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第参話 義妹奪還の実践躬行

遅れて申し訳ありません


これから通常にもどります

『何を気取っている!ふざけるな!』


 そう言って女は神無月(かんなづき)さんへ向かっていく。彼女はスカートなのも介せず女の腹に横蹴りを入れた。くの字になって俯いた顔に追撃で思いっきりアッパーをかます。

 そしてくるりと楽しそうに回ったかと思えば、腹に後ろ横蹴りを食らわして数メートル向こう側にふっ飛ばした。


「うわぁ…」


 楽しそうに、まるでダンスを踊るかのように戦う姿はとても美しく、空に舞う血はバラの花弁か何かのように見える。

 女は神無月(かんなづき)さんが思った以上に危険だと感じたのか、ジリジリと距離を離そうとしていた。だが僕でもわかるということは彼女にも丸わかりだということで。

 彼女は一瞬で距離を詰め、肋骨の中心に掌底を放った。そしてその場でターンしたかと思えば側頭部に後ろ回し蹴りを食らわせる。

 女は壁に打ち付けられ、ズルズルと崩れ落ちた。彼女は早足で近寄り、その頭を掴んでぶら下げる。


『あ゛ぁあ゛ぁああ゛あぁああ゛ぁ!』


 絶叫が廊下に響き渡っていることなど気にもとめず、神無月(かんなづき)さんは掴んだ頭に力を加え続ける。そして逃れようともがく女の叫びは、声とも言えないものになっていった。


「––––砕けなさい」


 女の頭が崩壊し、体が崩れ落ちる。それと同時に体の輪郭が陽炎のようにぼやけ、彼女の亡骸は風に吹かれた塵のようにフッと消えてしまった。


「…消えた」

「この世界じゃもういないはずの存在は世界にかなり負荷かけるからね」


 世界にかける負荷?どういうことだろう。というか、玲華(れいか)を助けるために来たはずなのに話が何時の間にか世界規模になってるんだけど。いや、それ以前にあの女の怪物は…


「あ。世界の負荷っていうのはね。例えば、冬なのにあったかいとか、逆に夏なのに寒いっていう異常気象の発生とかのことだよ。世界まるごとのサイクルが崩れて、問題が発生するの」

「そんなことが…」


 初耳だ。地理でやってないってことは世界史か現代社会でやるんだろうか。これから学ぶのが楽しみになってきた。


「現社でやるのかな?まあやるなら面白いことは保証…む」


 廊下の先からかなり大きな音がした。目を凝らして見ると、ドアから何体か歪な形の獣が出てきていた。さっきの女と同じように、別々の生き物を継ぎ接ぎでくっつけたかのような…つまりは、どれも合成獣と言われるものであるらしい。

 合成獣達はどんどんドアを壊して仲間を部屋から廊下に出した。廊下はまたたく間に合成獣の巣窟と化していく。


「気持ち悪いデザインばっかりだ」

「同感。センスが悪すぎる」


 一刻も早く玲華(れいか)がいる部屋を見つけたい。でもここまでいるとなるとちょっと厳しいか?

 いや、やってみなくちゃわからない。お腹も空いたし早く帰ってご飯にしたいから、どうにか早めに済ませてみよう。


「ちょっとここは僕に任せて」

「お、じゃあお願いします」


 魔導書を開く。最良の選択肢は…貫通、高威力。たとえ倒せずとも動きを止められる魔法だ。となると雷属性の広域がいいな。

 目次の雷属性の項目に触れると、ペラペラと自動で捲られ、その内容と関連項目が出てきた。

 関連項目にある魔法を一緒に発動すれば、相乗効果でかなり強くなるとかいてある。じゃあ使うしかないな。


「《仮想河川 ハイドロ》そして

 《大雷顕現 サンダー ドミネーション》!」


 唱えてから魔導書を上に投げる。すると魔導書は廊下の横幅と同じほどの大きさになった。

 大きくなった表紙の青い宝石部分に触れる。すると水が大量に流れる音が聞こえてきた。どうやらきちんと発動してくれたみたいだ。

 前はこんなこと起きなかったんだけど…神無月(かんなづき)さんが触った影響かな?

 数秒経って魔導書がクルクル回転しながら小さくなった。手元に帰ってくるかと思えば、そのまま宙に浮いている。

 魔導書が雷を纏う魔法陣で挟まれ、魔法陣と魔導書が逆方向に回転し始めた。そして魔導書は放電した。

 紫の雷が蛇のように廊下を這い、道中の魔物を感電させていく。雷が通った後には、焦げたような匂いと煙が充満していた。


「大丈夫?かなり大規模な魔法。しかも2連続で使ってたけど」

「ちょっとキツいけど、大丈夫。とにかく急いで玲華(れいか)のところに行かなくちゃ」

「まあ大丈夫なら–––っ!しゃがんで!」


 その声があまりに緊迫に満ちたものだったから、言われるままに急いでしゃがむ。すると彼女は詠唱して指を鳴らした。


「《クロス エクスプロージョン》!」


 さまざまな方向から爆発音が聞こえてくる。5秒ほど爆発音が続き、収まった後に肩をポンポンと叩かれた。


「ごめん、大丈夫?」

「多少びっくり」


 差し出された手を取って立ち上がり、ブレザーを叩いて埃やらを落とす。

 神無月(かんなづき)さんの方を見ると、白く変色していた髪は元に戻っていた。


「あ、髪の毛が」

「戻っちゃったか。仕方ない」

「戻っちゃったって…」

「うん。まあ、それについては秘密ってことで。とりあえず今は、妹さんを助け出そっか」

「とはいえ、どこの部屋から」

「まあ、唯一ドア空いてない一番奥の部屋から探すのがいいんじゃない?」

「…なんで空いている部屋から行かないのか教えてくれ」

「え、いる可能性低くない?だって中から合成獣出てきてたし」

「なるほど」


 さっきまでは色々ありすぎて内装を詳しく見れなかったけど、よく見てみると廊下からすでに高級そうな見た目をしている。

 そこを歩く神無月(かんなづき)さんは制服なのにどこかのお嬢様のように見えた。

 一番奥に着くと、彼女は扉の左側にしゃがんだ。そしてこちらを見て右側を指差す。

 小走りでそこまで行き、同じようにしゃがみ込んだ。

 彼女はドアノブにゆっくり手をかけ、慎重に回して引く。音を立てないよう慎重に開いた。部屋の中から音は聞こえない。

 彼女はポケットから紙人形を取り出し、部屋の中に飛ばして目を閉じる。

 しばらくそうしていたけど、パッと目を開けてホッとした表情を浮かべた。


「罠みたいなのもないみたい。行きましょ」

「はい」


 入った部屋の中はゴミまみれで、臭いもきつい。こんなところに玲華(れいか)を連れ込んだ理由は一体なんだ?


「そういえば、なんで妹さんが連れてこられたんだろうね」

「わかってたら苦労しないよ…」

「何か普通の人にはない特別な性質でもあったの?あ、でも元々は梨花(りか)ちゃんを連れてこうとしてたのか。代わりにするなら誰でもよかったのかな」


 歩きながら聞かれた質問に、即答で同意はできなかった。

 僕ら兄妹は大きな秘密を抱えている。

 神無月(かんなづき)さんは引き戸の前で止まり、こちらを振り向いた。そして急に指をずいっと目の前に持ってきた。びっくりして後ずさる。


「あまり無理させないようにね」


 そう言うとクルッと反転して扉を開いて入って行く。追って入ると、いかにも邪悪な祭壇や魔法陣、本があり、その中心に置いてある簡素なベッドに玲華(れいか)が横たえられていた。

 駆け寄って体をチェックし、五体満足なことにとりあえず一安心する。胸も上下しているから息もしている。よかった……

 ただ、なぜか魔力は空っぽになっている。人よりも格段に量は多いはずなのに…。

 神無月(かんなづき)さんや梨花(りか)ちゃんからの話だと、防御ノ陣を出したくらいで特に魔法は使っていないはず。

 いや、そんなことを考えている場合じゃない。今はとりあえず一刻も早く魔力を充填しないと。もしかしたら死んでしまうかもしれない。


神無月(かんなづき)さん、ちょっと手伝って」

「え?あ、いいけど何を?」

玲華(れいか)のブレザーを脱がして」

「あ。なるほど。はいはいっと」


 床に手をつき、魔力補充に阻害する物がないかを確認する。すると、所々に妙な魔力の流れを見つけた。

 円形になっていることから鑑みるに、十中八九大規模魔法用の魔法陣だろう。

 うっすらではあるが玲華(れいか)のものであろう魔力もある。だが一度魔法陣を通っている以上、汚染されている可能性もある。ここから再度魔力を戻すのはやめておこう。


「あ、でもどうにかして玲華(れいか)と魔法陣の接続を切らなないと…」

「それなら任せて。ただし、ちょっとあっち向いててね」

「え、あはい」


 言われた通り反対側を向いておく。神無月(かんなづき)さんは一体何をする気なんだろう。玲華(れいか)が助かるならなんでもいいっちゃなんでもいいけど、後遺症とかが心配だ。


「いいよー」

「何してた…って、そんなものどこから」

「乙女の秘密っ」


 神無月(かんなづき)さんはどこからか和紙のようなものでできた紙人形の塊を取り出していた。彼女はそれを宙に投げ、手を二回叩く。

 その直後、紙人形が意思を持ったかのようにうねうね動き出した。


「うわっ!」


 あっという間に紙人形が輪になって玲華(れいか)の体を二周し、残像が見えるくらいの速度で体の周りを回り出した。

 そしてパンッと弾けたかと思うと、破けた紙が玲華(れいか)を支えながらゆっくりと落ちてくる。腕に抱くと和紙は全てハラハラと落ちた。


 どういう原理だか知らないが、床下の魔法陣と玲華(れいか)との接続は切られている。これならすぐにでも始めた方がいいだろう。


「っていうか何をするの?」

玲華(れいか)の魔力タンクみたいな所に直接魔力を注入する」

「…それ危なくない?っていうか人間にそんなのが」

「……あー、それは、そのぉ」


 どうしよう。あんまり話したくないんだけど…流石に話しておかないとこれからすることを誤解されるかもしれない。


「そんなに話しにくいことなんだ?」

「はい」

「知りたいなぁ」

「…仕方ない、他言無用なら」

「そりゃもちろん。わざわざ言う理由もないしね」

「……玲華(れいか)はとある妖怪。つまり僕らは義理の兄妹でもなんでもない、ファミリアとマスター。他人よりも遠い存在なんだ」


 その時の神無月(かんなづき)さんの顔には驚愕しかなかった。当たり前なんだけど。まさかクラスメートの義理の妹が人間じゃないなんて誰も思うまい。

 玲華(れいか)は、猫又という種族の妖怪なのだ。僕と暮らしているのも、一応僕のファミリアだから。

 今の玲華(れいか)の姿は、彼女が猫又だった時の人間態っていうだけで、人間とはいろんな所で違う。妖怪やら伝承の生物をファミリアにするというのは、本当はほぼ不可能なんだけど、数え切れないくらい奇跡が起こって成功してしまった。

 特にファミリアになるためには、双方が家族愛に似た感情を持っていることが必要なのだけど、どうやら玲華(れいか)はそれを持っていてくれたらしい。


「そ、それはまた…」

「まぁだからこれからやることが、どうか義妹に欲情してるとか、そんな感じじゃないことを理解してほしい」

「あ、うん。わかった」


 一応神無月(かんなづき)さんは理解してくれたみたいだし、早速始めよう。

 玲華(れいか)のワイシャツのボタンをいくつか外し、隙間から手を入れ、シャツとかをずらしておへそ辺りに触れる。

 別の手で魔導書に触り、魔力の充填を開始させる。しばらく待てば休息状態からも回復してくれるだろう。

 でも、なんで猫又状態に戻らなかったんだ?そっちの方が楽だろうし、逃げるのも容易かったはず。謎が残るな…


霧雨(きりさめ)くん、これ!」


 神無月(かんなづき)さんが何かを見つけたらしい。見るとそれは1枚の紙。かなり傷んでいて、少し触れただけでも壊れてしまいそうだ。辛うじて一つの単語が読み取れる。


「えー、特異世界666?なんだこれ」

「あとこれ」


 さらにもう1枚、どこかの建物の地図のようなもの。これ、どこかで…


「私たちの学校…だよね?あんまり地図見てないからわからないけど」


 その通りだった。これは僕らの通っている学校全体の地図だ。でも、紙質がさっきの紙と同じ、又はもっと古くなってガビガビになっていた。

 これを元にして玲華(れいか)を攫ったのか?いやだとしても、10年前に建て替えたばっかの建造物の地図が何十年も経ったかのようにガビガビになるとは考えにくい。

 まさか、これが世界の負荷ってやつなのか?

 わからない。提示されている情報が少なすぎる。でも、明らかに何かが起きている、あるいは起きそうなのは明白だ。


「ぁ、にい、さま?」

「はい喋らない。今は自分を治すことに集中しなさい」


 玲華(れいか)の意識が戻った。魔力がなくなっていただけなようで安心する。それにしても、一体なんで玲華(れいか)を?そして攫った奴らはどこに…?

 ガタンという音がしたから振り向くと、神無月(かんなづき)さんが立ち上がった音だった。


「…一旦部屋から出てるね。兄妹でちょっと休んでて」

「え、あ、はい」


 神無月(かんなづき)さんは顔を見せないで行ってしまった。休んでてと言われても、こんな邪悪な雰囲気の中でくつろげる人はそういないと思うんだけどなぁ…



 ーーー ???=black ーーー


「…さて、どこにいったのかなと思ってたんだよね。

 車の中にあの女はいなかったし、サルタヒコはもう“戻ってきていた”し。

 ってことは、君らはまだ隠れてるだろうなって」

『………見事』

「お褒めの言葉ありがとう。じゃあ聞くけども、君らは一体何者なのかな?」

『フランケン、とでも名乗ろうか』

「18世紀の博士の名前?」

『いや?違うな』


 壁を突き破って出てきたのは、2m以上の身長を持つ、怪物のような人間だった。


「なるほど。怪物の方だったか」

『それ以外の名は忘れた。偉大な使命も、為さねばならぬことも』

「それは災難ね」

『ああ、全くだ』


 怪物は悲しそうに俯いた。その顔をよく見ると、鏡で見た男たちの面影がある。ということは、まさか


『我々は悪魔を召喚し、その悪魔に殺された。更にそれだけでは飽き足らず、こんな醜い姿に変えられてしまったのだよ。

 ボスは羽をつけられて個別で改造され、我々はこのザマだ』

「そうね。同情はするわ。でも、君たちのやった行為は許されるものではない」

『大きなことを為すためには犠牲が必要だ』

「…それで君たちは良かったの?」

『ああ。それに関する悔いはない。あるとしたら、計画を履行できなかった懺悔だけだ』

「そう、なら死になさい。罪のない子供の命を使った改革なんてのは、結局別の改革に打ち消されるもの」

『ははは。確かに我々は殺されたさ。しかし、勝った。成功したのだよ。あの悪魔はコウアンを潰し、偉大なカリスマがトップに上り詰める!』


 呆れた。それが女の子を攫って生贄にしようとした理由?ふつふつと怒りがこみ上げてくる。

 すると左腕が勝手に魔法陣を組み上げ、風の刃を何重にも重ねて放った。

 フランケンはそれで切り刻まれ、ボトボトと肉塊となって落ちていく。

 暴発?いや、でも今の魔法はあの人の…


「…ありがと」


 髪留めに触って、代わりに殺してくれたことへの謝罪と礼をつぶやく。

 消えていくフランケンシュタインの体を見ていると、懐かしい思い出が蘇ってきた。

 一緒に探検したこと、狩りのようなことをして一日外で過ごしたこと…


神無月(かんなづき)さーん!ドア開けてくださーい!」


 霧雨(きりさめ)くんの声で現実に引き戻される。そう。もうあの人はいないんだ。

 いい加減引き摺ってちゃ笑われる!


「はーい、今開けまーす!」


 ーーー rains are fake sibling ーーー


「意識戻ったの?よかった…」

「義兄様、この人は?」

神無月(かんなづき)さん。ここまで来るのに手伝ってくれた人」

「あ、そうだったんですね。ありがとうござます!」


 玲華(れいか)神無月(かんなづき)さんにお辞儀した。それに神無月(かんなづき)さんは両手を振って頭を上げるように言う。

 言われた通り頭をあげた玲華(れいか)は、持っていた紙を神無月(かんなづき)さんに見せた。さっき見たうちの学校の地図だ。


「これ、学校の?」

「あともう一枚。私の下に置かれてた紙」


 そっちは全く気が付かなかった。あぁ、注意力散漫だ。玲華(れいか)が無事だとわかった時に調べればよかった。

 神無月(かんなづき)さんの横に立ち、手元にある紙を覗き込ませてもらう。そこには、見知った人の名前が書いてある。


「灰原…だよな、この漢字」

「おそらくそうね。そしてこれは…鹿殺?」

「え、灰原先輩が鹿狩りでもするんですか?」

「うん。別の漢字の可能性の方が高いねこれ」


 神無月(かんなづき)さんと玲華(れいか)の漫才みたいなやりとりはまあ放っておくとして。

 鹿。そんな字が紙に書かれていたとしたら、鹿という漢字ではないか部分で鹿と入っているか。

 さて、何がある?しかも殺という漢字が後につくもの…


「鏖殺」

「え?」

「皆殺し…だっけ、義兄様?」

「そう。鹿の下に金という漢字がつく」

「……それと灰原くんに何の関係が?っていうか灰原くんって確か同じクラスだったよね」

「そう。でもなぜ書かれているかは分からない」


 八方塞がりだ。とはいえ別に今日中に終わらせなきゃいけない課題でもないだろうし、明日灰原に聞けばわかるかもしれない。


「とりあえず帰らない?」

「あ、ごめん義兄様、多分私学校に荷物置いてきた」

「……まじかい」

「私もだ」

「…そういや僕もだった」


 どうやらみんな学校に行かなきゃいけないみたいだ。夜の学校に立ち入るのは禁止だけど、流石に緊急事態後だから言い訳くらいにはなるだろう。この施設で学校の地図が見つかったということは、何か関連があるのかもしれないし。


「じゃあ行きましょ?偽物兄妹さん?」

「っ…神無月(かんなづき)さん、流石にそれは」

「ごめんごめん、冗談よ。例え種族が違っても、家族の繋がりは変わらない。そんなに家族って薄っぺらくないわ」


 彼女は、ごめんね。と言ってからクスリと笑い、エレベーターの方まで走っていく。にしても酷い冗談だ。そんなこと言う人だとは…


「…あっ」

「義兄様、どうかしたの?」


 もしかして、僕はわざと怒らされたのか?兄妹でもなんでもないといったことを、誰でもない僕自身に否定させる為に?


「おーい!早くしないとおいてくよーパツキン兄妹!」


 いや、やっぱ違うかも。


「…よくわかんないけど、不思議な人だ」

「うん。でも私、悪い人じゃないって思うな」


 玲華(れいか)と顔を見合わせ、軽く笑って後を追う。一時はどうなることかと思ったけど、無事に玲華(れいか)を救出することができた。

 でも、なんで玲華(れいか)…いや、梨花(りか)ちゃんを攫おうとしたのかがわからない。それで玲華(れいか)で代用したのも何か理由があるんだろうけど、あの二人に共通点があるのか?


 おかしい。事件はひと段落したはずなのに、頭のどこかが「まだ終わっていない」と警鐘を鳴らしている。一体何が起こるんだろうか。

 いくら考えても答えはでなかった。

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