ライブリベンジ
「風呂さっぱりしましたねー」
「なー。こうなると石鹸とかシャンプー欲しくなるぜ」
「ライブでお金たまったら買いましょう」
モゴック爺の雑貨屋にて。
灯富とミヤがアクセサリーを売ってるのを待ってる間、成風と店内を物色している。
風呂場での事故はおれの心臓をキュッとさせた。けどメンバーに打ち明ける勇気がないので、何事もないような顔で棚をみてる。
石鹸はー……3ガル! くそ高くね? 温泉でも石鹸使ってる人は少なかったし、この世界じゃ高級品なのかも。
「お待たせしました4ガルゲットっすー!」
「俺のは6ガルと3ケール」
「ケール?」
「ガルの下の単位らしい。20ケールで1ガルだそうだ」
ややこしいな。
まだまだこの世界じゃ不明なことが多い。ここの常識全般を教えてくれる施設とかないかな……ないか。
「よし、じゃあ行くか。モゴックさん、いつもありがとうございます!またよろしくお願いします!」
「お願いします!」
「フン、用が済んだなら帰れ」
モゴック爺はつれない返事だけど、この世界にきて最初の頼れる人で、おそらく良い人。仕事もステージもモゴック爺からヒントをもらってて感謝しかない。
雑貨屋をあとにしたおれたちは、いつもの屋台でパンを買い、適当な木箱に腰掛けて遅めのブランチをとる。
この時間がミーティングにちょうどいい。
「“ホワンホー”の振りをつけたいんだけど、みんなはどう?」
議題はライブ中の振付け。声以外の音がないせいで、いまいちステップが映えない。
「吟遊詩人ってキホン動かないみたいです」
「あの人たちソロだもんね。おれらはフォーメーション変えたりできるけど、受け入れられなさそうな気がするっす……」
初ライブのトラウマか、ミヤが少しネガティブだ。
「大きい動きは様子を見ながら入れていこう。腕の動きとターンから初めた方がいいかもしれん」
「そだな。まずは単純で小さいのをいれてみようか」
森に移動して、歌詞と合わせながら振りを確認する。原曲の振付けがあるので激しいものを緩い動きに変えて、足のステップはなし。シンクロして体の向きを変える程度に抑えて。
「こんな感じ、か……」
「息切れないから声はでるっすね……」
「腕を振り下ろすところを揃えると意識するとアレだな……」
灯富がちょっと言葉を飲むけど、言いたいことはわかる。
「昭和歌謡みたいです」
それ。
成風のストレートな感想がすべてだ。なんかこう、アイドルっぽさからは道を逸れてる気がする。
アイドルとしてのアイデンティティに問いかけてるのか、仲間たちの視線は下だ。
おれはパンパン!と両手を叩いて意識をこちらへ向けさせた。
「反応が解らないから、とりあえずやってみようぜ!ダメだったら変えればいいから。で、もうちょっと合わせたら自習にしよう」
ニッと笑ってみせて、もう一度はじめから振りの確認をする流れに持っていった。
おれの経験上、ヘタに考え始めたら正解が見えない闇に突っ込む。深淵を覗くヒマがないくらい体を動かして、意識をライブだけに向けたほうが楽だしうまくいく。
そうして夕方までダンスや歌の練習をして、三夜目となる【冬の白花亭】でのライブがはじまったのだった。
昨夜とおなじく迎えてくれたリーヴォリさんのスープ頂いてると、あれよあれよと言う間に三組のお客さんがやってきた。小さいお店なのでそれだけで4つのテーブルは満席だ。
初ライブのときにいた鉱夫のおじさんが一人と女子二人組み、それから耳の尖った美人。髪が長くて透明感があって、ちょっと露出の高いワンピースを着てる女の人だ。
(まさかエルフじゃ……)
「ヤオさんヤオさん、行くっすよ」
「お、おう」
商機とみた灯富が率先してくれて、ライブを始めることになった。壁際に並び立ち、四人でゆったりと頭を下げた。
頭を上げると鉱夫のおっさんがこちらをみてる。
「よう、兄ちゃんたちか。嫁とはうまく行ったか?」
「ははは……」
誤解をとく話が考え付かなかったので笑って誤魔化す。
「本日は新曲“英雄の歌”を作ってまいりました。かつてドラゴンを退治したという英雄ホワンホーです」
「彼の若き日、そのときの心情を歌います。どうかお聞きください」
まず題材の説明。これをしたら、実生活だなんて誤解は招かないだろうと話し合ったんだ。
鉱夫のおっさんだけがビール片手にこちらを見るなか、灯富が足を鳴らしおれは静かに歌いだした。
ここに振りはないが、コーラスやハモるところでは手の動きをだして、シンクロさせたりする。
リーヴォリさんが料理の手をとめて見てくれてる。
隣のメインボーカルである灯富が歌うとやっぱり迫力がある。純粋に上手い。話に夢中だった女子二人組もこちらを見た。よし。
あとはエルフは……ん、なんか目を見開いてミヤのほうを見てた。けどすぐに俯いてスープにスプーンを突っ込んで、
(興味なかったかな。………っ!いや違う!)
俯いてるけどチラッ、チラッとミヤを見てる。この反応には覚えがある!
手応えを感じたまま歌い終えた。
「いいじゃねえか! やっぱホワンホーはかっこいいぜ!!」
鉱夫のおっさんがおれたちに向かってコインを投げてくれた。
灯富が慌ててキャッチする。
リーヴォリさんはキッチンから拍手を贈ってくれているのがみえた。
(せ、成功だよな?)
自信ないけど、反応からするとそう思っていいんだよなっ?
「ステキだったわ」
「まえのより断然いい歌ね」
女子二人組もわざわざ前にきてくれて、おれと成風にコインを手渡ししてくれた。
「あ、ありがとうございます!」
「嬉しいです」
お礼を言うとウフフッと微笑まれて席に戻っていく。
手をひらくと中身は4ケール分のコインだ!
信じられない気持ちで隣をみたら、灯富と目が合った。灯富が頷いてみせるから、じわじわと感動がうかんでくる。
うぐぐ、目に力入れてないと泣いてしまいそうだっ。
「あざーす!うれしいす!」
いつの間に来てたのかエルフもミヤにコインを渡したっぽい。
「今夜はありがとうございました。また歌いますので明日もよろしくお願いします!」
万感の思いをこめて頭を下げた。
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