目覚め転移
「は? ドッキリ?」
街の景色は中世ヨーロッパ風。行き交う人々の服装もそれっぽくて、夜尾はクオリティ高いなと感心した。
「ヤオさん、ドッキリって言ったらオンエア編集めんどくなるじゃないす?」
「あっ!そうだな」
木造というにも怪しい掘っ立て小屋で目覚めたアイドルグループ【ロックオブサンド】。
彼らは初めての日本のテレビ出演に緊張していた。
夜尾はグループ最年長で32歳中背のヒョロめなおじさんだが見ようによってはイケメンだ。小屋の入り口でとなりに立つ宮林は夜尾と同じくらいの身長の25歳、
メンバーでは下から二番目に若く髪を真っ赤に染めている。
アメリカではそこそこ売れて“お約束”をわかってるつもりだった彼らだが、日本のバラエティの流儀がわからないことにいま気づいた。
「ミヤ、ここは一応ノッていこう」
「っすね。つかとりあえずメンバー起こしましょ」
振り返ると床板などない小屋のなか、その土間にわりと雑に寝かされてる仲間たち。
「灯富起きろ」
「成風おきて」
「うぅ……」
ペチペチ。
灯富は夜尾と同い年32歳で最も背が高く筋肉質。成風は宮林のひとつ上26歳でベビーフェイスでぼんやりした男だ。
「起きん」
「日本のバラエティってお薬使っちゃうんすかね」
「えーそんなことあるか?」
「だっておれら全然記憶ないっすよ」
「……たしかに」
こそこそ話し合って、無理に起こすのはダメかもと近くの木箱に腰掛けて目覚めるのを待つことにした。
夜尾は腕を組んでここに至る時系列を思い出していた。
海外で売れたロックオブサンドが逆輸入で日本でもやや人気がでてきたところに、バラエティ色が強い日本の歌番組からの出演オファー。凱旋だと意気込んで空港からテレビ局へ向かうのに、マネージャーの運転するワゴンに乗って高速に入り………たしかにそのあとの記憶がない。
(ドッキリだなー)
うんうん、考えれば考えるほどドッキリだ。車には自分たちとマネージャーしか乗ってなかったからマネージャーが怪しい。やっと日本で売れる!って自分たちより張り切ってたのは知ってたが、お薬盛るほど気合いが入ってたとは。
そうとわかればこのドッキリ、全力でいこう!
「ミヤ」
「なんす?」
「がんばろうな!」
「っは、リョーカイす!」
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夜尾です。
30分くらいしたらメンバー全員が目覚めたので、ほったて小屋から外に出たら夕方の田舎町がひろがってた。買い物中のご婦人、仕事帰りでほろ酔い気味の鉱夫、子供たちはバイバーイ!と元気に家路につく。
肌の色がばらばらで、日本はこんなにグローバル化したのかと思ったがどうやら違うっぽい。アジア系が見当たらない。
「なんだこれ……スイスか?」
「なぜスイスと特定した」
「あの山がマッターホルンっぽいから」
つぶやいたのは灯富でおれと同じく32歳のうちのメインボーカル。188cmの長身と鍛え上げた筋肉でアメリカではちょっとモテてた。登山が趣味だから妙に山に詳しい。
灯富の視線を追うと町の背景には尖った先の白い山がみえた。大きすぎて正確な距離もわかんね。
スマホどころか持ってた荷物がぜんぶ取り上げられてるから検索もできないのがイタイ。ホントにスイスだったら日本と真逆ですよマネージャー。
「なんでスイスなの?」
「日本のテレビはミステリーっすね」
どんな企画だろうかとコソコソ相談したものの、解決もできなければテレビクルーもみつからない。
成風が「とりあえず探検しましょーよ」というのに賛同せざるを得ない状況だ。
「あードルも無理っすかー」
「ごめんなさいねぇ。見たことない国のはさすがに取引できないわ」
「っすか。さーせん、出直します」
宮林が屋台で買い物を断られた。
屋台ではパンを売ってるが、持ってるお金では買えないという。ドルも円も無理だった。
戻ってきた宮林を迎えたおれたちは眉をひそめた。
「設定こりすぎじゃないか?」
「知らない国扱いってどういうリアクション求めてんでしょうか」
「あの人たちの英語も変なんすよ。二重音声みたいに聞こえるし、……おれの耳がおかしくなったんすかね?」
「え、やば。自分の声はへいき?」
「んんっ、あー、あー。うん、ふつうっす」
「……これは本当にドッキリか」
灯富のことばに全員がぐっと言葉をつまらせた。
薄々感じていた気味悪さが背中を撫でる。
「スマホも通じない。マネージャーもクルーもいない。トゥルーマンショーじゃなきゃ、事件を疑うべきじゃないかな」
言葉にする灯富も不安に声が固くなっていた。沈鬱な顔をして黙り込むメンバー。
「……よし、」
一度深く息を吸い、気合をいれた。
「事件か事故か、ドッキリかもわからない。でも腹は減るし、もう夜になる。つーことでなんとか資金つくって落ち着けるところにいこう!ミッションクリアしたらネタバラシに来てくれるかもしれないし!」
三人の背中をぽんと軽くたたいて笑いかけた。
どんな状況であれ、暗い顔してたら良いことは思い浮かばないからな!
おれはふたたびパンの屋台へいって人の良さそな店員に笑みを向けた。
「すいません、ここらへんに外貨両替できるところか質屋みたいのありませんか? ぼくたちお金なくて」
「あら!そうなの……冒険者も大変ねえ。買い取りなら少し先の雑貨屋がやってるよ」
「ありがとうございます!」
ニコ!
アイドル生活で鍛えた爽やかな微笑みでお礼をいう。
その笑みを後ろで立ってる仲間にも向け、おれたちは紹介された雑貨屋へ向かった。
よろしくでーす!