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貴族に紹介

騎士宿舎の仕事最終日。

ベッドシーツや細々としたタオルなど、すべての布類が朝から続々と届いてものすごい忙しさだった。騎士の皆さんは午前中には町を出る出発準備をしてるらしくて宿舎自体はしずかだ。


大量の洗濯物で干し場がすぐいっぱいになったので、いつもは訓練する騎士がいる庭にロープを貼って即席の洗濯干しを作ったりもした。


(ここも日当たりが良いからすぐに乾きそうだなあ)


すっかり洗濯が面白く感じるようになったおれ。

ゴシゴシして干し場へを繰り返してると、騎士たちが綺麗に隊をつくって宿舎から出ていくのも目撃し、それから太陽が真上にきて更に少ししてやっと洗濯が片付いた。


「おわりー!」

「やったぁ終わったー!」

「お疲れ様でした」


盥と洗剤などもう使うことのない物を片付けたら、この仕事は終了だ。


「盥はまとめて倉庫よね、わたしとスイテシーが置いてくるから、ヨルちゃんは洗剤を返してきてくれる?」

「はい!」


瓶に入った粉洗剤を三本持ち、管理人のおばちゃんに渡しにいく。洗剤は高価なものだから「返却した」っていうチェックをしてもらうんだって。


「お疲れ様です、洗剤の返却にきました」

「ああ、待ってたよ。……うん、たしかに受け取った。よくやったね、騎士様方からの評判もよかったよ」

「あっありがとうございますっ」

「それはそうと、あんたのことをヴォラティル様が呼んでいたからすぐに行きなさい。チェルシーたちには先に帰れって言っとくから」

「はい……??」


ヴォラティル様っておれたちを逮捕した女性騎士だよな。


(おれに何の用が……ま、まさかバレたとか)


ゾワっと身震いが勝手におきた。バレるはずない、女体化してるのがバレる要素がない。でもじゃあ呼び出す理由ってなんなんだって、なにも思いつかないね!


「早く行きなさい、お待たせするんじゃないよ」


町長の奥さんとはいえ騎士のほうが偉いんだな。おれは急かされて、宿舎のなかの指示された部屋へ早足で向かう。

その部屋は見たことがあるっていうか、身に覚えありっていうか、


「……取り調べされたとこじゃん」


よりによって。

取り調べられる気しかしない。

けどこういうのって行かなければ大抵の場合、逃げたほうがより悪い結果になるよね。


(また逮捕されてもみんなには迷惑がかからないように。問答には気をつけていこう)


おれは覚悟をきめ、いちど深呼吸してから扉をノックした。


「し、失礼します」

「ああ来たか」


すぐに許可がでて中に入ると、テーブルを挟んで壁際に座るヴォラティル様とその背後に長身の男がいた。見覚えがあるけどさっぱり思い出せない。


「呼び出してすまない、座ってくれ。茶菓子もあるからな」


長身の男がお茶とカゴに入ったお菓子をテーブルにおいてくれた。前回とちがすぎる高待遇にびっくり…視線もなんか柔らかいし、いやいや油断しちゃだめだ…!


「さて、単刀直入に聞くがつぎの仕事は決まっているのか」

「へっ?い、いいえ」

「そうか……では、ここを管轄している貴族のところで働く気はないか」


きぞ、貴族? 


「あの、その、なんで私なのでしょうか」


まったく想像していたのとは違う方向の話に戸惑ってると、ヴォラティル様は目を細めておれを見た。うがった気持ちを抜かせばこれは……慈悲深い眼差しだ。


「わかっているんだ」

「ぅはい!? な、なにを」

「君は呪われているだろう?」

「!!!」


息が止まった。呪いのことを知ってる? おれが女体化するのは“呪い沼”のせいだ。それをこの人は知って……!?

カチン、と固まってるおれをみて、ヴォラティルさまは優しく微笑んだ。


「何故わかった、という顔だな。……じつはな、私は【鑑定眼】のスキルを持っているんだ」

「か、鑑定眼ですか」

「ああ、私の目を通せばその人物のスキルや特徴がわかる、そのおかげで私は監査の職についているんだよ」


(あ!だから取り調べのとき訳わかんないこと言ってたのか!)


言語理解だとかなんだとか。魔法があるらしい世界だ、そういう特殊技能もあるのかもしれない。


「君を視たとき、すべてのステータスが“呪い”によって封じられ見られなくなっていた。このような強力な呪いは滅多にないからな、気になって覚えたんだ。……その後、困ったことや不調などはないか、宿を伝えたが来ないから心配していたんだ」 

「え、えぇと……」

「ふふ、急に言われても混乱するか」


なんか母親みたいな顔で観察されてる。

混乱してるのは確かだし、それにそもそもの打診、貴族のとこで働くっていうのが気になるけど、どう返事をしたら。


「……あの、なぜそんなに気にかけてくれるのでしょうか」


まずね、まずこれだよ。呪われてるとはいえ、ヴォラティルさんからしたらおれなんて知り合いでもないコムスメだぞ。


「年端もいかぬ少女が呪いなどという過酷な状況にあるんだぞ? きみはまだ12歳にもならないだろう、心配しない理由がない」


ずい、とお菓子入れをおれのように寄せてくれたが、え、おれ12歳くらいに見えてんの!?


「ちなみにだが先述の貴族のもとでの仕事は、午前中のみで一日に7ガル、週に二、三回だ」

「やります!」


そんなん即決だよ!

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