ソルカの生前<前編>
私達は国境付近の小さな村で慎ましく暮らしていた。
毎日、狩りしながらの暮らしは楽しかった。
そんなある日、それはいきなりやってきた。
王国と隣国の戦争が始まったのだ。
村は突然戦火に見舞われた。
止む無く抵抗すると私達は、獣魔と罵られた。
それでも獣魔の民の男は、勇敢だった。
仲間を家族を守る為に、しかし多勢に無勢。
村は焼き討ちされ、大半は殺され生き残りは隣国と王国にと連れていかれた。
売り買いされる物品扱いになった。
私は奴隷になるのを嫌い、買主の腕を噛み切って逃げ出した。
右も左もわからない王都、途方に暮れたがしょうがない。
生きる為になんでもした、こんな生活を繰り返すうち私は本当に獣魔になっていたのかもしれない。
冬も近い雪が降るかもしれないと思うくらいの寒さの中、露店が並ぶ市場を歩いていた。
「またお前か!」
店先の食べ物を掻っ攫い、走り出す。
ジグザグに飛んで来る石を避け、夜の闇に逃げ込んだ。
いつもの公園で盗った物を食べながら、今日の寝床の事を考えていた。
…?
視線を感じそちらをみた。
そこにはアイツがいた。
「ねぇねぇ、なにしてんの?」
なんとなく気になったので近づいた。
そうだ、揶揄って、隙をついて財布でも奪ってやろう。
「ねぇってばぁ、何しているの?うわぁ!すごっ!」
少女の姿が描かれていた。
私だった、それは素人目で見ても分かる凄い絵だった。
「あ、えっと、その…そ、そう、私を描いたんならなんかよこせ!」
「いいよ、ご馳走しよう」
急な浮遊感、抱き上げられた。
「何するにゃぁ!?」
アイツを殴って振り払い、一目散に駆けだしていた。
「びっくりした、びっくりした、びっくりした!?」
吃驚した。
何処をどう走ったのか分からない、いつの間にか裏通りに迷い込んでいた。
孤独には慣れていた、他人なんか邪魔なだけだ。
誰かと一緒にいるなんて煩しいだけだ。
だけど、アイツの腕は大きくて温かった。
「寝床探そ…」
「はぁ、はぁっ、はぁ、見つけた」
「な、なんかよう?」
アイツがそこにいた。
肩で息をして何度も揺らし、此方に近づいてくる。
「ゴメン、さっきは僕が悪かった、お詫びがしたい。一緒にきて欲しい、夕飯をご馳走します」
頭を下げてしきりに謝罪している。
「下手なナンパだけど、まぁいいや。一緒に行ってあげる、だけど変なことしたらただじゃおかないからね!」
「ありがとう!じゃあ行こう!」
こんな幸せそうな笑顔を見せてくる人がいる。
なんだか心の奥がコトリとなった。
「はやくいくよ、料理が冷める!」
「うん、分かってる♪」
それからアイツの家が私の帰る場所になった。