釈放された日の日中
「女の騎士様?」
洗濯物をごしごししながら話を振ってみた。
今日は曇り空なのでうっすら暗い。仮眠したせいで余計に眠くなっちゃったな……。
「女性の騎士様といえばヴォラティル様がいらっしゃるけど、ここには住んでないはずよ」
「町の高級宿にお泊りのはずだもんね。ヴォラティル様がどうかしたの?」
「んあっいえ、えーと、チラッと姿をお見かけして気になったので……白髪のおきれいな方ですよね?」
眠くてちょっとぼんやりしてた。
どうやらこの町に女性騎士はひとりしかいなくて、ヴォラティル様というらしい。
「そうそう憧れちゃうわよね!町の外に行かれることが多くて中々会えないけど」
「隣村に視察って聞いたけど戻ってきたのね。私たちもいつか会えるかしら」
おお、女性に人気があるタイプの人なのか。たしかにキリッとした美人タイプだったもんな。
「視察っていうのは……ええと、ヴォラティル様のお仕事はなんですか?」
「んー。それがよくわからないの。いろんな噂があるから」
「お姫様のご婚約者を探してるとか、勇者様を探してるとか」
「伝説の剣を探してるとも言われてるわ」
ミステリアスよねーって盛り上がってるけど、え、じゃあ警部とかじゃないんだ。なんでおれたちの取り調べを彼女がしたんだろ。
「よしっ、ヨルちゃんできた? いっしょに干しに行こ」
ステイシーちゃんと干し場へむかう。以前男に話しかけられて以来、こうやってさり気なく連れ立って行ってくれてるみたい。
(年下だと思われてるんだろうなー)
洗濯物の分量もおれのだけ減らそうとしてくれたり、勘違いじゃないレベルで甘やかされてるんだ。
「お仕事おわったらおやつ食べようね。チェルシーとクッキー作ったの」
「ありがとうございます、楽しみです!」
「うふふっかわいい!」
「わぁっ」
歩きながら軽くポインとタックルされた。
(う、うぐ……良心と良識が痛んで仕方ない……)
女子同士の絡みかたなんか知らんし、おじさんには戸惑うしかできないな……。
仕事を終えて宿屋に帰る。
(たぶんミヤたちはまだ寝てると思うんだけど)
起きてたら気をつかわせるから、なるべく寝てるうちに戻りたい。
早足で帰路を急いでると、見回りの騎士たちが歩いてるのが見えた。こっちにくるから宿舎へ戻ってきたんだな。
「おつかれさまですー」
身についた癖ですれ違いざまに顔を見て挨拶しておく。
「ヨルちゃん!」
「ひえ!?」
すれ違う直前にめちゃくちゃでかい声で名前を呼ばれた。いやほんと声でかい、耳いたい……
「な、なんでしょうか」
振り返って呼び止めてきた騎士見上げる。あー、こうすると身長差がすごいな。てゆかコワ。少女のボディだと大人の男コワイ。
女の子が胸のまえで手をくむのって防御姿勢だったんだな。自分でやって初めてわかったよ。
「おれはルモイ。こっちはマドラスとウィック」
「はぁ、えぇと初めて」
とりあえず微笑んでおくと、ルモイという騎士がびっくりしたあと満面の笑みを向けてきた。
しばらく四人で笑顔を向け合う時間がすぎ……
(なんだ、なんの用だ)
終わらない時間に口の端がひきつりそうになる。
「あの、それじゃあ失礼しま」
「送っていくよ!」「そうだよ!」「危ないからね!」
なにが!?
昼間のなにが危ないというのか。この町はかなり治安がいいと感じてるんだけど。
それになにより、ついて来られたら困る。おれはもとの姿に戻らなくちゃいけないんだからな!
「大丈夫ですお気遣いありがとうございます! ではー!」
「あっ……!」
早口で告げて走って逃げた。不意打ちが成功したね。
おれはそのまま全力で駆けて宿を通り過ぎ、森まできてやっと止まった。木の影に隠れてうしろを確認するが、追ってはきてなかった。
ホッとして根本に座りこむ。
一息ついてから辺りを見回してこよりでくしゃみを出すと、無事、もとに戻れた。
「はぁ、疲れた……」
トラブルの多い日だなぁ。午後も気を引き締めていかないと、へんなことに巻き込まれるかもしれない。
そんな“振り”みたいなことを考えせいかな……。
「追い出されたっす……」
「拘束されたんがバレたみたいですね」
留守番をしてたはずのミヤと成風が、宿のまえで出迎えてくれた。真顔だから歓迎の雰囲気はない。
「ほかん宿は泊まれそうですが、ここより安かところはなかったです」
「予算が……予算が……」
やばい、ミヤの顔が死んでる。成風もいつもどおりに見えて地元の言葉がでちゃってる。
「大丈夫だ、まだ死ぬほどの気温じゃないし、いざとなればキャンプしよーぜ!」
「ヤオさん……」
バンバンと背中を叩いてニッと笑顔を向ける。
この町に冬がないことを祈るしかいないな……。




