできないんだよ」
店員さんがにこにことお断りしてきた。と同時に護衛のお兄さんが胸で押してきた。そんなに強く押されたわけじゃないけど、もうおれたちには押し返す体力がなかった。
(頑張ったつもりだったけど半分にも満たなかった……)
あんなに楽しそうに見えた市場をすごすごと立ち去る。
(足りなかったな……お金も、知識も)
努力も。
おれたちは無言で部屋に帰ったのだった。




