Who you?(色々間違ってる)
地には霜が降り、冷たい北風が吹き渡る。冬です。
そして一面灰色の空から、ちらちらと舞う白。木々や地面は真っ白な冬化粧。雪でs
「雪だー!!」
「落ち着いてスピィちゃん!転んだらどうするの!」
ラスボス城の玄関から飛び出す二人。スピィさんとネモフィラさんです。中に羊毛の詰まった防寒着を着込み、ニット帽とマフラーも着けて、もこもこなフォルムです。
「だいじょぶだいじょあっ」
こけました。
「あああ~~~」
そしてラスボス城は高台にあるので転がります。コロコロコロコロ、コロコロ○ービィ。開発当初は普通の人間のキャラが主人公だったとかなんとか。
「ああもう言った側から!」
そしてそれを追うネモフィラさん。メイドに精霊庭駆け回り、
~ラスボス城内~
「りゅうおうこたつでまるくなるぅ~」
「完全にこたつにやられてんな…どこに威厳忘れてきたお前」
「ん~?玄関にでも置いてきたかもしれんな~ふへへ~……ってラーク!?いつからおったそなた!?」
「結構前からいたぞ。ほれ剥けた」
「ありがとうございますぅ。やっぱり冬はこたつとミンカリンですねぇ~」
「ブランもおったのか…いつの間に…」
「しかしこの城こたつもあるとはな。かなりでかいし、ちょうど恋しくなってたから助かったぜ」
「ヒノヤはさすがに私達のいた所からは遠かったですからねぇ~」
「何じゃ、そなたの魔法でどこでも繋げば良かろうに」
「事前に何も連絡してないのにいきなり押しかける訳にいかないだろ。その点この城は広いし、ラスボスも普通にオッケーしてくれていつでも来れるからありがたいぜ。ほれブラン、あーん」
「はぇ!?ラ、ラークさん、いっ、いきなり何を!?」
「お前まだ手空いてないだろ、あと今俺がそういう気分」
「ひ、人前では」
「まあいいから食っとけ」
「はむ!?」
「ふん、お熱いのう、いちゃこらしよってからに」
「あついのりゅうおう!?」
「ひにゃあああぁぁ!?いつぅからぁなっかっにぃ!?」
「あついならおそといこうよ!ゆきだよ!ゆきふってるよ!」
「…い、いやぁ、ワシは動かんぞ!今日ばっかりは!お、おにんぎょさんでもっ、それよりこたつを取るぅっ!竜王のプライドにかけて、一度決めたことは曲げぬぞっ!」
「いや別の所にプライドかけろよ」
「そういえばなんかげんかんにおいてきたってさっきいってたよね!とりにいくついでにいこう!」
「いっ、嫌じゃ!ああ引きずるな、ワシのこたつぅ~おこたぁ~あったかいのがぁ~ああ~~………」
~~
「スピィちゃーん!スピィちゃーん!いたら返事してー!」
高台の麓で大声を出してスピィさんを呼ぶネモフィラさん。あの後見事に見失いました。
「この辺は全然気配がないな~…どこまで転がって行っちゃったんだろう…」
皆さん忘れかけているかもしれませんが、彼女は竜王、それも黒の竜王の娘。町一つ分ぐらいの範囲なら余裕で気配を感じ取り、見分けることができるのですが、それはつまりスピィさんがかなり遠くにいることを示しています。
「困ったな…あれ?この感じは…」
何かを感じ取ったネモフィラさん、雪の盛り上がった場所へ。やや慌てながら雪を除けます。
「デリィちゃん!?」
そこには何と、真っ白になった幼気な少女の凍死体が!
ボオオオオオッ
「ひゃっ!?」
即座に竜に戻ったネモフィラさんの浴びせた炎のブレスに驚き、跳び跳ねるデリィさん。生きてました。白いのは元からでした。
凍えてる人に炎浴びせてもそれこそ寒暖差のショックでトドメ差しかねないのでやめましょう。というか直接炎浴びてる時点で普通アウトです。でもこの前日曜の朝に聖剣使いな小説家がやって(ry
「わ、私は一応強いから寒さとか熱さだけでは…」
「駄目でしょ!こんなところで何してるの!」
「ひっ!ご、ごめんなさい…」
「…いや、私もちょっと慌てたのもあって強く言いすぎちゃった、ごめんね。それで、何してたの?」
「ゆ、雪で遊んでたんだけど、途中で眠くなってきて…」
「そ、それこそなんかヤバいやつじゃない?体大丈夫?」
「うん、平気」
デリィさんは神なので平気ですが、普通の人は低体温症になるので雪降ってる中で寝るのはやめましょう。雪の中が暖かいとは言っても氷点下にならないというだけで、熱源がなければ結局凍えるだけです。
「まあ、それなら良かったけど…でもお城で温かくしておいで」
「でも私、温かくなくても大丈夫だから…」
「うーん、私が落ち着かないんだけど…せめて、まだ外にいるにしても、誰かと一緒にいて欲しいな~…」
「ネモフィラさんは?」
「私は今、かくかくしかじかで…」
「えっ…そ、それなら、私も手伝う!」
「いや、でもそれはちょっと…」
デリィさんの申し出に、一瞬スピィさんを探すのに相性が良さそうとも思ったネモフィラさんですが、さっきまで雪に埋もれていたのを考えて渋ります。
そこへ、
「ゆきー!すきー!!」
「あばあああがああああああああ!!」
らすぼすくん人形がうつ伏せの竜王に乗って坂を滑り降りて来ました。スキーというよりソリやスノーボードに近い雰囲気です。
ズドンッドサドサドサッ
そのまま木にぶつかり、木に積もっていた雪に埋もれました。
「うおおおぉぉっ!!」
ボカンッ
「いえーい!」
雪を吹き飛ばして登場する二人。
「何やってんですか」
「無理矢理連れ出されたんじゃ…ぜぇ…死ぬかと思うたわ…ああバリアで魔力が勿体ない…」
「もったいないならばりあけせばいいよ!えい!」
「ぎいやああああ寒いいいいあっばばばばっばっばっばば」
らすぼすくん人形が触れた途端、竜王が体を丸めながら跳び跳ね始めました。
「騒ぐ程ですかこれぐらい」
「しっ、しししっかり温かそうな格好しとる奴に言われとうないわ!本物より強いとはいえ小さくて鱗もない軟弱人間ボディじゃぞ!流石に寒いに決まっとるわわわ!」
「そうだ、らすぼすくんデリィちゃん連れてってくれる?」
「いいよー!」
「え…でも…」
「よーし、いこうデリィちゃん!」
「ま、待って、ああ~…」
らすぼすくん人形はデリィさんの手を引っ張り、威勢よく村の方に向かい始めました。しかし彼女はやはり気がかりなのか、よろけながらもちらちらとネモフィラさんの方を振り返ります。
「ここ、これ、無理に手を引っ張ってやるな、転んでしまうじゃろ」
「あー、そっかー。ごめんね、デリィちゃん」
「う、ううん、大丈夫…」
「…何を気にしとるのか知らんが、あやつが任せろと言ったなら平気じゃろ。黒の竜王たるこのワシの娘じゃぞ?大船に乗った気でいろ。それとも歩くのが辛いか、ワシがおぶって…冷たっ!?」
「ご、ごめんなさ」
「ええい!今更この程度が何じゃ!それよりこんなに冷えとったら体を壊すぞ、はよ温めねば!行くぞお人形さん!」
「おー!」
「え、あ、ああ~…」
そうして、デリィさんは竜王に背負われて村へ行ってしまいました。
「さて、と。もうちょっと遠く探してみるかー…」
後に残ったネモフィラさんは翼を広げ、高台周辺の森のすぐ上を低空飛行し始めました。
そしてその数分後。彼女は顔をしかめていました。
「……デ、デジャブ…」
そう呟くと、慌てながら森の中一点目掛けて勢いよく炎を放ちました。雪の溶けた蒸気が晴れるとそこには、
「うん?」
「…あれ?」
目を閉じ、両腕を組んだ謎の人物が立っていました。長い銀髪に白黒の布が交差したような変わった服で、不思議な印象を与えるとともに、冠と首飾りに、整った顔が高貴そうな雰囲気を放っていました。
「デリィちゃんによく似てたからスピィちゃんかと思ったんだけど…って普通の人じゃもっと駄目では!?」
一瞬戸惑っていたネモフィラさんでしたが、大事故の可能性に気づき大慌てで降り立ちます。そりゃそうです。一般人が冬の森で雪に埋もれてるだけでも大変なのに、そこにいきなり超高温の炎を浴びせるのはとんでもないことです。
「だっ、だいじょぶですかっ!?意識は!?声聞こえますか!?ああどうしようそうだ回復魔法でもまだ上手く使えるか」
ネモフィラさんが銀髪に必死で声をかけ、しどろもどろになっていると、
「ふむ?」
ふいにその銀髪が右目を開け、赤い瞳を彼女へと向けました。
「あっ!ああ良かった、意識はある!ちょっと待ってください、今回復魔法を」
「回復…?ああいや、大丈夫だ。別に凍えていた訳ではないぞ、余は実は人の身ではなくてな。こう見えても多少の寒暖差でどうこうなることはないのだ」
慌てるネモフィラさんに対し、銀髪は組んでいた腕を解き、片手をひらひらとさせました。しかし、いきなり炎を浴びせてしまった彼女はまだ落ち着きません。
「いやでもさっき炎浴びせちゃったし」
「ああ、さっきの熱はそなたか。何、多少驚きはしたが、それだけだ。とはいえ、普通の生物にはやめておいた方がいいと思うぞ。次からは気をつけておくといい」
「はい!申し訳ありませんでした!」
忠告に対し、全力で頭を垂れるネモフィラさん。平謝りです。
「まあそう固くなるな。人は失敗から学ぶものだからな、むしろできる時にしておけ。今回は問題なかったのだから、ノーコストで一つ学べたという訳だ、得をしたな。フハハハハ!」
対する銀髪の人物はまるで気にした様子もなく、諭すように語ると、楽しそうに笑いました。
「そうだ、名乗るのが遅れたな。余はロティという」
「あ、私はネモフィラ・ペニーブラックと言います」
「なるほど、たしか切手…いや、花の名だったか?ふむ、なかなか粋で良い名だな」
「ありがとうございます」
「しかし、あちこち見ているようだが、何か捜し物か?」
「はい、実はかくかくしかじかでして…」
「ほう、それは大変だな。余も手伝おう」
「へ!?いえいえ、初対面の方のお手を煩わせる訳には」
「何を言っている。人の、それも幼子の命が懸かっている時に知るも知らぬもあるものか。…ふむ、取り敢えずこちらだな」
そう言うと、ロティさんはふわりと浮かび上がり、すぐに森の奥へと進んで行きます。
「あ、えっと!?」
「そなたもついてこい。これでも気配を見分けるのは得意でな、恐らく合っているだろう」
彼はウインクをして、青い左目を向けながらそう言いました。
そしてまた数分後。
「おや」
先に開けた場所の見えたあたりで、不意にロティさんが声を上げました。
「どうしました?」
「そなたの言っていた幼子は恐らくそこにいるだろうが…どうやら余の尋ね人もここにいるようだ」
「…?ロティさんも誰かを探していたんですか?」
「ああ。…おっと、気をつけろ!」
「へ?」
バスンッ
開けた場所に出てロティさんが忠告した次の瞬間、ネモフィラさんの顔面に巨大な雪玉が衝突しました。しかし威力はさほどなく、雪玉はすぐにバラバラになって顔が雪で真っ白になりました。まるでのっぺらぼうです。
すぐさま首を振って顔面雪パックを落とすネモフィラさん。
「つ、冷たい…」
"文字通りの雪化粧"という表現と迷いましたが、インパクト的に"顔面雪パック"にしました。
「どうでもいいです」
「どうやらスノーゴーレムのようだな」
ロティさんの示す先には、5体の白い人形がアクロバットをしていました。連続バク転や華麗なステップを決めながら集合し、最後には戦隊もののような決めポーズ。背後で雪が爆発して雪煙が起きました。
「何です、あれ?…いや、ご主人様?」
一瞬怪訝そうな表情をしたネモフィラさんでしたが、落ち着いてスノー戦隊ゴーレムジャーの気配を感じると、そう呟きました。
「ほう、そなたはあいつの配下であったか」
「えっ?お、お知り合いで?」
「まあな。しかし、件の者もスノーゴーレムに取り込まれているようだ。本人か、単に漏れた力が宿っただけかはわからないが、害意のないあいつの力に覆われているならさほど心配はいらないだろう。よし、幼子以外は余が引き受ける。行ってこい!」
そう言ってロティさんが指をパチンと鳴らすと、1体のスノーゴーレムが青く光り始めました。
「わ、わかりました!」
言われたネモフィラさん、すぐさま力強い羽ばたきで雪を吹き飛ばしながら一瞬でゴーレムブルーに肉薄。そのまま炎を浴びせましたが、横への平行移動であっさり避けられました。
「ちょっ!?」
それを見て、取り敢えず冷たいのを承知で抱きついて動きを止めにかかろうとしますが、
「~♪」
「えっ、ああっ、待って!」
スルリスルリとスケートのような平行移動で避けられます。下は全部雪な上に、積もり方も平らではないにも関わらず。
「ぜえ、はあ…」
その後も追いかけ回したものの、一向に捕まる気配はありません。バテるネモフィラさんの前で、ブルーが雪の上を滑って何度も回転ジャンプを披露します。いつもより多く回っております。何と驚きのバク転しながら10回転アクセルジャンプ。羽生○弦もびっくり。
「そこっ!」
「!」
しかし、着地の隙を見逃すネモフィラさんではありません。これは見事な着地狩り。
「なんっ…」
対するブルーは即座にイナバウアー。この一撃に全てをかけていたネモフィラさんは、見事に頭から雪に突っ込みました。ル○ンザサード!あれ?(幻聴)
「♪」
ネモフィラさんが雪に埋もれて見えなくなったのを見たブルーは、その場で回転してリ○ードンポーズを決めました。
ゴオッ!
そしてそこから、足下からの炎で雪が溶けて現れるポーズを決めた桃髪少女。スピィさんです。
「あれ?」
ガシッ
「知ってる?黒の竜王は隠れるのが得意だって」
「ひえっ!」
背後から小さな体をガッチリホールドしたネモフィラさんが、静かな怒気を孕んだ声で耳元に囁きました。
ガバッ
「えっちセンサー反応ッ!これが噂のASMRッ!ドラゴン娘メイドたんのヤンデレっぽい囁きご」
ベシンッ
「ありがとうございますぅぅ~…………!!」
彼女の更に背後の積雪から変なのが飛び出してきて何か叫びましたが、半ば無意識に放たれた尻尾の一撃で一瞬にしてまた地中へ帰って行きました。まるでもぐら叩きです。
「……ほんとあの村の人達どうなってんの…」
「そちらも片付いたか」
「あ、ああはい」
ネモフィラさんがロティさんの方へ振り返ると、こちらへ向かってくる彼の後ろでスノーゴーレムが一片の悔いもないポーズをとっていました。次の瞬間爆散。
「結局全て漏れた力だったようだ、少し残念だな。まあ一部とはいえ久々にあいつとやりあえたのは、なかなか楽しかったが…む?その者が例の幼子か。どうやら無事のようだな、良かった良かった」
「だって私強いもんねー……?」
「スピィちゃん?」
言いながらロティさんを見るなり急に黙ったスピィさん。その様子にネモフィラさんが困惑しながらロティさんの方を見ましたが、彼もまた不思議そうな表情でスピィさんを見ていました。
「どう…しました?」
「いや、なんというか、どこか知っているような、懐かしいような、うーむ…何とも、何とも」
「ずっと前からお友達?だったような?」
「えっ、こ、ここも知り合いで…?」
「友…とはまた違うような、近いような……まあ考えても仕方あるまい!そも、あいつの周りだ、懐かしく感じても何ら不思議ではない」
「ああ、そういえばご主人様を探してたんでしたよね。確か珍しく早くから散歩に出られてたので…遅くてもいつも通りの時間、あと2時間後ぐらいには帰ってきますかね。お城でお待ちになりますか?暖房効いてますし、お茶も出せますけど」
「ふむ、魅力的な提案ではあるが…元より偶然近くに来てふらりと立ち寄っただけだったからな。手間をかけさせるのも悪い。遠慮しておこう」
「分かりました。あとは、伝言…とかはありますか?」
「そうだな、名を名乗っても分からんだろうから…あいつが会いに来た、とでも言っておけば多分分かるだろう」
「? 名前じゃ駄目なんですか?」
「ああ、何分最後に会ったのはかなり昔だからな。名など意味を成さん。では頼んだぞ、壮健でな」
「は、はい!お元気で!」
「またね~」
「ああ、また会おう」
そう言い残し、ロティさんは降る雪に紛れるように霧散して去って行きました。
めでたしめでたし。
「帰ったぞ」
「お帰りなさいませ、うわ、凄い量のお米ですね」
「また餅をつくらしいからな、色々と探してみた」
「な、なるほど…ああそういえば、ご主人様のお知り合いの方が来ましたよ。あいつが会いに来た、と言えば分かると言ってましたが」
「あいつ…?誰だ?」
「ええと、一応、ロティさんという方でしたが、名前を言っても分からないと」
「ロティ、ロティか…確かに分からん」
「…?じゃああの方は一体何者だったんでしょう…?」
お読みいただきありがとうございました。最後実は幽霊だったとかみたいなホラー展開ではないのでご安心ください。なんかホラーっぽい落ちになってしまったのは私の文章力の敗北です←
・スノーゴーレム
ゴーレムの一種で、雪で構成された体を持つ。一般に寒冷地に生息しているが、季節変化のある地にも寒冷期に現れることがある。また、ゴーレム系に共通することではあるが、ごく稀に人が作った雪像が動き出すこともあり、その場合は作成者に対しとても好意的な態度をとる。しかし、寒冷地以外では継続した水分確保に加えて、一定以下の気温か継続的な多量の魔力供給がなければ存在し続けることができない為、寒冷期が終わると北上もしくは南下して去るか、そのまま溶けて命を失う。このことから、冬の切ないものの代名詞として有名。




