変化して
スカートで洗濯物を洗うってむずかしいな。立ち上がろうとすると裾を踏んでたりする。
「はーいお預かりしますねー」
「あ、ああ」
「あっ後ろの方もこちらへどうぞー」
洗濯物をもってきた騎士の対応はステイシーちゃんが専門でやってくれることになった。頼れる……17歳ってあんなにしっかりしてんのか。尊敬しかない。
「ヨルちゃん、追加のものは私がやるから干しに行っていいよ」
「あっはい。でしたら、そちらのはワタシが干して来ますね」
「わぁ、ありがと」
「行ってきます!」
チェルシーちゃんもテキパキしてて、おれの目指すリーダー像はこれなんじゃないかと思えてくる。
ふたりの有能さの足を引っ張らないように必死で洗濯してたら、追加があったのにいつもより少しだけ早く終わった。
お給金をもらって町の広場までいっしょにきて、解散の流れだ。おれは元の服を抱えての帰還である。
「今日は順調だったね!」
「また明日もがんばろー!」
ばいばーい!と元気に去っていく先輩。服、ありがとうございます!っと頭を下げてしっかりとお見送りするしかない。
ふたりが見えなくなって、ふぅと息を吐く。
たち並ぶ屋台からは美味しそうなにおいがして、腹がなっちゃう。でもまだ好きに買えるほど資金があるわけじゃないからな……。お腹をさすりながらとりあえず着替えられる場所を探す。ワンピースのままじゃメンバーに会えない。
結果。
「森しかない」
昼の町中で着替える難易度よ。
人気のない森へ入って、大きい木の影でこそこそ着替えるのがいちばん安全そうだ。一瞬まっぱだかになる。女体化してるときと、元のときとじゃ見られたダメージはどっちが大きいのかな……。社会的なダメージは男のときかな……。
ぐにもつかないことを考えながらジーンズを履いてシャツを着る。ふと思いつき足元を見回した。テキトウな草を抜きいて鼻に突っ込む。
「ぐっびゅふ!……んあー」
あー鼻が草のにおいになる。草でやるのはあんま良くないかも。
いただいた服をきれいにたたみ、脇に抱えてリーヴォリさんの家に帰るとまだ成風しかいなかった。
「おつかれさまです。みんなまだですよ」
「おつかれー。ん、そか。早く帰ってくるといいなぁ」
庭先で木の皮を平らにしてる成風を置いて、さりげなく部屋に戻る。枕の下にワンピースをいれ、ポムポムと叩いて硬さをチェック。うん、これなら寝られそうだな。
「ただいまぁーす!」
「戻った」
みんな戻ってきたようなので、一階へいくとバスケットにパンを抱えたミヤと灯富が帰ってきていた。すぐに成風も入ってくる。
「まあまあ、おつかれさまでした。お昼のスープもできてますよ」
「やった!」
途端にワイワイと騒がしくなったリビングでブランチだ。
「今日はみんなどうだった?」
「俺は今日も手紙の配達をしたが、町で変わったことはなかったな。そうだ、配達のほうは正確だとつぎも頼まれるようになった」
「指名っすか!すごいっすね! おれはいつもの皮むきと呼び込みっすねー。顔バレぜんぜんしないんで、ちょっと寂しいっす」
「ぼくはホール清掃。有名店だったらしくて、吟遊詩人の噂をききましたよ。遊び人らしいです」
へぇー。女性との恋は芸を高めるためにとか言うタイプなのかな。ならその人苦手だ、会ったことないけど。
テーブルのうえに置かれた今日のみんなの給料。ぜんぶで12ガル。
「家賃6ガルを払っても残るとは、資金に余裕ができなぁ」
「リーヴォリさんのおかげだ」
うんうんと頷きあう。さきに【白花亭】へいっているご婦人の顔を、みんなが思い出してるだろう。
「そこで相談だ」
おれはパンをちぎってるメンバーの顔をみる。ここにきて数週間。やっぱり痩せたな……。
「朝ごはんを導入しないか」
「ええ!」
「あ、朝ごはん……朝食……!」
ごくりと喉が鳴ったのがわかった。
「で、でも楽器買うんすよね?」
「かなり高価だとモゴック爺も言っていたぞ」
「空腹は……がまんできます」
「そうだけど、おれたちは朝に働いてんじゃん。夜も十分なカロリー摂れてるとはいえないし。このままだといつか誰か倒れると思う」
もとの世界だったら朝食を抜いても平気だった。けど朝イチから肉体労働をするには、朝食はぜったい必要だと思うんだよ。
「楽器も大切だけど「体が資本」だろ?」
「ううう……お肉、お肉食べたいっす」
「俺も」
「野菜もほしいです」
パンをむしゃむしゃ食べながら各々好物を思い返してるのかな、目が虚ろだ。
「ライブでボーナスもあるんだし、まずは生活を整えたいと考えてる。どうだろ?」
ババッと挙手。三人ともだ。
「「「 賛成 」」」
明日から朝食が食べられるようになった……!