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泊まらせてもらう

灯富が仕事から戻ってきてからも宿を探したが、今までと同じ条件のところは見つからずなにも解決しないまま、夜のライブの時間になった。


いつもより遅く行ったからか【白花亭】にはお客さんで満席だった。おれたちを待っててくれた子もいてすごく有り難いけど、お客さんのなかに私服姿のあの女性騎士がいてビビった。一曲聞いたらふつうにチップを払って帰ってったからホッとしたけど。あの感じだとおれたちの監視かな……。


「リーヴォリさん、ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした!」

「はい、また明日もよろしくお願いしますね」


ライブ後にはリーヴォリさんのスープとパンを食べて帰宅するのが恒例だ。今夜はスタートが遅かったからおれたちが最後のお客さん。リーヴォリさんに礼を言って木戸を開け、


「……うわ、雨だ」


おれは一歩も歩けなくなった。小雨ではあるが、確実に全身が濡れる振り方だ。


(朝から曇ってたのにいま雨ふるのかよ……詰んだ)


傘もなく雨に当たったらすぐに女体化するだろう。メンバーが引いてる顔が脳裏に浮かぶ。解散、いや、おれだけ脱退になるかもしれないな……。


「うーわ雨やば!」

「野宿はムリですね」

「仕方ない、今夜は高くても宿を探して泊まろう」


出入口を塞ぐように立ってた横から顔を出してメンバーが嘆息してる。

絶望してるだろう? だが本当の絶望はこれからだ!おっさんが少女に変身する様を目の当りにするんだからな!


ぐっ、と唇を噛みしめ、でもまだ決断できずにいると後ろから声がかかった。


「もしかして貴方たち、泊まる場所がないのかしら」


振り返ると目をぱちくりと瞬いているリーヴォリさん。ご老人の年齢なのにとても可愛い。


「……恥ずかしながら、定宿を追い出されまして」

「タイホされたけど誤解なんすよ!? 誤解が解けたから釈放されたのにひどいっす」 

「まぁ……お話を聞かせてくれる?」


促され、店内に戻ってテーブルにつく。

そして地球からうんぬんは流石に頭がおかしいと思われそうなので、田舎から気づいたらここにいた事にして、それ以外は正直に話した。


「そう……そんな苦労をしていたのですか。きっと何かの魔法に巻き込まれてしまったのね。そういうことは稀に起きるのよ、可哀想に」


心底同情してくれた。

稀に起きるのか……、待てまて、ならおれたち以外にも別の世界や国から来た人間がいたってことだ。その人たちは帰れたんだろうか。


「もし嫌じゃなければ、私のところにお泊りなさい」


うむ、と考えてたらリーヴォリさんからそんなことを言われて思考が停止した。


「いや、そんな」

「いいんすか!?」

「ご迷惑じゃなければぜひ」

「一泊だけでもお願いしたいです」

「良いですよ。ここら少し先にある一軒家なのですが、ひとりでは広くて持て余していたのです。空き部屋を使ってちょうだいな」


仲間たちの勢いと朗らかなご婦人の微笑みに流されるようにして今夜の宿が決まった。


(あとの問題はどうやって移動すんのかだ……)


小雨のなかどうしたら女体化せずに行けるのか。


「さぁご案内します。着いてきてね」


やっぱり傘はなくて、どうするのかと思ったらリーヴォリさんもお店に置いてあった大きめのブランケットを頭から被った。


(なるほど?)


「夜尾? どうした、行くぞ」

「あっ待て待て! 夜道は後ろが危ないかもだから、おれはうしろにつく!」

「ああ、なら鍛えてる俺が」

「お前は先頭がいいよ、強いからっ」


自分でも何言ってんだと思ったけど灯富は納得したらしい。

おれは着ていた上着を脱いで頭にかけて、思い切って外にでる。しとしとと手に雨は当たるがまだ大丈夫そうだ……!


目論見通り最後尾について皆のあとを追う。


ゆるい上り坂を体感で5分。


(だめだー!)


おっぱいです! おっぱいが現れました!

ズボンもユルユルで歩きにくい……!


Tシャツが雨に濡れて透けるせいで、わりと言い逃れできないくらいカタチがわかる状態だ。

頭に上着を被り、ウエストが細くなってずり落ちそうなズボンとパンツを必死で掴んで歩いた。


(振り返えられたら終わりだ……っ)


「ここですよ」

「おー!でっかいお家っすねー。ねーヤオさん」


咄嗟にしゃがんだ。なんで振り向くんだミヤ……!

こよりもない、太陽もない、どうする!?


「ヤオさん……?」


(ぐ、ぐおお!うらぁ!)


おれは足元の土を掴んで鼻に投げた。そして手で扇ぐ……!


「ヤ」

「へ、っへ……っぶっくしゅん!!」

「うわ、風邪っすか?」


心臓が止まるかと思った……。

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