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変化しない

待ち合わせの広場までいくと、灯富の後ろ姿がみえた。


「灯富ーおつかれー」

「おう、おつかれ。これで揃ったな」


ミヤと成風も少し先で屋台を眺めてる。昼時だから町の人がここに買い物やランチを買いにきてた。

おれたちは持ち物がないから全員手ぶらで、気になる屋台はたくさんあるけど、見たら欲しくなっちゃうからじっくれ見れない。


「おまたせぇ。風呂いこか」


風呂は空いてた。

今日で何度目かになるけど混んでることがない。町の人も仕事終わりに来るらしいが毎日じゃないんだって。やっぱり風呂は高価な行為なのだろうか。大きくて立派な温泉が広々つかえて嬉しいけどね。


慣れたもので、浴場にきたらみんな各々好きな盥に入りに行く。

湯の温度が違うし、成風いわく座り心地も違うらしい。


おれはとにかく熱めの風呂盥を探すのが恒例だ。

空いてる盥に手を入れてかけ湯しつつ温度を確かめる。


(うむ、これなら浸かってても冷めないな)


「……はふぅー」


大きい盥に肩まで浸かってため息。気がぬけてくぅ。

目を閉じて周囲の音をなんとなく聞き、意識を霧散させるイメージを頭で描く。呼吸をゆっくりして何も考えないようにする。

アメリカ人の知人に教えてもらった瞑想法だ。


(……なんか良い曲が浮かびそう)


しばらく瞑想してるとピアノの旋律と灯富の声がまざるように脳内で聞こえてきた。切ないようで陽気なダンスが合う、


「っ! ああ、録音できるのがないっていう……」


パッと目開けてスマホを探すが、当然だけどそんなものはない。思いついたメロディがふぅっと消えていった。たぶんもう思い出せないやつだ。


(もどかしいなー)


前と同じ環境じゃないのは解ってるつもりだったのに、胸がもやもやした。それをため息として吐き出してたら、ちゃぷん、と隣の盥に誰かが入ってきた。


「ヤオさん」

「おーミヤ。どした」

「相談があるっす」


真っ赤な髪が湿気でより赤くみえる。むしろ黒っぽいね。

盥に腕をついてミヤのほうを向くと、ちょっと落ち込んでるような? うつむいてるから、おれにはツムジがよく見えるわ。


「……どうっすか」


え、まさか相談ってハゲてるか否かのやつ?

おれから見る限りぜんぜん大丈夫だが。まぁキレイに真紅に染まってますよ。あれか、ストレスで円形のができてないか心配してるとか?


「うーん、とりあえず心配無いぞ。カラーも退色もしてないしまだまだキレイだな」

「っ! ですよね!? 変化ないっすよね!?」

「お、おう」

「ヤオさん」


ずいと顔を近づけられ、小声で名前を呼ばれた。なんだよこええよ。


「おれの髪が伸びてないっす。つか爪もヒゲもっす」

「つめ、え……?」


言われたことの意味を咀嚼するのに時間がかかった。

おれは目の前のミヤの顔を見る。たしかにヒゲが生えてないし、髪も根本までしっかり赤い。


ふと自分の顔を触ってみた。


(ヒゲ……なし。チクチクしてない。爪も……伸びてない)


いわれてみれば、ここ数週間はめまぐるしく過ぎて気づきもしなかったが、たしかに朝のルーティンがやたら早く済んでた気がする。起きて顔洗って仕事に向かうのも2分でできてたし。


「この世界に来た利点がこれかっ?」

「利点でしたっ?」


ミヤと顔を見合わせる。無言でお互いの言葉を待つが、ふたりとも動かなかった。

しばらくしてゆっくり盥に体を預けて湯にひたる。


「……みんな気づいてるのか」

「いえ、おれもさっき気づいたんで。でも灯富さんあたりはわかってたかもっすね」

「カンがいいもんなぁ」


はぁーいやいやまったく。この世界の常識すら知らないのに、人体のフシギにせまる余裕なんてないぞ。

まずさきに気になるのは差し迫っての体の不調だよね。ミヤに聞いてみたが特に思い至らないって。おれもお腹空いてる以外は、もとの世界より健康に生活してる気がしてる。


ということで。


「いったん気のせいってことにしとこうか」

「オケっす」

「病院とかお医者さんに会うことがあったら、それとなく聞いてみるよ」

「っすね。おれもそうしてみます、髪染め直す手間がなくなったと考えれば得しかないし」


うむ、とうなずき合ってふたりで天井を見上げて湯気を見てた。




ライブに安定してお客さんが来るようになって数週間。

たった二曲だけど毎回同じように盛りあがってくれるし、現地調査のためほかの吟遊詩人を見に行ったけど、彼らも持ち歌は二曲、多くて三曲だった。旬の曲がってだけかもしれないけどね。


「兄ちゃんたちは他の店じゃ唄わねぇのか」


鉱夫のおじさんに聞かれたことがある。

おれたちのステージである壁際はいまや最前列席として常連さんがすわり、入り口ちかくの後方のテーブルは立ち呑み席として椅子がない。


「それについては話し合ったんですよ」

「俺たちはここでまず成功しようと決めたんです」


リーヴォリさんにはすごく世話になって店の内装まで変えてくれてる。おれたちにツイてるお客さんは、ファンは確実にいる。だからこの【冬の白花亭】専属としてやらせてほしい。おれたちのライブによってリーヴォリさんに利益がでるならそうしたいって。


リーヴォリさんには専属としてやらせてくれませんか、ってだけ打診したらあっさり了承してくれたから、迷惑って言われるまでここでやるんだ!





遅なったすみません!

本日からいつもどおりの更新がんばります(^ν^)!

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