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誤解をとく告白

「午後は成風のパート調整。夕食はいつも通りリーヴォリさんとこで食べるけど、成風のぶんの買い物はしとこう」

「おれ、このあとすぐに買いに行ってくるんで、ヒーさんは練習に専念してください」

「ああ、なるべく負担ないようにするから任せてくれ。歌詞カードは成風のところかな」


昼の食事をおえ、食器を片付けつつ今日の予定を固める。

成風がいないけど見に来てくれるお客さんはいるから、今日のところはライブはしなくちゃいけない。

定休日を設けることにしたので、お知らせの話し方も決めなくちゃな。


「じゃ、行ってくるっす!」

「おー。おれたちも用意しようか」


いっかい部屋に戻ろうかと、ランチのときに座ってた椅子に戻り、さり気なく仕事着……つまりワンピースを片腕にかかえた。帰宅して部屋に戻ることなく昼食になったから、枕の下に隠しておけなかったんだよな。


我ながらキレイに畳んでたから周りには“仕事につかう何かの布”くらいに見えてだろう。

恙無く部屋にもどり、ワンピースを枕の下に置く。


「よし、成風の様子みにいこうか」

「夜尾」

「んー?」


準備万端!と腰に手を当てて振り返ったら灯富がじっとこっちを見てた。腕を組んでむずかしい顔してる。

……なぜか嫌な予感がした。


「な、なんだよ」

「モゴック爺さんに紹介された仕事ってなんだ」

「へっ!? し、仕事は言ったじゃん、騎士宿舎の雑用だって」

「配達で何度かそこに行ったけど夜尾を見かけたことがない。どういうことをしてる?」


えっ来たの!?ぜんぜん気づかなかった…!

灯富の聞き方からしてなんかヤバイことやってんじゃないか、嘘ついてんじゃないかって疑ってるのがヒシヒシと感じられた。


(どうするどうするなんて答えたらいいっ?)


女体化してますなんて言えない、いや、言ったほうが……でも言ったときにどんな反応なのか想像がつかない。

ぐるぐると考えるおれにゆっくり近づいてくると、灯富はおれを押しのけてベッドに腰掛けた。

そしてあっさりと枕の下から畳まれたワンピースを引っ張りだしてしまう。


「あ、ちょっ!」

「これ、ワンピースだよな?」


終わったー!!


両手で婦人服を広げて突きつける仲間をまえに、おれはガクッと膝をついた。床板を視界に写しながら、絶と望の文字が頭を駆け巡ってる。


(しぬ、……しぬ)


なんて説明したらいい……。

社会的な死が目のまえにある。30を越えたおじさんがワンピースを枕元に入れてることと、10代の女の子になっちゃってること、どっちのほうがマイルドですか……?


「夜尾」

「……はい」

「これを着ることを強要されてるのか。これを着せられて、宿舎のなかでなにか……」

「んへ???」

「言い辛いだろうけど、正直に言ってくれ。俺は、俺たちは夜尾にそこまでさせて金がほしいとは思わない。セクハラをされてるんだな……?」


おなじく床に膝をついた灯富がおれの肩を掴んだ。なんか気遣わしげな、つらそうな顔してるけど……セクハラとは?


(…………あっ)


「ちっちがう!」

「夜尾、でも」

「見て!サイズ感見て!どうみても男のおれの体じゃ着れないだろ!?」

「……ピチピチサイズのフェチが」

「いない!」


強固に否定したら、灯富はむむ、と眉を寄せて考えこんだうえで納得してくれた。

それにしても婦人服を枕にするヘンタイ、という疑惑の道にいかずにすごいの想像したな。長年の友達がこのワンピース着てるのを想像するほうがしんどくないか。


灯富からワンピースを取ろうとしたら渡してくれなかった。


「どういうことなのか、説明してくれ」


まぁそうなるよな。どう説明したらいいか、誤魔化す言い訳は何かないか……

顎に手をあてて考えてみたが、真剣な表情の灯富をみて急に腹の底で覚悟がきまった。こんなにおれの身を案じてくれてる仲間にウソはつきたくない。引かれても、軽蔑されても真実を言いたい。


「……仕事着だよ」

「! やっぱりおまえ」

「違う。そうじゃなくて、あー……ちょっと待ってろ」


おれは灯富を制して、一度部屋を出て一階へいき目的のものを持って戻った。灯富は相変わらず床に座り込み手元のワンピースを見るともなしに眺めてた。

戻ってきたおれの手元をみて首を傾げてる。


「お待たせ」

「? なんだそれ」

「見てて」


頭上に捧げ持った水差しから、たっぷり入れた水が降ってくる。

人に見られながら水をかぶるのって緊張する。けど、おれはあえて灯富の目を見つめたまま実行した。


灯富の顔がだんだん驚愕に染められていくのがわかった。


「コレで洗濯係をやってる。女子しか募集なかった」

「……はあ!?」

「ちなみにくしゃみで戻る。……くしゅん!」


な?って男に戻ってみせたけど、口をがくんと開けたままの灯富からはしばらくリアクションが返ってこなかった。


まあ、わかる。

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