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第肆話 奇怪千万の学校地下

「あ、あったあった。よかったー盗られてなくて」

「というか、荷物わざわざ揃えてくれてたんだ…梨花(りか)ちゃんかな?明日お礼言わなきゃ」


 荷物を持ち上げて、ついた埃をぱっぱと払う。

 ふと、女の子の声が聞こえたような気がして校舎を見上げる。光が点いてても夜の校舎はなんだか不気味だ。


「今、助けてって誰か言いました?」

「え?ううん、言ってないけど」


 玲華(れいか)の耳は人の何倍もいい。それで聞こえたってことはなんかあったんだろう。でも明らかに厄介ごとに巻き込まれる気がするし、正直入りたくないけど…


「はぁ……無視はできないな」

「だよねー、夜の学校怖いけど行くしかない」

「え、行くの?嘘でしょ?」


 流石にここで放置して帰るのは外道すぎる。助けてと言った人を助け出して早く帰ろう。


「えー……なんか私も帰りにくいから行く!」

神無月(かんなづき)さんがいるなら百人力だ。行くよ玲華(れいか)。まとまって行動しよう」

「職員用から入ろう?もしかしたら中に先生いるかもだし、合流できるかも」

「なるほど」


 職員用玄関の扉を開くと、廊下に血の足跡が見えた。思わず玲華(れいか)たちを止め、しっかり観察する。足跡は2つ。かなり新しいもののように見える。

 そして先生の靴箱を見ると、2人の先生の靴がまだ入っていた。


「義兄様?」

「足跡だ。血で、出来てる」

「「!?」」


 これ以上は干渉しない方が身のためだ。僕1人なら迷いなく行くけども、玲華(れいか)神無月(かんなづき)さんの身を危険に晒すわけにはいかない。でも…。


「見て見ぬふりはできない、でしょ?行こう、霧雨(きりさめ)くん」

「義兄様」

「…ありがとう。うん。行こう!」

「荷物は…置いていったほうがいいよね」

「あ、義兄様荷物荷物!」

「え?あ、置いてくのね」


 荷物を自分のロッカーに置いて、緊急事態のため靴のまま校舎の中に入る。夜なのに煌々と明かりがついているのがまた不気味だ…

 とりあえず足跡を追って歩いていけば何かわかるか?後ろを警戒しながら足跡の進む方へ足を運ぶ。それは体育館へ続いていた。そのまま行こうとすると、神無月(かんなづき)さんに止められる。


「これ、罠っていう可能性は?」

「え?」

「でもこんな夜に?」

「いや、標的は私たちじゃないと思う。これを見逃せない人、あるいは団体」

「……先生とか」

「そう。だからこの血痕を追う、又は辿ると罠があるかもしれない」

「でも現実的じゃなくないですか?」

「いや。そもそもこんな状況自体が現実的じゃない。可能性があるならここを探索するのは最後にしよう」

「うーん、義兄様?そんな冒険小説じゃないんだから…」

「一応だよ一応」


 流血沙汰が起きてる時点で異常事態。普段よりも気を配って動かないと死んでしまうかもしれない。


「とりあえず…どうする?」

「職員室に行くのはどう?先生がいるか確かめないと」

「あ、いいね。じゃあ中央階段から行こう」


 中央階段に行くと、1階と2階の踊り場に中身の散らばった学校カバンが転がっていた。

 散らばっている中に見覚えのある筆箱が落ちているのに気がつき、拾い上げて確認する。


「まじかよ…」

「え、どしたの義兄さ…ま」

灰原(はいばら)のだ。間違いない」


 筆箱に若干血が付いている。もしかして、あの血か?そしたら大量の血液は全部あいつの…

 いや、だとしたら距離が離れすぎている。そもそもこの血があそこにあるものと同じだと決まったわけではない。


「なんでここにあったんだろう?」

「誰かともみ合いになった拍子にーとかじゃないですか?」


 神無月(かんなづき)さんと玲華(れいか)はバッグを見ながら考えにふけっている。その時、上から階段で誰かが降りてくる音がした。妙にべちゃべちゃと鳴っている。流石にこれはまずくないだろうか。


「隠れるよ!」

「え?」「あ、はい!」


 急いで階段を降り、トイレに入ってどんな奴が降りてくるのかを確認する。

 数秒経って降りてきたのは一見普通の男だ。特に何かおかしい点もなく、気になる所といえばずぶ濡れで、灰原(はいばら)のカバンを持っていて片足を引きずっているくらい。

 話しかけに行こうとしたら神無月(かんなづき)さんに止められる。


「足をよく見て」

「足?」


 裸足だ。それ以外はないと思っていたけど、足の甲には鱗のような物がびっしりと生えていた。思わず後ずさりしてしまう。


「明らかに普通の人間じゃないよ…なにあれ」

「まあ仮称鱗人としておこう。僕もわかんない。でもあいつの荷物持ってかれたのはなんか気になる…うん。追おう」

「あんまり推奨しないよ?」

「でも、ここに人間じゃない奴がいて、灰原(はいばら)がいる可能性がある…もしかしたら捕まってるかもしれない」

「……まあ、それなら早く行こっか」


 さっきの鱗人を追っていくと、さっき追おうとした血の跡の方へ行っている。やっぱりあの先に?

 でも北階段の踊り場で血の跡は途切れていた。鱗人はそのまま北階段に登るかと思いきやそのまま階段の奥へ進み、階段下の物置へ入って出てこない。


「…出てこないね」

「来る気配もなさそうだよ」

「入ってみるか」


 遠くから扉を開き、中から誰かが出てきた場合に備えてすぐに跳び退く。


「……来ない」

「来ないね」

「それじゃあ私が先行して……」


 神無月(かんなづき)さんが物置の扉を思いっきり開き、中に入った。するとすぐに出てきて僕らの手を引っ張る。


「ちょ、神無月(かんなづき)さん!?」

「いいからいいから。これすごい」

「なにがすごいんですか?って、なに、これ…」

「……物置だったはずだよねここ」

「義兄様の記憶違いの可能性は低いと思うけど」

「じゃあ新しくできたのか……でもなんで地下?」


 物置だったはずのところに、岩盤をくりぬいて作ったみたいなゴツゴツした見た目の階段ができていた。なんか生ぬるい風も吹いてきているし、ちょっとジメッとしてるし、不快度指数の上昇具合がものすごい。

 正直入りたくはない。でも


「……行こっか。靴だし」

「うぇー!やだー!」

「いややだって言われても…」

「行くしかないよ玲華(れいか)ちゃん」


 ため息をつきながら中に入り、階段を下っていく。先が見えない暗闇ではなく、ところどころに松明の火がかかっているからそれは安心だ。


 体感で3、4階分下ったかなと思ったところで出口らしき階段の終わりが見えた。ちょっと小走りめに降りる。


「あ、出口!」

「出口?やっと?」


 でも、降りた先は非現実的で、一瞬なにが起こっているのかわからなかった。

 とりあえずさっきの鱗人はどこにもいなくなっていて、灰原(はいばら)のバッグは机の上に置かれている。


「牢屋…?しかもかなり古い。拷問器具まで揃ってる」

神無月(かんなづき)さんなんでそんなの知ってるんですが」

「家の本にあったの。でもこんなのが学校の地下にあるなんて大問題じゃ」

「いえ、そもそも学校の地下にこんなものはなかったはずです神無月(かんなづき)さん。義兄様と私で入学時に確認したので」

「じゃあ後から?いやそれも考えにくいか…」

「陣地魔法の応用で自分の思い通りに部屋を変える魔法は知ってるけど、これは…」


 もし陣地魔法の一種なんだとしたら、とてつもない量の研究と実験が必要だ。この空間がどれほど広いかはわからないけど、それこそ100年間とかかけてても違和感がない…


灰原(はいばら)くんが囚われている可能性が高まったね…」

「義兄様、向こうからかすかに音が」

灰原(はいばら)の可能性有りか。行ってみよう!」


 玲華(れいか)は奥を指差した。左右にある牢屋の中を確認しながらしばらく進むと、十字の分かれ道になっていた。


「松明付いているのが左と前しかない。とりあえずまっすぐ行ってみよう」

「分かれようか?」

「いや、むしろ来てくれるとありがたい」

「はーい。でも学校の敷地だけならそろそろ…」

「!?誰かいるのか!」


 よく聞く声が奥から聞こえてきた。でも、灰原(はいばら)ではない…


「まさか、アーサー先生!?」

「だれだかわからんが開けてくれないか」

「ちょっと待っててください」

「ここは私に任せて。パツキン兄妹は他の人を」

「もう突っ込みませんからね。義兄様、行きましょ」


 玲華(れいか)と共に奥へ進んで行こうとすると、牢屋の中にまた人影が見えた。見慣れたその顔は


灰原(はいばら)!」

霧雨(きりさめ)!?なぜここに!」

「義兄様、こっちに大石(おおいし)先輩もいる!」

「あのー、そこにいる誰かー」

「マリア先生!?」


 どうやら知り合いがあちこちに閉じ込められているらしい。しかも先生まで…。


「おーい、先生の救出終わったよー!」

「すまない。詫びの代わりに多少の手伝いをさせてくれ。全員出来る限り格子から離れて。霧雨(きりさめ)兄妹も」

「あ、はい」

「…ではいくぞ《形成剣術 テンポラリー ソード》」


 アーサー先生が魔法を発動させると、地面から何本もの剣が生えてきて、正確に格子と地面、天井の接合部分を乱打する。


「さて、もうこれくらいで引っ張れば、ほら」


 アーサー先生が牢屋の格子を掴んで引くと、そのまま取れてしまった。中からありがとうと言いながらマリア先生が出てくる。


「大丈夫ですか」

「大丈夫。それより私もいいとこ見せなきゃね」


 マリア先生は大石(おおいし)さんの牢屋の格子を掴み、勢いよく外した。そしてそれを灰原(はいばら)の方へ投げつけ、彼の格子も破壊する。


「…雑すぎやしませんか俺の所の壊し方」

「まあまあ、気にしないの灰原(はいばら)君」


 アーサー先生、マリア先生、灰原(はいばら)大石(おおいし)さんの4人を牢屋から助けることができた。

 僕、玲華(れいか)神無月(かんなづき)さんと合わせて7人…もし不測の事態が起きても7人いればなんとかなるだろう。

 と、玲華(れいか)がジェスチャーで全員に静かにするように指示してきた。スッと静かになった空間。僕には何も聞こえないけど…?


「まだいる…し、どこか焦げ臭いような」

「火事?」

「嘘だろおい」

「こんな閉鎖された空間で火事なんて起きたら丸焼きだよ。早く逃げたほうがよくない?」

「僕そもそも焦げ臭い匂いなんて感じないけど…他の人は?」

「なんにも臭わない。湿気がひどいけど」

「美沙に同じく」


 2人の先生と神無月(かんなづき)さんも首を降った。ってことはもう消えた火の残り香みたいなものと考えて良さそうかな。


「とりあえずもう…2人いるのは確実。話し声が聞こえる」

「………何にも聞こえない」

「そんな落ち込まなくても…ほら、凱亜(がいあ)には凱亜(がいあ)でいいとこあるじゃん!」


 大石(おおいし)さんが灰原(はいばら)を励ましている光景はなかなか珍しい。基本は逆だから…って、こんなこと考えてる場合じゃなかった。まずはその2人を助け出さないと。


「えーっと、どうしよう…」

霧雨(きりさめ)くん、ここに来る前に他に行けそうな道あったよね」

「えーっと…十字の?」

「そう。とりあえずそこ行こうよ」

「えっと、じゃあ移動しよう!」


 ぞろぞろと移動する7人。マリア先生と大石(おおいし)さんは道や牢屋を隅々まで観察しながら歩いていて、松明持ちをやらされてる灰原(はいばら)が可哀想に思えてきた。


「同情すんなら代われ」

「さてそろそろかな?」

「おいこら無視すんな」

凱亜(がいあ)〜、こっちの牢屋の中照らして〜」

「はいはい今すぐ!」


 アーサー先生は神無月(かんなづき)さんといったことのある国について話している。神無月(かんなづき)さんとアーサー先生の話が合うのは意外だ…


「私、結構オトナですから」

「正直説得力無いでーす」

「あー、ひっどーい玲華(れいか)ちゃん!そんな子には…こうだ!」

「あ、ちょっと神無月(かんなづき)さん!やめてください、やめ、義兄様!」

「あー、まあ怪我しない程度に仲良く」

「裏切られた!?」

「若いっていいな、活気があって」

「若いだけで済まさないでください先生!」


 とまあ、こんな馬鹿騒ぎをしていたら十字の道についた。右と前には松明がかかっていて明るいけど、左は真っ暗で何も見えない。


「さて、戦力差がないように配分するか。翔魔(しょうま)、来たのは前からか?

「はい」

「2チームか…」


 アーサー先生は考えながら人を分けていく。そして決まった。


「松明の光が付いている右は

 翔魔(しょうま)大石(おおいし)、グリム先生の3人で

 光が付いていない左は残りの4人

 灰原(はいばら)玲華(れいか)神無月(かんなづき)、私で行くのはどうだろうか」

「…なんで俺こっち」

「松明」

「あ、そういう…」

「冗談だ。暗い方は何があるかわからないからな。とりあえず何が来ても対抗できるような人員だな。

 明るい方は基礎運動能力が高い大石(おおいし)にマリア先生が補助を入れ、翔魔(しょうま)がメインで攻撃魔法を使う…ごり押しとも言う」

「なるほど。ただ、それならなんで僕と玲華(れいか)灰原(はいばら)大石(おおいし)さんのコンビで構成しなかったんですか?」


 今年の希望者参加型模擬戦闘で学校最強を掴み取った灰原(はいばら)大石(おおいし)ペアの名前はよく知られている。

 実力は保障されてるんだから、そのコンビでいったほうがいいと思うんだけど


「こんな経験も貴重だからな。他の人とコンビを組んだ時に自分がどう動けば相手に負担をかけないかを考えるいいチャンスだと思っただけだ」

「…なるほど」

「んじゃま、松明係は先頭ね」

「頑張れ灰原(はいばら)…」

「そっちもな。美沙(みさ)に振り回されんなよ」

「頑張る」

「10分経ったら引き返して状況報告しよう」

「おう、了解」


 灰原(はいばら)と別れ、右の道の奥へ進む。松明がついているから向こうの道よりはマシなんだろうけど、何かいるような感じがして気が引きしまる。


「マリア先生、後はお願いしますね」

「分かってるよ。こっちは気にしないで前だけ集中して」

「何かあったら大石(おおいし)さん、お得意の肉弾戦で」

「はいはーい。凱亜(がいあ)がいなくても強いことを思い知らせてあげる」


 そんな会話で始まった探索は3分も経たないうちに終了した。突き当たりに重厚な鉄の扉があり、押しても引いても開きそうにない。

 大石(おおいし)さんに強化魔法をかけ、思いっきり蹴ってもらっても開かなかった。


「開かないね」

「この強化魔法の重ねがけでもダメなんて…」

「向こう側に何も無いとかは」

「じゃあなんでここに扉あるの?」

「うーん…これが複製魔法とかだったとしたら、その先まで複製しなかったからで解決するけど、あくまで僕の推理だからなぁ…」

「まあ、結構早いけど戻りましょうか」


 ため息をついて来た道を戻ろうとしたとき、牢屋の中の何かが光ったような気がした。

 そう言えば、ここら辺、なんだか焦げ臭いような。


「先生ちょっと待って」

「ん?」

「今何か光ったような」

『誰かいる、の…?』

「先生、中に人が!」


 冷静だが、明らかに警戒した声が聞こえる。立てかけてあった木に松明から火をもらい、奥を照らす。


「女の子!?」

『答えて。貴方達は誰?』


 牢屋の中には、倒れて動かない少女が居た。

 声はどこからともなく聞こえてくる。彼女以外の人影は見えない。テレパシーに近い聞こえ方からして、使い魔か何かか。


「僕は霧雨(きりさめ)翔魔(しょうま)。外から女の子の声を聞いてここに来た。助けを呼んだのは、君だね?」

『あの声、届いてたんだ…。うん。お願い、この子を助けて!』


 隣の2人と、顔を見合わせて頷く。


大石(おおいし)さん、まだ魔法の効果はギリギリ続いてるはずだから、お願い」

「はいはーい。格子引っ張ればいいよね」

「ええ。補助はいる?」

「大丈夫だよ先生。んじゃいっくよー!」


 そう言うと彼女は格子を掴み、思いっきり引っ張って上下の石ごと壊した。それを適当に放り投げる前に制止する。


「ゆっくり、ゆっくり…そう」

「考えてみたら、これを魔法なしでぶっ壊したマリア先生って…」

「こわっ」

「聞こえてるよ?」

「ヒッ」


 大石(おおいし)さんの肩に手が置かれ、マリア先生は満面の笑みで立っていた。


「はい。すいません」

「よろしい」

「…さて、もしもし、大丈夫?」

「ぅ…」

『この子さっき倒れて、それから全然動かなくなっちゃって…』


 ブレザーを着た赤い眼鏡の少女を揺さぶる。

 かなりぐったりしている。呻きはしたものの、意識はなさそうだ。


『私達誰かに誘拐されて、昨日からここに閉じ込められてたんだ。連れてこられる前も暑い外に居たって言ってたから、多分脱水症状か何かだと思う』

「分かりました。応急処置は私がします。といっても、この分なら暫くすれば目を覚ますでしょう。早めに発見出来たのが功を奏しました」

『良かった…』


 安堵した声が響く。マリア先生がテキパキと回復魔法の準備をし出した。


『ごめんなさい。そしてありがとう。私じゃどうにも出来なくて…』

「謝ることじゃない。軽く済んだみたいで良かったよ。ところで、君は何処にいるんだ?」

『あ、ヨヒラ…この女の子の名前なんだけど。の、頭の上』

「アタマの上…?」


 言われた通りそこを見ると、蛍のようなピンク色の光が見える。近寄ると、白いカチューシャのような髪飾りだった。玉の先は万年筆のような形になっている。


『オホン。私は太古の昔より受け継がれし、龍の骨で作られた伝説の魔道具。名を…

 んーと、なんだっけ。あ、そうそう。【ハナバチ サクラ】と言うのであーる。気軽にサクラちゃんとお呼び』

「随分と気の抜けたテキトーな自己紹介で」

『しょうがないじゃないか。宝物庫から盗難されて再起動したのはつい昨日、人と喋るのは百年ぶりだよ』

「この子はともかく、魔道具なのに誘拐っていうのはそういうことだったのね。というか、それにしては随分流暢な現代語…」

『あ、そういう細かい所を気にしちゃノンノン』

「なんだそりゃ」


 大石(おおいし)さんのツッコミにもなんか適当なことを言っている。いや、盗難された魔道具というところ以外絶対嘘だ。

 まあ、とにかく害は無さそうだし、放っておいても問題ないだろう。この子を助けようとする様子からも、悪い印象は受けなかった。さっきの声。冷静ではあったけど、少し震えていた。内心、怯えているのを堪えて必死だったんだろう。

 にしても、ここまで牢屋の中はざっとしか見てなかったけど危なかったな。生存者を一人置いていくところだった。帰りはキッチリ見ないと…

 大石(おおいし)さんがマリア先生に話に行ったタイミングで話しかける。


「ハナバチさん」

『はいはーい?サクラちゃんだよ』

「これから僕らはここから出るんだけど、もう少し調べなきゃいけないことがある。地上に出れるのはもう少し後になるけど…ついてくる?」

『もちろん。と言うか、ヨヒラを頼むよ。私魔道具だから運びようがないんだよね』

「…伝説の魔道具の割にはポンコツな」

『あっ酷い。しかし生憎その通りで、人命救助用には作られてないんだな。

 …だから、本当に君達には感謝してる。見ず知らずの私の声を聞いて駆けつけてくれて、助けてくれて、どうもありがとう。この子は私の希望なんだ』


 彼女の声はなぜか少し寂しそうに響く。

 と言うか、彼女は何故檻を破壊しなかったのだろう。話せる魔道具という時点でかなり高度なものだろうけど?持ち主の指示が無ければ魔法が使えないようなロックでもかかっているんだろうか。


 そう考える間に、何か砂山のようなものを踏んでしまった。

 …灰だ。玲華(れいか)の言っていた焦げ臭さはここだったのか?そう言えば、ここの壁や床だけ湿っていない。蒸発したのかな。でも、こんな所で一体何を燃やしたんだろう?


霧雨(きりさめ)くん?」

「え、あ、ごめん大石(おおいし)さん。じゃあ、行こう。サクラさん」

『ふふ。オッケー』


 そろそろ集合の時間になるから、灰原(はいばら)たちと合流するとしよう。それまでにはヨヒラさんも目覚めているはず。

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