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第 Ⅳ 話 皮肉なる追随

 久々に本気を出した朝ごはんで神無をノックアウトし勝利の余韻に浸っていた8時を少し越した頃。

 表に出ろと言われてあくびしながら出ると、戦闘服に身を包んだファリスがいた。


「久々に体動かそうかと思ってさ」

「おいおい…加減はしろよ?家ぶっ壊したら許さんからな」

「本気の君か…」

「やめろ」

「あい」


 家に戻り、スラックスを履いて紫ローブを羽織る。カードホルダーを腰につけて庭まで戻ると、神無が紙とペンを持って待機していた。


「えっと、ルールは簡単!相手に何かしらの形で触れた段階で1点とし、3点先取で勝利になります!」

「何分かかるかな?」

「せめてウォーミングアップ程度にしてくれ…お得意の術(ブラックホール)使われたらキツイ」

「また冗談を。僕の魔法なんてとっくに見切ってるくせに。あ、僕が勝ったら魔王城に来てもらうぞ」

「めんどくさっ」


 お互い軽口を言い合い、神無に目配せする。


「3、2、1、開始!」


 全盛期の私ならまだしも、今の私ではこいつに勝てない。詠唱速度、効果、範囲…どれを取っても私の負けだ。だが、負けないように立ち回ることならできる。


 ファリスが魔法陣を展開。お得意のブラックホールを生成しこちらへ放ってきた。

 転移と圧縮…どっちだ?いや、どっちでもいいか。カードホルダーに触れる。


『spade Ⅱ』《カレイドスコープ ギア》


 その場から私が消滅。同時にファリスを囲うように私の虚像が3体現れた。


「…バルツェ、君馬鹿だろ」


 ファリスはため息をついて私の虚像に次々と触れ、3つの虚像は砕け散った。


「ん?なにが………あ」

「普通の模擬戦だったら僕に対する超有効打だったけどねー」

「え?え?」

「……私の虚像は実態を持っている。今回のルール上だと3回触れられたことになるから私の負けなんだ」

「あー……」

「人の話を聞かないから」

「それ今関係ないだろ。あー、しくじった…あそこは受け身取って殴りに行けばよかったか」


 まさかこんなアホみたいな負け方をするとは思ってなかった。馬鹿だな私…

 ただいつまでも落ち込んでいる暇はない。テキパキと外出用意を済ませ、神無のも出来た時に時間を見ると8時半。


「準備できたかい?」

「ああ。最低限だが」

「色々持ってかなきゃ…」

「あはは、まさか身分証明書を忘れてるとかないよね?」

「「あ」」

「……先行き不安だなー」


 自室に戻って引き出しから身分証を引っ張り出す。すると何かがそれに引っかかっていたようで、床に落ちてしまった。

 拾い上げるとそれはチェーン付きの懐中時計で、随分いい作りをしている…

 だが、買った覚えがない。なんだこれ?蓋を開くとメモが挟まっていた。


『神無に渡して下さい』


 トラップ…ではなさそうだ。ただ、私には計測できない力が込められている。これは一体?


「先生」

「ん、ああ。すまない」


 置いて行こうかとも思ったが、何かあった時に私自身が対処できるなら持っていったほうがよさそうだし、持っていくとしよう。


「全く、2人して何やってるのさ」

「すまんすまん」

「ごめんなさい…」

「いやそんな嫌味言ったわけじゃないから安心してね神無ちゃん

 で、本当に大丈夫?」

「ああ。水筒、ハンカチ、魔法道具…大丈夫だ」

「私も大丈夫です」

「ん。それじゃあ魔王城へ行こうか」


 ファリスはブラックホールを展開し、迷いなくその中に入っていった。やはりこれに入るとなると毎度最悪の事態を想像してしまう。


「行こう、先生」

「…ああ」


 手を繋ぎ、ブラックホールの中に入る。1秒ほど綺麗な星空が見え、絨毯の上に着地した。


「特徴的な石畳、華美ではないが威厳を感じさせる装飾…旧魔王城か」

「正解。新魔王城はちょっと派手過ぎて寝れないんだよね」

「設計ミスがひどいな」

「まあ使えるから公務はあっちで。こっちは今じゃ国会とかの代用だね」

「ああ、今改築中だったか」


 雑談をしながらファリスについていく。そういえばこいつがなぜ私らを魔王城に連れてきたのかの説明を受けていない。こいつのことだからなんか色々と隠していそうなのが少し不安だ。


「宝物庫に行くだけだよ…渡せって言われてたものが見つかったんだ」

「私に?」

「そう。それと君の弟子になる子にもって」

「……おやっさんか」

「ああ。親父だ」

「おやっさん?」


 神無が首を傾げる。そういえば私について全く教えたことがなかったか。この際だし、着くまで説明したほうがいいだろう。


「第131代魔王、別名発明王。このファリスのお父さん、スカーレット=カレデウス」

「スカーレットって確か、先生の二つ名みたいな」

「そう。ロード スカーレットの元になっている」

「そして、バルツェの育ての親でもある。っと、いいところで着いちゃったな…」

「え、気になる!」

「…まあ、帰ったらな」

「むぅ…はーい」


 しかし、おやっさんからの贈り物なんてまた懐かしい。亡くなったのはいつだったか…


「おーい、ぼーっとするなバルツェ」

「ん?あ、すまん」

「ここなんですか?」

「そう。ここが親父の宝物室」


 宝物庫の中は各魔王ごとに部屋があるというのは聞いていたが、荘厳なイメージとはい違ってなんだか賃貸住宅みたいな見た目だ。

 古いというか、個室ごとにきっちり分けられているところがどうも庶民的というか…


 だが扉が開くとその感想は180°変化した。おやっさんの作った道具が所狭しと並んでいる。さらに壁には設計図、写真が多く飾ってあり、私が写っているのもあった。


「すごいな…私もおやっさんを真似して色々と作ったが、やはり及ばないか」

「魔法が使えなかった代わりに〜っていうのは毎度毎度言ってたからね。そこら辺は君の方が詳しいんじゃない?」

「まあ、そうだな」

「???」


 神無の頭の上に?マークが乱立しているのが手に取るように見える。ただ、それよりもファリスが取り出した物に目を奪われた。


「それは…」

「君へのプレゼント1点目。あと2つあるからね」


 ファリスに渡されたのは白鞘。少し抜いて刀身を見ると、普通の刀だ。でも、おやっさんに刀剣収集癖はなかったはず。一体どこで?

 疑問に思いながら腰に挿した。ずっしりとした重みが心地いい。


「あと信じられない2点目」

「………は?」


 ファリスが手にしていたのは私の魔法発動時に使うトランプカードだった。


「いや待て、なぜ…?というか、最初からなかったのか?」

「最初気付いた時には僕も驚いたよ。しかも」

「…先生、jokerって」

「道化師、切札。戦況を逆転させうる厄介なカードだ。でも、なぜなくなっていることに気がつかなかった?」

「まあ、とりあえず渡しておくよ」

「あ、ああ…」


 くまなく見ても私の想録魔法によってできたものであることは間違いない。しかしおやっさんはなぜこれを?


「そして3点目。これです」

『これとは失礼ですよファリスさん!あ、ども。ヤタと申します』


 足が3本ある黒い鳥がファリスに引っ張り出された。ただ金の差し色が入っていたり、目には覆いが被されている。


「………鴉?ということは八咫烏か」

『お、さすが!そう、モチーフは八咫烏です。その漢字を取って、八咫』

「おやっさんはこんなものを?」

「うん。設計図はなかったけど、所々親父特有の造形が見られたから」


 もう1度改めて八咫を見ようとすると、とても誇らしそうに胸を張った。シンプルだが美しいデザイン。


「なるほど。たしかにおやっさんがやりそうなロマン改修だ」

『カッコいいでしょう?スカーレット氏には感謝です』

「そういえば、神無に渡すものってのは」

「ああ、これも近場にあったんだけどね」


 そう言って取り出したのは、大和の術師がよく使う紙人形の形をした魔導機械だった。


「これは?」

「メモには式神発射装置って書いてある」

「ふむ。簡単な名称でも考えるか」

「え、今?」

「名前ね!?じゃあ早速私から!『スピリットブレス』とかどう?」

「…」

「バルツェ?大丈夫か?」

「ん?あ、すまん。ちょっと物思いに耽ってしまった。なんだろう、最近こういうのが多くてな…記憶が戻る前兆だといいんだが」


 そうぼやいたのとほぼ同時に宝物室の扉が叩かれた。

 ファリスの代わりに扉を開く。


「何かあったのか?」

「はい。魔王城正門より南東方面に、突如敵兵が出現しました。総数およそ1万」

「黒違」

「聞いてるよ。バルツェ、できれば来てくれないか?戦えとは言えないけど」

「…そう、だな。神無、どうする?」

「え!?あ、うーん…」


 と、悩んでいる神無に八咫が飛んでいき、なにかを耳打ちした。すると神無はキッと真面目な顔になる。


「見ておきたい」

「だそうだ。行く」

「わかった。じゃあ来てくれ」


 ファリスは八咫含めて全員が出たのを確認して宝物室の扉を閉め、スタスタと歩いていく。あとを急ぎ目に追っていると、八咫が私の肩に乗った。


「どうした」

『魔族でも人族でもない人型の熱源がちらほら城の中にいるなと』

「魔獣とか動物じゃないの?」

『もちろん省いてます。私のせんさーは優秀なので。なめてもらっちゃ困りますよ神無さん』

「せんさー…?まあいい。そうなると、謎の生物が人型になって魔王城にいると?ありえん」

『ええ。ここかなり警備は厳重でしょうし流石にありえませんね』

「え?矛盾」


 正面がダメなら忍び込むという手がないことはないが、数人でもいる時点で妙だ。

 沸いて出た訳でもあるまいに…

 いや、待てよ


「まさか、沸いて出てきたとか言わないよな」

『いやー、当てにきましたねバルツェさん』

「嘘だろ…おいファリス」

「聞いてるよ。一応侵入者に感知する魔法はかけてるんだけど…」

『効いてないみたいですねぇ』

「王、ではまずそちらを」

「わかった。ありがとう」


 さっきの兵と別れ、人がちらほらいる廊下を歩いていく。急に八咫が私の肩から飛び立ち、ファリスの前に出た。


『かなり近いです』

「神無、魔導書構えて」

「え?でもここ」

「あくまで牽制だ」

「はーい」

『邂逅まで、3、2、1』

「いや、この先は用務室があったくらいで何も……」


 誰もいない。柱の裏や壁に隠れている気配もなく、用務室が正面にあるだけ。


「部屋ごと焼くか」

「いや待てバルツェ。野蛮野蛮」

「むう」

『中の温度が不自然に上がってますね…人間と謎の熱源が多数確認。比率は8:2でしょうか』

「なあファリス、開けるか?」

「それ以外選択肢ある?」

『鬼が出るか蛇が出るか…』


 ドアノブを捻り、引く。が、開かない。向こう側から阻止されているというよりは、ドアノブのついた壁みたいなイメージだ。

 ファリスにやらせてみても開かず、ブラックホールを使ってもなぜか向こうの風景を見ることができないようだ。


「厳密には使えるんだけど、今後戦闘があるかもしれないからセーブしてるんだ。その状態じゃ向こうを見るのはできない。穴も小さくて鳥くんしか入れないかな」

『八咫です』

「あ、はいごめんなさい」

「…困ったな。焼き尽くすか」

「いやだから早いて」

「私も焼き尽くす方がいいと思いますけど…」

「中に人がいるんでしょ?じゃ許可できないな」

「あ、そっか」

『失念してました』

「ねーねー先生」


 今後どう動くか話し合っていると、扉の近くにいた神無が私を呼んだ。振り向くとなんと


「開いたけど?」

「中は」

「誰もいないよ」

「…おい八咫」

『……まさか!神無さん今すぐそこから』


 ーーー black mirror ーーー


 グイッと頭を掴まれて中に引き込まれる。そのせいで尻餅をついてしまった。そして立ち上がろうとした時、信じられない光景が目に入ってくる。


 いくつもの女性の腕がひとりの女性の胴体に絡みついていて、下にはその腕の持ち主であろう体、上には恍惚の表情を浮かべる顔……

 彼岸花や薔薇が腕や下の体から生えてきていて、なんとも芸術品のような美しさがある。


「なっ………酷い!なんてことを」

「そうかな?美しいとは思わないかね」

「!?」


 右肩に手を置かれ。すぐに左側に逃げる。私の肩に手を触れたのは優しそうに笑う青年だった。でも、なにか気持ち悪いものを持っているような…

 そして今まで気がつかなかったけど、ちょうど私の後ろにある扉から嗅ぎ慣れた嫌な臭いがした。


「精液………サバトでもやってるの?」

「芸術だ。この場は芸術の為の」

「あ、この人もうダメな人か」


 …男がだんだん近寄ってきた。できるだけ離れようと後ずさるけど、例の美術品にも近づきたくはない。どんどん距離を詰められる。そして髪の毛を掴まれてしまった。


「さあ、来るんだ」

「やだっ!やめて!」

「痛いのは一瞬だ。それ以降は次第にうぐっ!?」

『全く、度し難い』


 急に手が離れ、頭が床に落ちる。ガツンという音と痛みが響く。

 痛いながらもすぐ頭をあげて男を見ると、八咫さんが男を弾き飛ばした。


「き さま」

『神無さん、行きますよ』

「え、」

『スピリットブレス、起動!』


 八咫さんの呼びかけに応じるようにスピリットブレスがくるくる回転して飛び出してきた。そして左手首についたかと思うと、紙人形が飛び出てきてベルトのように巻きつく。


「うわっ!?」


 そして八咫さんがスピリットブレスの右側面にあった溝にカードを通した。すると先生の想録魔法特有の女性の自動音声が流れる。


『joker』《crashing complex of blood》


 同時にスピリットブレスから鳥居のようなものが出てきた。八咫さんが止まり木に止まるかのようにそれを掴む。

 そして八咫さんの目が光った。半透明の紙人形のようなものが5つ出て来て、私を丸く囲んでから緩やかに回り始める。


「え、ちょ、八咫さん?」

『さあ、変身です神無さん。パパっとやっちゃってくださいな』

「えぇ…?」

「…芸術の邪魔をするな!」

『神無さん!』

「ああもう!変身!」


 掛け声と同時に鳥居がこっち側に倒れて、八咫さんの足が彫り込んであった3つの窪みに入り、胴体がスピリットブレスに固定される。

 八咫さんの目が赤く輝くと同時に半透明の紙人形が虹色に光り出し、紙人形が左右の膝、腰、右手首、胸、頭に飛んできた。

 その紙人形にあたって男はまた吹き飛ばされる。


 紙人形は私の体に触れると弾けて、靴はブーツに、ロングスカートは普通のスカート丈になって、膝には勾玉の形をした膝当てが出来た。

 胸に来た紙人形が強く光ると、服が紫ローブに変わり、右腕には腕時計が、左腕にはローブの上から鎖が巻きつく。

 そして頭の紙人形は頭上で弾けて、髪の毛がちょっと長くなった。更に耳にはイヤリングがつき、髪の一部に白いメッシュが入る。

 そして白鞘の刀がどこからか飛んできて腰に挿さった。すると白鞘だったのが黒と紫の鞘を持つきちんとした刀に変化する。


「…!すごい、力が溢れてくる!」

『…いくつか不満を言わせてくれないか』

『ダメです』

『……』


 頭の中で八咫さんと先生の声が聞こえる。

 というかなんで先生もいるの?


『詳しい説明は後で。とにかく今はこの空間を破壊してください。今ならバルツェさんのカードも限定的ではありますが使用できます!』

「…わかった!やってみる!」

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