再会と再会
朝食が食べられるようなって、目に見えてわかるくらい朝から動けるようになった。
洗濯物をこすってる間だって鼻歌をだす余裕かある。
「ふんふ〜ん、んたった〜♪」
「ヨルちゃんご機嫌ねぇー」
「なんか良いことあったの?」
チェルシーちゃんとステイシーちゃんが微笑ましげに見てくるのがちょっと恥ずかしい。
でも今朝のことを思い出すとうれしい気持ちが湧き上がっちゃう。
今朝はなにを買いに行くか話し合い、タンパク質が足りないってことで、いつもの屋台に豆入のパンを買いにみんなで行ったんだ。この世界に来てからずっとお世話になってるパン屋さんで、店員のおばさんは早朝に訪れたおれたちにビックリしてた。
「朝に買いに来るの珍しいわねぇ」
「はい!おかげさまで余裕ができたので。この豆がいっぱい入ってるパンください」
4つで1ガルというおれたちには高価なパンをお願いすると、おばさんはしばらく動かなくて、え?と思ってたらグズっ…と鼻をすすって目元をこすった。
「よかったわぁ。あなたたちどんどん痩せていくから心配してたのよ。仕事してるのも見かけたけど、服も買えないようだしどれだけ困窮してたのかと……」
「お、おねぇさん……」
「うふふっ、やだねあたしったら。豆パンだね!たっぷり入ってるから栄養満点だよ」
でかい葉っぱに包んだ豆パンは朝イチだからか暖かかった。
四人でリーヴォリさん宅に戻る間、無言だったけどなんとなくみんな感じてることはいっしょだと思えた。
(だれかに気にかけてもらえてたって……うれしいなぁ)
幸運なことに泊まる場所もありライブもできてなんとか生活出来てたけど、心配してくれてた人がいるってのはなんか、なんていうか……
「ヨルちゃんが幸せそうでわたしも嬉しいわ」
「うんうん、いつも頑張ってるもんねぇ」
朝を思い出してたらステイシーちゃんに頭を撫でられた。
順調に仕事が終わり、今日も三人で広場まで歩く。
今日はメンバーと風呂に行くことになってるから、仕事がおわったらここに集合だ。
ふたりと別れて森へ急いでたら、ちょうどもうすぐ森の町はずれで声をかけられた。
「ヨルちゃん!」
「ふぁいっ?」
めちゃくちゃ大きい声。振り返ったらいつかの騎士三人組がいた。コース的に見回りの最中かな。陽気な笑顔だ。
(まえに声かけてきた……あーなんだっけ、思い出せないや)
「あっどうもー! おつかれさまですぅ」
とりあえず愛想笑いと会釈をしておく。秘技・名前思い出せないけど知ってる体のご挨拶、だ。
「いま仕事おわり? おれたちとランチでもどうだい!」
「オススメのお店があるよ!」
「女の子が好きそうな甘いものもあったよ!」
どうだいどうだいと、気づいたら囲まれてた。おれも男だからわかるが、ちょっとモジモジしてるから危険はなさそうだ。ただ体のでかい騎士三人が近くにいるって、それだけで圧迫感がすごい。
暑苦しいっていうか、身長差からも威圧感でちゃうよね。
「お誘いうれしいですが、このあとよて」
「うれしいのかい!?」
「そう思ってくれてるのかい!?」
うるさっ!?
思わずビクッとしたけど、騎士たちは気づいてくれないでむしろ興奮してきてる。
(ヤバイ。早く待ち合わせに行きたいんだよ、どうしよ)
「あの、予定が」
「ヨルちゃんがおれたちの誘いを嬉しい……って……」
ドサッ
ドサドサッ
笑顔のままで三人が倒れ込んだ。
地面に倒れ伏す、しあわせそうな笑顔の騎士。
「は、はへ……?」
地面から伸びるもう一つの影。
ゆっくり視線をあげたら、仁王立ちをしてる女性騎士がいた。
「まったくけしからん。騎士たるものが市民を怯えさせるとは」
(アーッ!このまえ取り調べしてきた人!!)
白髪に褐色肌。騎士の制服をピシッと着て、厳しそうだけど明るいところでみると顔がほんとに整ってるのがわかる。たしかヴォラティル様って人だ。
「少女よ、怖い思いをさせて申し訳なかった。こいつらの処分は私が責任を持って行うことを誓おう」
「処分!? いえ、全然メーワクでは、いえあのっ、大丈夫ですから! ちょっとご挨拶してくれただけですし」
処分とか怖いわ!この世界ってどういう責任のとり方すんのか未知数だし、サイアク、し、し……いや怖くて考えられん!
「……ふむ、慈悲深いな。だが婦女子が甘くすれば付け上がることもあるだろう。こいつらには反省させねばならんが、情状酌量は受け入れよう」
「あ、ありがとうございます……!」
生きろ!三人……!!
足元に転がってる三人に視線を落として祈っておく。
「………」
「………」
女性騎士に動きがない。
なんだろ、おれを見てるのはわかるんだけど。
「……。話は変わるが、君はなにか困ってはいないか」
「!? え、いえ、特には」
「……そうか。なにかあれば町役所の奥にある宿に来なさい。騎士ヴォラティルに会いに来たと言えば、私に繋げるようにしておくから」
「は、はい。えと、では失礼します」
「ああ、気をつけて」
ペコっとお辞儀をして、事件現場から立ち去ることができた。