取り調べ
「誰もいないっすねー」
「いまから取り調べをするんじゃないの?」
逮捕されました。
兵士宿舎のなか、日当たりが悪い一室に四人で閉じ込められてた。
小さい窓と頑丈そうな木戸の一部には鉄格子がはまってる。
ことの起こりはライブが終わってすぐ。
今日も5つのテーブルかお客さんでうまり、おひねりが2ガルも貰えてほくほくしてた帰り道。
初めて見る男性客ふたりが近寄ってきた。
この人たちが1ガルくれたので、よっぽど気に入ってくれたのかと愛想よく対応したら「ご同行願おう」といわれ、隠れていたほかの騎士に囲まれあっという間にお馴染みの兵士宿舎につれてこられた。
「あっ、誰かきたっす!」
「細めの人ですよー」
扉の格子から廊下をみていたふたりがパパッと小走りに戻ってきた。暴力的な連行じゃなかったからか、ふたりに不安そうな感じは見受けられないのが救いだ。
「ひとり出ろ」
ノックもなく入ってきたのは若い騎士。その後ろには高そうな制服を来た女性がいた。
(女性の騎士?)
白い髪褐色の肌でモデルみたいに美人だけど、目線は鋭いし立ち姿からおれたちに友好的じゃないのがわかった。
おれと灯富が前に出てるとおれにむかってアゴで「来い」とされた。めちゃくちゃ偉い人、もしくは怖い人だな。
おれだけを部屋から出し、連れていかれたのはふたつ隣の部屋だった。
中は取り調べするための部屋ってかんじ。思わず床や壁に血とかへこみがないかチェックしちゃう。不穏な染みはなかったけど緊張で指先が冷たくなってきた。
「座れ」
机を挟んで女の人と向かい合わせに座り、真後ろに若い騎士が立つ。圧迫感がすごい。
「さてなぜ連れて来られたか、わかるか」
「わかりません」
「おまえたちはどこから来た? 十日前から滞在、雑貨屋に装飾品を売って資金を得たそうだな。それまではどう過ごしていた?」
これは本当のことを言って信じてもらえるのか?というかまず確認しなきゃいけない質問がある。
「あの、これはドッキリとかじゃないですか……?」
ミヤたちが呑気だったのは、やっとテレビ局がネタバラシにきたんだと考えたからだ。
「ドッキリ? なんのことだ。それより質問に答えろ」
シャリン、と音がして首に冷たいのがあたった。チラッとみたら背後の騎士が首元に剣が当ててた。
(あーこれは違う。ドッキリなんかじゃなくてマジで死ぬやつ!)
まあおれは解ってたよ。地球に人間を女体化させる技術ないもんね!太陽もみっつあるしさ!
ちょっと絶望に無言になってたら、女性騎士がぎゅっと眉を寄せて険しい顔になった。
「死にたいのか」
「いえっ! あー、おれたちはアメリカから日本に来たところで気づいたらこの町にいました。地元のお金が使えないのでモノを売ったり、ライブでお金を稼いでいます!」
「アメ……どこだ」
女性騎士も若い騎士もわからないみたいだな。こんな職に就く人が知らないなら、やっぱりここは地球じゃないんだ。
「スキル持ちだけで行動してる理由は?」
「スキルもち……ですか、すみません、スキルとはどういう意味でしょうか。歌のことですか……?」
目を眇められた。ものすごく品定めされてるな……。
おれは気まずさに机の角に視線をやって答えを待つ。女性騎士の合図で首の剣は戻された。
「誰に師事した?」
えーもうなに聞かれてるかわからない。
「師事、というのが歌ならボイトレはやりましたが専属のコーチはいません」
「【言語理解】【魅了】【献身】のスキルはすべてレアだ。それを揃えているやつが複数人いるのは、どういうことだ」
「……はぁ」
「他国からのスパイではないのか!!」
急に大声を出した女性かドン!と机を叩いた。反射的にビクッとはしたけど、なんか逆に怖さはなくなった。
(演技のやつだな)
昔やられたことがある。怒ってる演技をしておれたちを思い通りにしようとするライブ運営の人とかいたもん。それのテンションと似てると思ったら冷静になれた。
まあ冷静になれたところで専門用語が多すぎて理解が追いつかないし、何を言ったら不利なのかもわからないから素直に答えるしかできないんだけど。
「よくわからないんですが、おれたちはアイドルをしています。長年ずっと歌とダンスの練習をしてきたのでそのスキルは人よりあると思います」
これで合ってる?
「………。次のやつを呼んでこい」
おれをしばらく見ていたが女性騎士から険しさはなくなった、気がする。ぜんぜん友好的じゃないけど。
おれは部屋に戻されてそれから順番にひとりずつ呼び出された。
戻ってきたメンバーと話を擦り合わせたところ、同じ話をされたみたいだった。
最後のミヤの取り調べが終わったのは朝焼けがはじまる時間で、容疑が晴れたのか唐突に解放された。
「怪しい動きをすれば、また話を聞くことになるだろう」
キリッとしてるけど女性騎士はおれたちを見送ってくれた。意外とマメな人なのかもしれない。
「おつかれさまっしたー」
「したー」
挨拶をしながらトボトボと帰路につく。いつもの宿にきて空いてる部屋にいれてもらった。
「……今日はバイト休みにしよう。昼まで休んで、話し合いはそこで」
「はいっす」
「おやすみなさい」
年下組が部屋に入っていき、おれたちもベッドに入る。
「おれはちょっと寝たら仕事行くわ」
「俺もそうする。寝てたら起こしてくれ」
「ん、お互いな」
逮捕されたショックに頭が興奮してるが、むりやり仮眠をとっておれと灯富は仕事に向かった。




