エイプリルフールすら過ぎてゴールデンウィーク突入しようとしていると思ったらもう突入していた
「クク、ククク、フゥーハハハ!よくぞ俺の封印を解いた!時は来た!」
そして当然のように溢れ出すどす黒い煙と禍々しい紫のオーラ、ありがちな台詞。
「そりゃそうでしょうね!」
「おお!お約束の展開!」
「え!?え!?えええ!?ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待って!?誰あなた達!?何やってんの!?」
そうこうしていると、ネモフィラさんと魔王少女の所へ野太い声がやってきました。
「えぇ…本当に私達に気づいてなかったんですか…ん?」
そこでネモフィラさんが野太い声の主の正体に気がつきました。
「えぇー!?あなたの声ですか今の!?」
「あら、わかる?この声の良さ」
さっきから聞こえていた野太い声の正体は、部屋の主と思しきレインボーアフロでした。
近くで見ると、見た目はどこからどう見てもスタイル抜群の美女なのに、声はどこからどう聞いてもゴリゴリのマッチョマンをイメージさせる雄々しさであるため破壊力抜群です。
「まあね。ギャップ萌えってのを意識してみたのよ」
「いや、ギャップ萌えってそういうのじゃないと思います」
「破壊力も別のというか本来の意味だと思う」
「え?あ、あら、不評なの?残念ね、けっこう気に入ってたのに…ンッンー、んんーん…これでいいかしらね?」
アフロが何度か喉を鳴らすと、見た目に違わない美声になりました。
「それでいいです。一種のホラーでしたよ今のは」
「ああ良かった、違和感さんが帰った」
「でもあの子は帰ってないどころか出て来ちゃってるのよねぇ~…何やってくれてんのかしらあなた達」
「うっ、それに関してはうちの人達が本当に申し訳ありません…」
「返す言葉もございません!」
申し訳なさそうに頭を下げるネモフィラさんと、敬礼して元気良く返事をする魔王少女。実に対照的です。
魔王…なんて邪悪なんだ(戦慄)
「全然邪悪じゃないですよ!?ああ…こんな美少女を邪悪呼ばわりなんて…作者の傲慢だ…」
「誰ですかラークさんの悪ノリに乗りに乗りまくってたのは」
「育ち盛りなので古い記憶はすぐに消滅します!」
「若いとむしろ普通に記憶残るのでは」
「いいかいネモフィラちゃん…どんどん新しいものに乗って記憶を更新していかないと、若者の流行にはついていけないんだよ…」
「何おじさんみたいなこと言ってるんですか」
「ぐふっ!?皆に言われてたことを!?異世界に来てまで!!?」
「…はいはい!そんなことよりあの子どうにかするわよ!!アタシは今まで何見せられてたのかしら…」
突如始まった漫才に思わず見入っていたアフロが、正気に帰って話を戻しました。
「それだったらご主人様とラークさんが」
「あの人達じゃここが破壊し尽くされるわよ」
ズドゴオオォォォォォン
「Foooooooo!!!」
「くっ、我が攻撃を避けるとは…すばしこい奴め」
「あっやべ避けちまった…まあいいかしょうがない!!」
「ふん、だが雷の速さには敵うまい!エレクトロマエストロ!!」
バチバチバチッ
「Woohoooo!!追尾してきやがるぜこいつ!!電気の力ってすげー!!!」
「ほう、電気を自律させて追わせるか。実用性がある上に美しい…参考になる」
「クククッ、わかるではないかデカブツ…貴様にはとっておきをくれてやろう!フォールンフローズン!!」
ビュオオオォォッ
「…言われてみれば確かに危険ですね。直してはくれるでしょうが…感覚が麻痺してました」
「ああラスボスさんが氷漬けに!」
「どうせ効いてないから問題ないですよ」
「ドライだねネモフィラちゃん」
「これぐらいで狼狽えてたら身が持ちませんよ」
「…意外と落ち着いてるわねあなた達。あの子の再封印も任せられるかしら?」
相変わらず漫才状態の二人を見てアフロが呟きました。
「再封印、ですか」
「おっ!?これは封印ものに定番の展開!」
「あなたはちょっと黙っててください」
「そんなぁ~」
「元々こちらの不手際ですし、荒事には慣れていますのでお任せください。具体的にはどうすれば良いのでしょうか?」
「へぇ、頼もしいわね。それじゃ、これ使ってくれる?」
そう言ってアフロがネモフィラさんに投げてきたのは、
「香水瓶…?」
三つの小瓶でした。細かいながら可愛らしい装飾が施されています。
「そ。まあ正確には香水瓶を改造したものだけれど」
「これをどう使えば?」
「あの子の使うメインの力は見ての通り、熱、冷気、電気の三つなのよね。だから、それらを一つずつ思い浮かべて、封印したいと強く念じて欲しいの」
「なるほど。…魔力を封じた方が速いのでは?」
「ああ、あれね、魔法じゃないのよ」
「え?あっ、本当だ」
言われて、周囲の魔力の流れを探ったネモフィラさんがそのことに気づきました。
「それっぽく魔法名言ってるけど、昔どこかで見かけたのを気に入って真似してるだけなのよ」
「そうだったんですね…」
「そうしてくれたらアタシがまた本人を封印するから、よろしくね?」
「あっ!そうだはいはいはい!」
ここで黙っていた魔王少女が手を上げて騒ぎ始めました。
「な、何ですかまた…」
「一番肝心なこと忘れてるよ!チョコ!」
「チョコ?」
「ああ…実はかくかくしかじかでして」
首を傾げたアフロに、ネモフィラさんが成り行きを説明しました。
「なるほどね、別にいいわよ。芸術の一環として、アタシも料理は多少嗜んでるし。それにそういう話なら、うってつけのがあるわよ。アタシが知り合いに譲ったら、一緒に食べた恋人と尽く結ばれたとかで恋愛成就祈願で注文が殺到し」
「…あれ?ネモフィラちゃん?」
もうネモフィラさんはそこにはいませんでした。"結ばれた"の辺りで飛び出していました。
向かう先は勿論、
「恋!愛!成!就っ!!」
「な、何だ!?」
「おう、お前も来たか!」
「む、ネモフィラか」
剣と魔法に筋肉、不思議パワーの飛び交う乱戦地帯でした。
ところどころ紫で彩られた黒ローブに眼帯の中二病みたいな少年。それに相対するは、室内なのに相変わらず大剣を二刀流で振り回すバーサク賢者と、氷漬けのまま動き回る筋肉魔人。実にカオスです。
「ちょ、ちょっと待ちなさい!その子、防御力こそないけど攻撃と素早さは一級品よ!」
「防御がないは余計だシャレフ!」
「うるさいわね、大体あなたが無闇に暴れたりさえしなければ封印も何も…そうだ封印!」
「ふっ、残念だったな、お前の協力者は封印なしで突っ込んでくる脳筋だっ…!?」
バシュン
中二病が間一髪で何かをかわし、一拍遅れて音と衝撃波が放たれました。
「…っ、おい覗き見野郎、中二病とは何だ!せめて黒ローブにしろ!」
その何かは、拳でした。内には香水瓶が握られています。
そう、ネモフィラさんの拳でした。
「ちっ、しかし何なんだこいつらは…この俺と互角以上とは」
そう言う中二…黒ローブですが、多少は手加減されているとはいえ、その互角以上のメンバーと一人で渡り合っているので相当なものです。
「クハハハハ!何だ、ただの悪趣味な覗きかと思えば、案外話がわかる奴ではないか。良かろう、今日からこの俺を主役にするがいい!タイトルは"ゼディアル~the Shadow of Star~"、略称はZDRSSで」
「やっぱり中二病じゃないか!」
「そうはさせません、この話はご主人様のものですから…!」
「ふっ、吠えているがいい。さっきのでわかっただろう、不意打ちですら避けられるのだ。ただの拳ごとき、俺に当たる道理はなっ…」
「はあああああぁぁぁぁーっっ!!」
黒ローブの話も遮って殺到するネモフィラさんの拳。速すぎて残像すら見えませんわ
スマホで文字打ってると句点と"わ"を打ち間違えて時々お嬢様か関西人になってしまいますわ。
バーーーーーーーーッ
何はともあれ、神速で打ち込まれる拳ですが、一向に当たる兆しがありません。拳を振る音とそれを避ける音が、機関銃の如く繋がって聞こえます。決して擬音をイメージするのがめんどくさくなって手抜きしている訳ではありません。
そこへ、わずかな時間を見つけて攻撃を挟むラークさんとラスボスですが、それでも掠りもしません。
衝撃波やプラズマが発生する速さの戦いに平然と攻撃を挟める二人が謎ですが、ファンタジーなので仕方ありません。
しかしさすがに防戦一方な上、
(このアマ、しっかり力を奪ってきてやがる!それが狙いか!)
地味に握り続けられていた香水瓶に徐々に力を封印されて、弱体化しつつある黒ローブ。
香水瓶の強度?改造されてるしファンタジー(以下略)
「ならば!」
「!」
黒ローブが叫ぶや否や、その体が黒く染まって崩れ去りました。
直後、
「フロストボルト!」
ネモフィラさんの背後から青白い閃光が飛んできました。見事に命中し、氷漬けになってしまいます。
やったね、ラスボスとお揃いだ!
「ふっ、そうだな、主従揃ってお似合いだ」
いつのまにかネモフィラさんの背後にいた黒ローブがそう言い放ちました。今あなたの後ろにいるの。
「見たか、今の技を…雷の速さと冷気の威力を兼ね備えた力を!俺はただ三つの力を無闇に操るだけの間抜けではない。それぞれの良き部分を組み合わせて扱う技量があるのだ、ククク…」
こうして自己陶酔に浸る間にも賢者と筋肉から絶え間なく遠距離攻撃を受けていますが、やはり当たりはしません。まるで地下世界に住む某骨のよう。
「ネモフィラちゃん…!」
「しかし美しい女だ。この俺の凍らせ方もあって、名状しがたいほどの美だな。どれ、昔見かけたどこぞの輩でも真似て飾ってやろうか」
言いながら、ひとまず奪われた力を回収しようとネモフィラさんに近づいていく黒ローブ。
しかし、ある程度近づいたところでその違和感に気づきます。
「…いやに気配が薄いな?……まさか!」
ある考えに思い至って慌てて振り返りましたが、時既に遅し。
「馬鹿な!間違いなく当たっていた!避けられる訳がない!」
「知らないんですか?黒の竜王は隠れるのが得意、そして」
背後の影に向かって即座に雷を放ちましたが、それより速く影から竜の翼を広げたメイドが飛び出して、香水瓶を握り締めた手を振りかぶりました。
「恋する乙女は、無敵っっっ!!!」
「ぐわあああああぁぁぁぁぁぁぁ……!!」
全力で、それこそ光速で殴り付けられて怯むと同時に、黒ローブの体が無数の黒い星形になって香水瓶の中に吸い込まれていきました。
「素晴らしい!!」
無敵という言葉と見事な断末魔に目を輝かせた氷漬けのラスボスが思わずスタンディングオベーション。
さっきから立ってるじゃんとか言わないでください。なんか拍手よりスタン(中略)の方が響きがいいじゃないですか(謎のこだわり)
「あら~、すごい…あんな少しの弱体化で真っ向からあの子に殴り勝っちゃうなんて…」
あっという間の顛末にアフロも呆然。
ともあれ、こうして騒動は一段落したのでしたを(みつを感のある誤字)
その後、無事にチョコの作り方を習得して、見事ラスボスに手作りチョコを渡したネモフィラさんでしたが、"恋する乙女は無敵"という部分しか頭に残っていなかったラスボスはさっさとそのチョコを食べて、余韻も何もなくすぐさま戦いを申し込み一昼夜戦闘し続けました。
脳みそが筋肉で出来ているラスボスとの戦闘に意味深などありません。それでもネモフィラさんは幸せでした。
ハッピー破煉奼隕。
めでたしめでたし。
「おい、またここから出せ!久々に出られたのにあんな少ししか外にいられなかったのは却って不服だ!もうしばらく外に居させろ!」
「ダメに決まってるじゃない。第一、ああやってすぐ暴れるから閉じ込められてるのよ、わかってるの?自業自得よ」
「力あるものが力を誇示し、支配域を広げて何が悪い!まして、この俺こそは蝕朔の化身ゼディアル様だぞ!この星はかなり大きい、俺が支配下に置ける陰もかなり広い…そう、目の前に糧にできる世界があるというのに!手を出さずにいられるか!」
「っはあぁ~…。勝手に支配域広げて、ティアロ様が迎えに来た時何て言い訳するつもり?」
「フッ、その時こそ支配者交代ということだ。これほどの星の陰を手に入れればもはやこの俺に敵うものなどいまい」
「させる訳ないし、第一この城に住んでるさっきのドラゴンとか変な魔人とかはどうする気?後者に至ってはたぶんアタシ達と同類よ、あれ。しかも確実に格上」
「それこそ邪魔されるよりも速くこの星を制圧すればいいのだ!そのためにも、さあ!早く!この俺を出せ!解き放て!開けろ!」
「開けません!」
~毎度おなじみ世界観説明コーナー~
・アーコ
我々の世界でいうところのカカオ。見た目や性質は概ねカカオと同じ。これだけではわざわざ説明する意味がないので、例えば魔界の亜種でわっ!?
「おっと、内容が足りないならこの俺の説明をしてもらおうか」
・ゼディアル
"蝕朔の化身"の異名をとる存在。ちなみに蝕は日食や月食といった食、朔は新月を指す。つまるところ星の陰を司るものであり、陰を支配すればするほどその力を増す。ちなみに格好は黒いローブに眼帯と、まさに中二病のお手本のような
「ええい長ったらしい上に戯言を書くな!ここからは俺が直々に説明してやろう!いいか、よく聞け凡人ども。この俺こそは蝕朔の化身ゼディアル!星の陰を司るものだ!ゆえに陰を取り込むほど力を得るのはそこの覗き魔が書いた通りだが、俺の三つの力について…まさか、何も関連性がないなどと考えた間抜けはいないだろうな?いや、凡人なら気づかぬのも当然か、ククク…ならば教えてやろう。俺の力は単なる陰に留まらない。星が暗部に有する力をも我が物とできるのだ!暗雲の中の雷、地底に潜むマグマ、夜暗に訪れる冷気…無論、好んで使うのがこれらなだけであって、その気になれば重力や風雨(割愛されました)




