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悪殺し  作者: 皆口 光成
16/28

悪殺し-拾陸-


ーー51ーー




“アクヨセ”。



名前の通り“悪”を寄せる者のことを指す。



特徴としては『行けども行けども事件に遭遇する』という巻き込まれ体質。



僕こと“悪殺し”の役割は“悪”を殺すことに他ならない。

しかし一人で行うために自然発生する“悪”にはどうしても後手になってしまうことがある。

その補佐をするために“アクヨセ”という存在がいる。

これにより“悪殺し”の効率化を図るためだそうだ。



だが“アクヨセ”には問題があった。



“アクヨセ”は“悪”を寄せる。大なり小なり。

自分が作った“悪”も。



そう、“アクヨセ”は。

“人”を“悪”に変えるのだ。



それはつまり───。




ーー52ーー




黒い炎。



それが黒服のリーダーの左腕、サヤさんに触れた部分から立ち昇っていた。



「な、なんじゃあコリャァアアアアアアッッッ!!!?!?」



突然の怪奇現象に思わずキャラ崩壊を起こした黒服のリーダーは火を払うように腕を大きく左右に振って消そうとする。

それにより人質となっていたサヤさんが半ば投げ捨てられるように解放された。

見ると黒服の部下達も視線はリーダーの方に注がれていたので咄嗟にサヤさんを抱き抱え黒服のリーダーから距離を取る。



「怪我はありませんか?」



僕はまず第一にサヤさんの安否の確認を取ろうとするも。



「…………………」



恐怖によるものか異常現象による理解が追いつかないからかサヤさんは僕の胸元に顔を押し付けて震えるだけであった。

そんなサヤさんに僕は優しく語りかけるように。



「……大丈夫です。そのまま目を閉じていてください」



耳元で伝えた。



再び向き直ると黒い炎は黒服のリーダーの体上半分をほとんど覆っている状態となっていた。



「なんだよコレ!?全然消えねぇじゃぁあああああああああああああああああ!!!!!!!」



ほとんど悲鳴のような声を上げ、消えない炎と格闘していた。

その炎が首から上、顔まで覆うようになると突然倒れ出し、苦しむように地面でもがき苦しむように身を打ち出した。



「リ、リーダー!!」


「ご無事ですか!?」


「おい早くこの火消すぞ!」



すると部下達が上司であるリーダーの危機だと船から降り、火災地へと向かおうとしているところだった。



「ダメだ!その火に近づいては危険だ!」



救助へ向かう部下達の足を僕は止めた。



「なっ……!?テメェ!こんな時に!」



当然部下達から怒号が飛んでくる。しかし僕は気にも留めずに話し続けた。



「聞くんだ!その黒い炎はどうあっても消えることはない!何をしてもだ!どころか触れたところからたちまち引火してその人と同じになるだけなんだ!」


「っ!?……じゃあどうすればいいんだよ!?このまま苦しんでるリーダーを指を咥えて見てるしかないっていうのか!?」


「そうだ」



即答した。迷いなく。

その答えに必ず反感を買うと分かっていても。

視線の先で今も人が黒い炎に焼かれているのを見据えながら。



「むしろ逃げたほうがいい。火はこれ以上燃え広がることはないがいずれ全身を覆うほどまでになると」


「っっっっ!!フッッッッッザけた事っっってんじゃねーっっっぞコラァアアアアアア!!!!!」



遮るように部下の一人が声にならないくらいの怒号を飛ばしてきた。



「こんな状態のリーダーを目の前にして逃げろだと!?テメー頭イカレてんじゃねーのか!!?」


「話を」


「誰がテメーの言うことなんか聞くか!俺たちのリーダーはリーダーだけだ!二度と指図するんじゃねー!!」


「待っ」


「もう黙れ貴様!次喋ったらマジでブッ殺すぞ!!その女共々!!!」


「っ」



ダメだ、怒りのあまりこちらの話を聞いてくれない。

くそっ、言葉は選ぶべきだったか。でも今そんな状況でもないし一刻も早くここから離れなければ………。



黒い炎に覆われ、動きが少なくなった黒服のリーダーの元へ部下達が駆け込む。

その様子を見て止むなしと僕は先程出しておいた黒い針を部下全員に目掛けて投げ入れようとしたその時。



黒い炎がまるで破裂するように大きく膨れあがった。



そしてそこには。


さっきまでいた人間はおらず。



真っ黒でどす黒く、どこまでも底が見えないような深淵に満ちた人間ではまずあり得ないほどに見開かれた目にどこまでも飲み込んでいきそうな大きく裂けた口を持ち。


全身が黒い瘴気そのもので出来たような身体をした。

“悪”そのものがそこにいた。




ーー53ーー




……………。


ドコダ……ココハ……。


オレハタシカ…………………。


………………………。


ナン……ダッケ……………。


オモイ……ダセナイ………。


タシカ………………。


………………………。


オレハ…………。


……………………………………。


クロイ……。


クロイナニカニ………ノマレテ…………。


ソシテ……………。


………………………………………………。


オレハ………………。


…………………………………………………………………。



オレ…………………。


……………………。


……………………………………………。


…………………………………………………………………。



オレッテ…………………ダレダ。




ーー54ーー




先程まで身体を覆うように燃えていた黒い炎が一度中心へ集まるように黒い球を作り出したかと思えば。



それはすぐさま膨れ上がり破裂するようにしてソレ(・・)は現れた。



深淵よりも深い底が存在しないような人間ではあり得ないほどに見開かれた目に全てを飲み込む程に大きく裂けた口。

手足などおよそ人のそれとは思えぬ形状をしており、身体全体は黒い瘴気そのもので出来ており、身体から漏れ出るように瘴気が煙のように立ち昇っていた。



“人”が“悪”そのものと化したソレ。


“アクモノ”。


正真正銘の化物が誕生してしまった。



「に」



それを見るや否や僕は開口一番。



「逃げろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!」



逃走を示唆しながらソレ(・・)に向かって飛び蹴りをかましていた。

ほぼ左顔面に入り、ソレ(・・)は後方にある船の外板にぶつかり、そのまま海に落ちた。



「リ、リーダー!」


「テメきさ」



蹴飛ばした僕に掴みかかるような勢いで迫る部下の胸ぐらを逆に掴み。



「まだ分からないのか!?」



自分の顔に寄せ超近距離から叱責した。



「あれはもうあんたらの知ってるリーダーじゃない!人間じゃない!生き物じゃないんだよ!!見てみろ!!」



そう言って先程蹴飛ばした方向を見るとそこには。



海から何か黒い長いものが天に向かって伸びていると思えばその中頃で折れ曲りやがて地に着くと。

今度は海から黒い物体が打ち上げられたかのように飛び出し、先程折れ曲がったモノが一度真っ直ぐになったかと思えばまた逆に折れ曲り黒い物体が地響きと共に落ちてきた。



見るとそこには蹴飛ばして落ちた“アクモノ”が右腕を三階建てのアパートよりも長く伸ばした状態で立っていた。



「アレを見てまだ人間だと思えるか………?」



僕がそう言うのと同時に。



「う」



部下達が一斉に逃げ出した。



「うわぁああああああああああああああああああああああああああぉあああああああああああああ!!!!!」



悲鳴をあげながら。



全員が逃げ出し場に僕とサヤさんと、そして“アクモノ”だけとなった。

“アクモノ”はまず右を見、次に左を見、何かを探す挙動をしたと思えば。

やがてこちらを、僕を真っ直ぐに見据え───。



いや違う。僕じゃない。

サヤさんを見ている(・・・・・・・・・)



「ーーーーーーーーー!!!」



最早声にならない雄叫びを上げると“アクモノ”は地面に自分の右手が刺さったままに真っ直ぐこちらにまるで撃たれた弾丸のように突進してきた。



「っ!!」



咄嗟に右へ回避し、黒い弾丸はそのまま後ろのコンテナに鈍い音を出して直撃した。

すると背後からガガガガガッ!と何かが削れる音が。

見ると“アクモノ”の伸びた黒い腕が本体のいる方へ収縮しようとしており、こちらに差し迫っていた。



「くっ!」



今度は上空へ回避。船の甲板へ降り立つ。

やはりサヤさんを抱えたままの戦闘は不利か。一度彼女を安全な場所に避難させなくては。

しかし今此の期に及んで安全な場所などどこにあると言うのか。



そもそも。



「ーーーーーーーー!!」



あの“アクモノ”を前にそんなことが容易に出来るとは思えない。



先程コンテナに弾丸のように直撃した“アクモノ”はその身体の関節がグチャグチャになっており、もしも人間がああなっていたら生きていないであろう。

しかし「コキッ、ゴキッ」といくつか鈍い音を出したかと思えばさっきまで糸が切れた操り人形のようになっていたソレ(・・)は自立をしていた。



そして真っ直ぐに、こちらを、サヤさんを、“アクヨセ”を見る。



今あの“アクモノ”が突き動かしているのはほとんど本能によるものであろう。

それこそ“アクヨセ”による“悪”を引き寄せる体質によるもので。

“アクヨセ”の体質は“悪”そのものとなった“アクモノ”にも適用され、引き寄せる。



だが理性を失った“アクモノ”が“アクヨセ”に近づけばそのまま危害を加えてしまうのだ。

“悪”そのものとなり人外な存在となった“アクモノ”の攻撃力は最早人智を超えて一つの兵器のようなものだ。



もしソレ(・・)がサヤさんに近づけば………。



その先の展開を想像しまいと必死に首を振り、僕は真っ直ぐ“アクモノ”を見据える。

幸い今回“アクモノ”が発生したのは一体。一体だけならば僕一人でもどうにか出来る。殺すことが出来る。



だがサヤさんを守りながらとなると……。



チラ、と抱き抱えたままになっているサヤさんを見る。

僕が言ったことを懸命に従っており未だ目は堅く閉じたままだ。

まだ体の震えは止まっていない。



さすがに拘束されたままなのは不憫に思い、手足のロープを解き、口元のガムテープを剥がす。

意識もあるのでこのまま一人、彼女を逃がすことも叶うではあるのだが。



「…立てますか?」



と、僕の問いに対しサヤさんは。



「…………」



と、無言でフルフル、と首を横に振るだけであった。

体の震えもまだ止まっていない。恐怖で身体が動かないんだ。



「…分かりました」



少し考えるために目を閉じる。



敵は一人。

こちらも一人。

守りながらの戦い。

相手は“アクモノ”。



僕は“悪殺し”。

“悪”は。

殺す。



再び目を開けた時、僕は目の前でうずくまっているサヤさんに優しく話しかける。



「しばらく一人にしますが大丈夫ですか?」



フルフル、と首を振る。



「少しの間の辛抱です。怖かったら目を閉じていてください。次に目を開けるときには全部終わっていますから」



そう言って立ち上がり、後にしようとすると後ろで引っ張られる感覚が。

見ると僕が具現化した黒の燕尾服の尾の部分を掴まれていた。

そして。



「サ、サツキくん……だよ…ね?」



彼女はハッキリと僕の名前を言った。



「えぇ」



特に取り繕うことなく僕は返事した。



「その……何が起きてるか分からないけど………」



震える体を必死に押さえ込むようにして彼女は。



「また……明日学校で会おうね…………」


「………はい」



その約束に僕は誓った。

二人だけの約束を。

必ず彼女を守ってみせると。



僕が返事するとサヤさんは僕の服から手を離してくれ、僕はそのまま甲板の外へ。

見ると“アクモノ”は周囲に“悪”の瘴気を撒き散らしながらこちらに向かっていた。

歩く姿はまるで生きた屍のゾンビそのもので歩いた端から悪意が満ち満ちているのを感じる。



こんな化物を一人相手にしなくてはならない。

しかしやるしかない。



彼女は守ってみせる。

覚悟を決め、僕は“アクモノ”と相対した。

例え約束を果たすことは叶わないと分かっていても。




ーー55ーー




「……リーダー」


「待っていてくれ……必ず………」


「だから……」



悪殺し-拾漆-は10/19の12時に掲載します。

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