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テンポの違い

仕事の斡旋のお話を詳しく教えてもらうと、貴族の住むところまではまあまあ距離があるので送迎をしてもらうことになった。

その送迎担当が、ヴォラティル様のうしろで控えてた直属の部下セルパンさんだ。彼は騎士じゃなくて、監査の役人?だそうだ。

役人のわりに雰囲気はチャラいような気がする。


ヴォラティル様はほかに仕事があるからここでお別れなんだって。まえと同じく兵舎の入り口まで見送りに出てきてくれて、セルパンさんが一歩まえにでた。


「僕が送っていくよ」

「えっいえ大丈夫です」


食い気味で言ってしまった。

男に戻るのについて来られると困るし、なにより呼び出されてたぶん帰りが遅くなってるんだ。お昼はランチ兼ミーティングの時間ってことで、みんなが揃った状態で食べるから一刻も早く帰りたいんだよね。


「ハハッ!振られたなセルパン。年少者に変な絡み方をしたからだぞ」

「返す言葉もありませんね……。いつかはごめんね、信用を取り戻せるように頑張るよ」


後半はおれに向けて、苦笑したセルパンがウインクしてきた。

話の流れでセルパンさんとは以前会っていたのが分かったけど、いつの話だったかな。けどまず気になるのは、


(キザ!)


ウインクはアメリカでよくやられたリアクションだ。この世界の人は西洋の顔立ちだから何処か通じるもんがあるだろうか。おれはアイドルだから仕事のときにウインクするだけで、プライベートではしないぞ。恥ずかしいもん。


とりあえず今回は見逃してくれるようなので、おれはペコリとお辞儀をして小走りでその場をさった。




「貴族の? その話はあやしくなのか」

「値段設定が微妙にカライから信用できそうっすけど」

「男手が必要ならぼくたちの誰かも付き添いみたいについて行けないんでしょうか。何かあったときにふたりなら……」


ランチをとりながら早速新しい仕事の話をすると、みんなが真剣に考えてくれた。もとの世界では騎士も貴族も遠い存在で、そこからの仕事は想像しづらい。


「話聞いたら今までやってたのとほぼ同じで、雑用がメインらしいから危険はないんじゃないかな。仕えるのもそこのお嬢様の周辺らしいし。

それよりもそろそろ商人がくる時期だぞ、どうする」


満月を2回経て、楽器を売ることがあるという商人がこの町にやってくる。


「全員の給料とライブのおひねり、そこから生活費を抜き、これまで貯めた資金は120ガルだ」

「おお!だいぶ貯まったっすね!」

「おれのプラチナリングの買取額が40ガルだったから、多分安い楽器なら買えると思ってんだけど」

「ギターがあるといいですね」


二曲でライブをやること二ヶ月。毎日同じ曲じゃ観客の人も飽きてくる。その証拠に連日来ていた人が三日に1回の来店になったり、ライブ中におしゃべりしている人も見かけるようになった。当たり前の反応なんだけど、歌ってる身としてはすごい焦りが湧き上がるだよな……。


「曲の構想はできているので、今日から出来てるところは合わせたいです」

「えっ成風、新曲つくってたの!? すごいじゃん!」

「いいえ……楽譜は書いたけど、実際に音と合わせてないので気持ち悪い出来です」


成風は唇をかんで悔しそうにしてるけど、さすかうちでいちばん才能あるやつだよ。指針になる音がなくてもメロディをストックしておくやる気も称賛したいところ。


「ちな、歌詞はおれと夜な夜な練りました!」

「バイト先の食堂で見聞きした話をベースにしました」


おれが洗濯してるときは、ふたりは日雇いで食堂の開店準備や呼び込みをしていた。そこで昔いた魔法使いのことを聞いたそうだ。


木の皮でできた楽譜と歌詞カードを部屋から持って来て、成風とミヤが通して披露してみせてくれた。まだ歌詞が出来てないところはメロディだけだ。


「かなり明るい曲、しかも三拍子だよな。エキゾチックな印象だな」

「はい。明るさはギター導入も見込んで。お客さんもダンスを覚え始めてくれたので、それを推進したいと思いました」

「あー……リーヴォリさんがワルツが踊りたいって言ってたもんね」


ワルツみたいな三拍子のほうがみんな踊りやすいのかもとは話したことがあった。この町の人たちはテンポとかリズム感とか、おれたちと少しずつ違うんだよね。

魔法使いがテーマの歌詞もファンタジー味が強いと感じるけど、きっとこの世界の人たちには実際の話になるんだろう。


「いいね! よっし、じゃあパート分けも考えてながら合わせてみようぜ」


新曲にわくわくするのはいつものこと。しかも今回は完全新作だ!

おれたちはランチを片付けるとすぐに森へいき、成風のイメージする世界観や音を確認しながら、夢中で新作の編曲や修正をした。

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