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慣らされてる

女医さんがなぞのお香を焚き、丸めた草のお灸を用意しにだしたところでしばらく時間がかかると言われたおれたちは、成風の看病をミヤにまかせて仕事にいくことにした。


(過労かぁ……無理させてたの気づけなくてごめんな)


ゴシゴシと洗濯物を洗いながら、息苦しそうな成風を思い返しては反省する。変な病気じゃなくてよかったけど過労はぜんぜん良くない。リーダーなのにメンバーの調子に気をやれてない……せめてあのお医者さんの薬がすぐにきいてくれるといいな。


ふぅとため息をつくと呼応するようにグギュウーとおなかが鳴ってしまった。慌ただしくて朝ごはん抜いたせいだなぁ。ここ数日は朝昼夜って三食食べてたから体が慣れてたんだね。


「ヨルちゃん今日はご飯食べてないの?大丈夫?」


隣で同じく洗濯物を洗ってるステイシーちゃんに心配されてしまった。おなかの音聞かれるのって地味に恥ずかくて、顔が赤くなったのがわかった。食べてないのは今日だけだし、笑って返事をする。


「大丈夫です、今日はたまたま食べられなかっただけで、最近は朝も食べてますから」

「そぉお? ヨルちゃんって細いから心配だわ。足りてるの?」

「はい、足りてます。心配してくれてありがとうございます」


いや、足りてないな。

考えてみれば成人男性の一日の摂取カロリーにはぜんぜん足りてない。食べてるのはほぼ炭水化物で栄養の偏りも甚だしいうえに、午後はふつうにダンス練習とかしてるんだぞ。成風の過労も栄養失調が原因のひとつになるだろう。


「はぁ……」


ライブとか楽器買うとかに集中しすぎた。まずは生活だよ、体が資本って成風がいってくれたんじゃん。


気遣わしげなステイシーちゃんとチェルシーちゃんの視線に、ハッとして笑顔を返しつつ、本日の仕事を終えたのだった。




町の広場でちょっと待ち、仕事をふたつこなしてきた灯富と合流した。


「おつかれ。昼のこと、ってか食事について話があるんだけど」

「ああ、俺もだ。考えてることは多分いっしょだな。……食事の予算を増やそうって話だろ?おれは賛成だ」


灯富はにっと笑って拳をおれの肩を押しつけてきた。

ほっとした……反対されるとは思ってなかったけどさ、おれたちの予算は潤沢じゃないから少し不安だったんだよね。


「じゃあ今日のランチは栄養あるもんにしようぜ。肉とか野菜とか探そう」

「成風は消化のいいもんが良いか、煮込みとか売ってんだろうか」


たち並ぶ屋台をぐるぐると歩いて品物を見ていくと、「精がつく!」「疲れたときにはこれだよ!」と店主がすすめるところはやっぱりお値段相応に高い。4人分買うとなると覚悟のいる値段だ。


「でも今日は栄養補給が優先だよな」


豆パンと串焼き、千切り野菜の漬物、オレンジのようだけど水玉模様の果物を買い、リーヴォリさんの家に帰った。

キッチンにいるリーヴォリさんに挨拶をして、テーブルに買った惣菜を置かせてもらいすぐに二階にあがる。


「あ、お疲れさまっした。成風はいま寝てるっす」


ちょうど扉があいてミヤが部屋から出てきたので、ちょっと部屋を覗いて成風の顔色をみる。そのままUターンするように三人で一階へむかう。


「体調はどんな? 良くなってそう?」

「あっす。薬のんで寝て熱はもうないっす。お香が眠くなるやつらしくっていい感じにうとうとでしたね。怠いけどかなり楽になったって本人も言ってたし」

「過労なら休むのがいちばんだろうからな。治療費は足りたか?」


そうだ、この世界の医療費ってどんくらいなんだろう。まえの世界でだって保険入ってないとめちゃくちゃ高くてヤバイってきくが、当然ながらここにきて保険なんて入ってない。


「あー足りたんすけど……薬代も入れて21ガルっした」


おお、なかなかの額だ。でもヤバイってほどじゃない、よかった貯金してて。

なぜかミヤが申し訳なさそうに言ってるので、ちょうど階段の下にいる頭を両手でつかんで揉んでやる。


「よゆーよゆー!成風が治るなら安い」

「うぅっヤオさん……」

「それよりミヤ、頭皮の硬さが」

「ああみなさん、ナルカゼさんのご様子はいかがでしたか、お変わりは?」


一階にいくと、リーヴォリさんがスープをテーブルに並べてくれていた。ミヤにきくと時間をみては看病にしに来てくれたそうだ。なんかほんとにお祖母ちゃんみたいだ……安心するっていうか、いてくれると有り難い。

お礼をいって病状をつたえ、惣菜を並べてランチにする。今日はリーヴォリさんもいっしょにテーブルについてくれた。

成風のぶんはべつにとっておいて起きた頃に食べてもらおう。


「リーヴォリさん、医者を紹介してくれてありがとうございました」

「いいえ。彼女はとても優秀な医師ですから安心なさってくださいね。……受け入れてくれてよかったわ」

「?」

「あの方、見ての通り魔族でしょう? 偏見をお持ちの方は嫌がったりもするから」


まぞく……!

食事をする手が一瞬とまりかけた。

魔って魔法とか魔物とかの魔だよなっ? たしかに肌のいろが紫だったけど、そういうのが頭に入ってなかった。知らない世界での成風の発熱のほうがこわかったし、なによりこの世界で見たり聞いたりイレギュラーなことに反応が鈍っていたっていうか。


(まずおれが女体化してるからね……)


慣れってすごいな。

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