町の娘のうた
「おつかれさまっすー!」
【白花亭】にはもう全員が集まっていた。
おれたちの主食、屋台のパンとリーヴォリさんの優しさスープでブランチを始める。温かい物が食べられるってしあわせだ。
午前中にやった仕事とか、噂話、流行っていることなどを出し合ってると、成風が木板を提出してきた。
「歌詞、できました。編集おねがいします」
「!!」
「おおー!マジか早くね!?」
「さすがだな! ちゃんと寝たか?」
みんなで成風をねぎらう。ひとしきりどついたり頭なでたりしたあと、肩を組んで木板をみつめる。
うん、うんうん!
「いいじゃんいいじゃん!」
「町の女の子って感じがでてるっすね」
「他の男と過ごしつつ、騎士を見てしまうんだな……女心っぽいぞ」
「しっかり音と合わせられてないんで、みんなで確認してほしいです」
照れてんのか成風がすこし早口で言った。
オッケー食べたらすぐ合わせよう!ってことで、食器を下げて洗ったあと、改めてテーブルにつく。
数年ぶりに歌う“cry”のイントロを口ずさむと、ミヤが手でテーブルをタップして合わせてリズムをとってくれた。
Aメロは灯富がゆったり低めに入っていく。歌詞に「私」とあるから低くても主役が女性ってわかる。
「ん、ここは歌いづらいな」
「音が多すぎますね、接続詞いらないかも」
「変わらないのー……はハモリます?」
「やりすぎかなぁ。おれは好きだけど」
「後半のサビにとっておくとか」
歌いながら歌詞の修正をしてなんとか形になった。モゴック爺に言われたとおり、布で包んだ炭を使って板に修正を書き込んでいく。
“cry”が“町娘の女”として歌えるようになったとき、おれたちは全員が無意識に椅子にもたれかかっていた。頭を使うっていうか、楽しいけど疲れちゃうんだよね。
だが、まだ。まだ通して歌ってない。
キッチンで大鍋をかき混ぜてるリーヴォリさんにお願いをしく。
「私も聞いてよろしいのですか?」
「はい、ぜひまた感想を聞かせてください!」
おれたちは定位置の壁際にたち、できたての新曲を歌い出す。
この世界にあわせて少しゆっくりと、歌詞は聞き取りやすく。
歌詞は覚えきれてないから足元に置いておく。振り付けもまだ出来てない。あれだけ修正したけどまだやりたい箇所もあったが、なんとか歌い上げた。
「ありがとうございました」
深々と礼をして、目の前にいるリーヴォリさんをみた。
(ここがイチバンしんどい……)
リーヴォリさんは頬に手を当てて首を傾げていた。
「……ご婦人の唄なのですか?」
「は、はい」
「あなた方は男性ですのに?」
「は、い」
「そうですか……」
うーん、とかなり困っている。
男が女性の気持ちをうたうとか邪道なんかな?どうしよう。これから歌詞をまた変えてとなると……
「驚くほどレディの気持ちがおわかりになるのね。驚きましたわ!」
「えっ」
リーヴォリさんがにこにこしていた。
「私たちは淑女たれといわれて育ちますが、不貞な気持ちを持ってしまうこともありま……あるかもしれません。お唄のレディは最後は恋人を選んだでしょう。よくできた淑女ですわ」
「じゃ、じゃあ」
「ええ、拍手を贈らせてくださいな」
パチパチと拍手を鳴らしてくれた。控えめだけど、めちゃくちゃうれしい!
「ありがとうございます!!」
「よし、このまま詰めていこう。音程がぶれてるところがあったしな」
「森っすね!!」
「振りもつけたいです」
はしゃいでる自覚はあるけど、新曲ができた時って本当にうれしい。意気揚々と外へでて、円陣を組むようにして声出し。
では、いざ練習……!
「ちょっと待て。そういえばさっきテーブルでリズムをとってたよな」
「あっはい。“cry”は結構パーカッションが可愛い曲なんで」
「わかる。それで考えたんだが」
灯富がおれの顔を見た。
「ストンプはどうだろう」
「!」
ストンプは足踏みや手拍子をはじめ、そこらへんのものを使って音をだし音楽にしていくやつだ。モップを使ってるミュージカルが有名かな。
「いいかも! けど、やったことないなぁ」
「あれってかなり力強く足踏みしますよね」
「それを含めて振り付けにするんす?」
「ああ、歌に支障がないくらいでな。楽器を買うまでにリズム隊だけでも入れたらかなり印象が変わると思うんだ」
手拍子だけでもあれば、アカペラのいまより確実に良い感じにはなるはず。
「よし、やってみよう。そうなると練習が多くなるからお披露目はいつにしようか」
手拍子だけにするか、道具をつかうかでも試行錯誤するだろうから時間はかかりそうだ。
新曲ができたのにすぐに発表できないってなったら気落ちしないか?
メンバーの顔を見回すとやる気に満ちた顔をしてた。特に作詞を手がけた成風は鼻息が荒くなってる。
「一週間後にしましょうよ。ちょっと追い込まれたほうがやり甲斐があります」