はじまりに歩みだすその前に。
「すっスッすすのスッー」
「?」
「あ、すいません。あらためまして、あなたの担当になりました、ロレリエル・バレンシュタインです。バレンシュタイン神の使いで背中の羽根と頭の環を見てもらうと分かる通り天使です」
ソルカさんは訝しげな顔をしていますが続けます。
「ソルカさんは異世界転生の権利を得ました。新しい世界、新しい生活、新しい人生が別世界でまってます。ただ今回のソルカさんの場合、今すぐ生き返る事も可能ですが、どうします?」
「アイツのいない世界なんて戻ったって!」
「そうですか、えっと…ソルカさんの場合は、普通の生活をしたらだいたい128歳まで生きます、種族的な生命力の高さですね。次にソルカさんの描かれた絵画が、世界的有名になります、誰が描かれているのか分からないと言う神秘性が話題になって、その後の芸術家達に多大な影響を与えます。最後にその事が神様に認められたので、このゲートリアに来たんです」
「良かった、アイツの夢叶ったんだよね?死んだあとだけど有名になれたんだよね?」
「はい、その通り。後世に残る画家として教科書にも載ります」
「生きているうちに叶えてあげたかったけど、良かった」
「次は貴女の番ですよ、異世界転生は救済です、ソルカさんは幸せになる権利があります」
「ミルクココアです」
泣き出しそうなソルカさんの手を握り励ましているところに、マスターがかなり芝居かかった仕草でミルクココアを二つ持ってきました。
「あ、ありがとう…!?」
ソルカさんは、マスターの後ろの壁を大きな目を更に大きく見開いて凝視しています。
「どうしましたか?」
「あ、あの絵はっ!?」
「あぁ、いい絵でしょう。この前に来た人が描いて置いていったんですよ、私のお気に入りです」
「アイツは、どこに!!」
「ここで住み込みで働いてくれるのなら、お昼の宅配を頼みたいですね。これが彼の住所とサンドイッチです」
「分かった、行って来ます!!!」
ソルカさんはバスケットを掴み風のように飛び出していきました。
「…マスター、私の仕事とらないでください。あとでそれとなく案内して驚かせる予定だったのに」
「いいじゃないですか、たまには天使の真似をしたかったんですよ」
「もぅ、まぁいいですけどね…」
当たり前の事ですね、絵画のモデルさんが転生対象に神様に呼ばれたのに、作者さんを他の神様が見落とすはずありえません。
私はマスター自慢のミルクココアを飲み、明日からのスケジュールを組む事にした。