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新曲披露

「むっずい!」


歌詞のマスターに加えてストンプの練習をしてる。

初めは手拍子と足のステップで音をとってたが「振りが単調でつまらなくないか?」という欲がでたおれたちは町で木箱をもらって来た。


ミヤが木箱に座って直接叩いてる。


「音が一定にならないっす!あとおれのパートんとき手が止まっちゃうっす……」


しゅんとしてる。たしかにたまにペコって変な音してるもんな。


ドラムどころかパーカッションの経験もないから独学で、正解もわかってない。特にリズム感が良いミヤがこれだと一週間で仕上げるのは相当厳しいぞ。


「ちょっとむこうで自主練してきます……」


木箱を担いで離れて行く。


「ミヤち、タンバリンは得意なんですけどね。カラオケでよくやってるから」

「シャンシャンしながら歌えてたよな? 木箱だと違うのか」

「ミヤのパートんときはおれがフォローしてみよか」


うん、と目線で許可をもらって、ひとまずは歌の練習。二人で合わせるところ、全員で歌うところなどなど。やることはたくさんある。

間違えずに歌えるようになったところで、あとは夕方まで各々フリータイムだ。


おれはいまだ練習中らしいミヤを探して、進捗を聞いたりおれとハモるとこの練習をした。


繰り返すこと二日。


「たいこの達人をやってる気持ちっすね」

「たしかに似てるわ」

「……そうだ!」


ふん!とやる気をみせたミヤは、おもむろに木箱をタタタタンと軽快に叩いた。それから鼻歌をそえてノリノリでタップしていく。


(自分のパートのときは敢えて叩かなくしたのか、でもリズムってかこれは)


「どっすか!?」

「よくできてた」

「ふっふっ……おれ、この箱のどこがどんな音になるかは把握したんす。で、もうリズムは捨てました」

「うん!?」


捨てたの!?


「ノリを最優先にして叩いたんす。みんなに手拍子と足踏みでフォローしてもらったら、おれはこれで盛り上げられるっす!」


ははあ。たしかに、パーカッションとして入ったほうが盛り上がるし、正しいのかもしれないな!


「いいね、それで合わせてみようぜ」

「はいっす!」


森で合流し、手拍子を加えて歌ってみる。

“cry”の切ない感じが、すこし明るい印象に変わった。


「ちょっと陽気になりましたね。町娘の無邪気さがでていいかも」


作詞の成風はうんうん頷いてる。


「森だと足音はでてないから、【白花亭】の床板でやればもっと華やぐかもな」


灯富も全体の仕上がりに納得顔だ。


「よし、これで仕上げていこう!」


結構日まで四日の間、とにかく森で練習しまくった。




成風がさだめた目標の一週間がとうとうやってきた。

【白花亭】には常連の人たちが夕飯中だ。


「まぁじゃあ今日は二曲つづけてやるのね」

「はい。時間が二倍ですがよろしくお願いします」

「はいはい。うちの床は丈夫ですから、思う存分踏み鳴らしてくださいな」


リーヴォリさんにはあらかじめストンプの許可をもらっておいた。「まぁ足で?」と驚いていたけど、楽しみだといってくれたので勇気がでるよ。


壁際にならび、お辞儀をすると常連さんからパラパラと拍手をもらえる。


「本日は新曲がございます! “英雄の歌”とつづけてお聴きください」


前口上をのべたら、女子二人組とエルフの女の子が最前列にでてきた。


女子二人組はほろ酔いだ。“英雄の歌”を歌い出すと肩を組んでいっしょに歌いだしてくれたりする。


(すっかり歌詞をおぼえてくれたんだなぁ)


ひとしきり歌ったあと、ついに新曲だ。

灯富がキッチンの端に置いておいた木箱を持ってきてセンターに置いた。

ミヤが座ってその横に成風がつき、両サイドにおれと灯富が立つ。


いままでとフォーメーションが違うから、観客のひとがちょっと戸惑ってる。具体的にいうとエルフちゃんがミヤのセンターにびっくりしつつも、その斜め前に移動した。


はじまりは灯富のつま先で、それにミヤがあわせてタン!と木箱を叩く。ゆったりと灯富が歌い始め、徐々に音を増やしていく。四拍子を箱で手で足で奏でつつ歌声を合わせる。


【白花亭】の床で四人でやるストンプはいい感じに音がでた。ステップもあってて、重心を動かして音をだすとダンスのようになる。


(たのしいなー!)


体を動かして歌を歌うの、基本なのにたのしい!


Bメロのあとのサビのところで手をパン、パパンと叩く振りでは、女子二人組もあわせて手を叩いてくれた。それからはちょっとぎこちないけど手拍子もしてくれる。


「「「ありがとうございました!」」」


いままでにない応えを感じながらお辞儀をすると満席のお客さんみんなから拍手がもらえた!


(これは成功だよね)


よこを見たらおれを見返してる灯富。なんか涙ぐんでね?

そういうおれもじーんとしてるけど……


「おい、兄ちゃん」


坑夫のおじさんがテーブルから立ち上がり、至近距離まできて声をかけてきた。怖い。顔がいかつくて怖い。

なぜかおれに顔を近づけてくるから鼻と鼻がくっつきそう……!


「は、はい……」

「……もう一回だ、おれも体を動かしてぇ」


おれひギュッとなにか握らせて店内を振り返ると「なあ!!」と声を出す。途端に歓声があがり、指笛まで聞こえてきた。


手のひらには高そうなコイン。


「ヤオさん、アンコールだね」


成風が冷静にいうけど、ほっぺ赤くなってるしやる気だな!


「ではリクエストにお応えして……!」

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